Inside2016.02.10

スマホ時代に生き残るための「再編集」とは? antenna*・博報堂DYメディアパートナーズ・Yahoo!ニュースが見る生活者の今

メディアサービスを運営・分析する担当者らは、生活者とメディア環境の変化をどのように捉え、そしてどのような未来を模索しているのでしょうか――。2月3日、印刷メディアビジネスの総合イベント「page2016」にて行われたカンファレンス「メディアと生活者の関係により 変化するビジネスモデル」の中から、ディスカッションパートの一部をご紹介します。

【出演】(敬称略・写真左から)

情報行動に「40歳の壁」

カンファレンス前半は、キュレーションマガジン antenna*、Yahoo!ニュース、メディア環境研究所、それぞれの立場から見た生活者の傾向などについてプレゼンテーションを実施。最後にプレゼンを行った博報堂DYメディアパートナーズ・吉川氏による「スマホ時代になり、20代女性を中心に、ファストからスローまで情報欲求の緩急幅が拡大している」(下の画像参照)という指摘を皮切りに、後半のディスカッションがスタートしました。

※写真の一部を画像加工しています

吉川 私が先ほど紹介したのはアンダー40の世界です。ファストに情報を摂取してその場で買い物もしてしまうけれど、一方でスローに楽しめる10~15分の短編映画のようなコンテンツもウケているんですね。アンダー40の世界で情報行動の緩急の幅が大きくなってきている。一方でオーバー40では、(前半のプレゼンで)山崎さんから「40代以上のスマホ化が進んでいて、そこがブルーオーシャンになっている」という話があったように、新しい世界が広がっている気がしています。

藤代 「40の壁」が存在すると。

吉川 いずれアンダー40は年をとって新たにオーバー40になります。10~20年後、ファストとスローの緩急の幅をネイティブに持った人がオーバー40を席巻して、さらに現在のスマホネイティブの10代が年をとってきたら、また違う世界になってくると思います。

表に見えるのは一部のクラスタだけ?

山崎 ヤフーの各サービスを見ると、最初は20代女性が中心だったサービスも、中には徐々に年齢層が広がってきているものもあります。一方で、20代の中にもスマホを持っていない人もいて。年代の話だけで切っていくのが難しくなっていると思います。例えば家族構成とか、年代とは違う切り口も見ていく必要があるのかなとも思いますね。

藤代 大学生を見ていても、スマホを使っていない人がいるんですよね。一方で、使っている人はすごくヘビーに使っている。インターネットの調査を見て「こんなにすごいのか」と思うだけでは読み解き方が十分ではないという気がしています。

荒川 日本人全員がFacebookを使っているかというと、そうではないでしょうし。どういうクラスタかはわかりませんが、世のさまざまなサービスのユーザーも、「一定数のある人たち」で成り立っているのではないかと感じることはありますね。新しいものが好きな人はどんどん先に行って、それを追いかける集団もいて。特にアプリやウェブサービスは流行り廃りが激しいので、それをけん引しているのは一定数の人なのかなとも思っていますね。

山崎 Yahoo!ニュースも、本当にコアになっているのは全体の2割位ですね。ユーザーの半分近くは「(何か特別な)ニュースがあった時に訪れる人」。その次に「毎日来る人」や「平日だけ毎日来る人」がいる。数字全体を見てみると、コアなユーザーの数字は一部の人だと思います。

吉川 「2割の壁」って、何となくある感じがしますね。私が生活総研(博報堂生活総合研究所)にいた時もいろいろな項目を調査しましたが、「2割位で頭打ちする項目」と、「2割を抜けていく項目」があったんです。2割を超えると、メジャーになっていく、という感覚はあるのかもしれないなと思いました。
メディア定点調査」でも、モバイルに接している層を世代別にライト・ミドル・ヘビーで分けていますが、今もメジャーなのはライト~ミドル。東京でこの状況なので、地方だとヘビー層はさらに少なくなると考えられます。

山崎 都市部は電車通勤の間にスマホを使いますが、一方で地方は車で通勤して会社で一服する際にスマホを使うとか、生活スタイルが違うとスマホを使うスタイルも違いますよね。

メディアは「再編集」の時代へ

藤代 新聞は半日~1日、週刊誌は1週間、月刊誌なら1カ月というように、ニュースや情報コンテンツというものは「今日出たら終わり」というようにこれまでフロー的な役割が多かったと思います。ですが荒川さんの今日の(前半のプレゼンでの)お話を聞くと、(過去の情報が後になって)もう一度波が起きることもある、と。フローだけではないということですよね。

荒川 (あるレシピサイトで)9月に先行して出たお鍋のニュースを、その後気温がすごく下がった時のタイミングで、うちの編成チームが(antenna*に)出したことがあったんですね。そうしたら(アクセスが)1位になって。情報の出し方によって全然違うムーブメントが起きるんだなと感じました。

藤代 持っているコンテンツのストックを常に編集側が意識して「そういえばこういうのがあったな」とか、データを見比べて出すわけですよね。これまでの編集や編成と全く違うロジックが展開されているなというのが面白いですね。「出したら終わり」じゃなくてどう「再編集」するのかをこれから考えないと、コンテンツは売れない。制作フローから販売まで全部変えないとメディア業界はだめなんだなと。フローも必要ですが、なかなかその先にはいかないというか、ビジネスにはならないと思っていて。「事件・事故のニュースを見て何かを買う」ということはないけれど、「寒いから鍋の情報を見て鍋の具材を買う」ことはある。コンテンツを売るためには、リパッケージして、出口の展開を考えなければいけないと思いますね。

カギは「テクノロジー」と「人の目」

藤代 メディアの世界ではユーザーが複雑になりすぎて、人が認知できる大きさから逸脱してしまっています。(再編集するにしても)1人の人間が全てのストック情報なんて覚えられない。組織体のメディアは、機械学習とデータを組み合わせて、オートマティックな仕組みを入れていかないと勝てないなと思います。

荒川 データに基づいたアルゴリズムや出し分けの仕組みもantenna*は持っていますが、半分くらいは人の目を大事にしています。生活者の側面って変わり続けていて、規則性がないんです。コスメの記事を見ていたユーザーがある日突然車の記事を見始めたり。データはありつつも、それだけじゃない面も求められているのかなと思います。

吉川 結局、「生活者の状況に即して何がベストタイミングで出せるか」ということだと思います。マスを捉えられる軸をどれだけ持てるか。「やっぱり寒い日はお鍋だよね」とか、「朝は皆急いでいるけど夜はゆったりするからスローなコンテンツがいいよね」とか、皆が「そうだよね」と思えるものを、どれだけ持てるかだと思います。

山崎 お2人のおっしゃる通りだと思いますが、例えばYahoo!ニュース(のスタッフ)ですと40代も20代も、男性も女性もいますが、人の力も、同じ世代の人ばかりが集まってジャッジするとミスマッチになってしまうとも思いますね。

ディスカッションは終盤へ。再びスライドを用いながら、それぞれの立場から、既存メディアと連携した取り組み事例や、海外の先進事例などが語られました。参加者からの質疑応答を経て、最後にモデレーターの藤代氏がカンファレンスを締めくくりました。

藤代 スマホ時代のお客さんは「つかめない」というのが1つ大きなキーワードだと思います。ものすごい変化がメディアに起きている中で、従来型のターゲティング・マーケティングが通用するのか。アーカイブをどう使っていくか。多面的なものの「再編集」がこれからものすごく大きなテーマになってくるんだなと思いました。
そして、その「再編集」という言葉は、マスメディアの人たちが思っている「編集」というものと全然違うということです。どういうメディアを組み合わせたら生活者の皆さんとどういう価値を作れるのか、を考えることが重要。これは媒体側のことだけを考えていても、生活者側につきすぎてもダメで。「どういうお客さんと、どういう価値を作りたいか」という編集方針があった上で、生活者と一緒にいろいろなものを作っていくのが、新しいメディアのあり方なのではと思いました。

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