Media Watch2017.02.27

NHKを見ない「普通の人」に届けたい――。「ねほりんぱほりん」は攻めてない、新しくて当たり前の番組作りとは

きわどいテーマを根掘り葉掘り聞く、大人の人形劇。NHK・Eテレのトーク番組「ねほりんぱほりん」がさまざまなメディアに取り上げられ、注目されています。放送のたびにTwitterでは多くの人がツイートし、最多記録は1回の放送中に約3万8千件。トレンドにも挙がるのに、視聴率は1%未満という不思議な現象が起きています。こんな現象が起きた番組の背景には「以前ほどテレビを見なくなってしまった人たち」の存在があるようです。番組の制作に関わる、ディレクターの藤江千紘さんとデスクの萩島昌平さんに聞きました。

藤江千紘さん
「ねほりんぱほりん」ディレクター
萩島昌平さん
「ねほりんぱほりん」デスク

テレビを見ない人はネットユーザーではなく「普通の人」


左がMCのねほりん(山里亮太さん)、右がぱほりん(YOUさん)

――どのような経緯で番組ができたのですか

萩島さん
NHKでは、59歳以下の視聴率を問題視していて、若い世代にも見てもらえるような番組作りが求められています。実は、59歳以下に年齢を絞ると、民放も含めた全番組の視聴率のトップ100にNHKが毎週3~5番組くらいしか入ってない。世帯視聴率では週間視聴率トップ10にいくつか入っている気がするんだけど、年代別に分けると、ありがたいんですが高齢の方が中心です。テレビが生活習慣からなくなった人にどう届けるのか。話題になるとはどういうことか、どんな数字があればテレビ局として「よかった」となるのか、まさに今、その指標をトライアンドエラーしながら見つけている段階です。

――意外な結果です

萩島さん
NHK局内でも衝撃だったと思います。昔は年齢を重ねるとNHKを見るようになっていたのが、経年で追跡調査するとそのパーセントが上がらないとだんだんなってきたんです。

――20代30代は

藤江さん
その世代は1週間のうち、NHKを見ている人が数%という数字が出ました。

――番組の企画当初から、テレビを持っていない、見ていない人=ネットユーザーというのは結びついていたんですか

藤江さん
私の同世代の友達は、テレビを持っていない、ネットしか見ていないという人はすごく多いです。「ネットユーザー」とくくられるような一定層の人というより普通の人がそうなんです。みんな忙しくってテレビよりSNSで情報収集する時代。どうやったら自分と同じ20代30代の女友達が家に帰って見てみよう、SNSで面白かったとつぶやこうと思ってもらえる番組にできるかなって考えました。

――最初からネット、スマホ、SNSというのはキーワードだったのですね

藤江さん
そうですね。NHK局内では最初、「見たところでなんの得がある番組なの」って言われたりもしたんですが(笑)。友達についSNSで共有したくなるような話題を提供できる番組にしたかったんです。


ラジオブースで録音したゲストとMCのトークに人形の動きをつける


――「ねほりんぱほりん」の視聴率は1%未満と聞きましたが、NHKオンデマンドでの視聴数は数字が好調などの特徴はありますか

萩島さん
NHKオンデマンドでも目立っていいというほどではありません。視聴率で若い人の数字がぐいぐい伸びているということもないです。 Eテレの番組だけれどTwitterでトレンドに挙がる、しかし視聴率的にみるとほとんど誤差の範囲内。一方で実感として、同じ世代に見てるよと声をかけられたり、MCの山里亮太さんやYOUさんも周りの人から面白いねと言われる。これをどう評価していくか…。

――数字と体感が違いますか

藤江さん
違いますね。

YOUさんは毎回テーマもゲストも知らず、本番で初めて知るという

やってこなかったことではなく、NHKだからできることを

――最初に番組を発案されたのは藤江さんですか

藤江さん
はい。普段、ネットしか見ていない人に見てもらうということを考えて、最初は、人気ブロガーやネット上の論客が自由にトークする番組を考えました。テレビで顔出しをして話すとネット上よりも発言が丸まっちゃうから、ぬいぐるみにして出演してもらっちゃう?みたいな形で。
そこで実際に、ブロガー数十人に話を聞きに行って「ネットって何が面白いんですか」「テレビをどうご覧になってますか」とリサーチしました。
その中で「ネットにあるものをテレビに持ってくるのではなくて、誰も知らなかったことをNHKならではの深い取材力で見つけてきたほうが、普段ネットを見ている人はざわつくよ」とおっしゃった人がいました。人形のアイデアを生かしたまま、テレビで顔出しできない人に出てもらい、ネット上でちょっと話題になっていたり、うわさでは聞くけど本当はどうなの?ということや、気にはなるけど今まで誰も正面切って取り上げてこなかったようなことをあえてNHKが丹念に取材する番組をできないかと考えました。

ブタは「タブーを話す」のオヤジギャグから。モザイクは悪いことをしているイメージがして嫌だった

――「偽装キラキラ女子」や「地下アイドル」のように言葉では知っているけど、イメージだけで詳しくは知らない。「元薬物中毒者」もそうですが、イメージ先行型のようなテーマをあえて選んでいるのですか

藤江さん
そうですね。なんとなくのイメージはあるけれど、よく話を聞いてみると実は意外な思いやその人ならではの考え方、今の時代を反映した価値観が浮き上がってくるかもしれない、というものをテーマにすることが多いです。
例えば「薬物中毒者」のように、ジャーナルな取り上げ方や更正までを追うドキュメンタリーということではなくて、「実際にやってみたらどうなっちゃうの?」「彼氏や家族はどうなった?」というような、ひらたい視点や興味ではあまり取り上げられたことのないものを選んでいます。

――表に出てこないはずの人に出て話してもらうのは大変ではないですか。例えば「プロ彼女」は、表に絶対に出てこないという部分も「プロ」ですよね

藤江さん
「プロ彼女」のゲストは、有名人と付き合っていることを人には秘密にしている分、話を聞いて欲しいという気持ちがあったのではないかと思います。ただ、心を許してもらえる関係を築くまで、雑談から始めて、生い立ちの話、家族の話、自分のコンプレックスや他にどんな人と付き合ったかなど、とことん聞きました。メールや電話でも何度もやりとりして、会って話すだけで20時間くらい。そして、あなたのこういうところがステキだから話して欲しいと伝えました。
本当に日本代表のスポーツ選手と付き合っていたか、証拠となる過去のメールのやりとりや2ショットの写真も見せてもらったり、印象的な回でした。

ブタの登場シーン。セット裏側から見ると…


――ここは話さなくていいと決めることは

藤江さん
この話をすると、この人と付き合っていたか分かってしまうことや本人がどこに所属していたかバレてしまう、など本人の特定につながる話は全部教えてもらって番組に出さないようにしています。一番大事なのはゲストを守ることなので。

――まさにドキュメンタリーの手法ですね

藤江さん
人形が気ままに話す番組で作るのは楽そうだねと言われることもあるんですが、他のドキュメンタリーの取材以上に取材はちゃんとしています。匿名だから、つこうと思えばいくらでもウソがつけちゃうので、複数のディレクターで取材して、複眼的にみて大丈夫かなと確認しています。

――取材はしたけど、放送には出てくれずお蔵入りということは

藤江さん
たくさんあります。昨年の1月ごろから20~30くらいテーマを走らせてリサーチしていて、ゲストが見つかった順番で放送しています。

セットの下でモニターを見ながら動かす

――ネットでウケる=特別なことをしなくちゃいけないと考える人も多いと思いますが、今までの番組とまったく違うことをしている感覚はありますか

藤江さん
番組が固まるまでは「ネットっぽい何か」を、その何かは分からないけれど、しなければいけないと思っていました。でも今は、シンプルに知らないことを知りたい、聞いたことがないことに触れてワクワクしたい、という欲求を一番大切に作っています。SNSで拡散しやすい仕組みも考えますが、基本は、知らないことを丹念に取材して、発見したことやその人ならではの考え方、生きざま、価値観を突き詰めて出しているだけなんです。奇をてらっているわけじゃなく、ドキュメンタリーを作っていたときとやっていることは同じです。

テーマによって人形を加工する。つけまつげを付けているところ

Twitterの公式アカウントで放送中に実況、そのテクニックとは

Twitterの公式アカウントでは、番組の放送中に内容を実況、放送後には5分にまとめた動画も投稿しています。

――テクニックはありますか

萩島さん
単純に、どうしたらSNSを使いながらテレビを見るのに便利かなと考えています。
萩島さん
デジタルマーケティングが専門の「電通デジタル」に協力してもらい、毎回Twitterのつぶやきの実数を測っています。
毎回一番大きな波になるのが放送直後。放送が終わった瞬間や終わる直前の余韻があるなかでの感想ツイートです。
当たり前かもしれませんが、グラフを見て初めて分かりました。これを知らなかったら、放送前に「始まるよ、見てね」とつぶやいてあとは放置していたかもしれません。この波に乗せていくため、トレンドに挙がって「ねほりんぱほりん」を知った人が検索して見られるよう、実況ツイートの最後に5分動画を投稿します。

ゲストの衣装は、子供服をサイズを詰めて作成するほか、着用した服の写真をもとに一から製作

――ネットでの反響というのはTwitterが基準ですか

藤江さん
Twitterを中心にSNSでの反響は大きいです。でも、ツイート量がたくさんあるから、この番組はいいねという指標はNHK局内にはないので、視聴率だけの基準から新しい指標を作ろうとしている最中みたいです。
萩島さん
しつこいくらいTwitterで実況しているのも、ユーザーのタイムラインに番組の話題が出てくるようにしたいから。テレビを持たない若い人がTwitterで番組を知ったときに、スマホの中だけで番組内容に触れられるようにと考えています。

――人がいるところに行くということですね

萩島さん
今までテレビを見てもらうための広告や施策はやってきましたが、見た後で話題にしたくなったときに、番組内容を知ったり、シェアするための道具には力を注いでこなかった。素材があると使ってくれますし、番組を好きになってくれる人もいるかもしれない。チャンスを広げる感覚です。


セットや小道具にも遊び心がたくさんつまっている


――放送をキャプチャーした画像を公式アカウントでツイートされていますね

萩島さん
バラエティー番組でうまくその瞬間をキャプチャーしてつぶやくユーザーが多かったので、公式アカウントのタイムラインにすでに画像があれば、便利かもしれないと思いました。
藤江さん
番組として、ゲストの人ならではの言葉だから大事にしたい、強調したいという言葉と、SNSでシェアしたいと思ってもらえる言葉が一致する傾向があるようです。その言葉を画像で切り出して公式アカウントでツイートしたら、番組を見た人もリツイートしやすいんじゃないかなと。
萩島さん
多くリツイートされたのが、「ナンパ教室に通う男」の回でのYOUさんの言葉。

萩島さん
この言葉に今の時代、救われる人もいるんだろうなと感じました。ですが、これはすごく「とんがった」言葉ではないですよね。
SNSで広がるタイミングはどこかというのは戦略的にやっていますが、出てくる言葉をネット用に変えたり、YOUさんに「過激なことを言ってください、こういうのがバズります」と頼んだりはしてないです。 僕らがネットってこういうの好きだよねって思考になると、ずれてくるので。聞きたい言葉や話したい言葉は、実生活と変わらないと思っています。

「なんで?」から「そんで?」にヒント

――ブレーキが効かなくなって、ネットにこび過ぎじゃない?という事態にもなりかねないと思うのですが、そこはどう制御していますか

藤江さん
例えば「地下アイドル」の回では「セフレ」や「枕営業」といった下ネタのような言葉が出てきて賛否あったと思いますが、番組として、そういう言葉を出すこと自体が攻めてるでしょってなった瞬間終わりだと思っています。

藤江さん
ファンとのギリギリ距離感で、お金稼がなければいけない、アイドルを続けるためにこれしかないと必死に考えている地下アイドルがいて、彼女たちの生きざまを描くうえで、必要なキーワードだと判断したから「セフレ」や「枕営業」という言葉を使っただけ。その先にある本質を描かずに、扇情的に過激な言葉を使ったり、ネットをあおる意識で番組を作らないよう心がけています。

――ジャーナリズム・イノベーション・アワード」に出展されましたが、この意図は

藤江さん
報道局の人が誘ってくれたんです。その界隈で「ねほりんぱほりん」の名前をよく聞くから出したらって言ってくれて。
萩島さん
これは新しいジャーナリズムだ、という形で出展したわけでは全然ないです(笑)。

ジャーナリズム・イノベーション・アワードの出展の様子

萩島さん
「ジャーナリズム・イノベーション・アワード」でも感じたのですが、NHKや他のメディアの取材では「なんであなたはこういうことをしたんですか」っていう意味を問う聞き方をします。うちの番組ではYOUさんがよく言いますが、「そんでどうなったの」って聞くんです。そういう視点がネットの新しいジャーナリストたちの感覚と近いのかな。伝える意義を求めるというより、みんなそう思ってるけど実は違うんじゃない?って投げかけるのも1つの形なのかと感じています。
番組の編集も終わりに「。」をつけないよう心がけています。例えば「高収入の男性と結婚ができてよかったね」というような答えはこっちから出さず、あとは番組を見た人がお好きに話してくださいと。


人形の撮影だけで1日半~2日かかるそう
藤江さん
番組に出てくるゲストは自分とは遠い世界にいる人ではなく、自分と地続きなんだと感じて欲しいです。意味や意義をゴールにするのではなくて、友達から恋バナを聞く感覚で、どう話が転がるか分からないのをワクワク楽しんでインタビューしたい。悪いと言われている人でもかわいかったり、面白かったり、情けなかったり、愛おしかったりする。そういう多面的な部分も全部ひっくるめて「ニンゲンっておもしろい」って気持ちに、番組を見る人がなってくれたらいいなと思いますし、私もそう思って取材しています。

Yahoo!ニュース news HACK編集部

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