10月から年末にかけて申し込みが増加するのがふるさと納税。2008年の制度開始から16年、初年度の利用者は3万人だったが、現在では約1000万人が利用している。だが、返礼品の過当競争が問題になるなど、制度に対する賛否の議論は尽きない。
近年、頻繁に制度変更が繰り返されるのは制度の過渡期にあるからだと専門家は言う。ふるさと納税が抱える問題点、さらには可能性と未来について、ユーザーの声をもとに考える。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/デザイン&イラスト:柴野コウセイ/取材・文:キンマサタカ/監修:江口晋太朗)
- ブームの一方、都市部の税収が悪化している問題点も
- 制度の賛否にかかわらず「得なので利用している」声が目立つ
- 返礼品重視から「意志ある寄付」に向かう段階と識者
1.「お得」でブームが過熱するふるさと納税、何が問題?
2023年度、ふるさと納税の寄付額は初めて1兆円を突破した。潤う自治体がある一方で、都市部からは制度に対する懸念の声が上がっている。なかでも都および都内区市町村の税収は著しく減少しており、2024年度の減収額は1899億円にのぼると発表。国に抜本的な見直しを求めている。
東京都主税局のウェブサイトによると、1899億円のうち、都民税にあたるのは759億円。これは、特別養護老人ホームの施設整備補助の約70施設分に相当するという。「行政サービスに使われるべき住民税の減収につながることから、受益と負担という地方税の原則を歪める」と、制度の抜本的な見直しを行うよう国に求めている。
地方創生に関する著書がある江口晋太朗氏は次のように語る。
- 江口氏
-
地方と大都市の格差を埋めようという理念で始まったふるさと納税は、税金の使用用途を積極的に選択できる点がポイントでした。「自治体の応援」という位置づけでしたが、気がつけば返礼品の過当競争が始まり、都市部からは多くの税収が流出します。
また魅力的な物的資源を持つ自治体とそうでない自治体の収入格差が生まれ、「返礼品は地場産品」というルールを逸脱したり、産地偽装したりするケースも問題になりました。寄付獲得の努力が自治体に丸投げされた結果、地方自治体間の不平等を加速させたという声もあります。
2.「全力で使ってるけど廃止して」制度の賛否、みんなの声
現在のふるさと納税制度について、どのような意見があるのか。Yahoo!ニュースの「【みんなで考えよう】今の『ふるさと納税』制度、改善の必要があると思う? 今後どうあるべき? #くらしと経済」のコメント欄(2024年9月4~9日、計1256件)には、さまざまな声が寄せられた。
賛成する声
- 米や果物、肉など、普段は買えない国産のちょっといいものを頼んでいる。地域の特産品を知るきっかけにもなる。
- 能登半島地震で、安心してすぐに寄付ができた。返礼品も宣伝効果があるし、直接その場所に行きたくなる。
制度に賛成するコメントで目立ったのは、返礼品の役割を評価する声だった。特産品や地域の認知向上につながるほか、自治体間の競争をうながすという意見があった。また、被災地に返礼品なしで寄付したという人は、特定の地域を簡単に応援できるシステムとして評価していた。
一方で次のように、高額納税者ほどより多くの税控除を享受できることから、制度を積極的に活用するという声も複数あった。
- ふるさと納税くらいしか、税金をたくさん納めている人が恩恵を受けられる制度がない。返礼品くらい、もらってもバチは当たらない。
所得が多い場合、各種手当や支援の対象外になることから、現状の税制度への不満がうかがえる。
反対する声
- 無料の通販という感覚で、返礼品のみが目的。寄付した自治体に関心もなく、記憶にもない。制度には反対でただちに廃止すべき。
- 全力で制度を利用しているが、廃止してほしい。本心では、税金は自分が住んでいる自治体に納めたいと思っている。
- 近隣の自治体では、ふるさと納税による減収で保育園が維持できないというチラシが配られている。制度を積極的に利用する人は、そういう現状についてどう考えているのか疑問に思う。
ふるさと納税が当初の趣旨から逸脱し、多くが縁のない自治体への返礼品目当ての寄付になっていることへの批判が目立った。民間事業者が運営する仲介サイトでは人気の返礼品がランキングで一目瞭然となっており、その利便性がこの傾向に拍車をかけているとの声もあった。一方で、はっきりと反対の立場を示しつつ、「制度がある以上は使わないと損」「抵抗はあるがお得」なので利用している、というコメントも複数見られた。
3.アクセルとブレーキ、これまでの制度改正
2008年にスタートしたふるさと納税。総務省は利用促進のための緩和というアクセルと、競争の過熱を規制するためのブレーキを繰り返してきた。
2015年には控除限度額が引き上げられ、さらに税務署での申請手続きが省略できる「ワンストップ特例制度」が導入された。
2019年には過度な返礼品や金券など換金性の高いものを扱っていた自治体が制度から除外され、地場産品を扱うというルールが再確認された。また2017年には返礼品は寄付額の3割以下、経費を含め寄付額の5割以下に収めることが定められ、2023年には諸経費を含めた5割ルールがさらに厳格化。2025年には仲介サイトを通じた寄付の際にポイント付与が禁止される予定だ。
寄付受入額の多い都道府県の変遷を見ると、ふるさと納税が一般に浸透していなかった開始当初は、東京都が上位になっていたことがわかる。2011年の東日本大震災後は被災地が多くの寄付を集めた。2014年には大手仲介サイトがサービスを開始し、返礼品で寄付先を選ぶ行為が一般的になり、肉や海産物といった名産品を持つ自治体が上位を占めるようになった。
返礼品の過当競争により高騰化していた調達コストだが、規制強化された2019年以降はきっちり3割以下におさまっている。返礼品の送付費とは輸送費のこと。北海道や九州地方から都心に発送するには多くのコストがかかる。
意外と大きな割合を占めているのが事務手数料だ。発送事務を委託する地元業者への手数料ならびに、仲介サイトに支払う手数料がこれに該当する。返礼品の調達費ばかりに目がいくが、これらの諸経費を合わせると経費が5割を超える自治体も多く、経費5割以下ルールの厳格化につながった。
4.ふるさと納税、今後どうなるべき?
制度改正が繰り返されてきたふるさと納税制度だが、今後どうなるべきか。Yahoo!ニュースのコメント欄に集まった改善案には、次のようなものがあった。それぞれのアイデアについて、江口氏に見解を聞いた。
Q.1 制度を本来の趣旨に戻すため、返礼品は廃止したほうがよいのでは?
- 江口氏
- 利用者からすれば新鮮なサーモンがもらえたり、高級な牛肉が手に入ったりするのはとても魅力的ですが、自治体のサステナブルな取り組みにつながっているかは、あらためて考えるべきかもしれません。返礼品がなくなったとしたら、おそらくふるさと納税をする人はぐっと減るでしょうが、制度が生まれた当時のピュアな意味での地域支援に原点回帰できるでしょうし、自分の納めている税金がどのように社会の役に立っているか考えるきっかけになるかもしれません。
Q.2 寄付できる自治体の数を制限しては?
- 江口氏
- 自治体のファンを作るという観点から、1つもしくは少数の自治体に限定した寄付という仕組みは悪くないと思います。ただ、利用する側からしたら「いろいろもらいたいのに」という不満がきっと出ることでしょう。さらに一人の「顧客」をめぐって自治体間の競争がさらに過熱し、魅力的な返礼品をそろえられない自治体の力はさらに弱まるかもしれません。返礼品だけでなく、地域の将来へのビジョンや政策に対する共感をいかにつくるか、といった自治体の取り組みが必要不可欠になりそうです。
Q.3 民間に代わり、国が仲介サイトを作ればよいのでは?
- 江口氏
- 大阪・泉佐野市や東京・世田谷区など一部の自治体は仲介サイトへの出稿のほかに、独自のウェブサイトを作っていますが、国が大規模な仲介サイトを作ったとしても、現在の民間が運営するサイトと提供できるサービスはほとんど変わりません。そもそも寄付の獲得努力を自治体に丸投げしている制度ですので、いまさら大きなコストをかけて構築するメリットがあるかは疑問です。
Q.4 富裕層対策として、寄付できる上限額を設けては?
- 江口氏
-
控除される金額を下げる施策はとてもわかりやすく、今後の制度変更としてあり得るのではないでしょうか。ただ、地方と都市部の格差を是正する理念で始まった制度ということもあり、これまで税収を得ていた地方自治体からの反発が予想されます。
一方で、控除額の多寡にかかわらず税収減少と行政サービスの低下が懸念される都市部では、「このままだと自分たちの足元がまずいことになってしまう」と積極的に住民に広報し納税を求めていくことも必要でしょう。
返礼品目的から意志ある寄付へ 求められる「次のフェーズ」
近年注目されているのが、ふるさと納税の仕組みを活用したガバメントクラウドファンディングだ。公民館や保育所の建設や、NPOによる社会貢献性の高い活動といった地域課題や取り組みを「プロジェクト」として掲げて寄付を募る制度だ。
これらは返礼品のように寄付者の自己利益になるものでなく、社会貢献性の高いものに寄付が活用されるのが特徴といえる。これまでの返礼品頼みから脱却し、「意志ある寄付」を通して積極的に自治体に興味を持ってもらうことが、ふるさと納税の次のフェーズとして期待されている。
- 江口氏
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ふるさと納税の大きな問題は、利用者側も自治体側も目先の返礼品に目を奪われ近視眼的になっていることです。寄付をしている人たちの多くは、自分の住む自治体に納めるべき税金が他に流出してしまうという感覚が薄く、その結果、ふるさと納税をしている人もそうでない人も行政サービス低下のしわよせを受けることになります。
自治体側も、寄付をした人々はなにかしらその地域に関心を持っている可能性があることを忘れてはいけません。ふるさと納税をきっかけに、地域に足を運んでもらったり、そこで商品を買ってもらったりするような「継続的なファンづくり」へとつなげることが大切です。
制度が始まった当初は返礼品競争がここまで過熱するとは国も想定していなかったのでしょう。制度開始から16年がたち、まさに今が制度を再構築するタイミングかもしれません。
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