「原則、在宅ワーク」導入のヤフー、職場はどう変わった? 取材チームの試行錯誤
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言が出されてから半年以上が経ちました。ヤフーでは全社的に原則在宅での勤務を導入し、95%の従業員が在宅勤務で業務に従事。社内外の会議や研修などをオンラインで実施しています。
今回話を聞いたYahoo!ニュース 特集編集部は、2015年にスタートした、ヤフー独自の取材記事を制作するチームです。これまで当たり前だった対面での取材や編集作業をリモートに切り替えることは数々の困難を生んだ一方で、オンライン取材ならではのメリットに気づくこともあったといいます。同編集部が経験したリモートワークの課題、試行錯誤の末生み出した「オンライン取材のヒント」、今後の展望を、Yahoo!ニュース 特集編集部の安藤智彦さんに伺います。
Yahoo!ニュース 特集とは
2015年にスタートしたYahoo!ニュース 特集は、幅広い分野で、速報性より詳報性を重視したオリジナルの取材記事やインタビューを制作しています。編集部には、現在10人ほどのメンバーが所属し、埋もれがちな社会的課題を掘り下げる「イシューPJ」、エンタメ記事を中心に企画する「ターゲットコンテンツPJ」の二種類のプロジェクトで編集会議を行い、月に平均20本ほどの記事を配信しています。
Yahoo!ニュース 特集は、これまでに、新型コロナウイルスの感染拡大を受けた休校が続くなか、増加した中高生の妊娠相談に焦点を当てたインタビュー記事やタイ野菜の栽培に特化した茨城県の農園を取材した記事など、反響を呼ぶ特集記事を多数作成してきました。編集部のメンバーの仕事は、記事の企画から取材交渉、外部のライターやカメラマンとの調整、取材への同行に加え、時には自ら取材執筆を行うなど多岐にわたります。また、東京を拠点に全国、時には海外でも取材を行ってきました。
「海外取材の場合は現地のライターに取材をお願いすることもありますが、やはり、責任をもって現場で対応できる人間が必要な場合もあり、編集部の担当が現地に出向き、取材をすることもしばしばありました」(安藤さん)
コロナ禍で取材が困難に
現場に足を運び当事者の声を拾うことを重視して記事を制作してきたYahoo!ニュース 特集の編集部。しかし、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、ヤフーでは段階的に2020年2月より在宅勤務を拡大し、対面による会議や出張、外出、来客対応の自粛へと舵を切りました。Yahoo!ニュース 特集編集部も、3月ごろから、現地での交渉、至近距離での撮影、長時間のインタビューなどの取材活動が徐々に難しくなってきたといいます。
「3月ころまでは、まだ取材をしようと思えば受けてもらえる状況ではありました。でも、各地方に拠点のある大手新聞社やテレビ局と違い、東京を拠点としている私たちは必然的に移動の機会が多くなります。リモートワークへの切り替えという会社の方針もありましたが、10人程度しかいない編集部で一人でも何かあった場合全員に影響が出てしまうという恐れもあり、念には念を入れて感染予防策をとり、取材ルールも設けました」
事実上、このルールに則るとこれまでのような取材活動はほとんどできません。離島でのルポ、東京五輪に向けてトレーニングしていた選手の取材、海外の女性福祉を扱うもの、アートや映画の潮流など進行していた企画が軒並みストップしました。また、「リモートでの取材はしたことがない」「写真を撮れなければ仕事にならない」など、編集部内だけでなく一緒に仕事をしてきた外部のライターやカメラマンからも不安の声が上がりました。
試行錯誤の結果見えてきた、ニューノーマルの取材のかたち
実際に、オンライン取材に移行すると、予想を超える困難の連続でした。
まず、オンライン取材を行うためのデジタルリテラシーの問題です。
「幸い、社内ではテレビ電話やチャットを使ったコミュニケーションは日常的にあり、これまで使ってきたツールもあったため、社員同士の連絡は問題なく行えました。ただ、記事制作や取材となると、さまざまな人が関わります。取材相手だけではなく、社外ライターなど取材する側に対しても、毎回気軽に『Zoom(オンライン会議ツールの一種)でお願いします』というわけにはいきませんでした」
そもそもZoom等のツールを使ったことがない、組織のルールでZoomが使えない、パソコンがなくスマホでしかアクセスできない、通信環境が整っていない……さまざまな壁が出現したのです。
「例えば、ある社外ライターは、専門性を考慮すると取材に適任なのですが、デジタルツールが苦手で自宅の通信環境が悪いという方でした。このときは、Zoomの使い方やトラブル対応法に習熟してもらうために、本人とオンライン会議を事前に実施しました。その上で、リスクヘッジも考慮して取材当日に会議室をレンタル、社員と一緒に遠隔取材を行いました。ただ、そこまでしてもツールが落ちて一時的に取材が止まってしまうような失敗も起きました」。
取材先の貴重な時間をいただいているのにトラブルがあって取材ができなくなってはいけないと、1か月くらいは試行錯誤の連続だったそうです。
また、記事に添える写真の調達も大きな課題でした。
「Yahoo!ニュース 特集の場合、文章が数千文字をこえる長さになることもあり、記事にリズムや適度な変化を与える写真の存在は欠かせません。また、ニュース提供社から配信いただいている多くの記事の中で差別化を図るためにも、時には文章よりも雄弁に語ることができる写真に力を入れてきたという経緯がありました。オンライン取材の際に画面キャプチャをとることも試しましたが、絵の構図に変化をつけにくく、画質も良くありませんでした」
取材先や関係者から写真をいただいたり、過去の取材やカメラマンのストック写真から2次利用したり。内容に即したイメージカットをカメラマンさんにお願いするなど、苦肉の策をとることもあったとか。
こうして、繰り返しオンライン取材を続けるなかで、試行錯誤の蓄積が「オンライン取材のコツ」として次第に見えてきました。
「たとえば、事前の取材案内は、複数回送付するのがベターです。先方がオンライン会議のURLを付記したメールを見失ったり、そもそも取材の日程を忘れてしまったりすることがあります。早い段階で1度送ることでリハーサルや事前準備の時間がとれますし、直前に再度送ることで取材のリマインドにもなります。」
課題だけじゃない。オンライン取材を重ねたからこそ見えたこと
振り返るとこの数か月で悩み、工夫し、試行錯誤を重ねた経験は、取材においてもコンテンツ作成においても、より分かりやすく、質を高めるきっかけになったと安藤さんはいいます。
「例えば、これまでだったら写真を並べていた記事の中で、使える写真が限られたことで、表やグラフを入れよう、グラフィックで表現したらどうだろうと、工夫を凝らしました。結果、『難しいことも分かりやすく』という、編集部が目指してきたコンテンツ作りが、さらに前進したように思います。もともと出来てきたことができなくなった時に、『AができなければBをやろう』という意識が生まれたことが良かった。人間、追い込まれれば思いつくものなんですよね」。
オンライン取材におけるツールや通信環境の問題も、仕事関係者だけでなく、ユーザー全体のネット環境やデジタルリテラシー、使用端末が千差万別であることを改めて可視化してくれ、多様性を学ぶ貴重な機会になったそうです。
「ヤフーのなかにいると、デジタルツールをわかっている人が多く環境も整っているので、これまではそれを前提にしがちだったと思います。取材する側のライターやカメラマンも取材相手も不安や心配がないか、こういう環境下に置かれたことでさらに意識して配慮するようになりました」。
取材現場の安藤さん。テスト撮影のモデルも編集者の仕事だ
今後も、Yahoo!ニュース 特集では、リモート取材でうまく新型コロナウイルス対策をとりながら、現地に足を運ぶことと合わせてうまく使い分けて取材を続けていきたいといいます。
取材相手も含め、オンライン取材に抵抗感がなくなったことで、これまでだったらメールや電話でコメントをいただいていたケースや、取材に出向くことが難しい海外の取材についても、直接取材が実現するといったメリットもある一方で、オンライン取材を集中的に経験することで、相手の「言葉」以外の様々な情報を取り入れることが質の高い取材につながるという、対面取材のかけがえのない特徴も実感したとか。
「オンライン取材では、見えている絵と、聞こえている音がすべて。直接会う取材では、話を伺っている相手の感情の変化とか、『ここが一番言いたいんだな』という強弱、顔色から伝わるその日の体調、周りにいる関係者のリアクションなど様々な情報が得られていたのだと実感しました。逆に、先方が取材を受けるにあたって、われわれの印象など言葉以外に伝えられていた、周辺のいろんな情報もあったということです。また、直接人に会う機会が減ったことで、必然的に幅広い情報に触れる機会が減り、企画力が弱くなるのではという懸念も出てきました」
リモートワークが「ニューノーマル」になったヤフー。読者に新たな視点や驚きを提供できるコンテンツ目指して、これからも、Yahoo!ニュース 特集編集部の試行錯誤は続きそうです。
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