Media Watch2016.04.04

Twitterはなぜ「ニュース」を始めたのか TwitterとYahoo!ニュースが語るこれからのニュースの届け方

3月11日から2日間にわたって開催された「デジタルジャーナリズムフォーラム2016」。「プラットフォームとニュースメディア、これから起きることとは?」と題された2日目のセッションでは、TwitterとYahoo!ニュースの担当者がこれからのニュースの届け方について語りました。

【出演】(敬称略)

  • 牧野 友衛
    Twitter Japan株式会社 執行役員 事業成長戦略本部長
  • 片岡 裕
    ヤフー株式会社 メディアカンパニーニュース事業本部 本部長(イベント当時)
  • 【モデレーター】藤村 厚夫
    スマートニュース株式会社 執行役員

Twitterが「ニュース」を始めた理由

藤村厚夫(スマートニュース株式会社/以下、藤村) そもそも新聞社やテレビ局、出版社などの媒体社さんがもうからないと、コンテンツを掲載するプラットフォームとしての会社もともに成長できないと思います。その点でまずどうやって媒体社さんの収益を確保しようと思っているか、聞きたいと思います。

片岡裕(ヤフー株式会社/以下、片岡) Yahoo!ニュースが何をしたいかというとユーザーへ良質なコンテンツを届け、ユーザーの行動につなげるということです。Yahoo!ニュースが独自に作成しているコンテンツはごく一部ですので、コンテンツを配信いただいているパートナーさまから良質なコンテンツをいただいて、その結果ユーザーが増える。それが結果としてパートナーさまの収益の拡大、またパートナーさまのサイトでのユーザー獲得につながる。このエコシステムをいかに拡大できるかが目指すところです。

昨年5月にスマートフォン版Yahoo! JAPANのトップページをタイムライン化して、編集者が選ぶYahoo!ニュース トピックス以外の記事もトップページに表示されるようになりました。私たちが選別して届けるものと、ある程度自動で表示されるものが、同じPVという指標で測られるのは果たして品質面、信頼面でいいのかという議論が起きました。そこでPVに加えて、PVとは連動しない新たな情報提供料のお支払いを発表しました。

藤村 Twitterさんは昨年7月にスマートフォンアプリで「ニュース」という機能を始めました。この取り組みはどう媒体社さんに寄与するのでしょうか。

Twitterが始めた「ニュース」機能

牧野友衛(Twitter Japan株式会社/以下、牧野) もともと私のTwitterでの役割は国内のユーザーをどうやって増やしていくかということです。その流れの中で日本のユーザーはニュースに関心が高い方が多いので、そこで何かできないかということで始めました。あくまで「ニュース」で期待したのはトラフィックをどれだけ出せるかということです。媒体社さんからは、Twitterからのトラフィックが増えているという声はいただきますし、Twitterの中でも使われる機能の中で上位になってきているので、ある程度の送客には寄与していると思います。

牧野友衛/Twitter Japan株式会社

藤村 もう少し聞きたいんですが、これは日本独自の取り組みですよね。背景には、ニュースが読まれるという日本の独自性は影響しているんでしょうか。

牧野 結構踏み込んだ質問ですね。正直に答えられるところで言うと、みなさんの肌感的に分かると思いますが、ソーシャルメディアというのは情報の発信側と受け手側がいて成立するプラットフォームです。そういう意味で、発信する側がどういう情報を発信するかによって、受け手がソーシャルメディアに期待する情報は違ってきます。日本の場合には、Twitterは情報プラットフォーム的な見え方をしているところがあって、そういう意味では「ニュース」が期待されている比率が日本は大きいと思います。

皆が平均的に成長できる時代ではない、勝ち残るメディアとは

藤村 シビアな話もしたいと思います。もはや皆が平均的に成長できる時代ではありません。良いコンテンツで信頼に応えていくものが勝ち残っていく仕組みが必要ではないかと考えています。昨今、ステルスマーケティングやノンクレジットの記事広告が問題になっています。Twitterの「ニュース」はアルゴリズムによる表示だと思いますが、その中にこうしたコンテンツが紛れ込む可能性を意識することはないのでしょうか。

牧野 アルゴリズムの説明をもう少しすると、複数社のニュースサイトが取り上げているトピックをグループ化することによって、そのトピックが話題になっているかどうか見ています。そういう意味では、多くの媒体社さんのサイトで取り上げられた話題が出るということになるので、もともとそういうものが入りづらい作りにはなっています。

藤村 Yahoo!ニュースは「選別をする」という思い切った踏み切り方をしました。

片岡 Yahoo!ニュースは多くの方に使っていただいていますから、届ける責任があると考えています。届ける以上はいくつかプロセスを踏んでいます。まずはパートナーさまと契約するタイミングで、そういったコンテンツが入らないように合意させていただく。それでも万が一、そうしたコンテンツが発生してしまう場合には表示面でコントロールする。そうしないとユーザーに迷惑をかけてしまいます。ただ、どうコントロールするのかという考え方があまりにブラックボックスでは良くないだろうということで、発表させていただいたのがメディアステートメントです。一部で、Yahoo!ニュースが「特集」というオリジナルコンテンツを作りはじめたことがメディアステートメントの背景ではないか、という声もありましたが、実は背景にあるのはスマートフォン版のYahoo! JAPANトップページのタイムライン化やステルスマーケティングの問題です。

メディアの分散化、Twitter・Yahoo!ニュースはどう考えるか

片岡裕/ヤフー株式会社

藤村 「メディアの分散化」が言われるようになっています。私の理解は媒体社にとっては、あくまで自社サイトが宇宙の中心で、いろんな場所にコンテンツを出すものの、目標は自社サイトへの導線だと思っています。ところがこの数年、バズフィードなどのように自社サイトを中心に考えるのでなく、ソーシャルメディアなど多くの往来があるところに徹したほうがビジネスは成功するのではないかというアプローチも出てきました。お二人はどう考えていますか。

片岡 すごく大きな潮流になるだろうと思っています。情報流通の捉え方でいうと、いたって自然なことです。大きな道路に露店を出したほうが、多くのユーザーに見てもらえる。そういう流れがスマートフォン時代になってより加速しているということだと思います。もう一つはビジネスができつつあるということです。ブランド価値を上げてファンがついて、自社メディアでもネイティブアドのような広告が売れるという事業環境になってきたから、この流れが加速したと思っています。

ただYahoo!ニュースはすこし違う立場で、分散化の流れが起きた時に、その流れに乗って終わり、になってしまうと「起点」としての力が弱くなるという可能性があります。FacebookのInstant Articlesや、GoogleのAMPなど、ユーザーを獲得する「着地」までも、プラットフォームが提供するという、次のステップまできています。そこで見てもらった方が集客もできて、売り上げもあがるとなると、本体サイトをもつ意味があるのかという議論になります。大きなプラットフォーマーで「起点から着地まで」という垂直統合が行われるということは、いろんな側面で慎重に考えないといけないと思います。

藤村 TwitterはアメリカでMoments(関連記事:CNET Japan)というキュレーション型の動きもあります。Twitterとしての立ち位置は、分散型なのか、媒体社さんにディスティネーションとしての位置を維持してもらうのか、どちらでしょうか。

牧野 基本的にはTwitter自体は拡散であり、トラフィックを送る立場です。Momentsは、必ずしも媒体社さんの投稿だけをキュレーションしているのではなくて、一般ユーザーの発信をまとめたりもしているので、ちょっと立ち位置が違います。もともとの発想はTwitter上の情報があまりにも多すぎて、見つけることが難しいものをうまくまとめようというのがMomentsの考え方です。

ユーザーがニュースに求めるものは複雑化している

藤村 これからのことも聞きたいと思います。これから読者はニュースに何を求めるようになると思いますか。

牧野 Twitterは、あくまでみんなが話題にしているものは何かという表示の仕方をしています。僕らが考えているユーザーのニーズは、みんなが話題にしていることは何かということが気になっていること、という仮説のもとにつくっています。

片岡 基本的には一緒で、多くのユーザーが何に関心を持っているのか、何が重要なのかというのが基本の考え方です。ただ、これが徐々にクラスター化したり、濃度が異なってきています。もう少し特化したテーマに関してニュースを楽しみたいという人もいれば、その事象に対してコミュニケーションを中心とした形で楽しみたい人もいる。濃度がバラバラになってきているので、従来型のニュースだけではないアプローチも必要になっているのではないでしょうか。

藤村 読者はどんなニュースを望んでいるかと聞いてみても答えてくれなくて、うまく差し出せると読んでくれる時代だと思っています。そういう意味で友達が「ニュースだ」というものにはすごい反応をして、メディアがアジェンダセッティングしたものは見向きもしないということも起きるのではないかと思います。例えばLINEなど、友達から情報が飛び込んできて、見たい人はそれを手繰り寄せていくという動きは大きなテーマになると思いますか。

片岡 非常に大きなテーマだと思います。チャネルとコンテキストが非常に複雑化しています。新聞社が選んだニュースが重要だと見る人もいれば、友達がオススメしたから見るという人もいます。そういうコンテキストによってユーザーが何を重視するかが変わってきています。チャネルもそうで、紙、テレビもあれば、インターネットもあるという環境です。そういう中で考えないといけないのはユーザーを知ることです。どんなユーザーか知ることで、それに合わせたチャネルやコンテキストで届けることができる。その意味でメッセンジャーのポータル化は大きくなってくると思います。

牧野 ユーザーのニーズはいくつかにグループ化できて、メディアが編集するもの、友達から紹介するもの、あとはTwitterがやろうとする世の中で話題になっていることで、それぞれニーズが違うと思います。そういう意味では会話型は友達から紹介されるものを見たいというニーズはあるので大きくなると思います。

「届けるのその先」を

左:藤村厚夫/スマートニュース株式会社

藤村 これからのメディアビジネスは明るいと思いますか、それとも暗いと思いますか。

牧野 スマートフォンの接触時間はこれからもっと増えていきます。そこで何を見るかという意味でニュースは非常に大きな位置づけにあると思うので機会は多くあると思います。

片岡 スマホの普及でポジティブになっていくと思います。まず可処分時間が増えます。その中でLINEやTwitterなどで10代、20代がニュースにどんどん接触しています。10代、20代へのリーチは、従来Yahoo!ニュースでも課題でしたが、その世代がいろんなチャネル、コンテキストでニュースに接触するのはすごく良いことだと思います。次のアクションとしては「届けるのその先」。情報を得たユーザーがアクションをしようというふうになると、よりニュースの重要性、価値が上がっていくと思うので、ここをメディア全体で作っていけるとより良い社会になるのではないでしょうか。

お問い合わせ先

このブログに関するお問い合わせについてはこちらへお願いいたします。