過去最高の2.1億PV到達 初のリモートワークでの選挙報道、Yahoo!ニュースはどう対応した?
2021年10月31日、第49回衆議院議員総選挙の投開票が行われました。コロナ禍への対応や経済政策、野党共闘などの争点で注目を集めた今回の選挙。ヤフーが開設した「衆院選特集サイト」の閲覧数は過去最高の2.1億PVに達し、関心の高さがうかがえる結果となりました。
衆院選のニュースや候補者の当確速報を伝えたYahoo!ニュース 衆院選特集チーム。その現場では何が起こっていたのでしょうか? リモートワークでの衆院選対応をリードした前田明彦(プロジェクトマネジャー、以下PM)、高柳乃愛(PM)、喜楽智規(技術)、菅将徳(編集)、岡村明子(企画)に、投開票日の舞台裏や苦労を聞きました。
取材・文/村中 貴士
編集/ノオト
「激戦区の図解記事」や「相性診断」で2.1億PVに
――今回、Yahoo!ニュースの衆議院選挙特設サイトの利用者数は、これまでの選挙と比較して過去最高になったと聞きました。
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企画・岡村:はい。サイト全体でのページビューは2.1億PVで、前回比(2017年の衆院選)170%でした。なかでもスマホからのアクセスが全体の7割を占めています。 相性診断をしてくれたユーザー数は、150万UB(ユニークブラウザ)以上となっています。 ユーザーからは「賛成派、反対派の事例が分かりやすい」という意見をいただきました。また、インフルエンサーやジャーナリストの方々がSNSで「Yahoo!ニュースの相性診断を受けて投票しよう」と呼びかけてくださいました。
Yahoo!ニュース内に用意された衆議院選挙2021の特設サイト
――Yahoo!ニュース内に「衆院選特集サイト」を立ち上げるにあたって、まずどんな取り組みからスタートしましたか?
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企画・岡村:具体的にどのようなページを提供するか、企画案の洗い出しから始めました。その後「UXカルテ」を作成し、コンセプトを設定してページを作っていきました。新しいプロジェクトを始める際、どのようなコンセプトで進めていくかを考えるのが企画の仕事です。
――UXカルテとはどういうものですか?
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企画・岡村:「何を指標にするか?」「ユーザーにとってどういうページであるべきか?」を突き詰めて考えたものです。今回は「普段、Yahoo!ニュースを利用しているとは限らない、日常的に政治に関心がないユーザー」をターゲットと考え、「Yahoo!ニュースの選挙特集を見れば、誰に投票すべきか分かる」をコンセプトにページを制作することになりました。
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編集・菅:そういったコンセプトを受けて、他社との共同連携企画として「政党との相性診断」の設問と、選挙の基礎知識に関する解説記事を制作していただきました。相性診断は早稲田大学マニフェスト研究所に監修してもらっており、解説記事は毎日新聞社と連携した企画です。 相性診断は、10個の設問に対し賛成・やや賛成・中立・やや反対・反対の5つのどれかを選ぶことで、自分の考えに近い政党がわかります。投票先を選ぶ参考にしてもらうべく、設問内容を検討しました。
政党との相性診断では、自分の意見を選ぶ参考として、賛成派・反対派両方の意見がわかるようになっていた
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編集・菅:衆院選は毎回メディアで大きく取り上げられますが、「選挙=小難しいもの」と思っている人はまだまだ多いのではないでしょうか。 そこで、より関心を持っていただくために、コロナを巡る問題や選択的夫婦別姓、再生エネルギー導入など、各争点に対する基礎知識の解説や各党の公約について比較する記事を制作してもらいました。
解説記事には、「#あなたの衆院選」というハッシュタグが付けられている
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編集・菅:最も読まれたのは激戦区の構図を解説した図解記事でした。コメント欄には「こんな舞台裏があったとは知らなかった」という意見もあり、解説記事にも需要があると実感しました。図解記事では、保守分裂や与野党の激突など、全国的に注目されていた選挙区をピックアップし、過去3回の選挙結果や野党共闘など、図を入れてわかりやすく解説してもらいました。
1枚の図解で、過去の当落結果などさまざまな情報をまとめて確認できるようにした
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編集・菅:ヤフーの選挙特集の特長は、相性診断と各政党のマニフェストの検証ですね。また、各候補者に対し「○○の課題に対してどう考えていますか?」「政策を実現するために、どう働きかけていきますか?」といった質問をし、政治信条や手腕、人柄まで含めて知ることができるページを提供しました。
いくつかの質問に分けて、マニフェストで示されていることを整理した
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企画・岡村:始まりから終わりまで、さまざまなコンテンツを提供できるのはYahoo!ニュースならではだと思います。ニュース記事を読み、相性診断をして「あなたは○○党の政策に近い」と結果が出たら、党のマニフェスト検証ページに飛ぶ。そこで気になるワードがあれば、また検索をして回遊する。今回の選挙は、Yahoo! JAPANのトップページや各SNSアカウントとの連携を強化しました。複数のサービスから誘導できる点も、Yahoo!ニュースの強みです。
こまめにコミュニケーションできる仕組みを リモートワークでの事前準備
――そもそも今回の衆院選対応のプロジェクトは、どのように事前準備を進めていったのでしょうか?
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PM・高柳:2020年6月ごろ、SM(サービスマネジャー)やPMが集まって初回のミーティングをしました。
――ずいぶん早くから準備されていたんですね。
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PM・前田:はい。準備自体は1年以上前からスタートして、「○月に選挙があるかも?」「結局なかった」というやりとりを何度か繰り返していました。メンバーは編集や技術、デザイナー、企画など、すべての職種が参加しています。
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PM・高柳:準備段階では、フェーズを3つに区切って進めました。フェーズ1ではUXカルテの作成からはじめ、そこで定めたKPI(重要業績評価指標)や目的を達成するために必要な機能や情報を決め、適切な見せ方(デザイン)を考えます。
フェーズ2ではフェーズ1で作成した要件に沿って開発を進め、社内でダミーデータを用意してテストを実施しました。情報の入手方法、作成方法の大枠について社内外で調整し、過去の事故事例を振り返って再発防止策が万全かの確認もしました。 PV等の数値計測だけで測れない定性的な調査の準備もします。選挙特集サイトはUXカルテで定めているコンセプトや目的を達成できたのかや、改善すべき点は何かを探るためには必須です。
フェーズ3の段階では各政党のマニフェストや候補予定者の情報も出てきて、コンテンツパートナーが作成されるデータ要件なども確定されるので、それに合わせたチューニングやテストなどをします。Yahoo! JAPAN全体で選挙情報をしっかりとお届けするために、Yahoo! JAPANアプリ、Yahoo! JAPANトップページ、Yahoo!検索など他サービスとの連携の総仕上げもしています。
――コロナ禍のため、サイトの準備はほとんどリモートワークで進めたそうですね。どのような工夫をしたのでしょうか?
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編集・菅:これまでの国政選挙では、「Yahoo!ニュース トピックス更新班」とアプリに通知を届ける「プッシュ通知班」のメンバーがオフィスに出社し、ホワイトボードを使いながら対応していました。何かトラブルがあっても対面できる環境であれば、関係するメンバーが集まりすぐに話し合うことができます。
リモート環境でも同じ対応ができるようにしたいと考え、トピックス班とプッシュ通知班、サイトを構築したエンジニアらのプロダクト班にわけ、オンライン上に3つの部屋を作り、それぞれの動きを把握しやすいようにしました。ZoomやSlackのハドルミーティング機能を使って、いつでも会話ができる環境を用意したんです。ただそれだと、部屋をまたいでの呼びかけはできないので、3つすべての部屋に入る「中継役」を作りました。
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企画・岡村:中継役は私が担当しました。「物理的な距離があるぶん、より一層こまめなコミュニケーションをとろう」という空気感を、全員で意識しながら作りました。
――選挙前は、コロナの感染状況もやや落ち着いていましたよね。「会社に集まろう」という話はなかったのでしょうか?
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企画・岡村:その選択肢もありましたが、リハーサルしたら「いけそうだ」となり、リモートワークでの実施を決めました。ヤフーはコロナ禍が始まってすぐ全社リモートワークに切り替えたため、社内にノウハウが蓄積されています。選挙直前は、何か問題がありそうだと気づいたら即座に「Zoomで相談しよう」と行動していたので、コミュニケーションはそれほど問題がありませんでした。
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PM・高柳:デザイナーやエンジニアは、オンラインで音声をつないだまま作業する「もくもく会」を頻繁に行い、活発に議論していました。「ここ、どうしようかな?」と相談したいときに、気軽に聞ける環境は整っていたと思います。
――リモートワーク環境では、すぐに相談できる仕組みや空気感が重要である、と。
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PM・高柳:そうですね。オフィスで顔を合わせれば雰囲気で通じるかもしれませんが、リモートワークでは言語化して伝えないといけませんから。
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技術・喜楽:開発チームは、コロナ禍の前から東京と福岡の2拠点でやりとりしていたので、それほどコミュニケーションの苦労はありませんでした。 ただ、開発の期限は非常にタイトで……。選挙は日程が決まっていてスケジュールをずらすことはできないので、効率を上げるためにいくつか工夫しました。
例えば、難しい選挙用語の扱い方。システムへ落とし込む際には英単語に置き換えなければならないのですが、共通認識がないと詰まってしまいます。そこで、「与党は○○」「野党は○○」と表記の単語集を作り、開発と制作の認識を合わせるようにしました。
投開票日の当日、各チームの動きは
――投開票日当日、みなさんはどのように動いていたのでしょうか?
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編集・菅:開票結果の見通しが報じられ始める20時ちょうどに、選挙情勢の速報をプッシュ通知でユーザーに届けました。その後、コンテンツパートナーである新聞社やテレビ局から続々と送られてくる各選挙区の開票結果情報を整理し、タイミングを見計らってトピックスを作ったりプッシュ通知を配信したりしました。
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企画・岡村:私はデザイナーチームと協力し、他のメディアの選挙特集サイトをチェックしていました。具体的には、「どんな訴求をしているか?」「開票前後にどういう変化があったか?」などです。やはり最も動きがあるのは投開票日なので、キャプチャーをとったり「ここは良いコンテンツを提供しているな」など調査結果をメモしたりしていました。
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技術・喜楽:技術面の問題は、プッシュ通知を見た方などが20時に大量にアクセスしてくることです。システムに対する負荷は大丈夫か、正しく動いているかを監視していました。幸い、大きなトラブルなく情報を届けることができたので、ホッとしています。
――大変だったことがあれば教えてください。
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編集・菅:選挙の対応をしている最中に、選挙以外の大きなニュースが入ってきたことです。両方に対応しなければならなかったのは大変でした。ただ、明確な役割分担をして入念に準備していたので乗り切ることができました。しかし、もし大規模な災害が起きてしまったら、数人の増員では足りないでしょう。今後の課題につながる部分です。
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企画・岡村:私は各部屋の中継役をやっていたので、「情報をうまくつながなければ」と緊張が走りました。最終的には問題なく連携できましたが、事前に「こういう規模のニュースには、こう対応する」など優先順位を細かく決めていれば、慌てずに済んだかもしれません。
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技術・喜楽:技術面では、想定できていない箇所がありました。一例を挙げると、自民党が無所属で出馬した議員を追加公認したケース。それを与党の数字に入れるのか無所属に入れるのか、考慮していなかったんです。選挙のシステムを作るためには、もっと政治について学ばなければいけないなと反省しました。
個人に届くコンテンツで、投票率アップにも貢献したい
――選挙の対応について、課題や改善点があればお聞かせください。
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企画・岡村:コンテンツ面の課題は、相性診断や開票速報の見せ方が他社と同質化している点です。ユーザーが解決したい課題をもっと深掘りしていきたいですね。あとは投票率が依然として低い水準なので期日前投票含め、もっと訴求できるサービスにしなければと考えています。
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技術・喜楽:確かに、投票率が上がっていないのは大きな課題ですね。選挙や政治をもっと自分ごとに感じられるよう、情報を見つけやすいようにしていくのがいいのかもしれません。
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編集・菅:ユーザーが選挙により関心を持ち、「私の一票が国の政策につながるんだ」と体感できるコンテンツを届ける必要があると考えています。また、大きな事件や災害が発生したとき、選挙結果をどう届けるか。今夏の参院選に向けてもう少し詰めて考えなければいけないな、と思っています。
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