「ユーザーにとって、デザインはすべての入り口」 モトヤフが向き合い続けるサービスの存在意義と使命感
「モトヤフ」とは、ヤフーを退職して別の会社に転職した人たちのこと。ヤフーでは自社のイベント企画でモトヤフをゲストに迎えるなど、転職後もそのつながりを大切にしています。
今回お話を伺うのは、かつてYahoo!ニュースのデザイン部部長を務め、現在は、クックパッド株式会社VP of Design/デザイン戦略部 本部長として勤務する宇野雄さん。UI/UXデザインの専門家として、Yahoo!ニュースでの経験や転職の理由、現在について話を聞きました。
取材・文/友清 哲
編集/ノオト
ニュースを伝える「デザイン」が担う使命
――まずは、ヤフー在籍時代のキャリアから教えてください。
ヤフーに入社したのは2013年2月です。僕はもともとソーシャルゲームのUIデザインをやっていて、ヤフーでも最初はゲーム部門配属でした。
その後、2014年に異動して担当したのは、ヤフー子会社(当時)が運営していた世の中の動きや社会問題を解説するニュースメディア『THE PAGE』のデザインです。さらに2016年、Yahoo!ニュースに移り、デザイン部の部長を務めました。
――デザイナー視点で見たとき、ゲームとニュースメディアではどのような違いがありましたか?
それはもう、何もかもが違う印象で、最初はかなり戸惑ったのを覚えています。例えば、ゲームの目的はプレーヤーに継続して楽しんでもらうこと。そのため、遊び続けたくなるデザインが求められます。
一方、ニュースメディアで重視されるのは、情報が正しく伝わるデザインです。『THE PAGE』時代は、メディアとしてのブランディングが重視されました。
しかし、プラットフォームであるYahoo!ニュースでは、むしろメディアの個性をデザイン面で出してはいけないという縛りがありました。
――特徴を出さずに、可読性を高める。これはデザイナーとして非常に難しいミッションですね。
そうですね。さまざまな媒体から多くの記事が配信されるなか、いかに公平中立かつ無色透明なデザインに仕上げられるか。そのために自分にできることは何だろうか。配属当初は、かなり悩みましたね。
――Yahoo!ニュース在籍時、最も印象に残っているエピソードは?
転機になったのは、2016年の熊本地震です。地震発生直後からさまざまなメディアから膨大な情報が集まる中で、「検索ワードで○○が急上昇している」、「現場ではこういう情報が不足している」、「外国人観光客も困っているようだ」など、Yahoo!ニュース トピックスの編成のための活発な議論が始まりました。
その中で、Yahoo!ニュースが伝えた情報は本当に現地のユーザーに届いているのか、アプリならもっとできることがあるのではないかなど、僕自身も情報の届け方について深く考えるきっかけになりました。
――現場で困っている人に何ができるか。メディアの使命に直面したわけですね。
そうですね。本当に必要な情報をいち早く伝えるためには、どのような見せ方をすべきなのか。また、より多くの人に重要度の高い情報を見てもらうにはどうすればいいのか。もしかすると、そうした工夫によって人の命が助かることだってあるかもしれません。Yahoo!ニュースが背負う「使命」をデザインも担っている事実に気づかされました。
翌年、僕は検索の部門へ異動しましたが、Yahoo!ニュース時代に直面した、「サービスの存在意義に基づく行動指針」は、その後のキャリアでも常に意識していることです。
その後、検索チームでは検索結果に表示される画面の設計にも携わった
転職を決めた理由は
――では、新天地を求めようと考えたきっかけは何だったのでしょう?
僕はトータルで6年ほどヤフーに在籍しましたが、正直なところ、ヤフーを辞めなければならない理由は1つもありませんでした。転職ではなく異動を願い出ることも真剣に考えていました。
ただ、デザイナーとしてさまざまな経験を積んできた中で、自分自身の成長の鈍化を感じていたのは事実です。社内での人材としての価値は少しずつ上がっていたとしても、果たしてヤフーの看板をはずしたときに、自分にどれほどの市場価値があるのか、疑問に感じ始めました。これが転職を決めた大きな理由ですね。
――転職は一大決心ですよね。
そうですね。実際、ヤフーでなければできないことはたくさんあると思います。しかし、慣れ親しんだヤフーだからこそ、少し手を抜ける部分も出てきた。その現実に気づいたとき、まったく新しい挑戦の必要性を強く感じました。
また、転職を考え始めた当時は、デザイナーとして手を動かすことよりも、マネジメント業務の割合の方が大きかったんです。それまでの実績を生かしてキャリアを考え直すには、ちょうどいいタイミングだったのかもしれません。
転職後もサービスの存在意義に向き合い続ける
――2019年2月にクックパッド株式会社に入社されました。この会社を選んだ理由は?
友人の紹介で、社長と話を直接する機会を得たのがきっかけでした。ヤフーとの最大の違いは、特定の領域にフォーカスしている点で、「これほど料理のことだけを真剣に考え続けている会社があるのか」と、衝撃を受けたんです。
ときには目先の売り上げや利益率を度外視して、とにかく、毎日の料理をいかに楽しくするか、だけを考えている。しかも本気で。そのピュアさがが僕にとって新鮮でした。
――転職となると待遇面、つまり報酬も大切な判断要素になると思います。
現時点でのお金の優先度は、実はあまり高くありません。どちらかというと、今よりも10年後の年収が大切だと考えていました。
実際にいくつかの会社の面接では、「年俸は下がっても構いません。数年後に金持ちになれれば」と言っていましたから(笑)。
――クックパッドではどんな仕事を?
現在はVP of Designと、国内のクックパッドにおけるデザインすべてをつかさどる「デザイン戦略部」の担当本部長をしており、デザイン全体に責任を持っています。
クックパッドのデザイナーは、基本的に担当する事業部署に所属しますが、そうではなく横断的かつ包括的にデザイン案件を手がけています。
細かなサービスから新規プロジェクトまで複数に携わっていて、まだ世に出ていないものもありますが、お話をできる中でいうと2018年に発表したスマートキッチンサービス「OiCy(オイシィ)」のプロジェクトを担当しています。
これはレシピデータを機器とインターネットでつなぐ試みで、料理をさらに便利に楽しいものにする「スマートキッチン」を実現しようというもの。僕はこのプロジェクトで体験設計とUIデザインを手掛けています。
クックパッドはこれまで、「今夜の献立をどうしよう」といったレシピ探しのシーンにおける課題を中心に解決してきました。今はそこで立ち止まらず、さらに料理を便利に楽しくするために何ができるかを考えています。
この考え方は、Yahoo!ニュース時代に向き合い考えてきた、サービスの存在意義や使命感とも共通点があると強く感じています。
それに、デザイナーとして解決できる課題が目の前にたくさんある今の環境には、非常にやりがいを感じています。あらためてデザインという仕事に向き合えるのが、とても楽しいですね。
ユーザーから見たらデザインがすべて
――デザイナーという職業には、まだまだ大きな可能性がありそうですね。
僕はよく、ヤフーの川邊健太郎社長が言っていた「ユーザーから見たらデザインがすべて」「デザイナーはその重責を担っていることを自覚してほしい」という言葉を引用するのですが、まさにデザインはすべての入口の部分であると思います。
ものづくりをする側からすると、デザインは最後にできあがるものでしょう。しかし、ユーザー視点に立てばそうではなく、むしろ最初の接点です。
これまでデザイナーは制作工程の下流にいるのが当たり前で、それが効率的とされてきました。しかし、企画の初期段階から「事業にかける思い」を引き出し、それが伝わるデザインになっているのかを考え、形にして見せる。これは、デザイナーだからできる仕事だと思っています。
だから、デザイナーは経営側に近いところにいっても、考え方次第でいろんな可能性が広がっているし、重要で責任のある仕事なんです。これは今後も引き続き、心の中で意識しておきたいメッセージですね。
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