Inside2014.11.26

ニュースをめぐる「社内戦争」と「2つのヤフー」。そのワケは?~利用率1位のアプリ戦略

 前回の記事でご紹介したように、Yahoo!ニュースは月間100億PVの半分をスマホが占める時代に突入しました。そのスマホ月50億PV越えの背景を語る上で欠かせないのが、ニュースアプリの成長です。
 今回は、Yahoo!ニュースをめぐる過去の社内事情、そして現状と今後について、アプリの側面から触れてみたいと思います。

なぜ、ニュースカテゴリに「ヤフー」が2つ?

 ニュースアプリ利用経験のある方は目にしたことがあると思いますが、アプリストアのニュースカテゴリには「2つのヤフー」が存在します。

↑左がYahoo! JAPANアプリ、右がYahoo!ニュースアプリのファーストビュー画面

 左のYahoo! JAPANアプリはニュースに限らず、検索や路線など、Yahoo! JAPANおなじみの機能が1本に詰まったアプリ。2008年のiOS版公開から6年を迎える、ヤフーの「元祖」アプリともいえます。一方、右のYahoo!ニュースアプリは2013年にリリース。ヤフーのトップページを開くと目に入る8本の13文字見出しなどでおなじみの、「Yahoo!ニュース」に特化したアプリです。
 このように、それぞれの機能やUX/UIに違いはあるものの、いずれのアプリでも「Yahoo!ニュース」のサービスをご利用いただくことができます。

……と、ここまでご紹介したところで、「同じカテゴリに2つのアプリ?」「Yahoo! JAPANアプリは他のヤフー機能もあるのに、なぜニュースカテゴリに?」などと疑問に思った方もおられるかもしれません。

 現在はそれぞれ順調に成長を続けており、共存共栄関係にある2つのアプリですが、今日に至るまでにはさまざまな経緯がありました。今だから話せる当時の状況などついて、それぞれのアプリの責任者に聞いてみました。

「ユーザーを奪い合って一体何になる!?」会議は一触即発状態

――まずはヤフーの「顔」ともいえる先発アプリ「Yahoo! JAPAN公式アプリ(以下Y!Jアプリ)」について。Y!Jアプリはいわば「Yahoo! JAPAN」を代表する、ヤフーのあらゆる機能が詰まったアプリです。そのアプリがなぜアプリストアの「ニュース」カテゴリに?

野崎勇治スタートページ・ユニットマネージャー Y!Jアプリは2013年2月に大規模なリニューアルをしました。その際、登録カテゴリを含めて見直したのですが、当時、iOSでは「辞書」カテゴリに登録されていました。辞書ですよ!辞書!そりゃないだろう、と(笑)。
  Y!Jアプリの使命は、スマホでもポータルが成立することを示すべく、獲れるかぎり最大のユーザー数を獲ることです。ニュースカテゴリを選んだ基準は主に2つ。1つは、最大のユーザー数が獲れるカテゴリはどこか?ということ。ユーザーの少ないポータルなど誰も見向きもしませんから。もう1つは、Y!Jアプリの利用意向のかなりの部分をニュース利用が占めているということ。この2点から、ニュースカテゴリを選びました。

――Yahoo!ニュースとのすみわけ問題や、反発も予想されたのでは?

野崎 当然Yahoo!ニュースとのすみわけも気にはなりましたが、それよりも、ユーザー数の最大化に振り切りました。スマホでポータルが成立するかの決戦に挑む意識でリニューアルしたので、社内を気にしている場合じゃなかった……というのが本音です。

――一方のYahoo!ニュースアプリ(以下Y!ニュースアプリ)側は、当時どのような心境だったのでしょうか。

河野清宣 Yahoo!ニュース クリエイティヴ・ディレクター Y!Jアプリがニュースカテゴリに移ってきたちょうどその頃、Y!ニュースアプリの開発を進めていたところでしたので、こちらとしては黙っていられませんでした。腹が立って、この問題を経営陣にあげてみたところ、返ってきた指令は「お互い健全な競争をせよ」
 しかしながら、プロモーションにかけられる費用もY!Jアプリとは相当な差があり、Y!ニュースアプリの方が後発アプリでもあるので、こちら側からY!Jアプリ基準で差別化しなければいけない不利な競争を強いられていました。
 相互の会議では一触即発状態。Y!ニュースアプリのチームのマネージャーとしても、メンバーからの不満は数多く受けました。例えば、検索窓を前面に積んで普段使いとしての間口を広げよう、なんて案もありましたが、それこそ「Y!Jアプリと同じものを作って、ユーザーを奪い合って何になる」、という結論からナシになるわけです。

 それぞれの事情や悩みを抱えながらも、同じニュースカテゴリで走り出した2つのアプリ。時には上記の画像のように、ニュースカテゴリでダウンロード数1位2位を争う姿も……。
 
経営陣の「健全な競争をせよ」との指令とは裏腹に、現場では「社内戦争」の様相を呈していました。

政敵から好敵手へ。「ライト層×ヘビー層」で利用率1位に

では、その敵対関係が、現在の良きライバル関係へと変化した要因は何だったのでしょうか。当初、ユーザーを食い合うとみられていた2アプリ体制でしたが、フタを開けてみると、意外な効果が生まれていることがわかりました。

河野 Y!ニュースアプリがスタートしてしばらく様子を見ていると、あることに気付きました。Y!ニュースアプリのアクティブユーザーの約半数弱は、Y!Jアプリを並行利用しており、使われ方がかなり違っていました。
  また、ユーザー数はY!Jアプリの方が多いのですが、1人当たりの利用時間ではY!ニュースアプリの方が長い。見られている記事も「エンタメ」ばかりが強いのではなく、Y!ニュースアプリは時事性の高い記事を集めた「速報」や「国内」といったタブが強い。「今なにかないか」という気持ちというよりは、「今のニュースが見たい」というニュース・ファンのニーズに応えられているんでしょう。
 今となってはY!Jアプリがライト層を取り込んでくれているおかげで、Y!ニュースアプリはヘビー層に向けて別の舵を取ることも可能となり、結果として「健全な競争」になっているのかなと思います。

  サービス利用に関しては、Y!ニュースアプリ単体で比較されることも多い「Yahoo!ニュース」。一方で、河野クリエイティヴ・ディレクターの分析や上記の図解が示すように、「ニュースのライトユーザーに強いY!Jアプリ」と「ニュースのヘビーユーザーに強いY!ニュースアプリ」、双方の特徴が組み合わさり、結果として 「Yahoo!ニュース」をより多くのユーザーにご利用いただけるという効果につながったとみられます。

[出典]2014年度 モバイルニュースアプリ利用動向調査 - ICT総研

[関連リンク]
ニュース・キュレーションアプリ TOP3は年初からの利用者が2倍以上に増加 - ニールセン

2つのアプリの今、そして未来は?

 これまで2つのアプリをめぐる裏側の一部をご紹介してきました。しかしながら、スマートデバイス時代における情報接触形態の変化とその行方が注視される中で、成長を続けるための課題は尽きることはありません。
 最後にそれぞれ、現在の取り組みや今後の展望について聞いてみました。

河野クリエイティヴ・ディレクターと、野崎ユニットマネージャー(右)

Y!ニュースアプリ「編集×開発のプッシュ体制」

河野 先ほども申し上げたとおり、Y!ニュースアプリでは、「今なにかないか」という気持ちというよりは、「今のニュースが見たい」というニーズの強いユーザーが多いのが特徴です。そのようなユーザーの満足度を上げて1人当たりの利用時間をさらに伸ばすことが必要と考えています。そのために、まず訪問頻度を上げるため、編集と開発担当が1秒でも速くプッシュで号外が届けられるような体制を構築しています。
 また、1回の訪問当たりの利用時間を伸ばすため、 掲載記事も、人力編集だけでは拾えない多様な話題のニュースを抽出できるアルゴリズムを組み、記事に対して多様な意見が読めるコメントへの導線を強化する取り組みも進めています。現在は、1人1日当たり約20分をY!ニュースアプリに使っていただいています。

――今後の展望については。

河野  Y!Jアプリはスマホでのポータルとして既にポジションを築いており、ユーザーの興味に沿った「今」を幅広く提供していくでしょう。一方、われわれY!ニュースアプリは、ニュース閲覧から生まれるユーザーの興味を、例えばコミュニケーションや投票や募金などの実際の行動に、どうつなげて行くかの深さを重視して行きたいと考えています。

Y!Jアプリ「広く浅く、空気のような『玄関』目指す」

野崎 Y!Jアプリも頑張って伸ばしていきたいですが、スマホウェブのYahoo! JAPANトップページにも、アプリの数倍規模のユーザーがいます。「スマホでポータルなんか誰が使うんだ?」という人もいますが、現状相当数のユーザーに利用されているのは事実です。われわれインターネット業界の住人にとっては嘘みたいな話ですが、世の中には「怖くて新規にアプリをダウンロードしたくない」という方も多いのも事実です。PCのYahoo! JAPANトップページが発展してきたのは、そういった方々にも寄り添ってきた結果だと思いますし、もちろんスマホウェブでもアプリでも、その姿勢を崩さず突き進んでいきたいと思っています。
 ニュースをより深く利用したい人向けのサービスはYahoo!ニュースにお任せして、われわれは広く浅く、キュレーションメディアの老舗として、空気のように多くの人に使われる「玄関」を目指します。

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