第50回衆議院議員選挙の投開票が10月27日に行われる。新政権発足直後に衆議院が解散し、選挙戦に突入した。各党はどのようなスタンスで今回の衆院選に臨み、どのような政策を掲げているのだろうか。急ピッチで進む選挙の投票率はどうなるのだろうか。
選挙に行かなかったり、白票を投じたりすることの意味を識者に聞いた。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:品田裕)
解散時の衆院選の議席状況は?
自民党総裁に選出されるまでは解散権の行使に消極的だった石破茂氏が総裁就任後に主張を一変させ、首相就任から8日後に衆議院解散に踏み切った。15日公示、27日投開票の日程で選挙戦の火ぶたが切られた。
解散時の議席数は自民党が安定多数の258議席。野党第一党の立憲民主党が99議席となっている。
主な政党の総選挙の勝敗ラインや立ち位置などを世論調査や選挙予測などを手掛けるJX通信社の米重克洋氏に聞いた。
Q:裏金問題に揺れる自民党にとって今回の衆院選はどう対応することになりそうですか?
- 米重 克洋
- 「政治とカネ」の解決策を最優先に出さざるを得ないでしょう。石破首相は、与党で過半数を獲得できるかどうかが勝敗ラインだとしていますが、実質的には、自民党が過去12年間維持してきた単独過半数を維持できるかどうかがその後の政権運営を左右する一つのラインになります。
「貯蓄から投資へ」といった経済政策や基幹的な政策は岸田路線を踏襲しつつ、防災庁設置に向けた準備や地方創生交付金の積み増しなどで石破カラーを出していく形になります。
Q:連立与党の公明党の動きはどうなりますか?
- 米重 克洋
- 政治改革を引っ張る立場として自民党に厳しく向き合うスタンスをアピールすることが予想されます。また、結党以来「大衆とともに」を掲げて生活者支援や教育、福祉の充実を訴えています。
今回の選挙戦では、15年ぶりに公明党の新しい代表に就いた石井啓一代表も自ら、小選挙区から出馬します。小選挙区の議席数を維持しつつ、徐々に減ってきている比例票の減少幅を抑えて議席を獲得していきたいという思惑があります。
Q:対する野党について、まず立憲民主党のスタンスを教えてください。
- 米重 克洋
- 自民党では自分の身を処せないとして「政権交代こそ最大の政治改革」とのキャッチコピーを掲げています。また、物価高の対策や最低賃金の大幅な引き上げを訴え、自民党との差別化を打ち出しています。
野田佳彦代表が掲げた目標は比較第一党。他の野党との選挙協力が進まなかったものの前回の96議席を上回り、与野党伯仲にもっていきたいところです。泉健太前代表がかつて目標として言及していた「150議席」に迫れるかも注目です。
Q:野党第2党の日本維新の会は直前に兵庫県知事の問題がありました。選挙に影響はありますか?
- 米重 克洋
- 大ダメージを受けましたが、前知事が失職したことで、各種世論調査での政党支持率は一時期より復調しています。「野党第一党を目指す」としていましたが、今回の選挙では前回獲得した41議席を維持できるかが実質的な勝敗ラインとなるでしょう。国政政党として、地盤とする大阪以外での議席獲得がどの程度実現できるかも課題です。
政策は行財政改革に加えて、消費税の引き下げや年金制度改革、社会保障負担の軽減などを打ち出し、主に現役世代からの支持を狙っています。
Q:国民民主党は今回の選挙の目標ラインは何議席になりますか?
- 米重 克洋
- 前回11議席を獲得しましたが、所属議員の知事転出や離党が続き、解散時点では7議席になっていました。これを11議席に戻すのが党として掲げている目標です。その上で、玉木雄一郎代表は単独で法案提出が可能になる21議席を目指したいとしています。 国民民主党は、元来労働組合を支持母体とした政党なので、若者・現役世代の働き手にアプローチするとがった内容になっています。所得税の減税などによる手取り増や消費税率の引き下げ、インボイスの廃止等を訴えています。
Q:最後に共産党について教えてください。
- 米重 克洋
- 今回は党勢維持が最優先事項です。現在の立憲民主党は中道から保守寄りにシフトさせつつあり、「野党共闘」で合意してきた長年の政策から立憲が離れていく点を警戒しています。このため比例代表の議席最大化のための候補擁立を優先しつつ、地域ごとに他の野党と連携をして与党の議席を減らしていくことで、党勢維持を狙っています。 政治改革を訴え企業・団体献金の全面禁止を公約に明記したほか、消費税を5%にするなどの経済政策を掲げています。
各党の思惑が透けて見える中、私たちはどの党の誰に投票したらいいのだろうか。もしかしたら投票したい候補者が思い当たらない人もいるかもしれない。
選挙に行くのは無駄? 専門家の見解は
昨年の統一地方選挙の直後にYahoo!ニュースのコメント欄で、選挙にまつわる思いを募ったところ、「選挙に行っても結果は変わらない」「行くのが面倒」として選挙に行かないという声もあった。果たして選挙に行くのは無駄なのだろうか。選挙公約の研究で知られる神戸大学の品田裕教授(政治学)に聞いた。
Q:組織票で当選者が決まっているので、選挙に行くのは無駄ではないでしょうか?
- 品田 裕
- 長い目で見ると実は組織票は減っていて、多くの選挙区では組織票だけで勝つのは相当厳しいでしょう。「風」でいくらでも変わるのが今の選挙です。
Q:若者が投票したところで高齢者に数で勝てないので無意味に思えますが?
- 品田 裕
- 高齢者の中には、高齢者のことだけを考えているわけではなく、国全体のことを考えている人も多い。数で負けている若者の意見が全く通らないということは多分ないです。
Q:現状に不満がないし、コスパが悪いので選挙に行くのは面倒です。棄権してもいいでしょうか?
- 品田 裕
- 統計調査でも今の生活に満足している人が多いので、そう考えるのは自然な反応です。
現状では「選挙で得られる利益の期待値に1票の影響力をかけたもの」より投票に行くコストが上回ってしまいますが、それでも多くの人が投票に行っています。これは選挙で得られるものがあるからで、行かないことで長期的に得られる何かを失っているとも言えます。単純に一時的なコスパで考える話ではないといえるでしょう。
品田氏に選挙で投票したい候補者がいない場合はどうしたらいいかも聞いてみた。
無効票の「白票」投じる意味は 警告の効果も
品田氏はどうしても投票したい人がいない場合は最終手段として白票を投じることもひとつの手だとしている。白票は意味のないただの無効票ではないのか。品田氏の見解は?
Q:最終手段として白票を投じることにどんな意味がありますか?
- 品田 裕
- 当落など結果に対しては影響がありませんが、白票の数を見ている政治家はいるでしょう。白票が多ければ、自分を信任する人の割合が少ないことを意味しますから、当選しても手放しで喜べないと思います。
Q:それでも、投票結果には影響がないので無駄ではないですか?
- 品田 裕
- 急に白票が増えたら政治家の皆さんもびっくりするでしょうから、警告を与えるぐらいの効果はあると思います。決して勧められることではありませんが、全く意味がないとまでは言えないように思います。
Q:選ばないという思いを表明しても、無効票として信任扱いになるので、白票を投じる意味はないのではないでしょうか?
- 品田 裕
- 誰も選びたくない、適切とは思わないという意見を表面するという点に意味を見出すのであれば、白票でも投じる意味はあると思います。むしろ、棄権では行動の意味が一切、明らかになりません。棄権も白票も投票には影響を与えないが、まだ、意味を見いだしやすいのは白票といえます。
どうしたら投票率は上がる? 海外では罰金やペナルティーも
たとえ無効票でも白票が投じられれば投票率は向上する。高い投票率は、長期的に見れば、より多くの民意が反映されていることを示す。
しかし、前回衆院選では投票率は55.93%。過去最低は更新しなかったが低い水準であることに変わりはない。
年代別に見ると、30代以下の投票率が顕著に低いことがわかる。
実際に投票率を上げるにはどうしたらいいか、ネット投票の実現性や外国の例を品田氏に紹介してもらった。
Q:実際にマイナンバーを使ったネット投票は実現可能ですか?
- 品田 裕
- 技術的にも実現しそうなところまではきているが、事故が起きたらという懸念が大きいです。選挙はちょっとしたミスも許されない世界。昨年、マイナンバーカード関連で多く報道されたトラブルみたいな事故が起きるとしたら悲惨なことになるでしょう。
Q:どうしたら実現すると思いますか?
- 品田 裕
- まずは条件のそろった自治体での実証実験や在外邦人の選挙で試してみるところからやっていくだろうと思います。
Q:マイナンバーを使ったネット投票以外で投票率を上げる方法は?
- 品田 裕
- 人間関係を利用した働きかけは効果があり、若者の投票率を上げるにはネットを通じてアプローチをしていく方法があります。また、人間は損得勘定で動くので、選挙に行ったらお得になりますというのは効果があると思います。
Q:外国で参考になる事例は?
- 品田 裕
- エストニアは期日前投票のみネット投票を実施しています。なりすましや脅された場合の対策として、投票後も内容を書き変えられるようにしています。また、日本で実施できるかは別ですが、オーストラリアでは選挙に行かない人に対して数千円の罰金を科していて、高い効果を上げています。
- 品田 裕
- オーストラリアでは、罰金の効果もさることながら選挙に行くものだという雰囲気ができていると思います。日本でも選挙に行くものだという考えが広まっていくのが大事でしょう。
Q:そのために重要なことは何ですか?
- 品田 裕
- 特定の行動を頻繁に行う、習慣化させる「行動の基本傾向」を形作っていくことが大切になっていきます。
基本傾向は比較的若い時期に出来上がることが多いので、家庭内で教える、一緒に選挙に行くと親が伝えることが大事です。でも、親世代も半分は投票に行っていないという現実があるので、学校教育の中で、「選挙に行くのはとても大事だよね」と教えることになってきているのでしょう。
衆議院選挙は27日に投開票が行われる。自分に合った「ベストな候補者」が立候補していなくとも応援したい政策を掲げる「ベターな候補者」はいるかもしれない。また、白票を投じることは決して意味がないわけではない。投票に行ってみてはどうだろうか。
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