冬場は死亡者が増えるため火葬場の忙しさもピークに達し、火葬に2週間待つケースも出ている。また国内の死亡者数は増加傾向で、高齢者の死亡者数が増加し人口減少が加速する「多死社会」が進んでいる。葬儀を巡る問題や備え方はどうすればよいのだろうか。
Yahoo!ニュースがコメント欄で火葬場の混雑や葬儀を巡る困った経験などを募集したところ、死去から火葬まで長期間待たされたケースや思わぬ出費に悩んだ体験などが寄せられた。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:吉川美津子)
- 都市部で火葬場が混雑、最大2週間待ったケースも
- 単独世帯の増加に伴い、引き取り手のない遺体・遺骨が増えている
- 葬儀の料金は透明化するも、広告の影響で料金を巡るトラブルが起きている
火葬場が混雑、遺体の保管料が葬儀代超えも
「【みんなで考えよう】火葬場不足や葬儀サービスで困ったことはありますか? #老いる社会」コメント欄(2023年12月18日~21日、計280件)には火葬まで待たされた実体験が多く寄せられていた。
- お寺や火葬場の都合でお通夜・告別式まで父のときは12日間、母のときは7日間待たされました。
どちらも自宅で2日安置した後は葬儀社の斎場で預かってもらいましたが、1日当たり1万円以上の費用が発生しました。
- 正月明けに義父が亡くなった際、火葬場がいっぱいで2週間待ちになりました。
棺(ひつぎ)をリビングに置き、葬儀スタッフが何回かドライアイスを交換しに来てくれたが、夏なら大変だったと思います。。
- 梅雨の時期に母が亡くなりました。
安い家族葬で依頼したところ火葬まで8日間待ちました。結局その間の遺体の保管料が葬儀代より高額になってしまいました。
また、「公営の火葬場に勤務していた」というユーザーからは現場の様子を明かす投稿も。
- 現場では本当に一日中走り回っていた。火葬炉が20基弱あったが、毎日上限いっぱいで稼働していました。
高齢化の影響で施設利用数が増えたので休みは大幅に削られてしまいました。現場の負担が減ってほしいです。
なぜ火葬場は混雑しているのか。背景を葬儀・お墓・終活コンサルタントの吉川美津子氏に聞いた。
死亡者数は2040年まで増加、火葬場の混雑も恒常化か
火葬場が混雑している要因は?
- 吉川氏
- 死亡者数が多くなったことに加えて、火葬場自体が増えないことが背景にあります。
火葬場の新設は住民の同意を得るなど完成までに長い期間を要する。そのため、新設の見込みが立たない地域が多い。
一方で、年間の死亡者数は2040年まで年々増え続ける見込みだ。
死亡者数の増加に伴い火葬場の混雑は今後も激しくなっていく?
- 吉川氏
- 火葬炉の数や回転数を増やすなど各自治体が対応に当たっています。全体的に全然足りない、困っている状況ではないです。「1カ月待ちが当たり前」というような事態にはならないでしょう。
混雑状況や費用はどれくらいになる?
- 吉川氏
- 地域によっては1週間から10日待つこともあります。
その間、遺体の腐敗を食い止めるためのドライアイスが1日1万円程度。自宅以外で安置する場合は、遺体安置所の費用も追加でかかってきます。
遺体安置所は個室タイプの場合で1日2万~3万円、棚に収めるタイプは5000~1万円の費用が必要となります。
ただ、必ずしも火葬場の混雑による「待ちの時間」を否定的に捉える遺族ばかりではなく、むしろ肯定的に捉える遺族も少なくないという。「『コロナで会えず亡くなって初めてこんなに時間を一緒に過ごすことができた』『火葬まで待ったけどいい時間だった』と語る人も多い」(吉川氏)
吉川氏は亡くなった方と最後のお別れまでの時間と空間を大切に過ごすことが重要としている。
火葬場の混雑以外にも超高齢社会で問題視されていることがある。
それが単独世帯の増加だ。
あふれる無縁納骨堂
国立社会保障・人口問題研究所によると、一般世帯総数は2023年の5419万世帯をピークに減少に転じ、40年には5076万世帯になると推計。一方で65歳以上の単独世帯は増加を続ける見込みで40年には896万世帯に上るとみられる。
「単独世帯が増えてきた影響か、遺体や遺骨の引き取り手がいないケースや火葬した遺骨の受け取りを拒否されるケースが相次いでいる」(吉川氏)
吉川氏は数年前、神奈川県内の自治体が運営する無縁納骨堂の整理を行ったことがある。
1000以上あった遺骨は名前もわからない人から受け取りを拒否された人までさまざまだが、無縁納骨堂に収められる遺骨はここ数年で一気に増えてきたと指摘する。
収めきれなくなった遺骨が出てきたためにすべての遺骨を取り出してパウダー状にした上で、無縁納骨堂の一角に埋めたという。
吉川氏は背景に家族関係の希薄化があるといい、引き取り手のない遺体や遺骨の増加に悩んでいる自治体は相当数あると明かした。
戒名やコロナ対策費...葬儀を巡るトラブルは?
- コロナ禍に母を亡くしました。
コロナが原因ではないのに、コロナ対策費として20万円上乗せで請求されたのですが、内訳も法外なものでした。何の説明も受けておらず納得がいきません。
- 昨年父をコロナで亡くした際、病院から火葬場に移動するのに、現金で33万円必要と言われました。
- 父が亡くなって疲れ切っている私たちに葬儀社がプランを説明し、その場で契約を迫られました。悲しみに暮れる間もなく、高額な請求をされました。
- 3回施主を務めたが、一番大変だったのは戒名のお布施。
ごく一般的な位の戒名をお願いしたところ、80万円より下では難しいですと住職が黙り込み、一歩も譲らない状態になってしまいました。
国民生活センターによると、2022年度の葬儀サービスに関する相談件数は947件(前年比147件増)だった。「価格やサービス内容について十分な説明がない」「質素な葬儀を希望したのに高額な料金を請求された」などの相談が寄せられているという。
葬儀業者とのトラブル、なぜ起こる?
- 吉川氏
- すごく安い値段でできると広告でうたっていたのに、見積もりを取ってみたら全然違う。最初の段階でトラブルになって不信感が出てしまうのでしょう。
実際に葬儀ではさまざまな追加費用が発生するポイントは多い。
これらの価格に不透明さはないのだろうか?
- 吉川氏
- 1990年代、2000年代までは確かに不透明でしたが、インターネットの普及で誰でも情報を得たり見積もりを取りやすくなったり、イオンやJAなどなじみのある企業が葬儀サービスをはじめたりしたことで、不透明感は薄らいでいます。
業界としてはどうやったらわかりやすくなるかをすごく工夫しています。しかし、旅行のようにいくらでできるか、「そんなもんだよね」がないのでだまされたと感じる場面が出てしまうのかもしれません。
価格の透明性がある中で、費用が増してしまう要因は?
- 吉川氏
- 見積もりを取るときに葬儀社ではなく、葬儀仲介会社に依頼すると葬儀社が仲介会社に支払う仲介料が発生するため注意が必要です。葬儀社が仲介料の支払いで赤字になるケースもあるので、葬儀内容に追加で何か加えていく仕組みになっています。
葬儀社に直接依頼すると、要望に応じた価格設定をしやすいという事情もあります。
一方で、Yahoo!ニュースのコメント欄には葬儀を巡るトラブルだけではなく、葬儀によかったという思いを抱いているユーザーの声もあった。
- 以前、葬儀をしたときに金銭絡みでもめたことがあったが、母の葬儀の際、大変親身に取り組んでいただいて拍子抜けした。警戒していたのを恥ずかしく思った。
おかげで葬儀業者のイメージが変わりました。
- 父が亡くなったときに依頼した葬儀屋さんは、自分の親のときに苦労したから、他の人が少しでも安心して故人を送れるようにしたいという思いで始めた温かい人。だから知らない人の葬儀でも感情移入して涙を浮かべるけど、こらえて頑張っている。本当に感謝してもしきれない。
- 父の遺言通り、直葬で執り行った。費用も格安で、葬儀業者もとても親切に対応してくれた。
身内だけの小さなお葬式だったが、とても良かった。菩提(ぼだい)寺のご住職も「良かったですね」と言ってくれた。
コメントのような良い葬儀を行うにはどうしたらいいだろうか。吉川氏に聞いた。
納得のいく葬儀のためにできることは
Q.自分に合った葬儀社に出会うには?
- 吉川氏
- 地域の葬儀社が開催するイベントなどに参加して比較検討しましょう。
葬儀に「全国一律」はありません。慣習が異なるだけではなく、それぞれの地域で相場も異なります。葬儀社を探すときには、地域密着で活動している葬儀社に、直接相談することをおすすめします。
大手・中小といった葬儀社の規模は関係ないので、実際に相談するなどして事前に地域の実情を把握しておくと良いでしょう。
Q.生前にうまく見積もりをとるコツは?
- 吉川氏
- 参列者の人数を把握しておきましょう。
葬儀社では「直葬(火葬のみ)」「家族葬」「一般葬」といったプランがあり、費用も明確になっていますが、料理や返礼品など人数によって変わる変動費は含まれていません。
うまく見積もりをとるには、参列者の人数をできるだけ把握し、変動費も含めた総額を把握しておくことが大切です。
参列者数がわかれば、適切な会場を提案できますし、会場によって祭壇の大きさも変わってきます。合理的に試算できるというメリットもあります。
Q.病院で亡くなったとき、担当看護師から病院出入りの業者を紹介された。別の葬儀社に依頼することはできる?
- 吉川氏
- 別の葬儀社に依頼することはできます。
病院から紹介された葬儀社に必ず依頼しなければいけないわけではなく、選択権は遺族にあります。事前に決めていた葬儀社に依頼することもできますし、搬送と初期対応だけ病院紹介の葬儀社にお願いし、葬儀は別の葬儀社に依頼することも可能です。
「#老いる社会」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。2025年、国民の3人に1人が65歳以上、5人に1人が75歳以上となります。また、さまざまなインフラが老朽化し、仕組みが制度疲労を起こすなど、日本社会全体が「老い」に向かっています。生じる課題にどう立ち向かえばよいのか、解説や事例を通じ、ユーザーとともに考えます。
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