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体罰や発表会、受験... 授業が生んだ苦手や嫌いは? #昭和98年

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全国の学校で夏休みが終わり、授業が始まった。苦手や嫌いな教科がある生徒にとっては憂鬱(ゆううつ)かもしれない。そもそもなぜ、教科や科目に苦手意識などを抱いてしまうのだろうか?

Yahoo!ニュースがコメント欄で「授業が苦手になったり、嫌いになったりした経験」を募集したところ、昭和や平成の教師の姿勢や授業内容に起因する理由もみられた。また、教師との関係などをきっかけに悩む姿やさまざまな方法で苦手や嫌いな気持ちを克服する人の姿などが浮かび上がってきた。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:小針誠)

この記事、ざっくりいうと?
  • 昭和の時代は体罰や受験競争が原因で授業が苦手、嫌いになる人がいた。
  • 平成に入ってから必修化されたダンスが苦痛だったという声も。
  • 全コメントを分析すると小中高どの段階でも算数・数学が多く言及されていた。

昭和の授業 体罰教師のせいで英語が嫌いに

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【みんなで考えよう】学校の授業が嫌いになったり、苦手になったりしたきっかけは?」 (7月11~12日のコメント計604件)には昭和ならではのコメントも。

体罰教師の科目が嫌いになりました。わからないと答えると『なぜわからんのや』と頭を教科書で殴る教師だった。以降数学を好きになれなかった」

「最初に受けた体罰は担任の女性教諭から。授業中に一度も手を挙げなかったという理由から教室の後ろに立たされビンタされました。それ以来、授業どころか学校が大嫌いになりました」

など、体罰に悩んだ悲痛な体験が寄せられていた。

また、「高校の数学や物理が、現実世界との接点がわかりにくく苦手になった。大学受験対策に特化した授業だったためか、覚えては演習の繰り返しで興味を失った」と詰め込み教育や受験競争の影響で苦手意識を抱いたと明かすユーザーもいた。


昭和の教育現場、体罰が当たり前だった理由は

体罰や詰め込み教育など、教科や科目が苦手になる要因はなぜ生まれたのか?学習指導要領に詳しい青山学院大学の小針誠教授(教育社会学)に聞いた。


小針誠さんのプロフィール

小針教授
小針教授
昭和の時代は子どもの数も多く、教師が力で子どもたちを抑えつけることで学校教育を成り立たせていた側面もあります。 当時は集団主義のなかで強引に学級が運営されており、親も教師の体罰を問題視していなかった風潮がありました。

詰め込み教育や受験競争が起きた背景はなんだったのだろうか。


小針教授
小針教授
1950~70年代の高度経済成長の影響が大きかったと考えられます。経済発展や産業復興が叫ばれるなかで理数系教育が重視されました。日本が経済的に豊かになるにつれて多くの子どもが進学するようになっていくと、「いい大学に進学していい就職先に」という学歴主義の考えが広がり、受験競争が過熱していきました。 詰め込み教育と受験競争はコインの裏表のようにセットになり、同時進行で進んでいったといえるでしょう。

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学校で落ちこぼれが増えた、校内暴力が起きたというような問題が注目されるに従って、個性やゆとりなどが尊重されるようになっていった。


平成の授業「ダンスがあまりに苦痛」の声も

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平成になると体罰はなくなったことをうかがわせるコメントもあった。「『何がわからないのか言ってみろ!』と激高する先生で、子ども心にも『それが言えたら苦労しない』と思ってました。好きだった算数、数学が苦手になりました」

また、 平成に入って必修化されたダンスの授業がきっかけで体育嫌いになった人も。 「私もグループを組んだ相手も運動が苦手、ダンスはお粗末、先生に仕上がりを叱られ、他グループに吸収され肩身の狭い思いを抱えたまま文化発表会で披露しました。二度とやりたくありません」と吐露していた。


昭和から平成に、教室の風景はどう変わった?


小針教授
小針教授
教師による一方的な知識の詰め込みから、子どもたちが自ら調べ考える教育を行いましょうとなったのが大きな転換点。学校教育における国のスタンスが大きく変わるきっかけになりました。
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昭和から平成にかけての具体的な変化は。


小針教授
小針教授
少子化が進み、体罰等が社会問題になるなかで以前のような教師からの抑えつけもなくなっていきました。

学校が週5日制になったり、総合的な学習の時間で調べたものを発信したりするようなゆとりや個性を大切にしていく教育に変化していくことになりました。

しかし、「すべての子どもがゆとりをうまく享受できたわけではない」と小針教授。教育改革によってカリキュラムが減ったことで学力の低下や学力格差の拡大が新たな問題として浮上。さらなる改革が進められていった。

令和の教育風景は?

小針教授
小針教授
「子どもたち一人ひとりの生きる力を見ていく、育んでいく」という個性を大切にした平成の教育方針を徹底していこうというのが、2020年ごろから始まった教育改革の特徴です。
図解

その一環として進められたのが、話し合い意見を出し合って発表、発信することが求められるアクティブラーニングや探究学習の導入だ。

また、思考力や判断力を見ていくように共通テストの内容に変更が加えられていくなどの2020年教育改革が進められている。

変化はこれだけではない。最新の学習指導要領には「ICTの活用」や「個別最適化」が盛り込まれた結果、各生徒にタブレット端末を配布。生徒が自ら調べ物をしたり、プレゼン資料を作成したりするのに利用しているという。

小中高でコメントを分析 見えてきたものは?

これまで時代という軸で見てきたが、小学校、中学校、高校といった学校の段階ごとになにか特徴はあるのだろうか?

全コメントを対象に単語の登場回数などを割り出す解析をし、「小学校」「中学校」「高校」のワードの前後によく登場したワードをランキング化。各段階で関連が高いとみられるワードを可視化してみた。


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小中高いずれも算数・数学が上位に登場。また英語は中高で苦手意識を持つ人が出てくることがうかがえる

小学校では「担任」、中学校では「教師」も上位に登場しており、子どもが苦手意識を持ってしまうのには教師が重要なポイントとなっていることを示唆しているのかもしれない。

単語の言及回数でみると、小学校では1位:算数、2位:体育、3位:音楽、中学校では1位:数学、2位:英語、3位:体育、高校では1位:数学、2位:英語、3位:物理。小中高いずれも算数・数学が上位に食い込んでいた。


苦手な科目、克服したきっかけは?


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コメント欄には苦手を克服できた体験談も寄せられていた。

あるユーザーは教師が代わったおかげ克服できたと明かした。高2で数学が難しいと感じ居眠りばかりしていたが、高3のときの教科担任が真摯(しんし)に向き合ってくれた。「初めて数学が楽しい」と感じ、学年トップに。ついには絶望的といわれた志望校に受かったという。

また、障害の影響で体育が苦手だったというユーザーは「平泳ぎが泳げるようになったときの喜びは今も忘れない」とつづり、「あの喜びのために頑張ろうと思えるようになり、嫌いとは程遠い感覚になりました」。苦手と嫌いは別物だと気づかされたという。

教わったり、なにかに気づいたりすることや成功体験が苦手意識の克服につながっているようだ。



教科・科目の苦手意識どうすれば?

そもそもなぜ苦手や嫌いな教科・科目が出てきてしまうのだろうか。


小針教授
小針教授
学校教育、特に義務教育の段階ではすべてを学ぶことが前提になっています。お仕着せのカリキュラムを学習するなかでどうしても苦手な科目が出てしまうのでしょう。
ただ、ひととおり学ばないと得手不得手はわからないので、ある意味では学校教育は何が得意で、苦手なのかも含めて子どもたちに教えているともいえます。

授業を通じて生まれた苦手意識はどうすればいいのだろうか。


小針教授
小針教授
学校での苦手な経験をあまり深刻に考えすぎないほうがいいでしょう。学校教育は、なんでも「できる」「得意になる」ように求めがちです。しかし、そのすべてを完璧にこなせる人はほぼ存在しません。
苦手を一人で抱え込まずに、お互いの得手不得手を考えて助け合う姿勢が大切です。お互いに補い合えるとわかれば、苦手や不得意もその人の個性として、認め合えるようになるのではないでしょうか。




#昭和98年」は、Yahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。 仮に昭和が続いていれば、今年で昭和98年。令和になり5年が経ちますが、文化や価値観など現在にも「昭和」「平成」の面影は残っているのではないでしょうか。3つの元号を通して見える違いや変化、残していきたい伝統を振り返り、「今」に活かしたい教訓や、楽しめる情報を発信します。

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