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企業の「脱・東京」は結局進むのか 課題や利点は何だった? 移転企業に聞いた

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働き方改革やコロナ禍により、転機を迎えている企業の東京一極集中。パソナグループやアミューズなど大手企業を中心に、本社機能の地方移転やオフィス面積の縮小といった動きが相次いでいる。一般的に、企業がオフィスを移転させる時期は、1〜3月、9〜12月の2つの時期に多く、8月は繁忙期前の準備期間とする企業もある。さらに、8月末にも内閣府がまとめる2022年度の税制改正要望に、「地方拠点強化税制」に関して期限の延長を盛り込む方向で調整が進んでおり、政府も企業誘致の後押しに前向きな姿勢をみせている。企業の「脱・東京」の決め手とは?東京離れはさらに進むことになるのか、課題と利点を探る。(監修:経営アドバイザー、経済アナリスト・中原圭介/デザイン&イラスト:曽我部花実/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)

東京から地方へ移転した主な企業

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東京から地方へ移転した主な企業(本社機能、経営機能の一部移転や本社の統合を含む)

ここ1年ほどの間に移転または移転予定の主な企業は上記のとおり。製造業やサービス業が多く、Yahoo!ニュースが行った取材では、Lbose(エルボーズ)は移転のきっかけについて、「創業時からリモートワーク中心で東京に拠点を置く必要性やメリットがなかった」と回答。また、自社醸造所のある山梨県小菅村に移転したFar Yeast Brewing(ファーイーストブルーイング)は、移転先の選定について、「最も重要な事業拠点である製造場に本社があることが自然と考えた」と回答した。

企業の転出は、過去10年で最多に

2020年に首都圏(東京・神奈川・千葉・埼玉)に転入した企業は、296社となり、3年ぶりに前年を下回った。一方で、転出は288社と過去10年で最多となった(帝国データバンク調べ)。経団連が昨年11月に発表した調査によると、東京に本社を置く433社のうち24社が移転を「現在、検討している」「今後検討する可能性がある」と回答(全体の5.0%。回答した企業の中では18.8%、「移転を実施中」も含めると22.7%になる)。これは5年前の2倍の数字だ。

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これまで首都圏からの移転は、大手企業を中心に、オフィス賃料など経営コストの削減や災害に備えた本社機能の分散・バックアップ拠点の確保、従業員のワーク・ライフ・バランスの実現を理由にする向きがあった。これに加えて2020年は、新型コロナウイルス感染拡大や緊急事態宣言の発出により、テレワークやWeb会議に切り替えるなど、勤務スタイルに変化が。2021年には11年ぶりに「転出超過」となる可能性も見えてきた。

移転企業に聞いた「脱・東京」の決め手は?

Q.1 転出を決めた理由は?

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移転企業に聞いた「脱・東京」 転出を決めた理由

Yahoo!ニュースが行った取材では、「新型コロナ」を主な移転要因としてあげた企業は、働く際に土地を選ばないIT系などの身軽な企業がみられた一方で、創業地に回帰したケースや、移転先が社長の出身地で縁や知見があったとする声も聞かれた。また、「スタートアップ企業なので、県庁などの企業誘致担当者に手続きなどをスピーディーにサポートすると提案いただき、移転を決めました」(Lbose)という意見もあり、企業規模や成り立ちによって移転要因が異なる結果に。

Q.2 地方移転での課題は?

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移転企業に聞いた「脱・東京」 地方移転での課題

移転の課題に関しては、街の中心エリアにおいて、良質な住宅供給が十分でない地方の現状が垣間見えたほか、「これまでの業務が属人化していて、これらを伝えるためのコミュニケーションコストも一時的に高くなっている」などの声もあがった。一方で、東京在住の社長については「コロナ禍で広島本社に来られない時期があったが、Zoom等の利用で大きな障壁はない」(森田薬品工業)というポジティブな反応も見られた。

Q.3 働き手の声は?

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移転企業に聞いた「脱・東京」 働き手の声

働き手の声からは、緑豊かなロケーションに恵まれた生活により、ワーケーション感覚で他地域のメンバーが遊びに来る機会が増えたと、従業員のリフレッシュにつながるなどの利点が見えた。一方で、「交通の便が悪く車通勤が多い。さらに、近隣に飲食店が少ない」(Far Yeast Brewing)という嘆きも。このほか、「地方拠点の開設を考えている企業の相談に乗ることも増えている」と移転の取り組みを後押しする動きも見受けられた。

企業目線では、オフィス賃料や従業員の手当など経営コストが下げられること、地域貢献やブランドイメージの向上につながる利点が。従業員目線では、生活コストが安く抑えられる、通勤面での負担が減り、生産性の向上につながるなどの利点が見えた。一方で、移転費用の問題や、顧客・取引先など既存の社外コネクションの維持が困難になる場合もあり、移転の向き不向きは業種によるところが大きいのも課題か。

自治体も企業誘致に積極的

代表例
長野県/東京23区から本社機能を移転した企業の法人事業税を3年間課税免除、不動産取得税と固定資産税の課税免除または減額措置を設けるなど、全国トップレベルの減税制度を用意し、積極的な誘致をしている。

福岡県福岡市/「2024天神未来創造 天神ビッグバン」「博多コネクティッド」と称した民間再開発促進事業を進めている。前者では、2024年までに30棟の民間ビルを建て替え、新たな空間と雇用の創出を目指している。これまでにメルカリ、LINEなどを誘致。

自治体の動き以外にも、6月に政府が打ち出した「まち・ひと・しごと創生基本方針2021」は、①企業のサテライトオフィス誘致などテレワーク推進に取り組む自治体を2024年度末までに1000に増やす ②地方移住への関心の高まりを受け、テレワークを通じた「転職なき移住」の環境を整備 ③行政デジタル化や太陽光、水力など地域資源を生かした脱炭素化の重点施策......などを盛り込んでいる。政府・企業・地方自治体が一体となって地方創生を実現しようという狙いだ。

「脱・東京」で生まれる、従業員・企業・自治体の好循環

企業の地方移転の展望と見えてきた課題について、経営アドバイザーの中原圭介さんに聞いた。

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「アセットベストパートナーズ株式会社」経営アドバイザー・経済アナリスト。「総合科学研究機構」の特任研究員、「ファイナンシャルアカデミー」の講師も兼ねる。大手企業・金融機関・シンクタンクなどへの助言・提案を行う傍ら、執筆・セミナーなどで経営教育・経済金融教育の普及に努めている。

ハイテク企業などを中心に増えていく地方移転

これまでは、大企業が創業地や研究拠点のあったところに本社機能を移すという動きだったのが、ここ数年は、スタートアップ企業やベンチャー企業が拠点を移すケースが増えていました。そしてコロナ以降、今までの企業文化やビジネスモデルではやっていけないことに企業経営者たちは気づき、本気で考えだしました。本社の面積の縮小など経営コストの削減やサテライトオフィスの充実、テレワークの推進が三位一体となって、地方移転へと進んでいっています。

地方移転により、従業員は"痛勤"から解放され、自然環境に触れることで感性が豊かになり、創造性を高められる。それは生産性の向上にもつながります。また、自治体においても少子高齢化に歯止めがかかり、地方活性化へとつながっていくでしょう。

地方移転が適さない企業ももちろんありますが、今後は、ハイテク企業やジョブ型雇用※を導入する企業を中心に移転は増えていくと思います。ジョブ型雇用は、働く時間や場所などを選ばずに柔軟な働き方ができるので、優秀な人材が集まってきます。そうすれば企業も成長し、好循環が生まれるでしょう。
企業の経営者は、従業員の負担を軽減し、仕事にも生活にも幸せを感じる人々を増やす努力と実践をしてほしい。そうすれば、世界と渡り合える日本企業が増えてくるのではないでしょうか。
※ジョブ型雇用とは、職務内容を明確に定義し、労働時間ではなく成果で評価する雇用制度

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