Media Watch2015.06.22

「地方のことは地方が一番知っている」とは限らない?――地方発の記者らとYahoo!ニュースが考える、ローカルメディアの未来

 当ブログがプロデュースするイベント「リアルnews HACK」。第2回目となるトークイベントが6月7日、「ローカルメディアの未来を考える」をテーマに下北沢B&Bで行われました。その模様の一部を、イベント参加者の皆様や弊社スタッフの実況ツイートを交えながらご紹介します。(前回のリアルnews HACKの様子はこちら

 今回のテーマは「ローカルメディアの未来を考える」。ゲストには、徳島新聞出身で現在は法政大学准教授、ジャーナリストの藤代裕之さん、沖縄の地上戦で亡くなった方々を追った「地図が語る戦没者の足跡」で「ジャーナリズム・イノベーション・アワード」特別賞を受賞した沖縄タイムスの與那覇(よなは)里子さんをお迎えしました。ヤフーからは、西日本新聞社(記者)からYahoo!ニュース・トピックス編集部へ出向中の三重野諭、Yahoo!ニュース・トピックス編集、大阪編集室室長、北九州編集室室長を経て現在はスタートページ事業部編成部部長の奈須川信幸が登壇。Yahoo!ニュースの岡田聡がモデレーターを務めました。

ローカルな話題を、全国の土俵にどうのせる?

 前半、ゲストの普段の取り組みなどをフックに、ローカル情報を発信する上での課題などが話し合われました。社会部記者などを経て、現在デジタル部で「沖縄タイムス+プラス」や「ウェブマガジンW」の編集などを行う與那覇さん。アクセスログが首都圏中心のインターネットの世界で、「地元の情報を全国の土俵にどうのせればいいのかわからない。大きな絵が描けないままいる。書き方やみせ方をどうすればいいか、日々考えている」と現場担当者ならではの苦悩を語ります。

「野菜の売り方だって、東京と地方では違う」

 

 藤代さんは、徳島新聞勤務時代の「苦い思い出」として、全国的に注目を集めた「葉っぱビジネス」を興した同県上勝町での取り組みを“地元紙の人間なのに見逃していた”というエピソード(参考※地域創生のカギ握る ネットでつながる「風の人」/日本経済新聞電子版)を交えながら、「地域のことは地域の人が一番知っている、というのは本当なんでしょうか」と疑問を投げかけます。「野菜の売り方も東京と地方では全然違う。地方も、全国に発信する際の売り方、見せ方を変える意識を持たないといけないのでは」。

ネットの世界は「10取材して1書け」が当てはまらない

 トーク中盤では、実際の紙面を見ながら、紙面での見せ方とインターネットでの見せ方の違いについて話が及びました。
 新聞記者が記事を書く際のマインドとして知られる言葉の一つに、「10取材して1を書け」というフレーズがありますが、トークの中では「10取材して10掲載できるのがネットの良いところ」という話も。新聞紙面では第3社会面に写真1枚と数十行で展開されていたストレートニュースでも、そのコンテンツをそのままネットに掲載するのではなく、写真を駆使してインターネットユーザー向けに見せ方や書き方を変えることで、多くの人に刺さるコンテンツになる、と藤代さん。「いつか地方紙がネットメディアに先を越される時代がくるかもしれない。個人ブログにストレートニュースが負ける時代になってきている。ネットの記事は長くても読まれるケースもあるが、地方紙は既存のみせ方の枠組みを変えられていない」。
 一方、Yahoo!ニュースの岡田は、Yahoo!ニュースアプリの中の、ユーザーが現在地からの設定で地域別情報が取得できる都道府県タブのデータをスライドで開示し、「アプリの世界では、都道府県タブ、つまりローカルニュースの利用意向がエンタメやスポーツ、国内や経済など他のカテゴリに比べて非常に高い」と解説。「需要はある。地方の情報のそのものが全国に受けていないのではなく、“見せ方”次第で需要を掘り起こすことが出来る」と語りました。

「イケダハヤト氏のブログは、地方から東京への“手紙”」

 後半はローカルニュースの「届け方、見せ方」をテーマに、「新しいローカルメディア」が持つ可能性について話が及び、事例としてリメンバーしまねコロカルローカルニッポンなどがあげられていました。「野菜も地方と東京で売り方が違うように、これらのメディアは地域の情報を東京の人が食べやすいパッケージで作られている例。情報はどのクラスタに届けたいかでみせ方が変わってくる」(藤代)。


 「実は究極な例が、イケダハヤト氏のブログ (※「まだ東京で消耗してるの?」)なのではないか。イケハヤさんのブログは高知から東京ユーザーへの“手紙”。つまり、東京のユーザーが目にとまるような切り口で書いているなと感じる」(岡田)。

 「一方で西日本新聞がFanFunFukuokaをはじめるなど、伝統的なメディア発の取り組みも出てきている」(奈須川)。

「どれだけかき混ぜられるか」がカギ

 質疑応答ではツイッターのハッシュタグを使って参加者から質問を募集し、登壇者が回答していきました。イベントは終盤へ。最後に登壇者がそれぞれの思いを語りました。

 「地方紙の中の人間も、こういったイベントや人とのつながりを通してなどリアルな色々な場に顔を出していって、どう見られているのかの肌感覚や新しいことを知っていく、といった前向きな取り組みをすべきだなと感じました」(與那覇)

 「究極的には、「ローカルメディア」という言葉がなくなっていくのが理想。地方だから、全国だからという対立軸にあてはめる考えは狭すぎる。将来は、区分せずに一緒に考えていくようになっていくべきだと思います」(岡田)

 「地方が衰退していっている中で、自分達の地域の中にこもっていても何も生まれない。新聞がどうのこうの、というよりも、どうやって従来のみせ方やスタイルをかき混ぜていけるかが勝負だと思います。今が正念場だなと思っています。あらゆる人がインターネットで情報発信出来るようになったのだから、あらゆる人がプレイヤー」(藤代)

Yahoo!ニュースからのお知らせ

 7月3日(金)19時、Apple Store 銀座店にて「情報アクセシビリティ:過去、現在、未来 これからのニュースの届け方」と題し、情報とスマートにつながる方法の進化と未来についてパネルディスカッションを開催します。

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