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高齢者の免許返納どうする?――安心できる信頼関係、交通手段の準備を #老いる社会

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高齢ドライバーによる逆走や操作ミスによる事故が後を絶たない。2019年に当時87歳のドライバーが起こした池袋暴走事故は社会に大きな波紋を呼んだ。同年には免許返納数は過去最高になったが、その後は減少を続けている。

高齢となっても、個々の事情によっては自動車免許を手放すのは難しいこともある。また、高齢の親を抱える家族にとっても悩ましい事態だ。年末に向けて、交通事故が一年でもっとも増えるのが12月。Yahoo!ニュースに寄せられたコメントも交えながら、高齢者の免許返納をめぐる現状と課題、各家庭でできることを解説する。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:志堂寺和則)

この記事、ざっくりいうと?
  • 75歳以上の運転者の死亡事故が多い
  • 高齢者が運転する自動車に同乗して確認を
  • 免許返納の説得に重要なのは信頼関係

免許返納「した人」「していない人」どちらにも課題あり?

【みんなで考えよう】高齢者の自動車免許返納、あなたの周囲では? #老いる社会」のコメント欄(2023年11月13~23日、計1324件)には、高齢者の免許返納をめぐるさまざまな意見が寄せられた。


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「免許返納した」人の体験談として、高齢の家族を説得して返納させることができた人の声が集まった。ポジティブな声の一方、なかには免許返納をめぐって、家族の関係が悪化したというエピソードも見受けられた。

また、市街地から離れた山奥に住む父親が、免許返納後に「途中で休憩をはさみつつも、行きは約4時間、帰りは約5時間かけて自転車でスーパーへの買い出しや病院に通っている」という家族からのコメントのように、返納後の生活への支障についての声もあった。


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「免許返納していない」という人の意見は、生活のために自動車は必需品であり、高齢になっても手放すわけにはいかないというものが多かった。降雪期の雪国ともなれば、高齢者の足で移動するのは難しい。人手不足で、バスやタクシーなど交通手段となる運転手の確保も大きな課題だ。

一方で、運転をすることで行動範囲や世界が広がるメリットを挙げて「返納=美徳」に疑問を呈する声もあった。また、高齢者に限らず若者にも運転に適さない人はいる、という意見もあった。街中でよく見かける、免許不要で低速度のシニアカーも、安くても10万円以上、一般的には数十万円するため、高額で手が出せないという声がある。


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高齢者の免許返納をめぐっては、移動の代替手段や免許制度などに対し、具体的な意見が集まった。まず、普通車の免許取得は18歳以上なのに、上限がないことに対しての意見だ。高齢者の免許更新が3年単位であることを問題視する声もあった。また、タクシーのライドシェアの導入や、コミュニティバスの運行など、新しいサービスの導入を求める声も目立った。

免許返納は減少傾向の一方、75歳以上の運転者の死亡事故は多い

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1998年(平成10年)には自主返納制度、2002年(平成14年)には運転経歴証明書が導入され、2019年(令和元年)に発生した池袋暴走事故が社会問題となったことに伴い、高齢者の免許返納が一気に増加した。しかし、それ以降は、ゆるやかに免許返納数は減っており、2022年には事故前の水準に戻っている。

交通事故件数や交通死亡事故件数を第1当事者(運転者)の年齢層別に集計すると、高齢者層が突出しているというわけではない。逆に年齢が上がると事故件数や死亡事故件数は減少する傾向である。しかし、これは他の年齢層よりも運転をする者が少ないためだ。免許保有者数10万人あたりで交通事故件数や交通死亡事故件数を求めると、事故件数では70歳以上から、死亡事故件数では75歳以上で増加する。

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図は自動車の利用頻度(道路交通曝露量)を使った年齢層別の死亡事故件数である。道路交通曝露量を基準にすることによって、走行距離の長さなどに関係なく、死亡事故数を比較することが可能になる。道路交通曝露量に基づいたグラフでは、70歳以上で死亡事故件数が増えはじめ、後期高齢者となる75歳以上ではさらに増え、85歳以上が最も多くなっている。高齢者死亡事故では、その多くが運転者本人あるいは同乗者が死亡している。

高齢者の運転能力は家族や周囲の人が同乗して判断を

高齢者本人が免許返納をしたほうがいいのか判断に迷ったり、周囲の人が高齢者に免許返納をさせたほうがいいのか判断に迷ったりすることもあるだろう。そうした場合は、まず以下のロードマップを活用してほしい。

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「補償運転」(※2)とは、加齢による運転技能の低下をカバーするために、ドライバーの体調や天候、道路の状況などを考えて安全に運転すること。状況によっては運転をしないという判断も必要だ。

「運転レベルのチェック」(※1)に関しては、以下のチェックリストを参考にしてみよう。

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高齢者の運転の危険は、大きく、(1)身体機能、(2)認知機能、(3)注意機能の衰えに分けられる。
(1)身体機能の衰えは、適切なタイミングでブレーキを強く踏めない、スムーズな運転操作が難しいなどの点に表れる。
(2)認知機能が低下した際には、信号無視や指定場所一時不停止、横断歩道等における横断歩行者妨害などの違反が増える。
(3)注意機能の衰えは、信号や歩行者への反応が鈍くなることなどに表れる。
どれも重大な問題だが、こうした問題を把握するためには、高齢者の家族や関係者が自動車に同乗し、運転をチェックすることが必要だ。

免許返納の説得は心理的反発が必ず起きる

志堂寺和則

Q. 現在の高齢者をめぐる免許制度の問題は?

志堂寺和則
志堂寺
運転は非常に総合的な技能です。若者でも事故を起こしますから、認知機能の低下だけで事故を起こすわけではないんです。まず適切に運転できるかどうかの実技試験のようなものが必要だと思います。ただ難しいのは、高齢者の場合、日によって体調も大きく変わりますし、能力の衰えが一気に起きることもあります。

ですから、免許の更新頻度や試験を受ける頻度を、毎年ぐらいに設定したほうがいいでしょう。また、高齢の方のための運転講習プログラムを充実させるなど、運転能力を維持させる対策もやっていいのではないかと思います。このくらいやっても、運転中の急な体調変化などまだ不安な要素があります。

Q. 高齢者の免許返納に必要な条件は?

志堂寺和則
志堂寺
国としては全体で一律に制度を決めざるをえないのですが、自動車の必要性は明らかに地域差があります。過疎地に対して都市部では公共交通機関が発達していますし、地域ごとの対策はあってしかるべきです。

理想的なのはモビリティの開発。きちんと「足」を確保することが大事です。ですがお金がかかりますし、全員に勧めにくいのが現実です。基本的には高齢になったら、自分で運転しなくてもいい生活を過ごせるように、社会的な支えがつくられていないと、免許返納に踏みきれないでしょう

Q. 高齢者に免許返納を説得したいとき、もっとも大切なことは?

志堂寺和則
志堂寺
免許を返納するにしても、返納後の生活をどうするかの準備が整っていないといけません。いきなり返納してしまうと、買い物にも行けず、外出する機会も減って認知機能が低下する可能性もあります。ですから「買い物はこうしよう」など、周囲がどうやって手伝うかなどプランを整えてから返納する、というステップが大事です

Q. 説得前に意識しておく必要があることは?

志堂寺和則
志堂寺
免許返納の説得をするにしろ、説得で大事なのが人間関係、特に信頼関係です。親子の場合、普段はほとんど連絡がない子どもから、免許返納について頭ごなしに言われると「普段は気遣いも何もないのに」と反発が生まれます。心理学では、自由を奪われるようなときに心理的反発は必ず起こるといわれています。まさに免許返納もそうです。さらに返納したら不便になるのはわかっているので、説得としては難しいパターンになるでしょう。

日頃からコミュニケーションをしっかり取るようにして、頼みごとをしやすい信頼関係があれば、「病院や買い物は連れて行ってあげる」「バスやタクシー代、多少は出すよ」という一言で不安を解消できる場合もあるわけです。説得される高齢の方が、説得する側の人を信用しているかが、一番大事だと思います

Q. 高齢者が「自分は大丈夫」と耳を貸さない場合は?

志堂寺和則
志堂寺
そういうときは、お医者さんなど、高齢者が普段から頼りにしているような人から説得してもらうといいでしょう。居住地によっては、警察の方とも顔見知りだったりするので、そういった第三者にお願いをするのもテクニックとして有効だと思います。

Q. 高齢者に免許返納のメリットをどう伝えればいい?

志堂寺和則
志堂寺
「返納してよかった」と思う方にとって、一番大きいのは「安心感」なんです。これが免許返納の一番のメリットです。しかし、「本当に返納してよかった」と思うためには、多少は不便ながらも、免許返納しても生活が成り立っていることが大事なんです。

たとえば、免許と自動車を手放すと、保険料も含めて、年間の維持費分がかなり浮きますよね。その分、タクシーを頻繁に利用できるとか、金銭的な計算もしてメリットを伝えて、免許返納後の生活をイメージできるようにすれば返納しやすくなると思います。
免許返納のためのコミュニケーション5カ条
  • (1)日頃から人間関係と信頼関係を築く
  • (2)高齢者の運転する自動車に同乗してみる
  • (3)家族ぐるみで話し合う
  • (4)頭ごなしに返納しろと言わない
  • (5)返納後の生活を先にシミュレーションする


#老いる社会」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。2025年、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となります。また、さまざまなインフラが老朽化し、仕組みが制度疲労を起こすなど、日本社会全体が「老い」に向かっています。生じる課題にどう立ち向かえばよいのか、解説や事例を通じ、ユーザーとともに考えます。


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