Media Watch2022.08.16

目指したのは絶対的な信頼性とわかりやすさ――Yahoo!ニュースと気象庁がタッグを組み実現させた防災インフォグラフィックとは

「情報技術のチカラで、日本をもっと便利に。」をミッションに掲げるYahoo! JAPAN。2022年6月より、防災知識をわかりやすく伝え、一人でも多くのユーザーが命を守る知識を身につけられることを目的として、気象庁と連携した新たな取り組みを始めました。

その内容は、データや情報などを図やイラストを用いてわかりやすく表現した「インフォグラフィック」の共同制作です。制作したコンテンツは、Yahoo!ニュース トピックスの詳細ページなどで使われています。詳細ページにはニュースの基本情報や背景を伝える「ココがポイント」の欄があり、ユーザーの理解を助けるために、災害関連のニュースにインフォグラフィックを活用しています。


Yahoo!ニュース トピックスの詳細ページ

気象庁とヤフー、それぞれの強みを持ち寄りながら行われたこのプロジェクト。どのような経緯で発足し、どんなところに力を入れたのでしょうか。
気象庁広報室の山口達也さん、Yahoo!ニュース トピックス編集部の三宅真太郎・徳満陽介にお話を聞きました。

取材・文/波多野友子
編集/ノオト

気象庁の監修のもと、これまでにない防災コンテンツ制作が実現

――Yahoo!ニュースと気象庁が連携してインフォグラフィックを制作することになった経緯を教えてください。


Yahoo!ニュース 三宅真太郎

Yahoo!ニュース 三宅真太郎(以下、三宅):Yahoo!ニュースは、以前から防災啓発に力を入れて取り組んできました。防災は人の命にかかわる重要なトピックス。ユーザーの関心も高く、そのため、より専門的で正確な情報が求められるという課題があります。

そのような中で2022年2月、気象庁が「インターネットを通じた防災情報等の普及啓発への協力事業者の募集」をされ、ぜひ協力させてもらえないかと応募したことがきっかけとなりました。

気象庁 山口達也さん(以下、山口):気象庁では昔から天気予報をはじめ、気象災害や地震などの防災情報を提供してきました。近年は、大雨による災害が増えてきていることもあり、より広くわかりやすく防災情報を伝えていく必要性を感じていました。

われわれは、科学技術に基づいて自然現象を観測・予測し、自治体などの関係機関と定めたルールに沿って情報を発表しています。これは、公的機関の「信頼できる」情報ですが、情報の存在や使い方についての認知度は必ずしも高くはありません。

そこで、自然現象や防災情報などに関する普及啓発にご助力いただける民間企業を募ったところ、Yahoo!ニュースさんが手を挙げてくださったんです。


気象庁 山口達也さん

三宅:Yahoo!ニュースでは日頃から、インフォグラフィックを用いた情報は数多く提供しており、ある程度ノウハウが蓄積されています。ただ、防災気象情報における専門性の高い領域に関しては、十分にグラフィックに表現しきれているとは思っていません。

そこには多少のもどかしさもありました。そんな中、気象庁に監修いただけるかもしれないというのは、これまで以上に踏み込んだ防災に役立つコンテンツが作れるかもしれないという大きな希望になりましたね。

山口:サービスのアクティブユーザーが多く圧倒的な発信力のあるYahoo!ニュースさんとご一緒できるのは、私たちにとっても大変心強いことでした。

気象庁は、災害時に大切な命や財産を失ってしまう方を一人でも減らすことを目指して情報を発表しています。防災に関するわかりやすいコンテンツをともに設計し、広く普及を進めていくことは、そのための大きな一歩になるだろうと考えています。

防災情報は、正確かつ「端的に」伝えることが必要

――気象庁が、防災情報等の普及啓発を、民間企業と取り組むこととした背景にはどんなことがあったのでしょうか。

山口:防災情報の解説を行う際、われわれ公的機関の作成する資料は、「正確で誤解の生じない」ことが前提となります。ところがこれを追求すると、「どういった条件で発表する情報で、どういった方を対象に発表していて……」など、説明が少し長くなってしまう傾向がありました。これはある意味でわかりづらく、課題にもなりえます。

一方で、Yahoo!ニュースさんをはじめとする民間企業の情報は「正しいことを伝えているが、厳密すぎずに」といった温度感のものが多いと感じています。これらの情報は、そのわかりやすさから、われわれとは別の側面において大切な役割を担われています。

お互いの長所をうまく混ぜ合わせることで、より正確でより伝わるコンテンツを産み出せればという考えから、一緒に取り組める民間企業の募集を行いました。


制作した防災インフォグラフィックの例

――連携する上で、なぜインフォグラフィックを選んだのでしょうか。

三宅:災害時においてもネットメディアにはありとあらゆるニュースが流れていて、ユーザーはその中から情報を選択する必要があります。大事なニュースを限られたスペースの中で示してくれるテレビや新聞との大きな違いです。

ユーザーに対しては、ネットメディアのコンテンツやSNSにおける短い滞在時間の中で、情報の「肝」を知ってもらい、理解してもらう必要があります。災害情報は普段接しているニュースと比べても専門的な内容のものが多いので、テキストだけで説明するよりも、イラストや写真などを使ってよりわかりやすくすることで、理解を促す必要があると考えています。

その課題を解決する手段として、インフォグラフィックの活用は現在のYahoo!ニュースにとっての一つの答えになっています。政治経済、スポーツやエンタメだけでなく、防災啓発においても一覧性のある簡潔な図解が必要だと考えたからです。

インフォグラフィックに求められるのは、情報の信ぴょう性の高さとわかりやすさ

――制作にあたっては、Yahoo!ニュースと気象庁でどのようなやりとりをされたのですか?

三宅:何度もミーティングを重ねましたね。まずお互いに制作したいテーマを出し合い、そのテーマの中で情報をテキストや写真、イラストでどう見せるかということを話し合います。その後、ヤフーが素案をつくり、情報の過不足について気象庁のご意見を頂いてから社内のデザイナーに発注。その後、さらに気象庁に監修いただくというステップです。

Yahoo!ニュース 徳満陽介(以下、徳満):約2カ月で7つのインフォグラフィックを制作しました。ヤフー側から、あるテーマに対して、わかりやすいインフォグラフィックのデザインを提示し、気象庁側から必要な情報の補足をしていただくというやり取りを重ねました。情報の信ぴょう性の高さを追い求めると、文字量が増え、視認性の悪いデザインになりがちです。そこをわれわれが必要な情報を取捨選択し、気象庁側に情報の齟齬がないか、最低限の情報が入っているか、助言を頂きました。

「信ぴょう性が高くかつ、わかりやすい」というバランスを取るのは非常に難しく、伝えたいことと伝わることのギャップをできるだけ埋めるのに腐心しました。

私は前職でテレビ局のディレクターをしていたのですが、テレビ番組内で使われるグラフィックはナレーションの補助として簡潔に作られています。対して、新聞に掲載される図版はかなり読み込ませるタイプ。今回目指したのはその中間点くらいですね。


Yahoo!ニュース 徳満陽介

――実際のインフォグラフィックで工夫したポイントを教えてください。

徳満:大雨や土砂災害などの災害に対する危険度を地図上で確認できる「キキクル」のインフォグラフィックに関しては、避難レベルごとの状況の事例を大きなイラストで表現しているのがポイントです。あとは、できるだけイラストを大きく見せるために、テキストを最大限に簡潔化することに努めました。

三宅:今はスマートフォンでニュースを見るユーザーが多くなりました。わざわざ拡大しなくては見られない画像では、伝わりやすさの点で不足していますから、文字のサイズにはかなり気を使っています。

徳満:「線状降水帯の発生と仕組み」に関しては、いくつか気象庁さんから貴重な指摘をいただきました。

最初にわれわれが作成したイラストでは、山に沿って風が上昇する状況を描いていました。しかし、実は「山のない市街地においても線状降水帯は発生する」というご指摘を受け、山のイラストを外し、街中で発生しているイメージに作り替えました。

三宅:「上空の風」を示す矢印についてもアドバイスをいただきましたね。図解の素案では、風が雲の頂上付近を吹いていくようにデザインしていました。

ですが、実際に風が吹くのは雲の中層であると教えていただき、矢印の位置を直しています。こうしたやりとりが、私たちにとって非常に勉強になると感じました。

――「線状降水帯が発生した大雨事例」では、写真を使用されているのが印象的ですね。
三宅:線状降水帯に関しては、いま気象庁としてもヤフーとしても危険性を印象づけたいトピックの一つなので、最近起こった大雨事例の写真を並べて記憶を想起させるよう工夫しました。

今後、Yahoo!ニュースで線状降水帯の話題を取り上げる際にこのグラフィックを添付することで、より危険性を伝えられると考えています。

まずはYahoo!ニュースを信頼してもらうこと、その上でわかりやすさを追求したい

――制作したインフォグラフィックはどのように使用する予定なのでしょうか。

三宅:多くのユーザーにご利用いただけるYahoo!ニュース トピックス内で掲載しているほか、サービスとして制作に力を入れているグラフィックコンテンツ(図解をメインに掲載し、テキスト量を減らしたコンテンツ)の形で提供しています。そのほか、Yahoo! JAPANの各サービスや公式SNSで使用していきます。

山口:気象庁としては、講演会や公式SNS等、気象庁の活動で幅広く使用する予定です。なお、このインフォグラフィックは、個人のブログやSNS、講演、パンフレット、掲示物などで自由に使用いただけるものとなります。

ちなみに、気象庁のホームページに掲載している防災コンテンツは、「気象庁提供」と書かれている限り、基本的にフリー素材なんです。いちいち申請しないと使えないようでは、防災の意味をなさないですから。この考え方に、Yahoo!ニュースさんにもご賛同をいただいた形です。

徳満:民間企業としては著作権の問題でなかなか難しいケースもあるのですが、今回あえてフリー素材とすることで、防災啓発の一助になればと考えています。

――防災啓発にかける思いや今後のビジョンについてお聞かせください。

三宅:普段からYahoo!ニュースに掲載されている情報を正確だと認識してもらい信頼してもらってこそ、災害時にも信用されて避難行動などのきっかけにしてもらえると思っています。まずは、正確性の徹底による信頼の向上が第一だと考えています。その上で、わかりやすさを追求していきます。こちらから伝えるだけでなく、コメント欄などを通じたユーザーからのアクションを頂くことにも注力しているところです。

例えば線状降水帯であれば、ユーザーは言葉の意味が知りたいのか、仕組みが知りたいのか、あるいは発生したときにとるべき行動が知りたいのか。その真意をくみ取り、今度はわれわれがそこに寄り添った情報を提供する。これが今後の重要課題ですね。

徳満:防災啓発に関しては、情報が専門的で多岐にわたるため、普段のニュースより理解のハードルが高いと感じています。そこをユーザーに理解してもらうには、インフォグラフィックを用いるのがベストな手段の一つだと考えて取り組んでいます。

しかし、今後はさらにユーザーが理解しやすい届け方が見つかるかもしれません。インフォグラフィックのみを追い求めていくのではなく、最適な情報の届け方を常に模索し続け、多くの方が「わかりやすい」情報を届けていきたいと思います。

山口:テレビやラジオ、ネットニュースやSNSなど、人々が情報を取得する媒体はどんどん多様化しており、気象庁単独では、多くの方に情報を伝えることは難しいと感じています。

そんな中、Yahoo!ニュースさんのように、「伝える力」を持っている方々にご協力いただくことで、私たちの情報がより広く、よりわかりやすい形で届き、それが皆さんの命や財産を守ることにつながるのであれば、こんなにいいことはありません。

今後もこうした取り組みを積極的に実施していきたいと考えています。

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