Media Watch2015.04.13

カギは“ROM専”――ネット空間で建設的な議論をするために必要なこと【Yahoo!ニュース 個人の書き手と考える】

 インターネット空間で建設的な議論は可能か――そんな古くて新しいテーマについて、「Yahoo!ニュース 個人」の編集部と書き手が話し合うイベントを4月5日、東京・下北沢の本屋B&Bで開催しました。テキスト主体のコミュニケーションは、リアルでの議論とは違い、表情や抑揚などを読み取ることができないため、ついつい語調がエスカレートしたり、誤解が生まれたりといった問題が起きがち。双方にとって実りあるものとするにはどうすれば良いのでしょうか。

 会場は50人ほどの座席が満席。イベント当日の模様を参加者の皆さまのツイートなども交えてご紹介します。登壇者は、Yahoo!ニュース 個人から全国的な議論にまで発展した「巨大組体操問題」の記事を執筆した、名古屋大学大学院教育発達科学研究科 准教授 内田良氏と、インターネット保守の分野などで執筆・批評を続け、「インターネットは永遠にリアル社会を超えられない」「若者は本当に右傾化しているのか」など多数の著書がある、評論家の古谷経衡氏、Yahoo!ニュース 個人のサービスマネージャー岡田聡です。

“論破”が目的の人にはどう対応する?

組体操の巨大ピラミッドについて話す内田氏(中央)

 組体操ピラミッドの巨大化によるリスク「2分の1成人式」の是非部活顧問を強要される教員の疲弊など、教育現場での課題を研究し、インターネットで積極的に発信している内田氏。自身に寄せられる意見は、批判的なものも含めて全て目を通しているそうです。「いただいた意見を読むことで現実を知ることができるので、コメントは全部見て、全体像を知る努力をしています」(内田氏)

 昨今社会問題となっているヘイトスピーチについて詳しい古谷氏は、インターネット上の罵詈雑言についてこんな見方をします。「インターネットで誹謗中傷しているような人に実際会ってみると“普通のお父さん”だったりします。ではなぜそういった投稿をするのかというと、憂さ晴らしじゃなくて使命感なんです。目的は議論ではなく布教」「本気で信じて良かれと思ってやっている人に対しては、ネットであれリアルであれ説き伏せることは難しい」(古谷氏)

“ROM専”に光を

ヘイトスピーチ問題などに詳しい古谷氏(左)

 「論破が目的のノイジーマイノリティを相手に議論するのは無理」(古谷氏)だとすれば、インターネット空間での建設的な議論のために残された道とはどんなものでしょうか。古谷氏が提案したのは「物言わぬ沈黙の中間層にこそ、建設的な議論の可能性が眠っている」(古谷氏)という意見です。つまり建設的な議論を組み立てるカギは、サイレントマジョリティや「ROM専」(Read Only Member、読むだけで書き込まない人を指すネットスラング)と呼ばれる層の意見をくみとる仕組みと言えるかもしれません。

 Yahoo!ニュースには「意識調査」というコーナーがあります。「少年事件の実名報道を規制する法律、どう思う?」「裁判員裁判、制度の見直しが必要?」「ハリルJ 最も活躍できると思うのは?」などのように、さまざまなお題と選択肢を用意し、ネットユーザーの皆さんに答えていただくサービスです。「意見を書くことはできなくてもポチっと押す(投票する)ことで簡単に参加できる」(Yahoo!ニュース 個人のサービスマネージャー岡田)のが特徴。1つのお題に対し数十万規模で投票が寄せられることもあります。

 さらに「意識調査の結果ページの下にはコメント欄がありますが、あまり荒れていません。最初に設問があって、結果を見た上で意見を重ねあうので荒れないのかもしれません。こういう仕組みを議論のなかに組み込むことが大事」「インターネットは拡散する力はあるけど、収斂する力が弱いから、そこに挑戦したい」と、岡田は語ります。

 内田氏も「ROM専に関する議論は、教育現場と重なる部分があるなと思いました。巨大組体操も2分の1成人式の問題も、皆が個々に考えはじめて、一気に議論が広まったんです。ROM専にいかに発言の機会を与えるかが、すごく大事だなと思う」と話しました。

トークセッションを終えて

 当日は参加者の皆さまから質問をたくさんいただき、また“オフレコ”の話も飛び出し、2時間のトークセッションがあっという間に過ぎていきました。最後に登壇した2人のゲストの言葉をお届けします。

 「私は数年前から物言わぬ日本人、つまりROM専を読者に想定して、本や記事を書きだしたんです。私の根底にある姿勢は、日本人はバカじゃない、大衆は賢いという意見です。日本人は昔から両極端ではなく適当な落とし所を探って日本を作ってきたという歴史観が自分の中にあります。中間層が日本を支えていると。私はそこに(議論の)可能性を感じています」(評論家 古谷経衡氏)

 「私がなぜこんなに記事を出して、何に突き動かされているかというと、柔道事故問題はとても大きくて(リスクを発信した結果)死亡事故が減ったんです。さらに組体操問題も『巨大なものはやらないと決めた』といった報告が教育現場から寄せられています。地道にやれば数年かかっても変わる、建設的な結果が得られる。そういう力がインターネットにはあるんだと思っています」(名古屋大学大学院教育発達科学研究科 准教授 内田良氏)

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