見解ここ数ヵ月、フランスではこのマザンでの事件の報道が連日なされている。中年男性が妻を薬物で意識朦朧とさせ、好きに性行為させると喧伝した所、下はティーンエイジャーから上は老人までがそれに応募してきたというから、なんとも不気味な事件である。村社会の閉鎖的な意識、男尊女卑、ネット社会の特性、集団妄想など、様々な問題が背景に隠れている。全容はまだわからないままだ。 ただ夫は妻のことを愛していた証言している。彼自身、幼い頃にやはり性暴力の被害にあっており、その抑圧経験が何等かの形で転移されたとする見方も有力だ。被害者への暴力は形を変えて別の被害者へと押し付けられることになる。ではいかに被害者をそもそも生まないようにするのか―それが事件の最大の教訓であるように思われる。
コメンテータープロフィール
専門は比較政治、欧州政治。東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了(学術博士)。日本貿易振興機構(JETRO)パリ・センター、パリ政治学院招聘教授、ニューヨーク大学客員研究員、北海道大学法学研究科教授等を得て現職。フランス国立社会科学高等研究院リサーチ・アソシエイト、シノドス国際社会動向研究所理事。著書に『アフター・リベラル』(講談社現代新書)、『ポピュリズムを考える』(ちくま新書)、『感情の政治学』(講談社メチエ)『ミッテラン社会党の転換』(法政大学出版局)、編著に『ヨーロッパ統合とフランス』(法律文化社)、『現代政治のリーダーシップ』(岩波書店) など。