Media Watch2023.03.02

Yahoo! JAPANの「メディア透明性レポート」専門家にどう映る 慶應大・山本龍彦教授に聞く

Yahoo! JAPANでは、ユーザーが自らの考えや疑問を投稿したり議論したりできる「場」として、「Yahoo!ニュース コメント」をはじめ複数の投稿型プラットフォームサービスを提供しています。これらのサービスではルールやガイドライン(※)を定め、個人に対する誹謗中傷など違反行為に対しては投稿削除などの厳正な対応を行い、ユーザーが安心して利用できる環境作りに努めています。

一方で、ユーザーが過度に萎縮することなく自由に情報発信できることも重要と考えています。そこで、2021年から「メディア透明性レポート」の発信を始めています。これは削除した投稿件数や投稿内容、対応にあたる社内体制など運営側の実態を広く知っていただくためのもので、初回は2020年度の取り組みを対象としています。昨年12月には2回目となる「2021年度版」を公開しました。2021年度版は専門家の目にはどう映るのか。総務省「プラットフォームサービスに関する研究会」の委員でもある慶應義塾大学法科大学院の山本龍彦教授にうかがいました。

(取材・文:Yahoo!ニュース、撮影:高橋宗正)

「透明性」への社会の要請と、ヤフーができていること

――なぜいま「透明性」が求められているのでしょうか。

プラットフォーマーに対する透明性は、米政府がテロ対策として極秘に大量の個人情報を収集していたことを元米情報機関職員が暴露した、いわゆる「スノーデン事件」(2013年6月)を契機に、プラットフォーマーが捜査機関などにどう対応しているのか、監視社会への警戒やプライバシー保護の観点から要求されるようになりました。

ただ、その後もプラットフォーマーの存在感は社会のなかで一層増し、「新たな統治者」やインターネット上の言論における「ゲートキーパー(門番)」と呼ばれるほど大きな影響力を持つようになりました。

プラットフォーマーは、特定のアカウントを停止したり、投稿を削除したり、あるいは表示順を上位に上げたり逆に下げたりということが可能であり、言論空間を恣意的(しいてき)に操作することができてしまいます。この論理でいけば、選挙結果にも一定の影響を与えることができます。そのような恣意的な運用を防ぐためにも、透明性が担保されることが必要です。

このように、当初は監視社会やプライバシー保護の面から注目されていた透明性ですが、プラットフォーマーが言論のゲートキーパーとして社会的責任が課されるようになったことで一層重みを増したのです。

――ヤフーの「2021年度 メディア透明性レポート」に対する率直なご感想を聞かせてください。

世界的に透明性が求められているなか、ヤフーが透明性レポートを出していくということは積極的に評価でき、非常にポジティブに受け止めています。

海外プラットフォーマーとヤフーを比較した時に、総務省の誹謗中傷対策や偽情報対策のヒアリングのお願いに対しての対応にも表れているように、日本国内での透明性確保の姿勢には違いがあると思います。

広い意味での「国産プラットフォーマー」として、日本の民主主義に対して、一番愛着を持っているのはヤフーだと思います。その企業が言論空間の健全化に対してコミット、貢献しているということは非常に重要で、総務省の有識者会議でも好意的に受け止められていると感じます。

――今後、より内容を充実させる余地があると感じる点はありますか。

今回の公表で2回目であり、まだ調査や検証ができる段階にはありません。定点調査のような形で継続的にレポートを公開し、年単位で見た時にどのように変化しているのか、検証可能にすることが今後は重要になっていきます。特にその有効性について賛否あるAIの導入による効果は、メリット・デメリット含めて公開していく必要があると思っています。

また、サービスごとに出しておられるポリシーやルールとの関係性を透明性レポートの中でもしっかり出した方が良いと感じました。例えば、Yahoo!ニュース コメントの削除理由の内訳が細分化されて示されていますが、これが何を指し、ポリシーのどこに規定されているのかを明記する。すると、ユーザーはポリシーとの対応関係が分かるので実際になされた削除が妥当なのかどうかを検証していけます。要所要所でポリシーへのリンクを張るなどの工夫はもう一歩と言いますか、今後求められていってもよいのかなと思いました。

投稿削除、念頭に置くべき「萎縮効果」

――誹謗中傷対策における透明性の確保についての見解をお聞かせください。

誹謗中傷、特に個人に対する人格攻撃は迅速な対応を要するものであり、プラットフォーマーは積極的に対応を取ることが求められています。

他方で、投稿内容に対して過剰な対応をしてしまう、いわゆる「オーバーキル」の問題もあります。一般の方に対する投稿であれば影響はないかもしれませんが、政治家や公人に対する批判・批評の削除は民主主義のあり方に影響を及ぼす恐れがあり、慎重になるべきです。

「オーバーキル」やアカウント停止措置は言論に対する萎縮効果を高めてしまうという懸念もあります。本来は行える批判が行えなくなってしまいかねないのです。言論空間では多様性が確保されるべきですし、削除などの基準は明確にしておく必要があります。今回のような透明性レポートの公開によって萎縮効果をなるべく除去していくことも重要だと思います。

――萎縮効果について海外ではどのように議論されてきたのでしょうか。

アメリカでは、「チリングエフェクト」(chilling effect)という言葉でかなり古くから議論されてきました。元々は刑罰との関係で論じられてきたもので、刑罰規定が不明確である場合、本来その刑罰の対象とならないような言論も萎縮してしまって差し控えられてしまうということが言われていました。

民間企業とユーザーの関係だと、ユーザーはある民間企業から排除されても、別の民間企業のサービスを使えば良いので、かつては萎縮効果もそこまで生まなかったと思います。しかし、近年のプラットフォームは代替となる選択肢がそこまであるわけではないので、そこから追い出された時に、実質的に他者とのコミュニケーションツールを失うことになりかねません。刑罰までいかないにせよ非常に強いペナルティーとして機能するということからすれば、削除基準を明確化し、萎縮効果を考慮していく必要があります。

――投稿削除にAIを使っていますが、どう透明化すれば良いでしょうか。

ここは難しいですね。おそらく世界的に議論されているものの、まだ正解が出てきていないと思います。ただ、AIの学習にどのようなデータを使ったかなど、AIを構築したプロセスについて透明化を進めていくべきなのかなと思います。今回の透明性レポートでは「AIの仕組み」という項目があり、AIのモデルの説明がある程度なされています。この点も積極的に評価できるところかと感じました。

一方で、例えばYahoo!ニュース コメントで使われているという「建設的モデル」については、分かりにくさが残りました。まず、「建設的コメント」となる条件の定義が具体的に書かれていません。また、建設的か否かの判断を行ったユーザーの人数や属性についても分からず、もう少し書けるかなという印象を持ちました。今後ユーザーからフィードバックをもらっていくことも重要だと思います。

また、AIは文脈を拾いにくく、どうしてもカテゴリカルな(形式に基づいた)判断となってしまうことはやむを得ない面があります。これに対して異議があった場合には最終的に人間が判断していく必要があり、その人間の判断を透明化していくことも重要ではないでしょうか。

――ユーザーに「透明性レポート」の内容を簡単に理解してもらえるようなコンテンツを用意した方がいいでしょうか。

限られた時間の中で多くの人がこの透明性レポートを熟読するということは、あまり考えられません。例えば4~5分で内容が一定程度は理解できるという動画を作って、いわゆるタイムパフォーマンス(かけた時間に対する効果、時間対効果)を気にする人たちにも届けるという取り組みは重要だと思います。ただ、その場合は内容を圧縮したものにならざるを得ないので、やはりこうした形でしっかりと文章を残しておくことも重要です。

プラットフォーマーにとってポリシーはいわば法律のような存在ですが、実際の法律にしても、多くの人は読んでいません。この透明性レポートも全員が読まなくてもいいのだと思います。われわれ専門家やメディアがユーザーを「代表」してしっかりと読み、理念と実際の施策がちゃんと整合しているのかどうかということを評価し、議論していけば良いのだと思います。

[おわりに]
ヤフーにとって「メディア透明性レポート」は出して終わりではありません。ユーザーや情報提供元メディアをはじめ、社会のみなさまに広く読んでいただき、フィードバックをサービスのさらなる改善につなげていきたいと考えています。

■山本龍彦さん
慶應義塾大学大学院法務研究科(法科大学院)教授。慶應義塾大学グローバルリサーチインスティテュート(KGRI)副所長。専門は憲法学。総務省「ICT活用のためのリテラシー向上に関する検討会」座長、同省「プラットフォームサービスに関する研究会」委員などを務める。主な著書に、『AIと憲法』、共著に『デジタル空間とどう向き合うか』

※Yahoo! JAPANが提供する投稿型プラットフォームサービスは「Yahoo!ニュース コメント」以外にも「Yahoo!知恵袋」「Yahoo!ファイナンス掲示板」があります。それぞれのルールやガイドラインは以下の通りです

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