皮膚のバリアー機能が低下し、強いかゆみをともなうアトピー性皮膚炎。特に湿度が低下する冬は、肌も乾燥し、症状が悪化することも。アトピー性皮膚炎を持つ人にとってつらい季節ともいえる。
また、かゆみが睡眠を妨げたり、集中力が低下して学習にも影響を及ぼしたりすることもあるという(※1)。Yahoo!ニュースのコメント欄で、アトピーにまつわる体験を集めたところ、アトピーへの理解を求める声や課題が浮き彫りになった。そもそもアトピーはなぜ発症するのか。どうやって治療すればいいのか。アトピーの仕組み、そして治療のいまについて専門家に聞いた。(Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部/監修:堀向健太)
- アトピーの原因は「絡み合う3つの要素」
- 治療の基本は「3本柱」
- ステロイド外用薬は最初の治療として重要な選択だが、新しい治療法・薬も
コメント欄に届いた患者本人や家族の声は?
「【みんなで考えよう】アトピーにまつわる課題や、理解を深めてほしいことはありますか?」(2023年10月27日〜11月8日のコメント、計414件をもとに構成)のコメント欄には、アトピー患者本人や家族などから切実な声が寄せられた。
アトピー性皮膚炎について集まったみんなの声
アトピー性皮膚炎は、見た目やかゆみが悪化し、そして睡眠を妨げるなど日常生活に影響していることが見て取れる。「職場で暖房がつくこの季節は、乾燥と相まって体が中途半端に温まり、猛烈にかゆくなる」という声も。
一方で、新しい治療への期待、実際に改善している人からの前向きなコメントも寄せられた。
みんなはどんな対処法をしている?
ほかに「新薬のニュースは涙が出るほどうれしかった」という声や、「治療に踏み切り、快方に向かっているが、決して安い治療費ではない」「治療には、時間・費用・エネルギーなど、どれだけ使うかわかってほしい」との声もあった。
もちろん、アトピー性皮膚炎は、皮膚の病気の中でも負担感が高い病気である(※2)。
痛みやかゆみはなかなか理解されづらいため、当事者でないと気づきづらい。一方で、改善の道を開くために治療が進歩していることも、みんなで知っていく必要がある。
アトピー性皮膚炎とはどんな病気なのか
アトピー性皮膚炎の患者数は、2008年の約35万人と比較し、2017年では約51万人と報告され、増加している(※3)。
一方で、アトピー性皮膚炎の治療法は、近年進歩が著しいという。小児科、アレルギー科を専門とする堀向健太医師にアトピー性皮膚炎の仕組みと最新の治療について聞いた。
- 堀向先生
- もともと「アトピー」という用語は、「奇妙な」という意味のギリシャ語に由来します。昔は、アトピーのことを十分理解する手法がなかったために、そのような言葉がついたのですね。そして現在では、「アトピー」とは、アレルゲン、すなわちダニや食物などにアレルギーになりやすい遺伝的な体質や、アレルギーに関係する病気を持っていることを指すようになっています(※4)。
日本では、アトピー性皮膚炎を「アトピー」と略されることが多く混同しやすいので、そこには注意が必要です。
次第にわかってきたアトピー性皮膚炎のメカニズム
- 堀向先生
- アトピー性皮膚炎は近年、メカニズムがどんどんわかってきています。
そして、「皮膚のバリアー機能が低い体質」「皮膚の炎症を起こしやすい体質」の人がアトピー性皮膚炎を発症、悪化しやすいと考えられるようになりました。
特に、皮膚のバリアー機能が低いという体質は、発症したり、悪化したりする最初のきっかけになりやすいことがわかっています(※5)。
そして皮膚に湿疹が生じると、「炎症」という、もともと人間に備わっている生体反応が引き起こされます。炎症は、さまざまな情報伝達物質をつくることで、皮膚のバリアー機能をさらに下げるのです(※6)。さらには、その情報伝達物質はアレルギー体質を引き起こし、かゆみもひどくしていきます(※7)。
3つの要因が回り始めて悪化する症状
- 堀向先生
- このようなメカニズムがわかってきたことから、近年、アトピー性皮膚炎の発症に対しては、「三位一体説」という考え方が提案されています。
すなわち、1)バリアー機能異常、2)免疫システムの破綻、それから3)かゆみ、これら3つがそれぞれを刺激して、さらに悪化していくという考え方です(※8)。
- 堀向先生
- 1)バリアー機能異常というのは、皮膚が繰り返し刺激を受け、もともと乾燥しやすい体質である皮膚が、体の外からの刺激を受けやすくなった状態をいいます。
2)そして、皮膚のバリアー機能が下がったり、炎症が起こったりすると、体内あるいは皮膚からアレルギーを悪化させる情報伝達物質(サイトカイン)がたくさん出てきて、皮膚のバリアー機能はさらに下がり、かゆみが悪化します。
3)さらには、皮膚を引っかいて、皮膚のバリアー機能がさらに低くなっていきます。このように、3つの要因が回り始めてアトピー性皮膚炎は悪化していくのです。
治療に大切な「3本柱」
- 堀向先生
- アトピー性皮膚炎は、人によりさまざまなルートをたどることがわかっています。
そのなかで最も多いと考えられているのが、小さい頃に発症して成長とともに症状は改善されるルートです(※9)。
しかし、大人側からみると、小さいときに発症して大人まで持ち越している人が、やはり最も多いという研究結果もあります(※10)。
もちろん、大人になってから発症したり再発したりする人もいますし、悪化するメカニズムも人によって偏りがあります。そのため、必ずしも同じ手法で効果があるとは限りません。
新たな薬の実用化などで治療が大きくアップデート
- 堀向先生
- しかし近年、アトピー性皮膚炎のメカニズムが明らかになるにつれ、悪化に強く関係する重要な情報伝達物質(サイトカイン)がどれなのかがわかってきました。その情報伝達物質を直接ブロックするような薬も実用化され、大きく治療がアップデートされてきていることが大事な点です。
とはいえ、アトピー性皮膚炎の発症や悪化するメカニズム「三位一体説」に対応できるような「治療の3本柱」が、以前から提案されています。
- 堀向先生
- 最初に重要なのが、スキンケアです。
皮膚についた刺激を減らし、皮膚バリアーを補強するための保湿剤を塗る、ということです。
しかし、アレルギーを悪化させる情報伝達物質が作られ始めると、スキンケアだけで悪化のサイクルを止めることが難しくなります。
そこで必要になるのがアレルギーを悪化させる情報伝達物質を減らすための薬物治療です。
あくまで例えですけれども、時速100kmで走っているトラックを止めるのと、時速10kmで走り始めた自転車を止める労力は、同じではありません。皮膚の炎症が悪化すると、アトピー体質(アレルギー体質)がどんどん進み、放っておいても走り出してしまうような体質になっていきます。そう考えると、早めの治療が重要であることは、確かですし、丁寧にブレーキを踏むことも必要になってくるのです。
薬物治療の方法も常に進歩
- 堀向先生
- これまで広く使用されてきた薬物治療がステロイド外用薬です。
しかし、1970年代に市販薬としても使用されるようになったステロイド外用薬は、長期間同じ場所に塗ることで副作用を起こす方が多くなり、問題となりました。そして1990年代にはステロイドを強く避けようとされる方が増える時期があり、2000年頃からガイドラインが作られ、ステロイド外用薬の副作用を減らしながら効果を発揮できるような治療方法も進歩してきたのです。
- 堀向先生
- 例えば、症状が出たときに治療する「リアクティブ療法」に対し、症状の出る前から予防的に治療する「プロアクティブ療法」が発案されました。
ステロイド外用薬は、長く塗り続けることで、その塗り続けた皮膚のバリアー機能をかえって悪化させたりするなどの副作用が起こることは確かです。その副作用を軽減するための治療法が「プロアクティブ療法」です。しかし、それでもステロイド外用薬の副作用をより小さくするためには、皮膚のバリアー機能を補強するためのスキンケア、皮膚への刺激を減らすための悪化要因を減らすこともまた重要なのです。
そして、近年になって、ステロイドと異なるメカニズムで働く、皮膚のバリアー機能を守りながらアレルギーを悪化させる情報伝達物質を効果的に減らす薬剤が次々と使用できるようになってきました。
スキンケアで皮膚の乾燥を防ぐ重要性は?
- 堀向先生
- 薬物療法と並行して行うのがスキンケアです。
アトピー性皮膚炎を発症しやすい子どもは、生まれたときから乾燥しやすい体質を持っていることが多いことがわかっています(※11)。
しかし、生まれつきの皮膚のバリアー機能が低くても、保湿剤を毎日塗ると、発症リスクが下げられる可能性があります(※12)。スキンケアは保湿剤を1日2回、たっぷり塗るのが基本です。
アレルギー体質を加速させる環境要因にも注意
- 堀向先生
- そして、ハウスダストなどの環境要因を減らすことも重要です。ハウスダストに含まれるダニなどが要因のアレルギー体質になると、さらにアレルギー体質が加速する可能性が高くなります(※13)。
そして、アレルギーを悪化させる情報伝達物質は、皮膚のバリアー機能をさらに下げて、さまざまなアレルギーの病気、すなわち、ぜんそく、食物アレルギーも引き起こす可能性が高くなります(※14)。
大事なのはアトピー性皮膚炎の根本にある3つの要因(バリアー機能異常、免疫システムの破綻、かゆみ)の悪循環をどこかで断ち切ることです。ステロイド外用薬の副作用を減らすためのプロアクティブ療法、皮膚のバリアー機能を守りながら、悪化に関係する情報伝達物質を減らす新しい薬。そして、安定を目指すには、適切な保湿剤などの定期的なスキンケアは欠かせません。
これって誤解!? 正しく知っておきたいアトピーQ&A
Q.1 アトピーはうつりますか?
堀向先生:糖尿病が感染しないのと同様に、アトピーも人から人には感染しません。
しかし、糖尿病の家系、がんになりやすい家系などがあるように、親御さんがアトピー性皮膚炎を持っている場合、子どもがアトピー性皮膚炎を発症する確率は高くなります。
バリアー機能が低く皮膚が乾燥しやすい体質、情報伝達物質を作りやすくアレルギーを悪化させやすい体質は遺伝の面もあるのです(※15)。
ただし、遺伝というと、親からすべての因子をもらうと思いがちですが、そういうわけではありません。先ほどの糖尿病を例にとると、生活習慣が影響しやすい2型糖尿病の方がご家族にいらしても、普段から運動して食生活に気をつけている人は、発症する可能性が低くなります。アトピー性皮膚炎も、皮膚バリアー機能が低い体質を持っていても発症しない人はたくさんいるのです。
Q.2 アトピーが発育に影響しますか?
堀向先生:アトピー性皮膚炎は、皮膚の見た目やかゆみにより、大きな負担を感じるということがわかっています。
かゆみが睡眠を妨げたり、あるいは集中力が低下し、学習に悪い影響を及ぼしたりすることもありますし、重症になったアトピー性皮膚炎は、成長にも関係するという研究結果もあるのです(※16)。
そして、アトピー性皮膚炎が大きくなるまで持ち越すのは、小さいときにすごく重症になった方のほうが多いという研究結果もあります(※17)。
アトピー性皮膚炎が発症したばかりの時期から丁寧に治療を行うと、食物アレルギーの発症リスクが下がるという日本からの研究結果も発表されています(※18)。
ですので、幼児期に病院で診断を受け、定期的かつ適切な治療を受けることが望まれます。
Q.3 アトピーは治らないものですか?
堀向先生:アトピー性皮膚炎の炎症がひどくなっているというのは、勝手にスピードが上がってしまう自動車が時速100kmで暴走しているようなものです。しかし、暴走した自動車のスピードを減速させるための方法も、走りやすくなった自動車を安全に停車させるための道具も増えています。一方で、近視の方がメガネという道具を使ったら、体質が変わって目がよくなるわけではありませんよね。乾燥しやすくなった体質そのものを治すことは難しいのです。
ですので、普段からスキンケアをして、ブレーキを踏んでおくことも大事なのです。
暴走するまでになった車をなんとか減速するような、アトピー性皮膚炎を悪化させる鍵となる情報伝達物質を、強力にブロックする薬も開発され実用化されています。
飲むタイプのJAK阻害薬、注射タイプの生物学的製剤がそれらにあたります。これらは、アトピー性皮膚炎の全員に使う必要のある薬ではありませんが、「炎症」「かゆみ」「バリアー機能低下」のすべてに対する効果が期待できます。
課題は薬価です。成人では1カ月で12万~15万円程度の薬価がかかり、3割自己負担の場合でもかなりの出費が必要です。
新しい外用薬、塗るタイプのJAK阻害薬(デルゴシチニブ)、塗るタイプのPDE4阻害薬(ジファミラスト)も、子どもで使用できるようになりました。飲むタイプのJAK阻害薬、注射タイプの生物学的製剤ほど強力ではない代わりに、走り始めやすい車を、より穏やかに安全に止められるような治療といえるでしょう。
- 堀向先生
- ただし、アトピー性皮膚炎は、症状の程度、症状の長さ、年齢、さまざまな方がいらっしゃることは、最初に申し上げたとおりです。誰にでも同じ治療というのではなく、患者さんに応じて変更しながら進めていくものです。医師としっかり話し合い、治療方針を決めていきましょう。
「#病とともに」はYahoo!ニュースがユーザーと考えたい社会課題「ホットイシュー」の一つです。人生100年時代となり、病気とともに人生を歩んでいくことが、より身近になりつつあります。また、これまで知られていなかったつらさへの理解が広がるなど、病を巡る環境や価値観は日々変化しています。体験談や解説などを発信することで、前向きに日々を過ごしていくためのヒントを、ユーザーとともに考えます。
<出典>
(※1)Ramirez FD, Chen S, Langan SM, Prather AA, McCulloch CE, Kidd SA, et al. Association of Atopic Dermatitis With Sleep Quality in Children. JAMA Pediatr 2019; 173:e190025.
Wan J, Mitra N, Hooper SR, Hoffstad OJ, Margolis DJ. Association of Atopic Dermatitis Severity With Learning Disability in Children. JAMA dermatology 2021.
(※2)Laughter MR, et al. The global burden of atopic dermatitis: lessons from the Global Burden of Disease Study 1990-2017*. British Journal of Dermatology 2021; 184:304-9.
(※3)令和2年 患者調査 傷病分類編(傷病別年次推移表)(2023年11月11日時点)https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/kanja/10syoubyo/
(※4)Kay AB. Allergy and Allergic Diseases. New England Journal of Medicine 2001; 344:30-7.
(※5)Kim BE, Leung DYM. Significance of Skin Barrier Dysfunction in Atopic Dermatitis. Allergy, Asthma & Immunology Research 2018; 10:207-15.
(※6)Howell MD, Kim BE, Gao P, Grant AV, Boguniewicz M, Debenedetto A, et al. Cytokine modulation of atopic dermatitis filaggrin skin expression. The Journal of allergy and clinical immunology 2009; 124 3 Suppl 2:R7-R12.
(※7)Kasutani K, Fujii E, Ohyama S, Adachi H, Hasegawa M, Kitamura H, et al. Anti‐IL‐31 receptor antibody is shown to be a potential therapeutic option for treating itch and dermatitis in mice. British Journal of Pharmacology 2014; 171.
(※8)Kabashima K. New concept of the pathogenesis of atopic dermatitis: interplay among the barrier, allergy, and pruritus as a trinity. J Dermatol Sci 2013; 70:3-11.
(※9)Bieber T, D'Erme AM, Akdis CA, Traidl-Hoffmann C, Lauener R, Schäppi G, et al. Clinical phenotypes and endophenotypes of atopic dermatitis: Where are we, and where should we go? J Allergy Clin Immunol 2017; 139:S58-s64.
(※10)Garmhausen D, et al. Characterization of different courses of atopic dermatitis in adolescent and adult patients. Allergy 2013; 68:498-506.
(※11)Berents TL, Lødrup Carlsen KC, Mowinckel P, Skjerven HO, Rolfsjord LB, Bradley M, et al. Transepidermal water loss in infancy associated with atopic eczema at 2 years of age: a population-based cohort study. Br J Dermatol 2017; 177:e35-e7.
(※12)Horimukai K, et al. Transepidermal water loss measurement during infancy can predict the subsequent development of atopic dermatitis regardless of filaggrin mutations. Allergology International 2016; 65:103-8.
(※13)Posa D, Perna S, Resch Y, Lupinek C, Panetta V, Hofmaier S, et al. Evolution and predictive value of IgE responses toward a comprehensive panel of house dust mite allergens during the first 2 decades of life. Journal of Allergy and Clinical Immunology 2017; 139:541-9.e8.
(※14)Amat F, et al. New insights into the phenotypes of atopic dermatitis linked with allergies and asthma in children: An overview. Clinical & Experimental Allergy 2018; 48:919-34.
(※15)Paternoster L, Standl M, Waage J, Baurecht H, Hotze M, Strachan DP, et al. Multi-ancestry genome-wide association study of 21,000 cases and 95,000 controls identifies new risk loci for atopic dermatitis. Nat Genet 2015; 47:1449-56.
(※16)Ramirez FD, Chen S, Langan SM, Prather AA, McCulloch CE, Kidd SA, et al. Association of Atopic Dermatitis With Sleep Quality in Children. JAMA Pediatr 2019; 173:e190025.
Wan J, Mitra N, Hooper SR, Hoffstad OJ, Margolis DJ. Association of Atopic Dermatitis Severity With Learning Disability in Children. JAMA dermatology 2021.
Beck C, et al. Persistent food allergy and food allergy coexistent with eczema is associated with reduced growth in the first 4 years of life. The Journal of Allergy and Clinical Immunology: In Practice 2016; 4:248-56. e3.
(※17)Thorsteinsdottir S, Stokholm J, Thyssen JP, Nørgaard S, Thorsen J, Chawes BL, et al. Genetic, Clinical, and Environmental Factors Associated With Persistent Atopic Dermatitis in Childhood. JAMA Dermatol 2019; 155:50-7.
(※18)Yamamoto-Hanada K, Kobayashi T, Mikami M, Williams HC, Saito H, Saito-Abe M, et al. Enhanced early skin treatment for atopic dermatitis in infants reduces food allergy. Journal of Allergy and Clinical Immunology 2023; 152:126-35.
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