Professional2018.06.22

【「新聞研究」に寄稿しました】ネットでの記事掲載責任の所在――Yahoo!ニュースの編集方針と訂正対応

日本新聞協会が発行する月刊誌「新聞研究」の2018年6月号に、メディアカンパニー編成・制作本部編集1部部長の苅田伸宏が寄稿しました。今年3月に掲載した「おわびと訂正(米海兵隊員の日本人救出報道について)」から、おわび訂正の方針やYahoo!ニュースの掲載責任についての考えを記載しています。寄稿した記事をnews HACKにも掲載します。

ネットでの記事掲載責任の所在――Yahoo!ニュースの編集方針と訂正対応

Yahoo!ニュースに配信された記事について、配信元の産経新聞社が今年2月、記事中の事実が確認できなかったとして記事を削除すると発表、おわびした。これを受けて3月、Yahoo!ニュースとしてユーザーに記事を提供した責任があるとして「おわびと訂正」を出した。

実際に掲出したおわびと訂正

産経新聞社がおわびを出したのは「危険顧みず日本人救出し意識不明の米海兵隊員 元米軍属判決の陰で勇敢な行動スルー」という見出しの記事について。昨年12月に沖縄県沖縄市で発生した車6台の多重事故に関して、米海兵隊員が日本人を救助したとする報道だった。救助後に後続車両にはねられ重体に陥ったと報じ、琉球新報・沖縄タイムスの地元2紙がこの行動を報じていないと批判した。

その後、琉球新報が救助を否定する米軍のコメントを報じたのを受け、再取材したところ、米海兵隊から「実際に救出活動を行ったということは確認できなかった」との回答を得たという。同社は「記事は取材が不十分」として削除するとともに、沖縄2紙の報道姿勢を批判した記述に「行き過ぎた表現があった」としておわびした。

おわび訂正記事を掲載

Yahoo!ニュースでは約300社450媒体から1日におよそ4千本の配信記事をお預かりしている。このうち主要な100本程度を「トピックス」で掲出してトップページに出し、多くのユーザーに届けている。近年は一部オリジナルコンテンツを制作しているが、ストレートニュースを自分たちで書くことはなく、あくまで配信記事を紹介するのが基本だ。

ただ、自分たちで書いたかどうかに関係なく、私たちのサービスを通じて間違いを含んだ記事に接したユーザーがいることは確かだ。私たちはコンテンツを提供したことに責任があると認識しており、対外的にもそのように説明してきた。産経新聞社からの発表を受けて、私たちとしてもユーザーに報告する必要があると判断して、事実関係に間違いのある記事を提供したことをおわびした。

おわび訂正記事は「おわびと訂正(米海兵隊員の日本人救出報道について)」という見出し。まず産経新聞社が記事削除を発表しておわびしたことを説明して、同社サイトのおわびと検証記事にリンクを貼った。そのうえで、同社の米兵救出報道で2本の記事配信があったことを書き、それぞれの見出しと配信日時を添えた。このうち1本にYahoo!ニュースの編集者が「日本人救出で重体 米兵に祈り」という見出しをつけてトピックスに掲出し、トップページに出したことを書いた。
また、この記事を巡って各社から続報が出ており、トピックスでは4本を掲出したことを説明した。以下の4本だ。

1.「米兵が救助した」という事実関係を米軍が否定した
2.産経新聞社がおわびを出した
3.産経のおわびに対して批判された沖縄2紙がコメントを出した
4.今回の問題の背景を深掘りした解説

フェイクニュースの問題や医療情報を巡るWELQの問題が起き、ネットのコンテンツの信頼性や質に関する世の中の問題意識が高まっている。今後もユーザーに信頼してもらえるサービスづくりをしていくために、多くのパートナーと契約して配信記事をお預かりする「アグリゲーション」という特性を踏まえてするべきことは何か日々議論を重ねている。配信記事に間違いがあると後でわかった場合にパートナーとの信頼関係を大事にしながらどうユーザーに報告すべきか、自社で制作していない記事について何に責任を取り、どんな表現でおわびをするのかについても検討してきた。
以下でまず編集部の体制や編集方針を説明したうえで、社内で検討したポイントなどを整理してみたい。

トピックスの編集方針と体制

編集部は約25人。1日約4千本の配信記事から価値判断してトピックスとして掲出する主要な記事を検討し、理解を助ける補足情報を付与する編集作業が主な業務だ。新聞社や出版社、テレビ局などで取材や編集の経験を積んだ中途入社と、新卒入社の社員がおり、4交代制で24時間365日の更新体制を敷く。災害時にもサービスを継続できるように東京・大阪・福岡の3拠点に分かれて勤務している。編集とエンジニア、デザイナー、企画などさまざまな職種の約160人でニュースサービスを支える。

トピックスにどんな記事を掲出するかを検討する際には「公共性」「社会的関心」を大きな柱としている。「公共性」と呼んでいるのは政治や経済など社会に伝えるべき重要度の高いニュース、「社会的関心」と規定しているのはスポーツやエンタメのように多くの人々の関心を集めるニュースのこと。「社会的関心」に応えて多くのユーザーに日々使ってもらえる場を作りつつ、「公共性」の高いニュースを広く届けるという考え方を基本的な編集方針にしている。

トピックスで紹介する記事には13文字で見出しをつけ、その記事の理解を助ける関連リンクを付与する。関連リンクには過去記事や用語解説、動画などを添えて情報パッケージとしてまとめる。最後に別の編集者が校正をして、見出しに事実誤認がないか、国語的な間違いがないかなどをチェックして掲出する。

アグリゲーションの特性

多くのパートナーと契約して配信記事をお預かりする「アグリゲーション」という特性を踏まえると、どの媒体と記事配信の契約をするかが基礎になる。ネット上の情報を何でも持ち込んでシェアできるSNSとは異なり、パートナーとYahoo!ニュースで作るモデルは健全な情報環境を保つのに適した仕組みだと考えている。契約した媒体の記事しか配信されないので、根拠のないフェイクニュースのように問題のある記事が入りにくい。

新たな媒体と契約する前に、実績や取材体制をヒアリングしたり、記事に目を通すなどの審査をする。大手の紙媒体が立ち上げたネットメディアであれば実績十分で信頼度も高い。新興ネットメディアには紙媒体などで経験を積んだ人材が立ち上げる媒体がある一方で、しっかりとした取材体制がなかったり、立ち上げたばかりで実績に乏しいケースなどがある。特に医療健康関係の記事で誤解を招くとユーザーの不利益に直結するため、厳格に審査する。

審査した媒体のうち契約に至るのは3割程度だ。契約する場合も、媒体ごとの得意分野を踏まえて配信するカテゴリーを決めている。例えば野球専門の媒体はスポーツのカテゴリーに配信いただくが、政治や経済のカテゴリーには配信しない取り決めをする。

契約後は媒体との信頼関係のもと、媒体から配信された記事がそのままユーザーに提供される仕組みだ。配信前に事前チェックはしていない。そのようにして1日に計約4千本の記事が配信されており、その中からYahoo!ニュースの編集者がトピックスに掲出する記事を検討する。トップページの目立つ場所にトピックスを掲出するので多くのユーザーの目に触れやすくなるが、トピックスに掲出されていなくても媒体が配信した時点で、Yahoo!ニュース内を探せば記事を閲覧することが可能な状態になっている。

パートナーから預かっている1日あたり4千本の配信記事にはできるだけ目を通すようにしている。記事に問題がありそうなら媒体に伝える。確認取材をしなくても読めばわかる明らかな間違いを含んでいたり、見出しと内容に落差があるのに多くのページビューを稼いでしまっている記事などが対象だ。目を通すと言ってもチェックするような意図はない。多数のコンテンツをお預かりするアグリゲーションサービスとして、ユーザーにコンテンツを提供するのにふさわしい場になっているか確認するのが趣旨だ。

「媒体は対等な関係性のパートナーであり、パートナーの編集方針を尊重するのが原則」と考えているため、配信記事について確認取材で裏を取るような取り組みはしていない。問題のある記事があっても一方的に削除することはせず、まずコミュニケーションをとって課題意識を共有する。媒体の判断を待つ形になるが、ほとんどのケースでお伝えした課題意識を理解していただけている。問題のある記事の配信頻度が多い媒体がもしあれば、契約解除や契約更新の見送りなどを検討する。

どのような場合におわびを出すか

以上の特性を踏まえて、どのような場合にYahoo!ニュースとしておわび訂正を出すかを社内で議論し、条件を整理してきた。大きく分けて、配信記事に間違いがあった場合と、Yahoo!ニュースの編集者に原因があって間違いが起きた場合の2種類がある。

後者で重大度の高いものについておわび訂正を出したケースはすでにあった。ある食品会社の商品回収について伝える記事でトピックスを作成した際、回収対象商品ではない商品の画像を付与してしまってクレームを受けたことがある。責任者が謝罪したうえでおわび訂正を出した。内容と異なる見出しをつけてしまい、事実誤認を招くと判断して「おわびと訂正」を出したこともあった。

今後も事件事故など人の名誉にかかわるニュース、企業や団体を批判する記事や不祥事などにおいて、Yahoo!ニュースの編集部でつけた13文字見出しに誤りがあったり、重大な事実誤認を招いてしまったようなケースについてはおわび訂正の対象にしていくことになるだろう。

一方で、媒体側に間違いがあったとき、どのような場合にYahoo!ニュースとしておわび訂正を出すかを検討すると、記事を書いた媒体自身が間違いを認めて発表している場合が対象になると考えている。
今回のおわび訂正の対象となった産経新聞社の記事については、読んだだけでは間違いを含む記事かどうか分からない。また今回の件に限らず、記事中で批判された相手方が反論したり、ネット上で「この記事は間違っているのではないか」と指摘されるケースはある。しかし当然ながら、反論や指摘があるからといってそれだけで間違いとは言えない。事実関係の確認が必要だ。

記事を書いた媒体が間違いを認めて発表しており、配信記事をYahoo!ニュースの編集者がトピックスに掲出して多くのユーザーの目に触れているケースにおいて、Yahoo!ニュースとしておわび訂正を検討することにした。
この方針を検討していた今年1~2月、時期を同じくして今回の記事について産経新聞社が謝罪する展開になった。方針を決めたころには同社がおわび訂正を出してから1カ月ほどたっていて「今からだと遅い」という意見も社内にあった。ただ、ユーザーに提供した情報に間違いがあった場合、Yahoo!ニュースとして責任はあることを対外的に説明してきており、今回の内容を吟味して、少し遅くなってもおわび訂正を出すことにした。
なお、沖縄2紙の担当者には直接お会いして、おわび訂正を出した経緯をご説明した。

今後の課題

今回のおわび訂正について新聞社から取材を受けた際に「以前はあくまでプラットフォームであり配信されるニュースに対して責任は持たない、というようなスタンスであったと思うが、方向転換をしたのか」という質問をいただいた。これまで社内で一貫して責任の在り方を議論し、実際におわびを出すなどの対応をしてきた。講演や取材に対して掲載責任があると説明を続けていて、今回の対応もその同一線上にある。特段の方向転換はしていない。

おわび訂正の方針を整理できたが、課題はまだある。例えば、おわび訂正が出されたケースに自分たちで気づけるように努めていて、主なものは把握できるが、網羅的に把握できるような仕組みができているわけではない。

ネットに合ったおわび訂正の在り方についても工夫の余地がある。紙の場合には一度印刷したら直せないが、ネットは修正ができる。間違いがあったのに直して上書きしてしまえば分からなくなってしまうが、中には記事に誤りがあったことを見出しや記事末尾に追記して、何をどう変えたかを明示する媒体もある。ユーザーが記事をもう一度見てみたら、訂正が明示されたうえで説明が追記され、修正が施されていたほうが分かりやすいのは確かだ。

媒体ごとに考え方は異なるが、多くの媒体と作るアグリゲーションサービスとして、ネットに合ったおわび訂正の在り方を一緒に議論しながら考えていくことができたらと思っている。(「新聞研究」2018年6月号)

かりた・のぶひろ=1977年生まれ。2001年毎日新聞社入社。盛岡支局、東京社会部、大阪社会部で計12年半勤務。13年ヤフー入社。17年から現職。

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