Inside2015.06.09

「えっ、これが“ニュース”なの?」~Yahoo!ニュースのスタッフが面食らった、大学生による“ニュースメディア”のアイデアたち

自分が本当に欲しい「ニュース」って何だろう――。「スマホ向けのニュースメディアをつくろう」をテーマに、大学生が企画案を出し合うアイデアソンが6月6日、京都市内で開かれました。参加者は関西大学総合情報学部の学生たち。そのほか、プロの目線でアドバイスを行うメンターとして、地元の新聞社、関西圏の企業、ヤフーの大阪拠点・大阪サービス事業本部などから開発者やエンジニアやデザイナーなどが参加。会場となった京都市内の町屋には、学生、メンター、講師などあわせて約40人が集まりました。
 
京都の町屋を舞台に、関西の大学生からはどんなアイデアが出て来るのだろう?第一線でメディア事業に関わる「大人」たちと、「大人」の世界に縛られない自由な発想を持った学生の間で、どんなやりとりが繰り広げられるのだろう?…そんな好奇心を胸に、当ブログのスタッフがこの日の様子をのぞいてきました。

開始時刻が近づき、会場に集まり始める学生たち

今回のアイデアソンは同学部の3-4年生を対象とした「ネットジャーナリズム実習」の一環。学生は会場の入り口でくじを引き、計7つのチームに分かれました。
前半の1時間半は、事前の宿題として学生それぞれが考えてきたアイデアを持ち寄ってチーム内でディスカッションをし、一つの企画案にまとめあげる作業が行われました。メンター陣は各チームを巡回し、チーム内の議論に耳を傾けながら、議論が活性化するようなヒントやアドバイスを投下していきます。 

後半は参加者全員がひとつのフロアに集まってチームごとに企画をプレゼンし、メンターや講師がそれぞれの企画に「突っ込み」を入れていきます。この日のアイデアソンで発表された各チームの企画は、後日さらにブラッシュアップされ、7月の最終発表会で審査にかけられます。最終発表会は、実際にメディアやサービスの運営や開発などに携わるその道の「プロ」たちが審査員として参加し、各チームが優勝を競い合うコンペ方式を予定しています。順位や審査の点数は授業の評価にも反映されるため、学生にとっては成績をかけた「負けられない戦い」。その勝敗の行方を左右するアイデアソンということもあり、開始直後から会場は熱気に包まれていました。

「猫背の通知」は私にとって一番知りたい“ニュース”なんです

前半のチーム別ディスカッションの時間、ひときわ賑やかな女子4人組のチームを発見。どんな企画を練っているのか聞いてみると、「猫背の姿勢を改善するアプリ」を考えているとのこと。貼るタイプのウェアラブルデバイスを背中につけてスマホアプリと連携させ、首や背中が前方に曲がってくるとセンサーが感知し、スマホ画面で猫背の予測や傾向と対策を通知してくれる、というアイデア。画面にはネコの絵を表示させて、猫背が改善するとともにネコが変化するという育成機能も実装し、「継続して楽しみながら猫背を直せるようにしたい」と、紙に書いたネコのイラストつきのモックを用いて説明してくれました。

彼女たちの話を聞きながら、「ふむふむ……確かにネコはインターネットでも数字を稼げる鉄板の動物といわれているし、スマホを使っていると猫背になりやすいので、猫背は切実な問題だよね」と思いながらも、あることを思い出した筆者。そう、今回のアイデアソンのテーマは「ニュースメディア」だったはず。「えっ、何で猫背改善アプリが“ニュース”なの?」と思わず声をあげてしまいました。

「自分の体のことを知らせてくれる“情報”って、自分にとってはひとつの“ニュース”なのでは、と思ったんです」。彼女たちは熱く語り続けます。「2月に話題になった、おなかに貼って排泄を予知してスマホで知らせてくれるウェアラブルデバイスのニュース(※うんこ「10分後に出ます」世界の悩みを解決する画期的デバイス、日本の教授たちが開発『D free』/週刊アスキー)をみて、これだ!と思って。便がいつでるかって、自分にとっては大ニュース。それと同じように、猫背って、自分にとっては大きな悩みでもあるし、多くの人が悩みを抱えている健康問題の一つですよね。それを予防するための情報も、ある意味ひとつの“ニュース”かな、って」。

たしかに、人にとっては「いつ便が出るか」は大切な情報。筆者ももちろんそうですし、人間なら誰しも、排泄情報は自分にとっての「重要トピックス」。そう考えると、「猫背の通知」も同じように、個人レベルでみるとこれも一つの「ニュース」といえそうです。
「“ニュース”や“メディア”、“ジャーナリズム”ときくと、身構えてしまい、発想が凝り固まってしまう学生も少なくないのでは」と、予想して(甘くみて?)いた筆者は、彼女たちからカウンターパンチをくらったような気持ちになりました。

後半のプレゼンでは、彼女たちのチームが発表したアイデアに対し、メンターや講師から「そもそもデバイスを首につけるのって、抵抗あるんちゃう?本当に首にそんな面倒なものつけたいと思う?」という厳しい突っ込みも。一方で、「ブラジャーにデバイスがくっついていて、体に対してフィードバックしてくれるような機能は既に世の中にでているから、ブラジャーに実装するなら可能性はありそう。大手下着メーカーに負けないアイデアを出してみよう」「この手のアプリは運動系のアプリと競合することになるから、そことどこまで勝負できるかどうか、そのあたりをもっと詰めたほうがいいと思う」「現段階では自分へのニュース、という要素が強くですぎていたので、他人や社会に対する情報も加味していけば、ニュースメディアとしての可能性はあるのでは」といった前向きなアドバイスも飛び交っていました。

キーワードは「IoT」

そのほかのチームからも、「集めたデータを可視化して、満員電車で効率的に座れる情報をリアルタイムに取得できるアプリ」や、「寝坊を世の中からなくすために、寝坊した人の情報とソーシャルメディアを連携させて寝坊を改善するアプリ」など、「ニュースメディア」のイメージを壊すようなユニークなアイデアが飛び出しました。先ほどのチームの猫背アプリの「体にデバイスをつけて、スマホにお知らせする」といった機能のほか、「その人が寝坊しているか起きているかどうかを判別して仲間にお知らせするために、朝起きたときに顔をあらう蛇口にセンサーをつけて、その反応の有無をソーシャルと連携させる」という機能など、「IoT(Internet of Things)=モノのインターネット」を取り入れているチームが多くみられたのが印象的でした。
一方で、チーム内で目的を共有する前に「サービスありき」の発想から始めてしまい、発表では抽象的なプレゼンに終始してしまったために、「何を解決したいのかわからない。解決すべきところはどこか、そこがフォーカスできてないから何を言いたいのか全然わからない」と「大人たち」からバッサリ一刀両断にされてしまったチームもありました。(筆者も、新人のときかつて先輩からこんなことを言われたことがあったなぁと思い出し、懐かしい気持ちに……。心の中でエールを送っていました)。

「興味がなかった」層から生まれる柔軟な発想が、メディアの未来をつくる

アイデアソンを終え、ネットジャーナリズム実習を担当する同大特任教授の藤代裕之氏は以下のように語ります。

――「ニュース」や「ジャーナリズム」ときくと、イコール新聞やテレビ、というイメージで凝り固まってしまいがちですが、デバイスありきになってしまうと新しい発想やイノベーションは生まれない。今回は「自分達が本当に面白いと思える、ワクワクするようなサービスをつくろう」というところからスタートしてもらいました。この実習の学生たちは、実はジャーナリスト志望って少ないんです。なんか面白そうだから、という動機で来てくれた学生もいる。「社会正義だ!」「ジャーナリズムだ!」と頭の中がガチガチに凝り固まっている人よりも、別のことに興味があった人が、こうした実習をきっかけに、将来数ある職業の一つの選択肢として「ニュースって、身近なんだ」「メディアの世界って、面白いかも」と思ってメディアの世界に入ってきてくれたほうが、ジャーナリズムも活性化していくと思う。メディアの世界でニュースにどっぷりつかっている大人たちは、ニュースを「読ませるか」ということしか考えていないけれど、彼らのアイデアをみてみると、ニュースは「手段のひとつ」なんですよね。

「会社の中にいるだけでは、良いものは生まれない」

ヤフーの大阪拠点・大阪サービス事業本部からもエンジニアやデザイナーがメンターとして参加しました。関西大学の学生とのアイデアソン参加は今回が2回目。地元の学生とリアルな場で交流する場を持つ、こうした取り組みの狙いについて、大阪サービス事業本部長の宮内俊樹に聞きました。

――私自身、日ごろから強く感じているのですが、「会社の中にいるだけではいいものは生まれない」と思っています。メンターとしてヤフーの大阪拠点からもエンジニアやデザイナーが参加しましたが、こちら側が教える一方で、私たちも学生の柔軟な発想から学ぶことは非常に多いと思っています。例えば10代~20代をターゲットにしたサービスをつくろう、というときに、大人たちが会議室のなかでウンウンうなっているよりも、直接彼らに聞くのが一番いいわけです。今回、学生からは多くのIoTのアイデアが出ていましたが、関西はモノづくりの企業が多いですし、ヤフーの大阪拠点からも、モノとつながるインターネットのアイデアがどんどん広がっていけばよいな、と考えています。

最終審査は7月17日。アイデアソン終了後はそのまま会場で懇親会が行われましたが、懇親会がはじまっても会場の隅で「反省会」を続けているチームの姿もありました。毎年、アイデアソンの結果で厳しいフィードバックをもらっても、諦めずに最終発表に向けて大きく方向性を変えてくるチームも少なくないそう。約1カ月後の最終発表会に向けて、学生たちの「負けられない戦い」はさらに熱を帯びてきそうです。

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