発言小町は「井戸端会議」であり続ける――開始から20年、1日2000件の投稿が語る女性の本音
1999年10月にスタートした掲示板「発言小町」が、まもなくサービス開始20周年を迎えます。さまざまなネットのサービスが生まれては消えたこの20年間。発言小町は当初から変わらず、女性たちの「本音」を打ち明ける場になっています。
月間1億4000万PV、ピーク時には2億PVも達成したという発言小町を、読売新聞社がなぜ始めたのか。平均して1日2000件はあるという膨大なトピック(トピ)やレスを一体どのような体制で確認し、運営しているのか。大手小町/発言小町の編集長・小坂佳子さんに聞きました。
取材・文/波多野友子
編集/ノオト
1日2000件の投稿は、すべて「人の目」で確認
——発言小町が立ち上げられた1999年は、今のように女性向けウェブメディアが多くなかった頃ですよね。
(「発言小町」トップページより)
インターネットのれい明期でしたね。当時のメディア企画局の担当部長の「新聞とパソコンを小脇に抱えて大手町を闊歩する小野小町」というアイデアをもとに、「大手小町」というコーナーをニュースサイト「ヨミウリ・オンライン」の中に作ったんです。そこに、現代版井戸端会議の場を設けようということで掲示板「発言小町」を発案しました。
当時は、インターネット自体がまだ女性たちに広く利用されていたわけではなかった頃。女性向けのお悩み相談ができる場所を作るのは、本当に初めての試みだったと思います。
女性向けという視点で見ると、読売新聞は、日本で最初に本格的な「婦人面」をつくった歴史があるんです。発言小町に通じる、女性の声を届けるという意識は、かなり以前から持っていました。婦人面が始まったのは1914年。当時の紙面を見てみると、最初の婦人面に載っているのが「コーヒーゼリーの作り方」という記事でした。現代の女性向けコンテンツにも通じるところがあるかもしれません。
——発言小町をここまで長く運営する秘訣はあるのでしょうか。
発言小町は、「誰かに何かを提供する場所」ではなく、「誰でも自由に入ってこられて、自由に発言できる場」です。ただ、その安心感を保障するために、投稿は「公序良俗に反していないか」「ひぼう中傷を行っていないか」の観点で、すべての投稿を人の目でチェックしています。
投稿ルールは公開され、適宜改定されている(「発言小町の登投稿ルール」より)
——かなりの数だと思われるのですが、それをすべて人の目でチェックしているのですか?
そうなんです。投稿数は、親トピ(※議論の元になる投稿)・レス(※親トピに対する返信)を含め、1日平均2000件くらいあります。年間にすると、親トピだけでも約4万5000件に上ります。それを、基本的に元日以外、担当社員と専属スタッフが一日中見ています。インフルエンザの季節で人手が足りなくなったりすると、正直大変で……。緊急メールをまわして、「今週中に、一人何件チェックしてください」と指示を出して、スタッフ総出で対応することもありますね。
——相当な労力では。
そうですね。一日に1500件近くチェックできる伝説のスタッフもいたんですよ(笑)。
とはいえ、投稿はできる限りすべて掲載する方針です。例えば、問題のある表現を一カ所だけ変えれば掲載できる投稿が結構あるんです。そういう場合は、問題のある表現だけ削って投稿するようにしています。レスしてくれた人の意見はなるべく載せたいという思いで、チェック体制づくりに力を注いでいます。
一度、特定のワードを検知してチェックするシステムを試したことがありましたが、やはりそれでは「できる限り掲載する」ことが難しく、人の目でチェックする体制に戻しました。
——20年続けてきて、ターニングポイントなどはありましたか?
2007年のリニューアルです。ジャンル別に一覧できるようにしたり、「男性発」というジャンルを作ったり。いまの発言小町の原型になっています。このリニューアルで、2008年に月間1億PVを突破。一人あたりの月間の利用時間が1時間22分となり、2ちゃんねる(当時)とYouTubeを抜いたことで話題になりました。PVの記録は2014年に達成した月間2億PV。その後も1億4000~5000万PVで推移しています。
最近では、若いスマホユーザーも入ってきています。スマホユーザーをいかに「病みつき」にさせられるかが今の課題ですかね。
井戸端会議だからこそ、興味のなかった話題にも触れられる
——この20年間で、女性を取り巻く環境は大きく変わったと感じます。投稿を見ていて、時代の変化を感じることはありますか?
時代とともに悩みの背景となる社会状況やコミュニケーションツールは変わってきています。例えば、シングルマザーからの投稿が増えたり、「LINEでうまく男性と会話ができない」という投稿が出てきたり。「離婚するべきかどうか」という相談に対して、「別れちゃえ」という意見はおそらく昔より増えている。
ただ、悩みの根源にあるのは、「身近な人とのコミュニケーション」がメインで、そこはまったく変わっていません。誰かと「つながれている・つながれていない」を含めた人間関係や、社会通念と自分を照らし合わせてどうなのか、など。誰にも言えなかったことを打ち明けて、それに対して様々な意見が寄せられる。人間の根本的な悩みって、案外普遍的なものじゃないかと思うんです。だからこそ、発言小町が20年間使われ続けているのだと感じます。
——投稿者の属性が気になったのですが、どんな方が投稿されているんでしょうか。
実は私たちは、あえて投稿者の属性データを取っていないんです。みなさん、トピやレスの中で「30代、会社員です」「地方に住んでいます」「家族構成は〜〜です」とか自己紹介を書いているので、そこでしか把握していない。だから、統計的なことはお答えしにくいんですよね。
——データ分析やマーケティングをしていない。
マネタイズの観点で見れば、必要かもしれませんし、私自身も悩むところではあります。ただ、それをやってしまうと、ユーザーが居心地のいい空間ではなくなってしまうのではないか、とも思うんですね。
現状、読売新聞社としては、オープンで匿名性がありつつ、ユーザーを傷つけたり追い込んだりしない場所として発言小町を運営しています。属性を取らないから、みんな自由に、ルールに逸脱しない範囲で、好き勝手にやってください、と。矛盾するところもありますが、そこに発言小町の良さがあるのではないかとも思っています。
——発言小町がデータドリブンなサービスに変わってしまったら、古くからのファンは戸惑うかもしれません。
ネットでニュースを見ていると、関連記事やサイトが次々に出てくるじゃないですか。読者の嗜好(しこう)に合わせる点では優れたシステムです。ただ、新聞特有の考え方かもしれませんが、ページを開いてみないとわからない、「興味のない情報」に触れる場所ってやっぱり必要だと思うんです。
——それこそ発言小町の投稿を見ていると、次々に興味深い投稿をみつけてしまって……。
基本スタンスは「井戸端会議」ですからね。聞くつもりのなかった情報も、耳に入ってきてしまう。興味のないテーマだけど、ちょっと読んでみたらすごくドラマチックで、涙を誘われたり、コメントで共感したり、ほっこりしたり。
例えば、「電車男」という作品が流行した頃、発言小町でも、トピ主(※親トピの投稿者)の恋愛を応援するトピがよく立っていたんですよ。
——どうやって好きな相手に話しかければいいか、みたいな?
そう、まさに集合知ですよね。どこの誰かは知らないけれど、みんなが一体になってトピ主さんの体験を疑似体験したり、後押ししたりする。そういう世界観をネット上で維持する意味は、きっと大きいんじゃないでしょうか。
他人には言えない悩みを受け止められる掲示板であり続けたい
——小坂さんご自身、普段どんな気持ちで発言小町を見ていますか?
大手小町/発言小町の編集長・小坂佳子さん
ユーザーとして投稿した経験はありません。ただ、編集部として投稿したことは一度あって。「レスが付かなかったらどうしよう……」と緊張しましたね。
トピのなかには、一つもレスがついていないものもあるんですよ。そういうトピ主さんの不安が分かったかもしれません。でも、そういうトピを見つけて育ててくれる人が、時々現れるんですよね。
——育てるとは、どういう意味でしょうか。
レスの達人みたいな人がいるんです。その人がレスをつけると、そこから良い感じに他の人からもレスがつき始める。そうするとトピが育っていくんです。レスやアクセス、お気に入りの数が多いものが、必ずしも良いトピではないというのが面白いところなんです。
——リアルの会話で、「話自体が面白くても良いツッコミが入らなければ盛り上がらない」みたいな感じですね。
まさにその通りです。レスも含めて一つのストーリーなので、どういうレスが付くかでトピ自体の盛り上がりが変わるんです。レスの達人は、早い段階で盛り上がりそうなトピを見抜く力があると聞きます。
我々スタッフの中でも、「このトピは育ててあげたいよね」とか、「いいレスを書いてくれるユーザーを大事にしていきたいね」という会話がよく交わされているんですよ。
——これまでに、小坂さんが好きだったトピがあればぜひ伺いたいです。
印象的なのは、2010年3月の「桃太郎と金太郎はどっちが強いんですか?」というトピです。読売新聞本紙でも、発言小町のトピを取り上げる記事を書きました。
ユニークなトピは読売新聞本紙で取り上げられることも(2010年3月21日付 読売新聞朝刊)
昔ばなし研究所所長の小沢俊夫さんや、児童文化研究家の加古里子さんに取材し、検証していただいて(笑)。「そんなこと、分かるわけないじゃない」と言いながらも、真剣に考えてくださったのを覚えています。
——ネット掲示板ならではの雰囲気が醸し出されるいいトピですね(笑)。ほかに印象的だったのは?
2011年5月、東日本大震災で二人のお子さんを亡くされた方から投稿された「子供を亡くしました。昔話を探しています」というトピ。涙なしには読めませんでした。「悲しみの中、たまたまラジオで耳にした童話が、子どもたちを象徴するようで気になって仕方がない。何の童話か知っていますか?」という内容の投稿で。たくさんの人がレスを交わし合う中で、最終的にその童話を見つけてくれるんです。
(「発言小町」サイト内より)
——拝読しましたが、涙が止まりませんでした。
あの流れは本当に温かいですよね。
考えさせられるトピだと、2018年の発言小町大賞で「負けないで賞」を受賞した「障害者のきょうだいは必ず受け入れなくちゃならないの?」というのがあります。こういう悩みって、やっぱり現実社会では正面から言えないものだと思うんです。この掲示板が安心して発言できる場所だからこそ、言えたんじゃないかな。
(「発言小町」サイト内より)
世間一般の常識の枠の中で考えて、「この悩みは他人には言ってはいけない」とずっと苦しんでいた人だと思うんです。その悩みをちゃんと受け止められる掲示板であったことが、自画自賛になりますが、改めてすごいなと。誰にも言えない悩みを、専門の相談機関にぶつけるという選択もありますが、別の選択肢として発言小町が役に立っていると感じられた瞬間でしたね。単なる井戸端会議の場ではあるんだけど、それが誰かの力になっていると感じられるのは、私たちにとって本当にうれしいことなんです。
——記念すべき20周年を機に、これから発言小町が目指すことはあるのでしょうか。
これまで発言小町は、いい意味での「オールドメディア」として受け入れられてきました。基本的なスタンスはこれからも変わらないと思いますが、やはり20周年の節目なので、2019年はもっと多くの方に発言小町を知っていただきたいですね。そのため、社外ともどんどんコラボして、新しい取り組みができればいいなと考えています。
ただ、オールドメディアが作っているオールドメディアっぽい掲示板というテイストは変えたくない。例えば、「トピに写真を入れない」というのは今後も変えない方針です。見た目を向上させつつ、知恵を絞っていきたいです。
時代がどんなに巡っても、きっと「井戸端会議」の場ってなくならないと思うんです。そんなある種の安心できる場所を、いつまでも提供し続けられる掲示板サービスでありたいと思っています。
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