Media Watch2016.01.19

Facebook「Instant Articles」は脅威かチャンスか~日経電子版・Yahoo!ニュースが語る戦略【下】

1月10日開催のオープンフォーラム「ニュースメディアをめぐる<雲>ゆきとデジタルメディアの未来」の中で行われたパネルディスカッション。その模様の後編をお届けします。約300人の参加者を前に、異なる戦略を展開する日経電子版とYahoo!ニュース、それぞれが語った戦略とは――。

【出演】(敬称略)

  • 日本経済新聞社 執行役員電子版担当 渡辺洋之
  • 日本経済新聞社 デジタル編成局編成部次長 重森泰平
  • ヤフー株式会社 ニュース事業本部長 片岡裕
  • ヤフー株式会社 ニュース事業本部企画部部長 有吉健郎
  • [モデレーター]早稲田大学ビジネススクール教授/同ビジネススクール・ディレクター(統括責任者) 根来龍之

>>前編はこちら(日経が示す「3次元の価値」・Yahoo!ニュースが独自コンテンツを始めた理由~それぞれの戦略【上】)

ニュースのコメント機能をどう考える?

根来 Yahoo!ニュースやNewsPicksにはコメント欄があります。コメントを書く人は別にYahoo!ニュースやNewsPicksの世界観でコメントを書いているわけではありません。ですが実際は、コメントも一体となってコンテンツができあがっている。日経さんとしては、新聞社としてはそういうのは許せないのではないかと思うのですが。ソーシャルメディア系のコメント欄について、日経さんはどう考えていますか。

渡辺 もし、あの日経の電子版のところに直接コメントを書くとしたら、(書く側からすると)やりにくいのでは。何か書いて、ボコボコにされたら心が折れるのではないかなと。(コメント欄については)新聞社の場はアスリートが戦う場というか、参加しにくいというポジションになっているのではないか。良い意味では、コメントというものは新聞社の外にあった方が参加する方も楽なのではないか、と思います。コメント欄に類するものについてはわれわれもやろうと思えばできますが、今やるべきなのかどうかという意味では、まだ考えるべきことはあるかなと思います。それよりも今は電子版を「使っていただく」という方に力を入れるべきかなと考えています。

重森 コメントって、いろいろな役割があると思います。そこでディスカッションするのか、要約を書くのか、「あなたに関係する部分はここだ」と橋渡しをするのか……いろいろあると思います。そもそものニュースの読み方も、「何かしらの視座があって読む」ということが世の中に広がってきている、と現場を担当していて感じています。

根来 Yahoo!ニュースにもコメント欄があります。あの位置づけを今後変えていく可能性はあるのでしょうか。

有吉 昨年、コメントにさまざまな機能を追加しました。例えば、「Yahoo!ニュース 個人」に参加していただいているオーサーの方々に書いていただいたり、一般のユーザーの皆様が書いていただいているコメントを解析して、攻撃度の高いものを表示されにくくしたり、特定のユーザーを非表示にできる機能ですとか、さまざまな工夫をしてきました。それによって、「ノイズ」といわれるようなコメントを下げる一方で、「シグナル」といわれるような良いコメントを浮かび上がらせる努力をしてきています。まだやるべきことはたくさんありますが、それらの機能を磨いていくことが重要だと思っています。

Yahoo!ニュースは経済紙というよりは、一般紙であり芸能・スポーツ紙であり、専門紙でもあり……さまざまな側面があります。おのずとさまざまなニュースが集まってくるので「他のユーザーがどう思っているか」という、反応や感情を共有・確認したいというニーズは必ずありますし、Yahoo!ニュースという大きな場において、コメントについては何らかの形で残し続けていきたいなと。それこそがインターネットの醍醐味でもあるかなと思いますので、引き続き、「ノイズ」を減らして「シグナル」を増やしていく取り組みを続けながら、磨いていきたいと思っています。

Facebook Instant Articlesは脅威?

根来 FacebookのInstant ArticlesやApple News、Google AMPといった今までとは違ったメガプラットフォーマーが出てきました。これらは本当に脅威なのでしょうか。新たなプレイヤーの動きについて、どういうことを感じていますか。まず日経さんの方から。

重森 まだ社内でも答えは出ていないという前提ですが、ケースバイケースだと思います。Facebookから日経に来た時のコンバージョンや、登録会員に流れる数というのはすごく高い。周りの人から影響を受けて、読んでみようかな、とか、会員になってみようかな、と思うのは当然だと思います。われわれのお客さんが出て行くデメリットと、一方で日経を好きになってもらえるようなメリット、両方を天秤にかけてお付き合いしていきたいと思います。

われわれにとって嫌だな、と思うのは、日経を読むのがここで足りてしまうかどうかということ。なぜかというと、われわれは、「読者がどんな記事を読んでいるか」「どんな属性の人が見ているか」といったデータを見て分析し、それに対する行動をとっていますが、そうしたことがやりにくくなってしまうので。なので、ユーザーに対するサービス改善のプロセスを進める上でも、われわれのプラットフォームの中でコンテンツを見ていただきたいし、それに対するエンジニアのリソースは使っていきたい。「われわれのプラットフォームの中で見るほうが頭に入りやすい」という空間を作ることを前提にしながら、「ここで足りないものは外に出て行って一緒にやりましょう」と。ケースバイケースだと思っています。

根来 ヤフーさんはどうですか。

片岡 脅威でもありチャンスでもある、というのが回答です。人間の可処分時間は限られていますので、起点から着地までを全部取っていこう、というInstant Articlesの動きは、Yahoo!ニュースに取って代わる可能性もあるので、脅威でもあります。一方で、パートナー視点から見ると、Facebookが入ってくるからYahoo!ニュースに配信をやめるか、というと、現在のビジネス環境を考えますと、配信をやめるということにはならないと思っています。そういう意味では、Facebookが伸びたとしてもYahoo!ニュースのコンテンツが単純に減っていくわけではないと思います。

また、「機会」という意味では、われわれも「特集」のようなオリジナルコンテンツを作っていこうという考えがあります。そのため、オリジナルコンテンツの流通経路として、時と場合によっては外部のプラットフォームにコンテンツを提供することで、結果的に誘導がヤフーのメディアに返ってくるというケースも考えられます。全てを外部に出す必要はないとは思いますが、外部に出すことで、ヤフーを使っていない若い方に新たにリーチできる機会が生まれると思います。

有吉 FacebookやGoogleといったさまざまなプラットフォームが「ニュース記事を入れてください」ということになった場合、新聞社さん、通信社さんが複数に対して記事を提供する状態になり、「その中でどこが一番良いか」という競争になると思います。その時に選ばれ続ける必要がある、とわれわれは思っていますので、掲載条件だけではなく、こちらからお渡しできるデータやフィードバックといったものをこれまで以上に充実させていくことが大事だと思っています。

日経とヤフー、今後の関係と可能性は?

根来 それでは最後になりますが、日経さんヤフーさん、それぞれに言いたいことや質問があれば。

渡辺 (冒頭の「仕事」と「生活」の情報という話を受けて※前編参照)ヤフーさんにとって「仕事」の情報は大事ですか?もし生活情報と同じくらい大事であれば、いろいろな話をしましょう、と(笑)。つまり、「『今、一緒に何かやると圧倒的に面白い』という状況かどうか」、ということだと思います。まずはお友達からでしょうか(笑)。

片岡 渡辺さんが仰る通り、マインドが重要だと思います。Yahoo!ニュースに来てビジネス系のものをビジネスのマインドで見ているか、というと現状はそうでないケースが多いと思います。そうはいってもビジネスパーソンが昼の時間にYahoo!ニュースを見ているという事実はあります。ただその際にビジネスコンテンツを見ているかどうか、というと、そうじゃないものも多いというのが現状だと思います。

では、それでいいのかというと、先ほど図式されていたように(※前編参照)、取れていない層に出していきたいという思いはありますので、ユーザーに対して「こういったコンテンツをこんなマインドで見るための素材を用意しました」ということにはチャレンジしたい。例えば日経さんのようなコンテンツを、従来のやり方ではなく、「ここに日経さんの記事があります」と明示した上で編成して届けるならばユーザーにマインドを持って見てもらえるのではないか、といったことを考えております。

根来 では、ヤフー側から日経側に何か質問はありますか。

有吉 Financial Timesを買収されましたが、課金モデルで成功している者同士、どうやって相乗効果をあげていくのか。イチユーザーとしてですが、興味があります。

渡辺 私は電子版のものでグローバル担当のものではないので(笑)、日経として責任を持った答え方はできないのですが……Financial Timesは面白い会社でして、サブスクリプションの半分以上がデジタルなんですね。実はFinancial Timesと日経はオールドな新聞社同士の提携に見えますが、実はデジタルカンパニー同士なんですね。なので、いろいろなことができると思います。例えば、これまで日経がスクープを流していた時間帯だけではなく、ニューヨークやロンドンと共通に起きている時間帯にスクープを流すと、これまでとは違ったニュースのスクープの反応の仕方があるのではないか……いうように、デジタル同士の新たなチャレンジについて、これから話し合っていこうとしている段階です。

>>前編はこちら(日経が示す「3次元の価値」・Yahoo!ニュースが独自コンテンツを始めた理由~それぞれの戦略【上】)

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