Media Watch2015.07.08

Apple Watchは「情報の関所」? 人気ブログの裏側から谷川俊太郎氏の詩まで~トップクリエイター達が語ったニュースと情報の未来

当ブログがプロデュースするイベント「リアルnews HACK」第3回目が7月3日、Apple Store銀座店にて行われました。今回のテーマは「情報アクセシビリティ:過去、現在、未来 これからのニュースの届け方」。当記事では、イベント本編レポートの後編をお送りします。
※前編はこちら→「Eat everything=全部食べる」「深い感動は一次情報」~トップクリエイター、ショーンK氏、Yahoo!ニュースが語る、情報とのつきあい方

【出演】

  • 深津貴之氏(iOSアプリ開発者・THE GUILD代表)
  • 佐々木康裕氏(takram design engineering・クリエイティブリード/サービスデザイナー)
  • 渡邉康太郎氏(takram design engineering・クリエイティブディレクター/デザインエンジニア)
  • 河野清宣(ヤフー・Yahoo!ニュースアプリ責任者)
  • 片岡裕(ヤフー・ニュース本部本部長
  • [モデレーター] ショーン・マクアードル川上氏(経営コンサルタント)

Apple Watchの長所は、“情報の砂防ダム”

前編から続く)
ショーン
 それではアクセシビリティの話の中で、テクノロジーがどういう風にいかされているか、という話を聞きたいと思います。思いつくこと、なんでもいいですよ。

渡邉 僕は、朝起きてラジオを聞いています。BBCかJ-WAVEを交互にきくということをしています。BBCのラジオ番組の面白い点は、いろいろな専門家とライブで電話をつなぎながら、ニュースに賛成か反対か、好きか嫌いかという二元論じゃなくて、答えのないものをみんなで考える場として機能していること。さらに(BBCの)Webサイトを見ても、コメント欄が非常に大事だなと感じている。ヤフーさんは、コメント欄やみんなとの会話をどのように考えていますか?

河野 記事を読んだ上で何かしらの行動を起こす、という意味ではコメント欄の意義があると思います。そのほかにYahoo!ニュースでは興味関心をフォローする機能があるのですが、そこで集まった人同士が相互に話し合える機能をつけられないか、という可能性も感じています。

ショーン 私はというと、ニュースに対して、「なんでやねん」「で?」「どうして?」という突っ込みをいれながら見ています。そういった時に、各国の様々なニュースキュレーションサイトは角度が見えて面白い。時のニュース、だけではなく皆さんの仕事に関するニュースもそうだと思う。「どこかがM&Aした→それはなんで?どうして?」と、連想ゲームをしていくのが好きで、連想の幅は自分の仕事の幅でとどまっていけないと感じています。takramさんのデザインや、深津さんのUI/UXって、そうした自分の領域をこえた連想をアウトプットする形がいろいろあって面白いなと。

深津 結果としてわかりやすいものを出しやすい業界かな、と思いますね。

渡邉 クリエイターに限った話じゃなく、あらゆる人は情報に触れたときに自分なりの妄想が膨らむものだと思っています。それを敢えてアウトプットしようと自分達をいじめているのがこの辺の(クリエイターの)人達。妄想のレベルを超えて、本当に人にいいと思ってもらえるものは何か、(多数の選択肢がある中で)その中の一つの価値を表出しようとする試み、それと全く同じものがここ(Apple Watch)にもあるんじゃないかなと思っています。ある種の前向きな諦めを得られるというか、あらゆる情報の洪水を(この小さな画面で)ひとまとめにして、「この情報は気にしない」「これはあとで返信する」といった、バランス感覚のようなものがここで繰り広げられている。

ショーン 情報の洪水をいかにせき止めるか。砂防ダム、みたいなところですよね。

渡邉 関所ですよね、完全に。

ショーン Apple Watchを使うようになって、(情報を)「チェックしにいく」ことが無駄な感じがするようになったんですよね。メールをチェックしにいったら、メールをチェックするだけじゃ絶対に済まないだろうな、と。ついでにLINEもみちゃおうかな、ついでにboketeもみちゃおうかな、気がついたらこんな時間、ってなる(笑)。Apple Watchでは自分が必要なものだけにアラートをかけているので、時間の効率アップになっていますね。

渡邉 Look upからLook aboveというか。情報の洪水におぼれていたところから、実社会に戻るモチベーションが沸くというか。

情報、全部「食べる」?それとも「少食」?

ショーン Apple Watchは、みんな使ってますよね?

渡邉・佐々木・片岡・河野 (頷く)

深津 すいません…ないです。

ショーン 深津さんは何かポリシーがありそうですね。宗教上の理由?

会場 (笑い)

深津 僕の中ではApple Watchはハードルが高くて。毎日充電することが無理だということと、プッシュ通知(の選別についての)問題は、通知を全部無視することで解決してしまったので…。

会場 (笑い)

ショーン 非建設的批判じゃなくて、僕は深津さんみたいな建設的批判をする人が大好きなんですが。深津さんは、テクノロジーを使えるのに、「敢えてテクノロジーを使えない人」になっているんですよね?わからない人のためのUI/UXを作るためにはその当事者ではなくてはいけない、と。

深津 ポジティブにいえば(笑)。僕は実際には電話の内線ボタンもうまく使えなかったりするので(笑)。

ショーン Yahoo!ニュースさんはこの辺の議論についてどうですか。

河野 そうですね、どういう情報をとどけようかといつもメンバーと悩んでいますが、コミュニケーション以外にここ(Apple Watch)にとどけられる情報は何か、と考えるのは、難しい(作業)。まだ単なる妄想でしかないが、この人のシェアした情報だったら知りたい、というのであればその人をフォローしておけば、その人がシェアした情報がここ(Apple Watch)に届くとか。そうしたら情報も自分ごとになるかな、とか。そんな未来を妄想していますね。

ショーン 積極的通知、ですかね。テクノロジーって、沢山の情報を与えてくれましたが、一方で、(情報が増えると)これがまた不便じゃないですか。新聞も何紙分読めばいいのか、銀座のママくらい読めばいいのか。ニュースアプリ全部いれて全部プッシュすればいいのか。テクノロジーとの付き合い方は難しい。先ほど佐々木さんがEat Everythingとおっしゃいましたが(※前編参照)、全部食えないんじゃないですか。深津さんのように、必要なものを必要なだけ、という少食もいる。

深津 僕は少食、というよりも、情報の価値判断を(自分のツイッターの)タイムライン上の100人にアウトソースしている感じなんですよね。Yahoo!ニュースも直接は読まないが、自分のタイムラインの100人のうちの誰かがYahoo!ニュースをつぶやいてくれる人経由で読んでいる。

ショーン ニュースの重み付けのクラウドソーシングをやっているような。

深津 そうですね。

ニュースサービスのカギは“エンゲージメント”

ショーン 皆さん、接している情報はINもOUTもデジタルですか?

深津 Kindleをデジタルに含めるなら僕は9割方デジタルですね。

佐々木 僕の中で情報は3種類あって、1つは経験、2つ目は伝聞、3つ目は文字。個人的には1と2の比率をどう増やすかというところを大事にしています。アウトプットは仕事の性質上色々あって、形あるものもあれば、何でもありますね。都度最適なアウトプットの方法を選んでいますね。

ショーン (佐々木さんが)「戦略的雑食」ということがわかってきました(笑)。

佐々木 自分はニュースサービスをかつて企画していたことがあるのですが、そのときに思ったのですが、ニュースサービスっていくつか大事な要素があるなと。一つはNewness、新しさ。二つ目はカバレッジ。もう一つはエンゲージメント。ニュースとのかかわりの深さをどれだけ提示してあげられるかが大事だなと思っています。

ショーン 具体的に、(自分がエンゲージメントを高めるために)どんなことをやっていますか。

佐々木 例えば僕がやっているのはブログ記事を読むこと。深津さんのブログ、面白くてよく読んでいるのですが、深津さんレベルの洞察を持っている人を英語で検索すると100人くらいいるんですよね。なので僕は英語で書かれたブログも探して読むのが好きですね。

ショーン 自分側から積極的にエンゲージメントをもっていかないと洞察は手に入らない?サービス側でそれを提供するのはハードルが高そうですね。

片岡 昨年の12月から「Yahoo!ニュース 個人」で「オーサーコメント」を始めました。「Yahoo!ニュース 個人」の書き手に(ニュース記事に対して)専門的な知見を書いてもらい、(ユーザーがニュースを)なるべくそこで深彫れるという体験を提供している。例えば検事や弁護士の書き手が(事件に対する知見を)書いたりしています。(ユーザーの)アクションにつながるための設計をしています。

谷川俊太郎氏の詩に見られる“エンゲージメント”とは?

ショーン 渡邉さんは(情報に接するとき)どうですか。

渡邉 デジタルも紙もどっちもつかうのがヘルシーだなと思っています。紙の上にしか載せられない情報もある。例えば「どれだけ(紙に)はやく書いたか」とか。僕はメモ帳を持ち歩いているのですが、こうしてアジサイの花をメモ帳にはさんだりすることも。受けたものを自分なりにアウトプットすることでエンゲージメントが高くなる。発信側にまわることで自分と情報の結びつきが強くなる。発信者は、参加者のエンゲージメントをいかにひっぱってくるかということが重要。

 僕は「カムチャツカの若者が きりんの夢を見ているとき メキシコの娘は 朝もやの中でバスを待っている……」という(一節で知られる)谷川俊太郎さんの「朝のリレー」という詩が好きなんです。(詩の中で)世界の都市をぐるっと一周しているのだけれど、ただのっぺらぼうな都市名じゃなくて、「きりんの夢」という具体に切り込んでいる。この詩は、発信者側が(具体に切り込むことで)参加者のエンゲージメントを持ってきているんですね。

ショーン TIME誌は、クリエイティブライティングをするんですね。「バラク・オバマの額に一筋の汗が落ちた」といったように。一方で、U.S. News & World Reportは淡々と書いていたりする。どんな情報をどのように仕入れたいか欲しいかというニーズがはっきりしていないと、情報化社会の中で、テクノロジーで情報がもっと身近になった時に不便を強いられていくので、自分を鍛えていくしかない。

 じゃあ、どうやって鍛えていくかというと、エンゲーメントを高める、ということになるんでしょうね。私はニュース番組でコメントを求められることが多いのですが、(アウトプットに関しては)ほとんど紙に書いていますね。自分は手元をみてしゃべるのが大嫌いでして、どんな言葉も手前で処理しておきたいのですが、そういうときに情報が自分のものになる瞬間って、アウトプットで書く瞬間。

 私は書き終わったノートは全てPDFにしてi文庫で読んでいます。そのほか自分が読みたい情報はデジタルになってないものも多いので、新聞などを自分で切り抜いて自炊して、i文庫においてタグをつけて整理している。だからデジタルと紙、どちらも使っていますね。

河野 僕はアウトプットは紙のほうが多いですね。インプットしたあと整理するときに、整理したものが結果的にアウトプットになることが多い。例えば震災のときに電力情報をどうみせるか、と話し合いながら書いたことが結果的にアウトプットになったりしました。

ブログを書くポイントは“突っ込まれビリティ”(深津氏)

ショーン 深津さんはアナログでしかできないものをデジタルで乗りこえようとしているんじゃないですか。

深津 僕は10年くらいブログを書いていまして。自分は「突っ込まれビリティ」と読んでいるのですが、少しエッジの立った内容でブログを書いています。すると、「いや、それは違う」とか「こういう本もっと読め」とか、色んなフィードバックがくるので、僕はそれを「ごちそうさまです」といただくんです。 

ショーン 僕もそんな勇気が欲しい(笑)。

会場 (笑い)

渡邉 雑食の撒き餌ですね(笑)。

深津 あんまり怒られると、「すみません」って記事直すんですけど(笑)。

それぞれが語る「情報の未来」

ショーン では、最後にまとめておきましょうか。情報の未来についてそれぞれの立場からお願いします。

深津 僕は、情報は回転寿司とか水道だと思っているので、欲しいときに必要なものだけとって、どれだけ美味しいところだけとれるかどうか。そうしていかないと、全て薄くなってしまうので。

佐々木 歴史を振り返ってみると、新しいメディアが出てくると情報の形が変わってくる。例えば、書物が生まれたときって、人の話し方って変わったそうなんですよ。構造化したメディアが、逆に自分に影響を与えていく。音楽も、CDが生まれたときに曲の長さが変わった。Apple Watchに期待していたことはまさにそういうところで。僕がApple Watchに唯一不満があるとすると、Apple Watchはまだパソコンのパラダイムを引きずっているなと思っています。まだ視角に頼っているなと思う部分があるので、そこはデザイナーとして妄想をはたらかせていきたいなと思いますね。

渡邉 iPhoneと違って、Apple Watchは常に体に触れていますよね。タッチングインフォメーションを送ることができる。そういった中で、情報と「人間らしさ」が近づいていくのが未来なのではと思っています。タンジブルな情報を自分のものにする、一番のローカリティの中に一番大きなグローバリティを感じる、そういう未来がここ(Apple Watch)に詰まっているんじゃないかなと思います。

河野 最近はCDやアルバム単位で曲を聴く時代ではなく、曲単位で聴く時代になってきている。例えばAWAをみていると、プレイリストで聴く人が多いんですよね。プレイリストは結局人がつくっている。情報が細分化されたときに、それをどうつなげていくかが鍵だと思いますが、それはやはり人なのかなという気がしていますね。

片岡 インストラクションとインタラクションという言葉がある。インストラクションというと、流れるコンテンツ、チャネル、コンテキスト、このあたりがあるが、コンテキストが特に重要だと思っている。ウェアラブルデバイスは、その人がどこにいるとか、どういった健康状態とか、つまりコンテキストがわかりやすくなるんですね。その人が求めている情報をピンポイントで届けていくことができる、そんな世界がどんどん来るのではないか。その時に、Yahoo!ニュースもしっかり介在していきたい、と思っています。

ショーン 私が言おうと思っていたところは片岡さんの言った通りで、テクノロジーが発達して、コンテンツの発信受信は長けてきているが、その分コンテンツが断片化していっている。コンテキスト、文脈が通らなくなってきている人が増えている気がなんとなくしているんですね。ここ(の問題)をテクノロジーが背負うのか、それとも人間が背負うべき責任なのか…もしかしたらこれからの未来、それをAIが支えるのかもしれませんね。

>>前編はこちら→「Eat everything=全部食べる」「深い感動は一次情報」~トップクリエイター、ショーンK氏、Yahoo!ニュースが語る、情報とのつきあい方

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