Media Watch2016.04.07

最強タッグに栄冠、大手やローカルメディアも躍進 第2回ジャーナリズム・イノベーション・アワードに行ってみた

 2015年にネットで公開されたジャーナリズム作品の中から、来場者の投票で頂点を決める「ジャーナリズム・イノベーション・アワード2016」(主催:日本ジャーナリスト教育センター)が3月12日、講談社で開かれました。

 アワードは昨年に続き2度目。今年は同じ講談社で「デジタルジャーナリズム・フォーラム2016」が同時開催されたこともあり、多くの来場者で一時、人がすれ違うのも難しくなるほど会場が混雑した時間帯も。来場者の熱気に包まれた当日の様子をお伝えします。

全参加者が楽しめる手作りの「文化祭」

 今回は、全国紙やテレビ局など大手メディアが増えたのに加え、ブロガーなど個人の出展も多く、応募は昨年の38作品を上回る50作品に。それぞれがブースにポスターや模造紙などをはさみやテープを使って手作りしてPRし、メディアの規模にかかわらず対等に競う姿は、さながら学会のポスター発表のような雰囲気でした。出展者は互いに情報交換したり、ステッカーなどを渡しあったりする場面も。来場者や出展者がシールを貼って優秀作を決めるなど、全参加者がイベントを楽しめる文化祭のようなムードもありました。

 2015年は戦後70年だったこともあり、今回は戦争をテーマにした作品が目立ちました。Yahoo! JAPANも「戦後70年 未来に残す 戦争の記憶~100年後に伝える、あなたの思い~」を出展しました。Yahoo!ニュース関連では「Yahoo!ニュース 特集」のほか、Yahoo!ニュース 個人の複数のオーサーによる出展もありました。

既存メディアが取り上げないなら、市民が書く

 戦後70年関連では、大手メディアなどの作品が並ぶ中、目を引いたのは Story Design house株式会社の「70seeds」。「戦闘機製造から平和的なものづくりへ転換した企業」や「戦争中の暮しを記録した雑誌の秘話」などさまざまな記事を掲載。戦争や戦後の歴史について「勉強しないといけない」ものではなく、文学や音楽、映画やアニメ、ファッションなど今の人たちが面白い、知りたいと思う切り口で伝えようと試みています。

 長崎出身で被爆3世という岡山史興編集長は「3世として、知ってほしいという思いがありました。縁もゆかりもない人、関係ない人に、どうやって自分ごとにしてもらうかを意識しました」

田原総一朗さんも来場

 主催した日本ジャーナリスト教育センターの運営担当者によると、今年は「ローカル」をテーマにしたメディアの出展が増加。情報公開制度を駆使し、現地や行政への取材をもとに市政の問題点を指摘した「大津WEB新報」のような市民メディアもありました。

 同新報の大井美夏子記者は、普段は社会福祉士として働いているそうです。「おかしいことが多くても、既存メディアが取り上げてくれないんだったら、あたしらで書きますよ、と。デスク役の大学教授の協力があってこそではありますが、情報公開制度やウェブを使えば、市民でも調査報道ができます」。

異彩を放つ書籍出展

 PCのディスプレイやタブレットなどを用いるデジタル作品が並ぶ中、弁護士ドットコムは自社サイトに加え書籍をセットで出展して、異彩を放っていました。「弁護士ドットコムライフ」に寄せられた相談のニーズや記事のPVなどを基に、男女トラブル80例の回避法をまとめた「不倫したい男、離婚したい女が読む本」。書店で手に取るのは気が引ける(?)タイトルですね…。

 対照的にNHK報道局のブースには、VRヘッドセットが登場。「データなび」の360度映像を、まるでそこに自分がいるかのように見ることが可能で、北朝鮮の軍事パレードを体験した女性は「リアルすぎて怖い」と話しました。

 頂点を極める審査はまず、来場者の投票により決勝に進む上位6作品を決定。6作品の担当者によるプレゼンの後、決勝投票で最優秀賞が決まりました。上位の結果は次の通りです。

【最優秀賞】沖縄戦デジタルアーカイブ(首都大学東京渡邉英徳研究室、沖縄タイムス社、GIS沖縄研究室)
【優秀賞】築地 時代の台所(朝日新聞デジタル編集部)
【優秀賞】2015年テゲツー!で最もよまれた記事は?【人気記事ランキング】(宮崎てげてげ通信)
【決勝進出】山本一郎、戦いの軌跡(山本一郎)
【決勝進出】データディスカバリー(日本経済新聞社)
【決勝進出】検証・戦争責任(読売新聞社)

最優秀賞や優秀賞の受賞者たち

普通の人が特別な人に変わってしまう、戦争の本質を表現

 最優秀賞の「沖縄戦デジタルアーカイブ」は、1945年3月の米軍上陸から同年6月までの沖縄戦の推移を航空写真と地図上に表現。地図上に沖縄戦を生き延びた人の動きを赤い線で示し、戦没者の場所も男性と女性・子供・高齢者を分けてドットで表示しています。時間を推移させることで、米軍の作戦により中部の人が南部に追い詰められていく様子や、人々がどうやって生き延びたのか、亡くなった方の場所の傾向などを見ることができます。

 生き延びた人たちを沖縄タイムス社が取材し、足跡を首都大学東京渡邉英徳研究室、GIS沖縄研究室が可視化。沖縄タイムス社と首都大学東京渡邉英徳研究室は、昨年のアワードでそれぞれが別の作品で受賞したことが縁で、共同制作することになったそうで、実力者同士の強力タッグによる作品が最も支持を集めました。

渡邉英徳准教授 我々がやろうとしたことは、命の足跡をたどる、生きた証しを残すこと。(インターネットで沖縄戦の写真を画像検索しても)1枚1枚がどこで撮られたかは分からない。名前も分からない、どんな人生を歩んだかも分からない。普通の人が突然「戦争体験者」に変わってしまったわけですね。東日本大震災で我々が使う「被災者」という言葉もそうですし、長崎や広島の「被爆者」もまったく同じ。普通の人が特別な人に変わってしまう、それが戦争の本質。それを表現したいと思って作った。

 優秀賞「築地 時代の台所」は、朝日新聞社が東京本社のそばにある築地市場のありのままを写真や映像、マップなどでアーカイブ。マグロの漁から出荷までを取材し、CGや360度動画などで紹介したコンテンツも。600ほどある仲卸を1件、1件、半年かけて撮影、商品別に分類した魚河岸仲卸マップは、企画を立ち上げてから取材するまでの交渉に1年を要したそうです。

木村円記者 魚河岸仲卸マップについては、非常に伝統的な世界、なかなか取材を受け入れてもらえなかったけど、なんとか突破口を見つけて。だんだん皆さん笑顔をみせて、取材に応じていただけるようになった。我々の特集はストレートなジャーナリズムではないですけれども、ジャーナルは記述するという言葉ですから、デジタルであらゆる表現を使って記述したいと思ったのが今回の企画です。

やればやるほど宮崎が好きになった

 優秀賞のもう1枠は、今大会でも参加が多く、活躍の目立ったローカルメディア勢が受賞。宮崎の情報を地元から「愛とノリ」に基づいて発信し続ける宮崎てげてげ通信の「2015年テゲツー!で最もよまれた記事は?【人気記事ランキング】」が優秀賞に輝きました。宮崎てげてげ通信は2014年5月にスタートし、1年半で2000記事を掲載。月間50万PVのメディアに成長しました。最近では、「絶対お勧めできない」と言いつつ、宮崎をオススメする記事がFacebookで6000シェアを超えるヒットを記録しました。

長友まさ美代表 私は宮崎が大嫌いで宮崎を飛び出したのですが、(宮崎てげてげ通信を)やればやるほど宮崎が好きになりました。若い人たちがどんどんチャレンジしてきているのが何よりもうれしい。宮崎から東京に進学したある大学生が「こんなに宮崎に愛をもって活動している人がいるんだということを知って宮崎に帰ることを決めました」と言ってくれた。宮崎に転勤でやってきた夫婦が「宮崎になじめるようになったのはてげてげ通信のおかげです」といったコメントがありました。

 この1年ボランタリーな活動でやってきたが、持続可能にするために、ここからちゃんとお金を稼いで、若い人に投資して応援する文化を作っていきたいと思います。ぜひ、てげてげ通信を見て宮崎に遊びにいらしてください。

「知りたい」ことに、忠実な人生を歩んで

プレゼンする山本一郎さん

 決勝投票で、優秀賞と同数の票を集めたにもかかわらず、無効票が1票あったため、優秀賞を逃した「山本一郎、戦いの軌跡」。Yahoo!ニュース 個人のオーサーでもある山本一郎さんは、ネットメディアのあり方に疑問を投げかけた作品の内容もさることながら、会場でのスピーチも印象的でしたので、抜粋してご紹介します。

山本一郎さん より良い人生を過ごすために必要なものは本当は何なのか、それはお金、愛情か? いろいろあるが、私は情報だと思っています。情報は社会を良くする唯一の手段。知りたいことを知れる環境をいかに作って守っていくかということを皆さんと考えていくことが大事だと思っています。

 知ることに喜びを覚える、それが行動につながり、その結果ほかの人を幸せにできるんだということを皆さんに感じ取っていただきたい。そして次の世代に対してどんな良い社会を作っていけるのかということを考えて行動していくことが、ウェブやニュースの仕事に関わっている人が一番大切なことかなと思います。

 今までいろんなことをやってきました。「なんだあいつは」と業界の腫れ物と言われます。「あいつに何か話をすると内容証明が飛んでくるんじゃないか」と言われます。事実です!! あえて申し上げたいのは、私も正しい、もしくはおかしいと思ったことに対して、より良いものを作っていくために、ご相談している、話を聞きたいと言っているにすぎないです。

 「知りたい」ことに、より忠実な人生を歩んでいただきたい。知りたかったら質問すべきです。自分の中にためこむ必要はどこにもありません。おかしいと思ったら直接本人に電話するなり、メールするなり、IRに連絡するなり、内容証明を送るなり、裁判起こすなりやってほしい。それによって初めて分かることがたくさんあるので、それによって一歩でも二歩でもより良い人生を送って、子供たちに引き継げるのであれば、私はものすごく意味のあることだと思っていますので、ぜひ皆さんそのへんを考えていただきたいと思います。

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