長谷川美祈

病気や介護で「こんなはずでは」――シニアの再婚後に迫るリスク

5/25(金) 10:02 配信

シニア世代の結婚・再婚が増えている。だが、シニアの再婚には病気や介護など加齢に伴うリスクが伴う。結婚してまもなく相手が急に亡くなるケースもある。さらに高齢となる親の介護という課題も大きい。高齢期における再婚とリスクをどう考えるか、当事者に聞いた。(ライター・すずきまゆみ/Yahoo!ニュース 特集編集部)

早すぎた伴侶の死

元非鉄金属会社の会社員・千葉県市川市の永田俊朗さん(仮名・65歳)は、夕暮れになると、わずか半年しか一緒に暮らせなかった2人目の妻のことを思い出す。毎日のように晩酌を楽しみ、時間も忘れて語り合った日々のことを……。

28歳で最初の結婚をし、4人の子どもをもうけたが、子どもの教育や生活に対する考え方が食い違い、2003年に50歳で離婚した。しばらくは4人の子どもとともに暮らしていたが、子どもたちも次々と独立し、2012年に永田さんも一人暮らしになった。そこで「婚活」を始めた。

(撮影:長谷川美祈)

結婚相談所に入会し、お見合いパーティに参加してみると、3カ月でよい出会いがあった。化粧品関連会社で部長職に就く56歳で、離婚経験もあるシングルマザー。当時20代前半の一人娘と同居していた。

「最初からピンときました。明るくて飾らない人柄で、一緒にいて自然体でいられるところに惹(ひ)かれた。お互いお酒も好きで、人生に対する考え方も『あまり深いことを考えず、楽しく過ごそう』と一致していたんです」 

出会って3カ月で結婚。永田さんの自宅に彼女が引っ越してくる形で、新生活を始めた。婚姻届も出し、彼女の娘とは養子縁組もした。

だがその半年後、職場の慰安旅行で出かけた山梨県の宿で、彼女は倒れ、その後10日ほどで他界してしまったのである。

(撮影:長谷川美祈)

「『おいしいワインでも飲んでくるね』と元気よく出て行ったのですが、くも膜下出血で脳の血管が切れて、そのまま意識は戻りませんでした」

それから5年経ついまも、永田さんは立ち直っていない。

「写真はいっぱいあるけど、押入れの隅っこのほうに閉じ込めた。見ても涙が出るだけだから」

倒れてから10日間、入院先で意識が戻らないままの彼女に、永田さんができることは何もなかった。たとえ介護となっても長生きをして欲しかったか、と問われると永田さんは答えられないという。

(撮影:長谷川美祈)

だが、少なくともわかったことはある。いまの年齢で再婚をする際、相手に望む絶対条件は健康であることだ。今、再び婚活している永田さんは、先日参加したお見合いパーティで、杖をついている女性とカップルが成立したが、考えた末、断った。

「残りの人生を楽しく暮らしたいと思って結婚するわけだから、最初から負担があるのはきついなと思いますね」

(撮影:長谷川美祈)

再婚後に夫が豹変

「何で怒り出すかわからない。怒ったらもう手がつけられない。ビクビクしながら彼の機嫌をうかがっていました」

そう語る東京都在住の織田えりさん(仮名・65歳)は、2018年1月に離婚したばかり。結婚期間は、わずか半年だった。

元の夫(70歳)とは、2年前に結婚相談所を通したお見合いで出会って再婚した。

当初は「若者のように」熱烈な恋愛をし、その延長線上で再婚を決断した。にもかかわらず、半年で離婚したのは、夫の暴言・暴力が原因だった。

「彼の穏やかな人柄が好きで結婚したはずなのに」と、織田さんが言う。

(撮影:長谷川美祈)

付き合っている頃は、「物静かな、いい人」だった。結婚してしばらくすると、突然爆発的に怒るようになった。断りなく顔を撮影したなどの小さなことで、怒鳴られたこともあったという。

「『てめえ、この野郎、出ていけ!』と。私も黙っていられないほうだから言い返します。すると、暴力をふるってくるのです」

「暴力をふるった後、すぐに寝てしまい、起きたら、何事もなかったように振る舞う。その機嫌の落差も普通ではないと感じました」

暴力は日増しに過激になった。

げんこつで殴るところから始まり、スマートフォンの角で叩こうとし、挙句の果てには大きな花瓶を持ち出して、頭に振り下ろそうとするなど、「一歩間違えたら殺されかねない」行動もあったと、織田さんは振り返る。

(撮影:長谷川美祈)

結局、織田さんは離婚を選んだ。当時は、元夫のあまりの変わりぶりに認知症を疑ったという。

一般的に、認知症は物事を忘れたり、判断力が落ちたりという中核症状以外に、幻覚、抑うつ、そして暴言・暴力といった周辺症状(BPSD)があることが知られている。

元夫は認知症の検査を受けたわけではないから断定はできない。だが、織田さんは結婚前からの豹変には手を焼いたという。

「この年で結婚するからには、相手の健康問題で苦労することがあるかもしれない。それは念頭にはあったのですが、さすがにああいった暴力は想定しませんでした……」

(撮影:長谷川美祈)

加齢とともに高まる健康上の不安

シニアになっても恋愛はするし、結婚もある。だが、その一方では、死、病気、認知症、介護……。歳を重ねれば、老齢に伴う健康上の問題は増えていく。

直近の「高齢社会白書」(内閣府)によれば、75歳以上で要介護の認定を受けた人は、75歳以上の被保険者のうち23.5%を占めている。

( )内は、65~74歳、75歳以上それぞれの被保険者に占める割合(出典:平成29年度版高齢社会白書)(図版:ラチカ)

一方で、シニアの一人暮らしの割合は増加している。

国勢調査によれば、65歳以上人口のうち、単独世帯の人口は、2010年の479万1千人から、2015年には562万6千人に増えた。これは、65歳以上の16.8%にあたり、男性は8人に1人、女性は5人に1人が一人暮らしとなっている。

これらのデータから浮かび上がるのは、 健康上の不安を抱えながら一人暮らしをしているシニアがいかに多いか、ということだ。厚生労働省の調査で、在宅の要支援・要介護者がいる世帯の世帯構造をみると、「単独世帯」の割合は上昇傾向にある。2001年には15.7%だったのが、2016年には2倍に近い29.0%に増えている。

(撮影:長谷川美祈)

「親の介護」をどうするか

高齢の親を抱えたシニア世代の結婚には、「親の介護」が大きなリスク要因となる。

子連れ再婚問題などに取り組むNPO「M-STEP」(千葉県柏市)の新川てるえ理事長は、夫婦間における多くの離婚・結婚・再婚を見てきた。そんな経験から「シニアがこれから結婚するなら、あらかじめお互いの親、そして自分たちの『介護』の問題をクリアにしておかなければ」と話す。

(撮影:長谷川美祈)

自分たちの親の介護の問題を考えた結果、お互いの親が介護で大変な間は再婚を先送りしたカップルもいる。

「彼とは、親が亡くなったら入籍していっしょに暮らそうね、と話しているんです」

そう語るのは田辺朝子さん(仮名・65歳)。張りのある黒髪を後ろに回してバレッタで留め、ひらりとした膝丈のスカート姿で待ち合わせ場所に現れた。

20歳で結婚、一人息子をもうけた後、32歳で離婚。正規の介護職員として有料老人ホームに勤めながら、新宿区の実家で92歳の母親と暮らしている。亡くなった父親が自宅と資産を遺し、経済的な心配はない。そんな朝子さんが「婚活」を始めたのは、一昨年前のことだ。

(撮影:長谷川美祈)

「すでに息子は家庭をもって別に独立しており、母が亡くなったら、私は独り暮らしになってしまう。それが恐ろしくて、残りの人生をともに過ごすパートナーが欲しいと思ったんです」

そこで結婚相談所に入会した。何人かのお見合い後、ほぼ同世代の石塚健介さん(仮名・68歳)と出会った。埼玉県に住む石塚さんは妻とは死別で、3人の子どもはすでに独立。定年退職後、畑仕事をしながら、90代の母親の介護中だった。

朝子さんと健介さんは、お互い母親の介護中だということで意気投合。出会って数カ月後には結婚を決めて「成婚退会」となった。だが、その時点ではお互い親の世話や介護を手放せず、入籍するのはお互いの親が亡くなってからと決めている。

「同じ事情を抱えている者同士、理解し合い支え合えていると感じます」

(撮影:長谷川美祈)

パートナーとともに人生の重い課題を支え合う

判断は一様ではない。これとは反対に、双方ともに80歳を過ぎた高齢の親がありながら、熟年婚を決意したカップルもいる。

東京都渋谷区在住の会社員・上田周子さん(仮名・51歳)は、五つ年上の男性と暮らし始めて1年。まもなく籍を入れる。

双方とも離婚経験があるが、年齢的に子どもをもうける予定はない。お互いに仕事をし、自立している。周囲には、なぜ今さら結婚する必要があるのかと訝しがられた。

事実婚ではなく、法律婚を選ぶ理由は「公に認められる形でお互いを支え合いたいから」。健康の不安、経済的な不安、家族の悩み、いずれも1人ではなく2人ならば乗り越えられると考えた。

上田さんが言う。

「彼とは楽しみだけでなく、困難も共有したい。もちろんお互いの親の介護が発生するかもしれないことも視野に入れています。実際に面倒を見るのは実子であるとしても、夫婦ならば、どうしたらいいかを一緒に考え合えると思ったんです」

人生の後半を歩むとき、手を取り合っていきたい気持ちは男女どちらもある。

だが、身体はけっして若い時と同じではない。そのリスクをどこまで引き受けられるか。

シニアの人たちはそのバランスを考え続けている。

(撮影:長谷川美祈)


すずきまゆみ
1966年、東京都生まれ。大学卒業後、会社員を経てライターとして活動。教育・保育・女性のライフスタイル等、幅広いテーマでインタビューやルポを手がける。

[写真]撮影:長谷川美祈
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト後藤勝
[図版]ラチカ

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