Media Watch2017.11.24

新聞休刊とネットでの再起――茨城県南のローカルニュースがオンリーワンメディアになる可能性

今年3月、茨城県南の地域ニュースを掲載してきた「常陽新聞」が、惜しまれながら休刊しました。もともとは1948年創刊の老舗媒体。経営難から2013年8月に廃刊。翌年2月に全面リニューアルして新創刊したものの、実に70年近くにわたって地域に親しまれてきた「常陽新聞」の名は、ここで完全についえることとなりました。

ところが、その「常陽新聞」のベテラン記者たちが一念発起。この10月から新たに「NEWSつくば」というサイトを立ち上げ、引き続き地域ニュースを伝えています。

ニュースメディアが繚乱(りょうらん)する今日、紙からウェブへとフィールドを移してなお、情報を伝える理由は何か。そして、地域ニュースの存在意義とは。「NEWSつくば」の発案者である、NPO法人NEWSつくばの坂本栄代表にお話を聞きました。

取材・文/友清 哲
編集/ノオト

なぜ、地域ニュースが必要とされるのか

訪れた「NEWSつくば」編集部は、筑波学院大学内にありました。これは「地域メディアの灯を消してはならない」という坂本さんの考えに同大学が賛同し、スペースを提供されてのことだそう。

「そこで暮らす住民にとって、地域情報が必要なのは当たり前のこと。ところがインターネット全盛の昨今は、茨城県に限らず、各地の地域紙はどこも経営難にあえいでいます。やがてこれらが消えてしまえば、細かなローカルニュースは地域住民たちに行き渡らなくなってしまう。これではいけないと、時代の流れに合わせてインターネットに目をつけたのが、『NEWSつくば』の始まりです」


坂本栄さん

地域ニュースの必要性についてそう語る坂本さんは、御年71歳。33年勤めた時事通信社では、ワシントン特派員や証券部長、経済部長といったポストを経験したほか、現在ではニュースサイトの代表格となっている「時事ドットコム」の立ち上げを手掛けたキャリアの持ち主です。

メディアは、権力の腐敗を防ぐ監視の役割を担っています。その意味でも、地域ニュースの存続は必要であるというのが坂本さんの考えです。たとえ国政に関わる情報には困らなくても、自分の住んでいる地域の議員の活動や役所の動向がチェックできないとなれば、これは問題です。

そしてそこには、ベテラン記者らしい次のような分析もありました。

「インターネットに押され、紙のメディアは大手ですら経営に苦しんでいるのが実情です。このままいけば、大手紙もいつか存続が難しくなるでしょう。そんな状況下で、少しでも生き残れる可能性が高いのは、地域メディアだと思います。なぜなら、情報がローカルになるほど、現地密着の取材組織が必要となるからです。大手紙が支局を置いたくらいでは太刀打ちできない情報を押さえ、それを伝えることができれば、オンリーワンのメディアになれるはずです」

現在「NEWSつくば」編集部に籍を置く6人の記者は、いずれも「常陽新聞」で活躍したベテラン・中堅記者ばかり。取材力として、これほど強力な布陣はないでしょう。オンリーワンの地域メディアを目指すにあたり、土台はしっかり固められていると言えます。

局所的なローカルニュースだからこその反響も

まだまだ人手が足りず、現在の発信ペースは1日1~2本にとどまっているという「NEWSつくば」ですが、将来的には1日5本ほどに引き上げるのが編集部の目標。記者の1人であり、かつて「朝日新聞」と「常陽新聞」の2つの媒体で活躍した米内隆さんは、ニュースサイトとして再出発するにあたり、次のように語ります。

「私は朝日新聞時代、その影響の大きさから、記事は人に読まれてこそ価値が生まれると実感しました。ところが常陽新聞に移ってからは、せっかくいい記事をたくさん掲載しても、思うように反響が得られない現実を痛感させられました。これをフォローできるのはウェブしかないという思いが、現在の原動力となっています」

取材時点では立ち上げから1カ月ほど。詳細なアクセス解析はできていなかったものの、ウェブならではの拡散力に期待を寄せていました。

また、同じく記者の1人である大志万容子さんからは、こんなコメントも。

「まだアクセス数自体は少ないですが、それでも地域の局所的な情報に特化しているためか、思いがけないところからアプローチを受けることがあります。つい先日は、ある記事について全国ネットのテレビ番組から問い合わせが入り、あらためて地域ニュースをネットメディアで伝えることの可能性を感じました」

そして両記者が口をそろえるのは、地元に確かなネットワークを持っているからこそ、大手紙では拾えない情報を漏らさずカバーできるという自社の利点。これは地域メディアならではの大きな武器でしょう。

現在はボランティアでも、マネタイズの施策も多数

しかし、どうしても問題となるのが資金面。「NEWSつくば」は無料メディアであり、今のところ記者はいずれもボランティア参加なのだそう。これが存続の足かせとなるのは言わずもがなです。

「だからといって、こうしたニュースサイトを有料で営むのは、やはり難しいでしょう。以前、リニューアル後の『常陽新聞』でスマホ版を有料展開したことがありましたが、思うように購読者数は伸びませんでした。ネット上の記事は無料で読めるものという意識が人々に根付いており、これを打破するのは並大抵のことでは不可能です」(坂本さん)

そこでNPO法人を立ち上げ、まずは大口・小口の寄付を募る形でスタートを切った「NEWSつくば」。ただし、いつまでもNPOとして運営するつもりはなく、「常陽新聞」時代にはなかったビジネスモデルをいくつか用意していると言います。

「『NEWSつくば』の取材力と編集力を生かして作った記事を、地元の地域FM局に提供し、マネタイズする施策がすでに進みつつあります。同様のことは地域のCATV番組などにも応用でき、ゆくゆくは地域通信社的な機能を持つことだってあり得るかもしれません。また、現在はあまり現実的ではありませんが、そのうち大きなアクセス数を得られるようになれば、広告収入も当然視野に入ってくるでしょう」(同)

世代的に、紙のメディアで育った身でありながら、「紙への執着はノスタルジーにすぎない」と明言する坂本さん。現在は紙の時代に培ったノウハウを、ウェブの世界で最大限に生かす手法を模索し続けています。

「アメリカではすでに、ローカル紙はほぼ全滅状態と聞きます。つまり、あの広い国土のあちこちで、深刻な情報過疎が起きているわけです。それでは、地域でどんな事件が起きているのかも、役人がちゃんと仕事をしているのかもわかりません。『NEWSつくば』がカバーする県南地域、特につくば市と土浦市がそのような状況にならないよう、がんばっていかなければと思います」

台所事情が苦しいのは確かながら、長年の業界経験を踏まえて「最大の資産は人」であることを、改めて実感しているという坂本さん。メディアが紙からウェブに形を変えても、今日まで育まれてきた取材力は失われません。ぜひ、「NEWSつくば」の発展を通して、ベテラン記者たちの新たな挑戦を見守ってください。

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