ひとつのビジネスモデルで稼ぎ抜く時代は終わり?――朝日新聞・SmartNews・Yahoo!ニュースが探るメディアの未来像(後編)
2月4~6日、印刷メディアビジネスの総合イベント「page2015」(主催・公益社団法人日本印刷技術協会)が開催されました。当ブログでは、「メディアの未来像を探る」をテーマに行われたカンファレンス(5日実施)でのディスカッションの様子を前編・後編にわたってお伝えします。(前編:スマホ広告がPCを上回る日は近い?――朝日新聞・SmartNews・Yahoo!ニュースが探るメディアの未来像)
【講師】(上の写真左から順に)
片岡裕(ヤフー メディアサービスカンパニー ニュース本部長)
雨森拓児氏(朝日新聞社 メディアラボ 主査)
藤村厚夫氏(スマートニュース 執行役員 メディア事業開発担当)
モデレーター:藤代裕之氏(法政大学/ジャーナリスト)
トークセッションの後半、会場からは、昨年12月にスペインで「Google News」が終了したという話題について質問が飛びました(※参考:「Google News」、スペインで終了へ--「Google税」求める法律可決を受け、出典:CNET Japan)。コンテンツ(ニュース)とプラットフォームの関係は今後どうなっていくのでしょうか。コンテンツを提供する側の朝日新聞、プラットフォーム側のYahoo!ニュースとSmartNewsそれぞれが語りました。
コンテンツとプラットフォームの今と昔
藤村 インターネットの透明性が高くて、ユーザーがあらゆるコンテンツに自分の意思で到達できるという仮説があれば、コンテンツホルダーとユーザーのあいだですべて成立するだろう。ところが現状はそれが難しくなってきていて、求めるコンテンツのなかで最高なモノを割り出す労力が、コンテンツから得られる果実より大きくなりつつある。そこを誰かが担わなければならないと思っている。
藤代 Yahoo!ニュースは配信媒体とどんな関係を築いているのか。
片岡 配信媒体とはまずはベースとして、Yahoo!ニュースの売り上げと連動したレベニューシェアがある。しかしそれだけでは額が小さいという話はあり、2007年から記事の配信元サイトへの関連リンクを設置させていただいた。 Yahoo! JAPANのトップから記事をみて、配信元サイトに遷移するという流れだ。さらに2014年には「コンテンツディスカバリー」という仕組みを導入し、配信元にもっとトラフィックを送ったり、回遊したりする仕組みになっている。
藤代 コンテンツを提供する側としての意見は。
雨森 以前は買い切りでのコンテンツ配信が中心だったので、ぶっちゃけて言うと取材にかかる費用と比較して、もう少しお金をちょうだいできたらいいなというのがあった。しかし最近はYahoo!ニュースやSmartNewsに限らず、コンテンツプロバイダーへ何か還元できないかと考えてくれるサービス会社さんがいらっしゃるので、価格への考え方は変わってきたのかなと思う。ただし我々の努力なしに価格があがることはないので、努力していかないといけない。
ひとつのビジネスモデルで稼ぎ抜く時代は終わり?
これからのコンテンツ(ニュース)のあり方については“出して終わり”ではなく、価値を生み出し続ける“工夫”が求められる――という意見が出ました。
藤村 コンテンツというものは人に見せないと価値を産まない。コンテンツはある種フォーマットに包まれることでリアルな存在になるわけだが、印刷物でもデジタルでも音声でも映像でもいいので、多様な形で価値を産ませる方法を早く考えないと――と思う。
コンテンツを出す・出さないという話をいくらしても、隠してうまくいったんですかと。むしろ、ひとつのコンテンツにさまざまな表現方法を与えることで3回、4回と稼いでいく方向が重要なテーマ。コンテンツはひとつのビジネスモデルで稼ぎ抜く時代から、いろんな形で稼ぎを積み上げる時代に入ってきているんじゃないか。
藤代 新聞記者は記事を出した瞬間が最高でコンテンツの価値は下がり続けると思っているかもしれないが、ソーシャルの時代はコンテンツを出してから価値が上がり続けると思う。コンテンツを出した後、いろんな人に手渡してコラボレーションしながら、雪だるまみたいに大きくしていくのがこれからのメディアビジネスではないか。
藤村 評論家アルビン・トフラーの「富の未来」という本のなかで、コンテンツは何が今までの時代と違うのかについて、「いくら複製しても劣化しないんだ」と言っている。
劣化しないもの(コンテンツ)を中核に置き、多様な形で使っていけば、方向によっては5年後10年後も使えるようになるはずだが、いまはニュースというと旬でないと意味がないとなってしまっていて、たちまち死蔵してしまう。そこはうまいやり方があるんじゃないか。SmartNewsのように、コンテンツを作らずに運ぶところでビジネスを考えている立場からすると、いろんなアプローチがあるんじゃないかなと。
紙の文字やレイアウトの技術をデジタルにも生かす
印刷業界のイベント「page2015」でのパネルディスカッションということもあり、最後は「紙とメディア」について話題がおよびました。
藤代 これからのメディアは、紙をどういう風に使ったら面白いと思いますか。
片岡 わたし自身は雑誌が大好きだし、本は紙で買うんです。思い入れが強い本は残しておきたいし、雑誌もパッケージとして、特集としての価値を紙で残しておきたいという思いが個人としてはある。ネットはコンテンツを個別に――新聞という形ではなく記事として――届けるという性質があるが、これが例えばネットでも“特集”をやっていくとすると、残すときは紙にするというように連鎖していくこともあると思う。ネットと紙は対極にあるというより近づいていけるのではないか。
藤村 デジタルのメディアの人は本当に印刷のことが分からなくなっている。SmartNewsでは文字のカーニングなどを一生懸命やっているが、組版の用語を使うとネットでは全然理解してもらえない(笑)。
雨森 私たちは大量に紙を刷っていますので、そこはやれるところまで継続するのは変わらない。ただ技術は進んでいて、少ないインクできれいな印刷もできるようになっている。大きく刷って大量に配るというような紙だからできることへのニーズはあるだろう。また例えば電子ペーパーに紙の機能を置き換えていくようなとき、文字やレイアウトなど紙で培った経験に基づく見やすさ、ユーザーフレンドリーさは生かしていけるのではないか。
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