Media Watch2021.08.16

丹波新聞社に聞く、「田舎の普通」を全国に届けるニュース作り

全国のコンテンツパートナー(ニュース配信社)から記事の配信を受けているYahoo!ニュース。2021年現在のパートナー数は、420社、650媒体以上。1日の配信記事数は7000本にのぼります。

多くの記事に目を通すYahoo!ニュース トピックスの編集担当に、「気になるコンテンツパートナーを教えてください」とアンケートを取ったところ、メンバーから多数挙がったのが兵庫県にある丹波新聞社。「ディープなローカル記事なのにとがった切り口で、記事に個性がある」「季節の写真がコンスタントに配信される」というのが理由です。

発行部数は1万3000部、まさに地域に密着した丹波新聞。編集部員も8人と少数精鋭です。今回は、ローカルなネタ探しや取材のコツ、紙面とYahoo!ニュースへの配信記事への工夫などについて、丹波新聞・編集部兼デジタルメディア部の森田靖久さんに、Yahoo!ニュース トピックス編集部の仲里和が伺いました。

取材・文/万谷絵美(株式会社Crop)
編集/ノオト

地域情報の全国配信は「特殊アイテム」

Yahoo!ニュース 仲里和(以下、仲) 記事をいつも楽しく読んでいます。その土地を知らない私も面白く読める記事に出合うと、「どうやってネタを見つけたんだろう?」と気になっていました。まず、丹波新聞社がどのような媒体か詳しく教えてください。

丹波新聞 森田靖久さん(以下、森田) まず兵庫の丹波地域がどこかというと、兵庫県の東部、日本海と太平洋の中間にあります。神戸市から車で1時間30分くらいの距離で、京都府に隣接しています。基幹産業は農業。名産品は黒豆やマツタケなどで、絵に描いたような田舎です。

森田 丹波新聞の発行エリアは、兵庫県丹波篠山市と丹波市。地域の人口は合わせて約10万人で、読者層は50代以上が中心です。出身者の購読もあり、地域外にも700部ほど配送しています。

創刊は1924(大正13)年。戦前から今も発行しているローカル紙は、全国的にも珍しい存在です。発行は週2回、ニュース面は毎回4ページ。ウェブ版は2007年に開設し、2018年からYahoo!ニュースへの配信をスタートしました。これを機に社内で「デジタルメディア部」を立ち上げ、配信する内容の精査やリライトをしています。

長らく配信可能なメンバーは私ともう一人という状況で……。月間60本、しかもその日のニュースを当日中に配信する作業も大変なため、今年7月に3人増員しました。

 編集部員8人のうち5人がウェブへ配信できるのは強みですね。割合で見れば、すごく多いと思います。

森田 増員したのは1人あたりの作業負担を軽減する目的もありましたが、他の記者にもインターネット配信を意識してもらいたいという気持ちが大きかったですね。配信も行うことで、自分が配信した記事がどうなっていくのか、他社の動向はどうなのか、関心が高まるのではと。

もともとデジタルに強い社員がいたわけではなく、試行錯誤しながらやってきました。それでも配信担当者を増やすと、「このネタ、ネット配信にどう?」などと積極的に声が上がるようになりました。社内のウェブへの意識が変わってきたことを感じています。

 配信前からウェブ版を開設されていますが、なぜYahoo!ニュースにも配信されたのですか?

森田 それまでのウェブサイトは、あくまで地元の方に向けたニュース配信で、弊社は基本モノクロ版のため、カラーでお届けしたい写真ニュースなどを載せており、紙面との使い分けはしていませんでした。

Yahoo!ニュースへの配信を始めたきっかけは、他紙の記者が書いた丹波エリアについての記事がYahoo!ニュース トピックスに載って、多くの方に読まれているのを見たからなんです。私たちはエリア内であればどの媒体よりも情報を持っていて、地域にとって最も身近な存在であると自負しています。それなのに他媒体の記事が全国で読まれている……。地元を発信する役割を奪われたようで、とても悔しい思いをしました。

この経験から、Yahoo!ニュースへ配信したいと機運が高まったんです。社内では「紙面の売り上げに悪影響が出るのでは?」と議論もありましたが、今までどおり紙面に軸足を置き、ネットは内容の差別化することを提案しました。

最終的に「全国に丹波地域の情報を届けたい」という思いを理解してもらい、Yahoo!ニュースへの配信がかないました。幸いなことに、「Yahoo!ニュースで見るから購読をやめる」という声はほぼございません。この点は紙面向けネタと配信向けネタの区別がそれなりにできているのかな、と感じています。

逆にネットで記事を読んで関心を持ち、エリア外の人が購読を始めてくださるなど、良い影響が出ています。

 地域情報を全国に発信するねらいは何でしょうか?

森田 丹波新聞の使命は、この地域を元気にすることです。地域で頑張っている人や都会ではなかなか見られない風景、面白い出来事を全国の人に知ってもらえれば、丹波地域への関心が高まり、移住者が増えるなど、もっと活気づくのではないか、と。

そのために、Yahoo!ニュースという力を借りしました。紙だけではできないことが可能になり、影響力も高まったので、配信は「特殊アイテム」をいただいたような気持ちです。

 逆に、紙面にしかできないこと教えてください。

森田 手に取れること、残ることが一番の違いでしょうか。新聞は手渡すときには、必ず顔を合わせますよね。丹波地域では、「新聞に載っていたよ!」と丹波新聞を手に持ってご近所さんのところへ走っていく住民の姿が見られたりするんです。デジタル社会の中にあって、新聞を通じて、地域の中にアナログなつながりができ、コミュニケーション方法の一つになれるという意味で紙はいいな、と思っています。

また、見出しの大小によって新聞社としてのニュースの価値判断を示せるのも紙ならではだと思いますね。

「田舎の普通」を届ける工夫

 紙面とネットに載せる記事は、どのように差別化していますか。

森田 紙面だとトップになる地域のニュースも、ネットに配信するとは限りません。ネットは対象が全国です。そして、人口が多いのは都市部。このことから、ネットに載せるのは、都会の人が知らない動物や自然、子どもたちの取り組みなど「田舎」が伝わる記事を選びます。編集会議ではネットで人気の記事傾向をシェアし、都会の人に楽しんでもらえそうな記事に仕上げる工夫もしています。

そう考えるようになったのは、ある時、地元では当たり前の光景や出来事も、都会の人は知らないと気が付いたんです。そして、その「普通」が意外に関心を持たれるんですよね。農作業と野鳥のコンビは、こちらではありふれた光景ですが、少し面白く仕上げるときは、サギとトラクターの攻防戦のように見方を変えて、記事にすることもあります。

普通過ぎてニュースにならないようなことが、ネットではウケる。これは大きな発見でした。私たち記者も見慣れた光景に向ける視線のあり方を考え直しています。

「『サギ集団』現る 作業中の農夫つけ狙い 目当ては飛び出す小動物 これも春の風物詩 」(丹波新聞)より。水田が広がる地域なら、季節によって頻繁に見られる光景でも、都市部ではおもしろいと感じられることもある。

森田 また編集部の考え方として、「地域の監視者」ではなく、「地域の良き隣人」であることを意識しており、配信によってPVが稼げそうな話題であっても、地域に悪影響が出そうなものは紙のみの報道にとどめています。責任ある新聞社としての品格も考えていかないといけないと思っています。

 なるほど。記事の内容や選定は編集方針によるので、Yahoo!ニュースへ記事を配信するコンテンツパートナーによってさまざまです。それぞれの方針で配信してくださると、媒体の色が出やすいと思います。

森田 次に原稿、見出しの書き分けです。インターネットでは読者が全国に広がりますから、紙面は「丹波市」でも、配信では「兵庫県丹波市」と県名を付けます。

また、紙面は文字数が限られていて、読者も丹波をよく知っていることから、特産の黒豆の記事も、紙面では端的に「黒豆の出荷が始まった」とします。しかし、配信では黒豆の歴史や生産量などの補足を入れます。「地元の方々なら知っていて当然」という情報は、紙面ではカットしていますから、配信の場合は全国、どこの誰が読んでも理解しやすい記事を心がけています。地域紙もネット上では全国紙になった気分です。

 補足を入れてくださることで、他地域の方も自分に置き換えて感じたり、考えたりすることができます。細部にまで気を配っていただくことで、他地域の方にもわかりやすい記事ができているのですね。

森田 そのほかネットでよく読まれる記事はかわいい表現、キャッチーな表現の見出しや文章が使われていることが多いので、紙面より軽いタッチに。元の記事を大幅にリライトすることもあります。

見出しは、思わずスクロールしている手を止めたくなるように工夫しています。配信当初は紙と同じ見出しを付けていましたが、自身がスマホやパソコンで読んでいると仮定して、読者に「読んでみたい」と思ってもらえるかどうかに心を砕きます。それに、Yahoo!ニュース トピックスに選ばれた際に、編集部の方々が付けてくださった見出しを研究したことも今につながっていますね。

もう一つ、配信のスピードも意識しています。特に写真ニュースは速さにこだわっていて。編集会議などで取材や撮影の予定を把握し、記者にすぐデータを送るようお願いしています。私自身も記者ですので、率先して「爆速」を心がけています。

人員が少ないので、総動員体制でやるしかないということを逆手に取り、配信への時間短縮を図っていますが、速度重視はチェックする目の少なさにもつながりますので、なるべく複数人で原稿を見たりするなど、それぞれが記者+配信+編集を兼ねています。

 早いときには、午前中に撮影した写真をお昼すぎに配信されますよね。そのスピード感は、トピックス編集としてもありがたいです。逆に、Yahoo!ニュース側への要望はありますか?

森田 写真には気合を入れて取り組んでいるので、可能であればスマホ版のヤフーにも写真ニュースの枠があると嬉しいですね。

この地域に住んでいるから見つけられるネタ

 私も、神奈川新聞に2年間出向し、記者として実際に取材の現場を経験しました。限られたエリアの中からネタを探し、面白い記事にするのは大変だと思います。私が印象的だったのは、パン屋に座敷童子(ざしきわらし)が出た記事です。都市伝説的な内容にまで踏み込んだ、読み応えのある内容で。このネタはどちらから?

 

「座敷童子出没?2つの噂に迫る パン店の幸運とコンビニの謎 あなたは信じる?」(丹波新聞)より

森田 知人からの口コミです。取材先となったパン屋さんに知人が買い物に行って、聞いた話を教えてくれて。記者のほとんどがこの地域の出身であり、住民でもあります。家族や友だち、同級生など地域住民ならではの人脈があるので、いろいろなところから情報が入ります。

また、日ごろから取材活動で知り合った方々に、「面白いことがあったら教えてください」とお願いしています。休みの日の散歩中に美しい光景に出合ってしまうなど、生活時間も含めた日常の中でネタを仕入れるので、気持ちのオンオフを切り替えづらい面もありますが、表に出ていないネタを細かく拾えるのはそのおかげですね。

 民俗系のネタや地域の風習などの記事が多いのは、どうしてですか?

森田 それは私が大学の文化財学科出身で、もともと歴史好きな性分が生きているかもしれません。私以外にも民俗・伝承系が好きな記者がいます。民俗系の記事は紙面にも書いていますが、紙面だとなかなか反響がわからないので、興味のある人が多いことにそれほど気づいていませんでした。
Yahoo!ニュースへの配信では、PVやコメントで反響が一目瞭然ですので、民俗系は多くの人に好まれる記事なのだとわかりました。なかでも、姥(うば)捨て山の伝承の記事はPVがすごく伸びましたね。

「姥捨て山の”真相”に迫る(上) 棺ごと尾根から谷底へ 集落に伝わる『ガンコガシ』の伝説」(丹波新聞)より

 こういったネタは、地域を歩きながら見つけるのですか?

森田 田舎に暮らす私自身が「何だこれは?」と思うものなら、都会の人はもっと驚くだろうと思い、積極的に調べるようにしています。姥捨て山の伝承は、地元の郷土史家からの情報提供がきっかけでした。

 もともと興味があった分野のネタが取材エリアにたくさんあるというのは、縁を感じますね。

森田 実は丹波には、独特の風習が今もたくさん残っているんです。京都に近い田舎という地域柄、さまざまな文化や歴史が育まれ、伝わりやすかったのかもしれません。最近では「持ち帰りOKの地蔵」というネタを発掘しました。今後もまだ見ぬネタを掘り起こしていきたいと思います。

 なるほど。美しい写真の多さも、丹波新聞の特徴ですね。これからの季節はどんな写真が出ますか?

森田 夏は風景写真ですね。夏の青い空と稲が育っている緑のコントラストが映えると思います。秋になれば特産物がたくさん収穫されますから、カゴにてんこもりになって売られているマツタケや高額で取引された大きな栗など。田舎ならではの風景を通して、「何もないと思われがちな田舎には、こんなにたくさんのものがあるよ」と都市部の人に届けたいですね。

水田が広がる丹波地域

森田 あと、季節にかかわらず、子どもたちの笑顔もたくさん出していきたいです。かわいくて元気に成長している子どもは誰が見ても元気をもらえますから。卒業式や季節ごとの行事などが大きなニュースになるとは思っていませんでしたが、ネットでは人気です。最初は驚きました。

 子どもの成長が見える写真は、ポジティブな気持ちになれますね。秋の実りの記事も楽しみにしています。今はコロナ禍で帰省できない人もいますから、出身地を思い出すような写真が届けられたらいいですね。

丹波新聞社のキーワードは「グローカル(グローバル アンド ローカル=足を地に据え視野は世界に)」だと聞きました。最後に今後の理想像を教えてください。

森田 丹波新聞社の理念にグローカルを掲げたのは弊社の会長です。地域紙である私たちは、この地域でしか生きていけません。だからこそ、地域がもっと盛り上がって活力ある場所になってほしいと心から願っています。ネットへの記事配信は地域のPRや丹波地域に関心を持ってもらうきっかけになり、まさしくグローカルを体現できるものと期待を寄せています。

また、私たちはたまたま兵庫・丹波地域をエリアにした新聞社ですが、全国各地に同じような超地元密着型の地域紙が存在しています。「地方の時代」と言われて久しいですが、人口動態を見ると、真逆の動きは止まっていません。だからこそ、私たちは、「地域紙という存在がある」ということを広く知らしめ、お住いの地域にある地域紙に目を向けてもらうきっかけとなるような存在になりたいと考えています。

これからも紙とネットのバランスを取りながら、地域を大切に、またその魅力を全国の皆さんに発信する唯一無二のメディアでありたいと思っております。

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