栃久保誠

【PR】「できていない部分」を受け入れる――子どもの自己肯定感の育て方

2/22(木) 8:30 配信

近年、子育てにおいて「自己肯定感」の醸成が注目されている。子どもが自らを肯定できるようになるためには、ありのままの子どもの姿を認めることが大事な要素の一つ。しかし、常に時間に追われているがゆえ、つい子どもの「できていない部分」「思い通りにならない部分」に目を向け、イライラを募らせる共働き夫婦も少なくないだろう。子どもの自己肯定感を育むために、親は何を心がけてどう接すればいいのか。具体策を探った。

つい感情的に怒ってしまう

「子どもの寝息を聞きながら、後悔するんです。夕食のとき、たかが箸を落としたぐらいで、なんであんなに厳しく言ってしまったんだろうって……」

神奈川県藤沢市に住む松岡秋子さん(仮名、34)は、夫の正人さん(仮名、39)、5歳の息子との3人暮らし。日中は息子を保育園に預け、夫婦ともにフルタイムで勤務している。秋子さんは都内、夫は埼玉県内に職場があり、通勤時間が悩みの種。正人さんは仕事柄、月に一度は長期で家を不在にするため、おのずと秋子さんは家事や育児を"ワンオペ"でこなすことが多いという。

「帰りの電車内まで、メールの返信など仕事の対応が続くこともしばしば。なかなか気持ちを切り替えられない」と秋子さんは話す(撮影:栃久保誠)

「帰宅は早くても19時。22時までに寝かしつけたいと思うと、時間に追われて余裕のある態度を取れないんです。特に仕事が忙しくて疲れている日はダメですね。叱るなら、冷静に事情を聞いてから諭すようにしないとって、頭ではわかっているのですが……」(秋子さん)

保育園で息子がほかの子と物を取り合ったときなど、周囲との関わり方を正す際は「冷静にならねば」というスイッチが入る。しかし、箸を落とす、食事中に肘をつくなど、日常の些細なルールについて注意するときには、つい我が子に対して声を荒らげてしまいがちだと夫妻はうなずき合う。

「気持ちと時間に余裕のある休日なら、何かを注意するときも感情的にならずにすむのですが……」(秋子さん)(撮影:栃久保誠)

「息子への接し方については、夫婦でもたびたび話し合ってきました。最近やっと『日常的なルールを守れないときほど感情的になりやすい』と気づき、2人で息子を責めないようにしようと決めたばかり。でも、疲れていると感情を止められないんですよね」(正人さん)

小さなことで叱り続ければ、あとは悪循環だ。正人さんの言葉を引き継いで、秋子さんはこう漏らす。

「叱られ続けると、息子がビクビクしていたり、やたらくっついてきたりするのがわかるんです。そうすると、『またやってしまった』と罪悪感にさいなまれます」

自分の存在を肯定的に捉えるベースは乳幼児期に

「子どもの褒め方・叱り方は、親にとって悩みの種。こと近年は『自己肯定感』と絡めて乳幼児期からの接し方が重視されています。理想と現実のギャップに苦しむ親御さんもいるでしょう」

全国100カ所以上の幼児・学校教育の現場を取材する、NPO法人いきはぐ代表の征矢里沙さんはこう話す。

2012年、NPO法人いきはぐを設立した征矢さんは、子どもたちの「生きる力」を育む教育を広めるために、サイトでの情報発信や執筆、講演活動を行う。自身も4歳と1歳の子どもを育てるワーキングマザーだ(撮影:中道薫)

「簡単にいえば、自己肯定感とは『何かができても、できなくても、自分は生きていく価値がある存在なのだと肯定的にとらえる気持ち』です。『何かができない自分』を認めることで、できないことに対して前向きに努力する気持ちが芽生えます。似た言葉に『自尊感情』があり、これらはほぼ同義語として使われています」

また、自己肯定感は他者と認め合いながら生きる力にもつながるという。他者ができないことに対して共感したり、「これはできないけど、あれはできる」といった肯定的な解釈をしたりできるようにもなるからだ。

2013年、日本を含めた7カ国の満13~29歳の若者を対象に行われた「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(内閣府)から

自己肯定感は近年、教育の現場で注目されている。2017年6月、政府の教育再生実行会議は「自己肯定感を高め、自らの手で未来を切り拓く子供を育む教育の実現に向けた、学校、家庭、地域の教育力の向上(第十次提言)」を公表。教育再生の軸の一つに「子どもたちの自己肯定感の向上」を掲げ、さまざまな取り組みを進める必要があるとした。

背景にあるのは、諸外国に比べて日本の子どもの自己肯定感が低いとするデータだ。たとえば、2013年に日本を含めた7カ国の満13~29歳の若者を対象として行われた「我が国と諸外国の若者の意識に関する調査」(内閣府)によれば、日本では諸外国に比べて「自分自身に満足している」と答えた人の割合が低い。

「自己肯定感が低いと、自分には生きる価値がないと感じ、前向きに努力する気力が湧きづらい場合があります。それが努力の原動力になるケースもありますが、他者に対して『自分より努力していないのにどうして許されるのだ』という気持ちになってしまうときもあるのです」(征矢さん)

乳幼児期は、自己肯定感のベースが作られる時期とされている(撮影:栃久保誠)

自己への評価は生きていく中で上下するもの。ただし、幼いうちに自己を肯定する気持ちのベースを作っておくと打たれ強くなり、失敗や挫折に直面しても乗り越えられる強い心をつくるという。

「乳幼児期、特に0~3歳のときに『何かができても、できなくても、ありのままのあなたが大事だ』と伝えることが大切です。そのためにはまず、親自身が『何かができない子ども』を受け入れなければいけません」

そのコツとして征矢さんが挙げるのが、まず「子育ての理想を高く持ちすぎないこと」。高い理想を掲げてしまうと、それがかなえられないときにイライラが募ってしまうだろう。

「『この子はこの子なりに頑張っているし、親である自分たちも十分努力している。ほかの子と比べて劣っているように感じても、この子はこの姿でいいし、自分たちの努力が足りないわけじゃない』と考えて、大きく構えましょう」

また、「今すぐ」を期待せず、気長に子どもと付き合うのもポイントだ。

「ルールを教えるときなどは、今すぐ改善されることは期待せず、『いずれできるようになる』と気長に言い続けましょう。特に2、3歳までは理性をつかさどる脳の部位が未発達だといわれており、言い聞かせても必ずしもその通りにはなりませんしね」

征矢さんによれば、実際に子どもと接する際には4つのコツがあるという。

(監修:征矢里沙さん)

「保育園ではできているのに、家では『できない』と子どもが甘えてくることはよくあると思います。これは、実は子どもの自己肯定感がきちんと育っている証拠。親に対しては安心でき、家ではどんな自分でも受け入れてもらえると感じての行動だからです」

逆に、家ではいい子なのに、保育園では問題行動を起こしたりひどく甘えたりするのは、少し心配な状態だという。「保育園で頑張っている分、親御さんはできるだけ家での甘えを受け止めてあげてほしいですね」

正解することではなく学ぶことが大事だと教える

神奈川県川崎市に住む原田由紀さん(仮名、38)は、夫(39)、長女(5)、長男(3)の4人暮らし。子どもたちを保育園に通わせ、夫と2人で会社を経営している。由紀さんが頭を悩ませているのは、習い事の練習をする長女への接し方だ。

「最近、ピアノ教室に通わせ始めたのですが、『褒める』と『指摘する』のバランスがわからなくて。褒めて子どものやる気を維持したいけど、何かを教えたり間違いを指摘したりするのも必要。そんなときにどう伝えるべきか……。メンタルがあまり強くない子なので、余計に悩ましいです」

3、4歳になって子どもが楽器や語学、勉強などのお稽古事を始めると、親は家での予習・復習に付き合う機会も出てくる(撮影:森カズシゲ)

3、4歳を過ぎると、親が子どもに何かを教える場面が増えてくる。鉛筆やハサミの使い方から始まり、習い事の練習や読み書きの勉強をする子どももいる。親が指導する際も、子どもの自己肯定感の向上を意識すべきだとするのは、子育て・教育デザイナーの石田勝紀さんだ。

「自己肯定感の高い子はチャレンジ精神があり、自分の長所を伸ばす機会、将来につながるものに出合う確率が高くなります。人生は楽しいというポジティブな気持ちが生まれやすく、幸福度も高まるのです」

石田勝紀さん。一般社団法人「教育デザインラボ」代表理事。20歳で学習塾を創業して以来、3500人以上の子どもに直接指導した経験を生かし、子どもの教育に関して執筆、講演などを行っている(撮影:中道薫)

ものを学ぶ際の自己肯定感を石田さんが重要視するのは、それだけが理由ではない。

「日本の子どもは、往々にして勉強で自己肯定感を下げていきます。特に中学に入って成績を5段階で評価されるようになったり、受験勉強で学力を偏差値で示されたりするのが大きな要因となる。数字で示された結果が自分という人間の価値だと錯覚してしまうケースが本当に多いのです」

石田さんは「勉強の本当の価値は、正解することではなく、学ぶことそのもの。これを教えていかないと、子どもは成績や偏差値に出合った時に、自己肯定感を高く持てない」と強調する。では、何かを学ばせる際に親はどんな接し方をすればいいのだろうか。

「子どもに限らず、自分から『やりたい』と思うことは、最も大きな学びの原動力になります。また、『やりたい』と思って取った行動を認められることは、自己肯定感をも高めていく。ですから、何かを学ばせたいなら、どうしたら子どもが自分から『やりたい』と思うかを考えてください。人は強制されると反発を覚えるもの。その子の気持ちを無視して『○○しなさい』と言っても逆効果です」

子どもの「やりたい」というマインドが育てば、親は「じゃあ、やってみようか」と背中を押すだけでいい(撮影:栃久保誠)

「このとき、『やってみなさい』ではなく、『一緒にやろうか』と声をかけると、子どもは勇気づけられます。『自分は大切にされている』とも感じるでしょう」

子どもの「できた」「わかった」を認めてあげるのも、もちろん大切だ。石田さんによれば、「すごいね!」「さすがだね!」「なるほど!」のように一言で褒めたり認めたりすることが、子どもの心に響きやすい声かけのポイントだという。

親から子どもへ「助かった」「うれしい」「ありがとう」といった気持ちを伝えるのも、子どもを肯定することにつながる(撮影:栃久保誠)

前出の原田さんのように、子どもの間違いを正そうとする際の対応にも、勘所がある。

「大事なのは、正解することではなく学ぶこと。失敗したり間違えたりしても大丈夫なのだと教えなければいけません。間違いを正す際は、ヒントを出して、子どもの『わかった』を引き出すといいでしょう。『第1ヒント』『第2ヒント』など、ゲーム感覚で出題すると、子どもはより楽しく学べます。小さな『わかった』の積み重ねで、『できないことがあっても、できるようになればいい』と思えるようになるのです」(石田さん)

親自身をストレスから解放する工夫が重要

子どもが自分を肯定的にとらえられるようサポートする一番の近道について、2人の専門家は「親がイライラから解放されること」だと口をそろえる。

「本来、子どもを怒鳴ったり責めたりしたいと思う親はいない。イライラしているから、つい感情的になってしまう」と征矢さん。仕事と家事・育児を両立していたら、ストレスがたまって当然だというのだ。

「誰かと会う、どこかに行く、何かを食べたり聴いたり、読んだりするのでもいい。親は、自分がどうすれば精神的に元気になれるかを知っておきましょう。精神的に安定していれば、子どものいい部分が目に入るようになり、おのずと『認める』『褒める』機会が増えるんです」(石田さん)

月に1度ぐらいは子どもを預けて、親が1人きり、または夫婦2人きりの時間を楽しむのも大切なストレス解消法。夫婦で自分たちがどう育ったかについて話し合うと、互いを理解し、また自分たちの子育てについて考えるきっかけにもなる(イメージ:アフロ)

「親自身がストレスから解放され、自分自身の人生を大切にすること。それは、子どもの自己肯定感を育む基本といえるかもしれません。子どもは、親の言葉は聞いていなくても、親の姿は必ず見ているものですから」(征矢さん)

取材・文:有馬ゆえ
編集・制作:ノオト
[写真]
撮影:栃久保誠 中道薫 森カズシゲ
イメージ:アフロ
[図版]
藤田倫央


シリーズ連載企画「クリエイティブ・ライフ」
sponsored by パナソニック株式会社
共働き世帯が抱える課題はさまざま。毎日忙しい中でも仕事や家庭生活を充実させたい――。連載「クリエイティブ・ライフ」では、共働き世帯の日々の暮らしや人生をよりよくするクリエイティブなアプローチを探っていく。本連載の提供は、2018年に創業100周年を迎えるパナソニック。100周年スペシャルサイトはこちら

本企画についてのアンケートにご協力ください
アンケートの回答にはYahoo!クラウドソーシングへの利用登録が必要です。アンケートは上限件数に達すると自動的に終了いたします。ご了承ください。

クリエイティブ・ライフ 記事一覧(14)

さらに読み込む

Facebookコメント

表示

※本コメント機能はFacebook Ireland Limited によって提供されており、この機能によって生じた損害に対してヤフー株式会社は一切の責任を負いません。