Media Watch2015.07.27

「コンピューターおばあちゃん」と呼ばないで~フォロワー5万4千人・81歳ミゾイキクコさんが語るインターネット愛

 ミゾイキクコさんという女性をご存知でしょうか。80代では珍しく、パソコンやタブレット端末を使いこなし、ツイッター(@kikutomatu)で多数のフォロワー(2015年7月現在、5万4千人超)を抱えるインターネットユーザーです。メディアで「コンピューターおばあちゃん」と紹介されることもあり、見たことがあるという方もいらっしゃるかもしれません。
 そんなミゾイさんのツイートを追ってみると、Yahoo!ニュースをご利用いただいていることが判明。気になるユーザーの素顔をのぞいてみたい……!との好奇心を胸に、Yahoo!ニュースアプリ責任者の河野清宣(写真右)と当ブログのスタッフが、ミゾイさんのお宅にお邪魔してきました。ミゾイさんが語った、インターネットと情報発信への思いとは――。

溝井喜久子(みぞい・きくこ)
1934(昭和9)年生まれ、81歳。埼玉県東松山市在住。11歳の時、太平洋戦争の終戦を迎える。中学時代、ノーベル賞を受賞した湯川英樹博士や、キュリー夫人に憧れて理系の道を志す。お茶の水女子大学理学部卒業後、高校教諭(生物)に。26歳の時、結婚を機に退職。2人の息子と小学生の孫2人がいる。2010年1月からツイッターを始め、フォロワーは2015年7月現在5万4千人、総ツイート数は13万7500。

64歳のとき、独学でホームページを作成

――溝井さんの年齢で、ここまでツイッターを使っている人って珍しいですよね。息子さんやお孫さんに教わっているんですか?

溝井 いえ、独学ですよ。インターネットとの出会いは2001年ごろですね。64歳のころパソコンを始めて、1年くらいして自分のホームページを作るようになって。ほら、その頃はプロバイダが一定量だけサーバを貸してくれて、みんながHPつくって写真載せたりして自慢げに見せたりする時代だったじゃない。それで私も作ってみたくなって、ホームページビルダーを買って……。今はクラウドで写真でも何でも共有できる時代になりましたけどね。

――てっきり、周囲の若い人にすすめられてはじめたのかと思っていました。実は筋金入りのインターネットユーザーだったんですね。

溝井 もともと、人がやらないことや新しいものが好きな性格なんです。

――どこで勉強したんですか?

溝井 本ですね。今もこういった本を見て使い方を勉強してます。家族もそこまで詳しくないので。自分で勉強して覚えました。

――同年代の方は溝井さんのこと、どう見ていますか。

溝井 「こんなのやらなくても私困らないから」という人もいますし、一方で「私もやろうかな」と興味を持ってくれる人もいますね。私と同世代の人がインターネットに出会うか出会わないかって、「環境」が大きいなと思いますね。周りにインターネットをやっている人がいないコミュニティにいると、なんだか小難しいことのようにに思えて「いらないよね」ってなるし、近くにやっている人がいれば「私もやってみようかな」って興味を持ってくれますし。あとはやる気の問題でしょうねぇ。面白かったら、どんなに目が悪くなろうが肩がころうが、続けるもんなんですよ。私も目も悪いし肩もこるけど、面白いからずっと続けているんです。

世のお年寄りが、アプリを使えない理由

――所有している端末を見せてもらってもいいですか?

溝井 今持っているのは11台くらいですね。iPadは息子から母の日のプレゼントで貰って、あとは自分で選んで買ったものですね。iPad、Kindle、Surfaceは画面が大きいので良く使います。一番使いやすいのは、iPadですね。寝ころがりながら見るときはiPod touch。

――電話はスマホですか?

溝井 (スマホではなく)普通の携帯電話ですね。完全に電話だけのために使っています。家の固定電話はほぼ出ないです。ほら、オレオレ詐欺の電話がかかってくるでしょ。

――たしかに……。

溝井 高齢者こそこうした機械を使えるようになったほうがいいのになと思いますね。ほら、年をとるとどんどん体が動かなくなってくるから。指ひとつで本も読めるし、買い物もできるし、情報も得られる。オレオレ詐欺の電話もかかってこない(笑)。

――高齢者の方々にとって、どのような点が(インターネットを使う上での)ハードルになっているのでしょうか。

溝井 一般的な私の世代だと、気になるのはやっぱり費用(の高さ)じゃないですかね。通信費とか購入費とか。年金暮らしなので無駄遣いできない。機能は最小限でいいんです。高いと、買ってみて使えなかったら無駄になってしまうからどうしよう、と思う人が多いんですよね。あとは、操作するときのスピードは速いほうがいいですね。年寄りは気が短いから……。

――なるほど。Yahoo!ニュースアプリでも、起動のスピードとか記事を読み込むスピードは0.1秒単位で何とか縮まらないかと普段苦労していますが、溝井さんの世代にとっては特にそこが重要なポイントなんですね。

溝井 そうそう。それが年寄りにとっては肝心なんです。あとは、カタカナ語は年寄りはダメですね。信じられないかもしれませんけど、世のお年寄りは、アプリつかうにも「ダウンロードして」って言われただけで、なんだかすごく難しいことをするような気持ちになるんですよ。若い人はあまりにも慣れすぎてしまっているんだけど、年寄りにとっては異次元の話にきこえてしまうんですよね。

――実際にやってみると簡単なのに、用語だけで壁を感じてアプリを使えていないと。

溝井 そうなんですよ。だからそこの障害を取り払ってくれたら、お年寄りも気軽に使えるようになると思うんです。インターネットって海外からやってきたものだから、まぁ仕方ないんですけどねぇ。

情報を得るために、情報を発信する

溝井さんのiPadのホーム画面。「自分の好きなようにカスタマイズできるから、楽しい」。

――それにしても、溝井さんは毎日かなりの数をツイートしてますよね。なぜ5年以上も毎日、発信し続けることが出来るんですか。

溝井 結局は、楽しいからですね。楽しくなきゃ続けていられない。私のつぶやいたことに対して、反応が得られたり、共感を得ることができたり。自分の中の引き出しに何十年と溜め込んでたものが沢山あるので、つぶやくネタがないことなんて、起こらないんです。昔なんて、自分の考えをどこかに書いて公表する、ということ自体が普通の人にはできないことでしたから。でもツイッターなら無料ですぐできる。
 何か言いたい、となると昔は本を出すくらいの手段しかなかったですし、本は経費かけて出したものだから売れないと困る、とか考えないといけないですよね。でもツイッターなら読もうが読まれなかろうが、自由ですから。戦時中は、広島に原爆が落ちたあとはなんかは、ラジオでも新聞でもほとんど様子は伝えられていなかった。皆が知ったら戦意喪失しちゃうんじゃないかと情報が公表されていなかったのかなと、今になって思うことはありますね。

――今なら、誰もがツイッターで発信できますよね。

溝井 情報を隠そうにも隠せない時代になりましたよね。個人でどんどん写真でも何でも発信できる時代になりましたから。インターネットは情報を得るにも重要なツールですし、発信するにも便利ですし。情報を発信することって、発信するだけじゃなくて、自分が情報を得られるというメリットもあるんですよね。
 例えば、今は結婚や離婚にまつわる話をツイートすることが多いですが、「こう思っている人って、実は多いんじゃないかな」と普段感じていて確証を得てみたいことをツイートすると、「私はこう思う」とか「同感です」とか、「実際に私の家ではこういうことがあった」とか、実際に経験したことのある人や同じことを思っていた人からのリプライが来る。皆さんが心の中で感じてるけどなかなか表ではいいにくいことを投げてみると、「実は私も」とか、人が意見を言いやすくなる環境が出来るんです。

――議論になりそうなテーマをあえて自分から発信することで、反応があって、自分も新たな情報を得られる、と。

溝井 そうですね。

「死ねゴミ老害」も、気にしない

――一方で、インターネットの世界って、中傷するような言葉も溢れていますよね。心が折れたりしなかったんですか。

溝井 はじめは、「死ねゴミ老害」なんて言ってくる人もいて、びっくりしたこともありましたね。でも、ツイッターに慣れてきて、今はそういう人はブロックすればいいやと思うようになりました。最近は、「死ねゴミ老害」みたいなことをいわれても、茶化してやろうかと考えて、あえてRTしたりしています。

――そのテクニック、かなり上級者ですね。

溝井 一つ一つにカッカしていても、しょうがないですから。

――そういう中傷ツイートをしてくる人のこと、どう思いますか。

溝井 不幸せな方なんだと思いますね。受け入れてくれる人が周りにいないのかな、って。気の毒に思いますね。

――ちなみに、どんな人をフォローしているんですか。

溝井 人生経験あるなぁと思った人ですね。

――とはいえ、ミゾイさん以上に人生経験豊富なひとって、なかなかいないのでは?

溝井 そんなことぜんぜんないんですよ。人は年齢じゃないです。その道に精通しているプロとか、何かに詳しい人とか、人生経験豊富だなと思います。

ニュースはコメントをつけずにつぶやく

自宅の庭で育てた野菜の写真を撮影し、画像つきでツイートすることも

――Yahoo!ニュースをつぶやいてくれていることもありますよね。どのような視点でツイートしているのですか。

溝井 コメントをつけずにニュースだけつぶやくことが多いですね。自分の意見を添えてしまうと、反対の意見を持つ人は、意見を述べにくくなってしまうこともあるんです。だから、まずは中立的な立場で素のままニュースを流すことが多いですね。すると、考えが違う人も反応してくれる。
 政治の話題については、あまりツイッターではつぶやかないようにしています。反応が大変なことになるので……。私の場合は、茶飲み話のネタになるようなニュースをツイートしていますね。あとは、株をやっているので、経済ネタをツイートしたりすることもあります。

――ニュースやツイッターをチェックするサイクルは。

溝井 まずは朝起きてツイッター開いて、@にきているものに返事をして。次に、自分の考えをつぶやきます。そして次に、情報収集をして、いいものがあればアップする。夜中に目が覚めてもツイッター見てますね。だから眠れなくても辛いとおもうことはないんです。目が覚めたらツイッターができるから、眠れないときも辛いなんて思わない。眠れなくて困ったことなんて、ないんです。

――それ、完全にツイ廃じゃないですか(笑)

「コンピューターおばあちゃん」と呼ばないで

――ツイッターをきっかけに、インターネット界隈では、「コンピューターおばあちゃん」と呼ばれてちょっとした有名人になってますが、どう思いますか?

溝井 自分自身は「おばあちゃん」って思ってないんですよね(笑)。おばあちゃん、じゃなくて出来れば「ミゾイさん」、って呼んでほしいですね。世間では、80歳っていうのはヨレヨレのイメージなんでしょうね。たまに、おばあちゃんのなりすましかと思われたりしているんですよ。「偽者なんじゃないか」「本当にいたんだ」って言われることもあります(笑)。

――溝井さんが、インターネットにかける思いって、なんでしょう。

溝井 私より10歳も上になると、ちょうど大人になってからとか、結婚する年ぐらいに戦争を経験しているんですよね。婚約者が戦死してしまったり、結婚していた人は未亡人になったり。そういう人たちがインターネットで発信してくれるようになれば、一番参考になるなと思うんですよね。私のときは子どもだったし、幸い両親も生きていた。なのでまだそこまで当時は悲痛という感情がわかなかったので、戦争のことをつぶやこうにも私の場合、人から聞いた話になってしまうんですよね。
 私の周囲の人を見ていると、70年経って、ようやく当時のことを口に出す人もいるんです。でも高齢で、発表するすべをもたないんですよ。遠くの人までとどかない。若い人と、年の離れた人が、インターネット上でつながれるようになればいいですね。

――色々と宿題をいただいたような気がします。ありがとうございました。

インタビューを終えて

 年齢を感じさせないパワフルな姿と、ツイッター越しではこれまで見えなかった溝井さんの深い“インターネット愛”に、終始圧倒されていたスタッフ一同。インタビューを終え、あらためてYahoo!ニュースアプリ責任者の河野に聞きました。

河野 インターネットの良さは、自己表現を通じて得られる反応が無限の可能性を秘めている点です。しかも双方向に。溝井さんは「情報発信の引き出しが尽きることがない」といい、なぜなら自らの情報発信による反応から新たな情報を取得し続けていて、何よりそれが"面白い"からだといいます。これだけインターネット利用の健全なサイクルを持ち合わせていれば、この先も溝井さんから「名言」は枯渇するどころか磨かれ続けるんだろうなと。
 そんな高リテラシーの溝井さんですが、一方でインターネットに入れない同世代の方々の"通訳"の立場からも、貴重なご意見をいただけました。スマホを使うのもアプリを使うのも一度やってみれば簡単なことなのですが、例えば「ダウンロード」という言葉だけがインターネットへの入口を遮断しているケースもあるという点。Yahoo!ニュースはターゲット層を選ばずに幅広い年代の方々に情報を届け続けてきたので、これからも時代の変化とともにおもてなしの工夫も変化させ続けていく必要があると実感しました。
 インターネットの醍醐味は、人々が自己表現や考えを介して新たな人と出会えることだと思いますし、共感できる人や尊敬できる人や目標となる人と出会えることで、人は成長することができます。Yahoo!ニュースも訪れる人と良質な情報をつなぎ、そして人と良質な情報を発信している人をつなぎ、結果として溝井さんがおっしゃっていた「若い人と、年の離れた人が、インターネット上でつながれるよう」な世界をYahoo! JAPANで築いていければと考えています。

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