Media Watch2015.12.09

ネット空間での課題解決って、本当に必要?~ネット論壇著名人らが語る炎上・言論・メディア【上】

Yahoo!ニュースは12月1日、「『Yahoo!ニュース 個人』オーサーカンファレンス2015」を開催しました。当ブログではその中で行われたパネルディスカッションの模様を前後編にわたってお届けします。
テーマは「社会の課題解決に向け、ネットの発信が果たす役割は」。「Yahoo!ニュース 個人」オーサーら約200人の参加者を前に、ネット論壇で活躍するパネリストの方々は何を語ったのでしょうか。

【出演】(敬称略)

  • 内田良(名古屋大学大学院教育発達科学研究科・准教授)
  • 江川紹子(ジャーナリスト)
  • 松谷創一郎(ライター、リサーチャー)
  • 山本一郎(個人投資家)
  • 岡田聡(「Yahoo!ニュース 個人」・責任者)
  • [モデレーター]ショーン・マクアードル川上(経営コンサルタント)

組体操問題、最初は批判ばかりだった

ショーン メディアと言論について、内田さん自身はどういう変化を感じていますか?

内田 組体操について問題提起したのは去年の5月の運動会シーズン、そして9月だったのですが、最初の5月の時は心が折れる位、批判ばかりでした。本当にしんどいくらい。でも、同じことを新たなエビデンスを出しながら、マスコミの方にも協力してもらいながら、出し続けると、変わってくるんです。皆、慣れてきて、見ようとしてくれる。それはすごく大きな変化だなと思いました。むしろ学校のほうが変わらなかったぐらいで。

ショーン 「とくダネ!」でも組体操問題やりました。

山本 大反響でしたね。

ショーン 私も、当初「いいじゃないか」という側にいながらも、いろいろとレポートがされていく中で「7メートル・200キロ」(※参考:組体操 高さ7m、1人の生徒に200kg超の負荷 10段・11段…それでも巨大化▽組体操リスク(3))という数字が見える化された途端に、「これは」と。

山本 自分も小学校時代、組体操でけがをしていて。あの時は自分が悪かったと思っていた。昔は当たり前のことだったので何の疑問もなかったけれど、後から気付かされた。メディアの力で証拠を出しながら突き進んでいくというのは大事なのかなと思いましたね。

オウム事件当時にSNSがあったら?

ショーン 江川さんは、オウム問題を最前線の現場で取材していた時代に、スマートフォンやネット空間があったら、何か違ったと思いますか。

江川 もしそうだったらオウムがそれを随分使ったと思いますね。ISがネットを利用しているように、SNSをオウムが人を集めるのに利用しただろうなと。

ショーン 問題の究明をして罪を裁くというプロセスは、ネットがあればもっと速いスピードで進んだと思いますか。

江川 どうでしょうね。(オウムは)私が行っても記者会見に入れない、情報もみせない、というようにしていましたし、常に訴訟リスクを抱えているので、一人の力ではなかなかできないこともあって。例えば私がいろいろな情報を聞くと、それを当時の週刊誌のスタッフが全国に裏付けに走ってくれた。「やっぱり確認取れないから(記事にするのは)やめておこう」ということもある。そういう作業の積み重ねで通ったものだけが(記事として世に)出ているので、裁判起こされても勝てる自信があった。記事の本数はもちろん少ないし、(出稿の)ペースもゆっくりなんですけど、確実性や信頼性はあったのかなという感じはするんですね。当時私は週刊文春やFOCUSに書いていましたが、そこよりもさらに信頼度の高いメディアは踏み込まなかったので、(オウム問題については)時間がかかったのかなという感じはします。

ショーン 松谷さんはいろいろな「記号」に意味を与えてくれた人と思います。マスメディアとネットでの言論空間について、どのようにお感じですか。

松谷 ネット以前のマスメディアというのは、ニュースがあってマスコミが選別して出してくれる「ゲートキーパー」と呼ばれていた。一方で問題が拾えずに可視化されなかったこともあった。「オーマイニュース」は日本ではうまくいかなかったが、韓国では今でも大きな役割を果たしている。日本においてのオーマイニュースの役割って、今年では内田さんがやられたことなんじゃないかなと。「Yahoo!ニュース 個人」もマスメディアの一つともいえるかもしれませんが、ある意味で韓国でのオーマイニュースのような役割を果たしているのではないかなと。

山本 松谷さんは「絶歌」について書かれるなど結構いろいろな範囲を広く捉えられていて。どういうところに着眼しておられるのか。例えば江川さんがSEALDsのことを書かれるにあたっても「江川さんはこういうことに興味持ってらっしゃるのだな」とストレートに理解できるのですが、松谷さんは守備範囲が広いように見える。

松谷 私は「SPA!」や「日経エンタテインメント!」といった商業誌でずっと仕事をしてきたライターで、商業誌で振られた仕事をとにかく打ってきた。「Yahoo!ニュース 個人」では折々おきている社会問題を自分が出来る範囲内で自分で打っています。

山本 ジャーナルからオピニオンまで、幅広いものを「Yahoo!ニュース 個人」で扱っていく中で、どっちに振っていけば問題解決に進むのだろうか、と掘り方について考えることがあって。例えば「見える化しましょう」というのはエビデンスベースで実態を突き詰めていくことじゃないですか。一方でギャル(※参考:「ギャルはこのまま終わるのか?――相次ぐギャル雑誌の休刊とギャルの激減」)は、過去のものを横に並べてみて、自分なりに方向性を見つけて執筆する。どちらが社会解決に作用するのかなというのは自分の中でも整理がつかないところ。

ネット空間での課題“解決”って、本当に必要?

ショーン 社会問題の解決はネットでの言論空間で必ずしもしなければいけないのか、というと私はそうでもないような気もするのですが、そのあたり内田さんどうでしょう。絶対に社会問題を解決しないといけないのでしょうか。

内田 それはよく感じますね。エビデンスを使って発見して示すと、典型的な反論は「解決策を示せ」と。たぶんそれは僕が出したものに対してカチンと来た時の決まり文句の批判。「僕が解決策だして教育現場は動いてくれるのか」と言いたいのだけれども(苦笑)。まずは見せること、その積み重ねの先に解決の可能性はあるけれど、ひとりひとりの情報発信者が解決まで考えて全てを行うのは責務が大きすぎるのではないかなと。

山本 皆さん普通に働いている中で、違和感や不合理を感じてるはず。ただご自身の立場とか組織での役割の中で黙っていることって、結構ある。それが例えば「ブラック企業」という形で表にでてきたりだとか、もしくは業界の中での不透明な慣習として出てきたりとか。いろいろあるんですね。実はそれは、それぞれ皆が当事者なので、メディアがとりあげてくれなければ皆が知らないというのではなくて、ある程度リスクを甘受できるのであれば、意外と簡単に発信できるはずなんですよ。

「材料を提供する」ところまででもいい

ショーン マスメディアとネットという関係性において、場合によってはマスメディアが一定の編集方針と責任の元に記事を書くという記事の価値もあると思う。もちろん「Yahoo!ニュース 個人」のオーサーの方々に責任がないと言いたいわけではないのですが、お互いにいい面悪い面があって、いい相互補完性がもっとあっていいのかなと感じます。

江川 マスメディアというのは一種の幕の内弁当のように、「これ全て食べれば栄養も全て取れます」というつもりで作っているところがあるが、ネット、特に「Yahoo!ニュース 個人」の場合は一人で何から何まで何十品目もつくるわけにはいかないので、一人でいろいろな見方を提供したり解決策を全部出すことはなくて、読んでくれる人に考える材料を提供する、というところでいいと思います。
私は冤罪(に関する取材)をウン十年やってますがそれはすぐに解決する問題ではないんですね。すぐに解決しない問題ってたくさんある。解決まで求めるのではなくて、たまたまその先に解決までいくのがあればいいね、と。

ショーン 岡田さんはプラットフォーマーとして、今後(「Yahoo!ニュース 個人」を)どのように育てていきたい?

岡田 「Yahoo!ニュース 個人」のコンセプトは「発見と言論が社会の課題を解決する」だが、最初に「発見」をつけていることが重要だと思っていて。誰かが何かを発見して共有する、ということがなければその先に未来の課題解決はないと思っている。未来につながる道をつくるのが「Yahoo!ニュース 個人」の役目。既存メディアと対立するものではない。Yahoo!ニュース全体では一日4000本記事を媒体社から提供いただいていて、その中に「Yahoo!ニュース 個人」の方々の原稿が加わるという意味でいうと、ユーザーの方にいろいろな選択肢を提供できているかなと。これは突き詰めていきたいです。

山本 一部のコンテンツ提供社側からすると、「ヤフーは『Yahoo!ニュース 個人』を使って書き手を引き抜いているんじゃないか」と思っているところもあると思いますが。

岡田 引き抜いているつもりは全然ないですし、もともと書き手というのは媒体に依存していたものなのか、というところもあります。山本さんもそうかもしれませんが、「Yahoo!ニュース 個人」ではこう書くけど、他の媒体ではこう書くとか、使い分けている方もいらっしゃる。運営している側としてはその選択肢の中の一つと捉えていただければと思います。

山本氏「炎上を恐れていたら何もできない」

ショーン 今のネット空間に対して、もっとこうなっていくといいなという提言進言などがあれば。

松谷 今でも十分おもしろいと思いますが、ネット空間では2つの意見が極端に片方に偏ってしまって、なにか起きてしまう。今年ではエンブレム問題がそうだったと思いますが、あれも意見が一つのほうに傾いていって、その動きの中でなかなか専門家の言葉がでてこなかった。

内田 松谷さんや山本さんの記事を普段拝読していて、結構バサッとおっしゃているなと。

山本 燃えてナンボですよ。

会場 (笑い)

山本 例えばSEALDsの話も、賛成の人もいれば反対の人もいる。きわどい議論ほどいろいろなハレーションを起こす。でも言わなきゃいけないことってある。否定をものともせず言い切ったあとで、賛同者がいたり、考えるきっかけになったり、違う意見を咀嚼して考えてみようとする人が出てくる。そういうことを繰り返すことで初めて世の中が変わってくると僕は思っているので、それを恐れていたら何もできない。

ショーン 新聞の社説や、マスメディアではなかなかできないことですよね。

江川 すごくプラスの面であると同時に、表層的なものだけみて本音をガンガンいう、言葉を強くいうのが今の路線、という感じがあって。その中で差別的なことや人を排斥するようなことが横行している感じがします。
高校生がサッカーの選手に対して差別的な言動をして、自分から謝罪をした出来事がありましたが、自分から謝罪したことは良かったと思うのですが、そういう謝罪のできる子がこういうことをいってしまった、ということをもっと真剣に受け止めなくてはいけない。

松谷 私なりに解釈すると、ヘイトコメントの問題はヤフーにとっては大きな問題。また、差別をするようなコメントを何気なく書いてしまうユーザーもいるが、ブロガーの中でも強い言葉を持って、逆張り炎上屋になってしまう人がいる。AといえばBということを繰り返して、炎上してもへっちゃら、という顔をする。そういう人たちが目立ってきたのがネット。

山本 炎上というのは強い言葉でみんなの耳目を引くことが大事で、それを続けるからこそ意味がある、という部分がベースにある。ただそれをやりすぎていると「あいついつも炎上狙いだよね」となっていく。でもその中で「あいつの言ってることは一部正論だよね」という部分をいかに引き出していくか。本当なら流れていってしまうことが、何日か炎上を続けることで議論が進むケースがあるんですよね。

ショーン 単純に炎上を狙い続ける言論ではなくて、愛される炎上は考えさせられる。「なんでそんなこといってるのかな」と考えさせれる炎上と、単なる炎上はぜんぜん違うわけで、山本さんは多くの人に好かれていると思うのですが。

山本 好かれているなんて全く思ったことないですね。きちんと調べて書く、という最低限のところはやっていますが、自分が見聞きしているものは、「業界の問題点を追求する」とかニッチなところが多い。例えばネトウヨ絡みや、ウェブ関係ではビジネス系の話が多いので、一般の人たちはなかなか理解してもらえない所もある。それをわかりやすくみてもらうために別の問題にリンクさせたりとか、テクニックとして皆が賛否両論になってくれるような話題をつくっている。Yahoo!ニュースは、コメント欄に面白い人もいればひどい人もいるんですが、ある意味でリアクションをいかに引き出していくかというのはものすごい重要。それを抜きにしては語れなくなっているのが今のネット社会なんじゃないかなと思います。

>>後編はこちら
「「PVという指標は万能ではない」~ネット論壇著名人らが語る炎上・言論・メディア【下】」

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