栃久保誠

【PR】産後に深まる夫婦の溝――すれ違いを防ぐためにできること

2017/12/19(火) 9:44 配信

夫婦を深く結びつけるはずの出産で、逆に溝が深まることもある。産後、「同じ人とは思えないほど妻がイライラしている」「夫への愛情が薄くなった」という声も。精神的にも身体的にも大きく変化する妻と、それに取り残される夫。産後の夫婦関係が悪化してしまう背景と、その対策を考える。

産後、ここまで妻が落ち込むとは

「出産の翌日、病院から夫に電話をしながらボロボロと泣き崩れてしまいました」

川崎市在住の横田麻美さん(仮名・38)は、現在3歳になる息子を出産した後、不安定な精神状態に苦しんでいた。

「その電話では、息子の名前について話し合っていたんです。最初は普通に会話していたのに、夫が考えた名前を聞いて、『読みにくい当て字を使うなんて・・・・・・』と、気づいたら号泣していました。今になって考えると、そんなことで? と自分でも思うのですが、当時は不思議なほど悲しかったんですよね」

その後も、麻美さんの不安定さはどんどんエスカレートしていったという。産後すぐ、乳腺炎になったことも、それに拍車をかけた。ただでさえ、授乳で睡眠が細切れになりがちな時期。張りつめて熱を持った胸の痛みは「出産の痛みよりつらく、夜も眠れなかった」。

「息子のかわいさに幸せを感じる一方で、体のしんどさも手伝って、一度気持ちが落ち込むとなかなか立ち直れなくなっていました。夫が友人の結婚式を3次会まで楽しんで深夜に帰宅した日には、『あなたは赤ちゃんが生まれる前と何も変わらないかもしれないけど、私はこんなにも生活が変わってしまってつらい。もう無理』と、号泣して訴えました」と麻美さんは振り返る。

「一日の中でも16~17時ごろは、『たそがれ泣き』で赤ちゃんが特によく泣く時間帯。さらに沐浴、夕飯の準備などやるべきことも多く、特に気持ちが沈みがちでした」と麻美さん(撮影:森カズシゲ)

夫の俊之さん(仮名・40)は、そんな麻美さんに対して「妻が求めることや自分がすべきことがわからず、オロオロするばかりでした」と当時の心境を語る。妻の変化は想像を超えていた。

「妊娠中の妻は、どんどん大きくなるおなかやつわりがとても大変そうだったので、いたわるのは当然だと思っていました。でも、まさか産後にここまで落ち込んだり、心境の変化があったりするなんて・・・・・・」

その後、横田さん夫妻を救ったのは保育園だった。麻美さんは、産後すぐに「保活」をスタート。生後7カ月から息子を保育園に入れ、職場復帰した。仕事と育児の両立は大変だったが、精神的にはとても楽になったという。

「うちは何とか保育園に入れたからよかったけど、頑張って保活をしても、今の日本の状況では叶わないお母さんもいる。多くのお母さんがさらに追い込まれてしまうのでは」と麻美さんは語る(撮影:森カズシゲ)

「保育園に行けば、育児の悩みを先生に相談できるし、ママ友とも気軽に話せる。夫の遅い帰宅を待ちながら1人で育児をしていた頃よりも、ずっと心が軽くなりました。産後すぐのあの状況が続いていたらどうなっていたのかと考えると、ちょっと怖いですね」(麻美さん)

産後は、女性ホルモンの分泌量が激減する

産後の女性が精神的に不安定になるのは、決して珍しいことではない。順天堂大学産婦人科学講座の竹田省特任教授は、産前産後の女性の体内の変化をこう説明する。

産後うつや産後の夫婦関係の変化について語る順天堂大学産婦人科学講座の竹田省特任教授(撮影:中道薫)

「妊娠を継続するためには、エストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンが多量に必要です。エストロゲンは通常、卵巣で作られますが、妊娠中はそれだけでは足りず、胎盤からも分泌されます。体内のエストロゲン分泌量は、妊娠していない時の50~100倍ほどです」

ところが、出産後30分以内に胎盤は体外へ排出され、体内で作られるエストロゲンが急激に少なくなる。「産後に起こるホルモンバランスの崩れは、こうしたエストロゲンの分泌量の激減によるものです」と竹田さんは言う。

エストロゲンは妊娠・出産だけでなく、女性の体内のあらゆる部分に関係する。特に産後の女性の精神状態を左右する脳内神経伝達物質「セロトニン」への影響が大きいという。

「セロトニンは、精神的な安定に欠かせない物質。産後、エストロゲンの分泌量が急激に減ることで、セロトニンの働きも低下するため、産後2週間以内に『涙もろくなる』『気分が変調しやすい』といった軽いうつ症状が現れます。これは疾患ではなく、誰もがなる『マタニティブルーズ』といわれる一時的な症状で、通常は2週間程度で自然に収まります」

そして、マタニティブルーズとは異なり、産後数週間から数カ月経って発症するのが、いわゆる「産後うつ」だ。

「『産後うつ』は、れっきとした疾患です。女性全体の約20%は、生涯で一度はうつ病になるといわれています。実は、その3分の1が産後に発症するもの。特に、核家族でサポートが得られない母親が孤立しやすい状況で多く見られます」

監修:竹田省・順天堂大学産婦人科学講座特任教授

産後うつは、ホルモンバランスの変化とあわせて、環境的な要因などで発症することが多い。たとえば、妊娠中からのストレスの積み重ねや経済的不安、未熟児といった我が子の健康状態への懸念などだ。また、母親自身の産後の回復が悪かったり、睡眠不足で疲労が蓄積していたりといった、身体的な負担が引き金となることもある。

産後うつまでにはならなくとも、こうした状況で息苦しくなってしまう母親は少なくない。特に、核家族で夫の在宅時間が短いと目が行き届かず、夫婦関係に影響してしまうこともある。

話し合いと「夫の当事者意識」がカギに

出産後に女性の体内で起こる変化を免れることはできない。しかし、産後の女性の不安定な精神状態や、それにともなう夫婦のすれ違いを防ぐ努力はできる。ミュージシャン・漫画家の劔樹人(つるぎみきと)さん(38)とエッセイストの犬山紙子さん(35)夫妻は、出産前に徹底した準備をすることで、産後の時期を乗り切った。

妻の犬山紙子さんは、コラムニスト、エッセイストとして活躍する。“美人なのに恋愛下手な友人たち”を描いた『負け美女』(マガジンハウス)でデビュー後、多くの著作のほか、テレビ出演も多数(撮影:栃久保誠)

2017年1月に第1子を出産した犬山さん。妊娠前から著書『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)の取材を通して、妊娠・出産後に夫婦間のコミュニケーションに悩む女性が多いことに気づき、自身は出産前からすれ違いを生まない工夫をすべきだと感じたという。また、20代で母親の介護をした経験も、大きく影響した。

「最初は深く考えず、根性で介護を乗り切れるだろうと思っていました。でも、たんの吸引で2時間に1回起きなくてはならず、細切れ睡眠で心身ともに参ってしまって。ストレスで、当時の恋人にモラルハラスメントまがいの発言をしたこともありました。介護と育児には、睡眠不足になりやすいなどの共通点が多いので、出産してからも穏やかな気持ちを保てるように準備しなければと、すごく慎重になりましたね」

夫の劔樹人さんは、ミュージシャンや漫画家として活躍。「あらかじめ決められた恋人たちへ」にベーシストとして参加するほか、ロックバンド「神聖かまってちゃん」のマネージャーとして注目を集める。現在は漫画家としての活動も多く、コミックエッセーなどを発表している(撮影:栃久保誠)

犬山さんがまず行ったのは、産後の生活や心身の変化についての情報収集。「『母乳がつまるのは母親が乳製品を食べたから』など、科学的根拠がないのに母親を責めるような情報もたくさんある。正確な情報を見極めることが、安定した産後を迎えるために大事だと思いました」と犬山さんは話す。

得た知識は、必ず夫である劔さんと共有した。また、劔さんは当時、夫婦で参加した自治体の父親学級でのこんな話に衝撃を受けたと振り返る。

「『産後に夫のことを嫌いになることもあるらしい。ホルモンバランスとか理由があるから気にしないように』と妻に言われたのですが、そんなことになったら僕は耐えられません(笑)。実際はなかったのですが、知っておいてよかったなとは思います」と劔さん(撮影:栃久保誠)

「産後1カ月の間に妻が夫に不満を持つと、一生その不満が続くというデータを見せてもらって。将来がんばっても挽回できず、熟年離婚などにもつながるらしいという話が、すごく印象的でした。妻と一緒にいろいろ知ることで、結果的に僕も産後の心構えができたのかなと思いますね」

犬山さんが妊娠前から取材を重ねて、妊娠、出産、育児についてとことん考えたことをまとめた『私、子ども欲しいかもしれない。』(平凡社)と、劔さんが夫婦の日常と犬山さんの妊娠時についても描いたコミックエッセイ『今日も妻のくつ下は、片方ない。』(双葉社)(撮影:栃久保誠)

情報共有のほか、産前に最も時間をかけたのが、産後についての話し合いだ。それは、仕事や家事・育児といった面で起こりうるさまざまな事態を想定し、自分たちなりの対処法を見つける作業だった。

「私たちは、子どもが生まれたらいろいろとセーブしなければいけないと過剰に思っているところがありました。でも話し合ううちに、つるちゃん(※劔さん)が無理をしてしまうタイプなので『しんどい時は伝えてね』とか『本当にやりたいことを我慢するのはやめようね』とか、2人なりの正解を見つけ出すことができたんです。特に2人とも仕事が好きなので、どうすれば家事・育児とバランスを取ってやりたい仕事ができるかは、時間をかけて話し合いました」(犬山さん)

話し合うことで2人なりの正解を見つけることができた、と振り返る(撮影:栃久保誠)

お互いのワーク・ライフ・バランスについて、「夫婦2人のこと」として話すことも多かった。特に結婚当初から家事の大部分を担当していた劔さんは、「育児も自分の担う割合が高くなるだろう」と考えていた。話し合いの結果、劔さんは会社を辞め、自宅でできるフリーランスの仕事を増やすことになった。

「『子どもが生まれたら、仕事をセーブしないと』という悩みは、一般的な家庭では女性がぶち当たる壁なのかもしれません。でも、うちは妻がしっかり働くので、僕の仕事のやり方を変えることにした。結果、自分の仕事観についてとことん考えました。出産をきっかけに、今やりたいこと・やらなくてもいいことに気づき、シンプルに『子どもがいるこの状況でできることをやろう』と思えるようになりました」(劔さん)

犬山さんは、自らが産後に不安定な状態にならなかったのは、「夫が育児について当事者意識を持ってくれたことが大きい」と話す。

夫はアドバイスや励ましではなく「共感」を

前出の順天堂大学の竹田省さんは、「核家族では、夫が産前産後の妻の状態を気にすることが欠かせない」と話す。

まずは妊娠中から、産後の妻が心身ともに大きな変化にさらされることについて、夫婦でしっかり知識を持っておく。また、その変化を妻が1人で抱え込まないよう、妊娠中から不安に思うことを共有したり、産後も定期的に話し合いの機会を持ったりしたほうがいいという。

「共働きの家庭では、妻が『早く仕事に復帰しないと』と焦り、思い通りにならない育児に追い詰められる」と竹田さんは言う。妻が仕事に復帰するスケジュールや「保活」の計画、復帰後の生活の仕方、保育園に入れなかった場合の対応など、産前から夫婦で話し合いを重ねておく必要がありそうだ。

それでも、産後の環境の変化、育児へのプレッシャーで妻が精神的な負担を抱えてしまうこともある。夫婦のすれ違いを防ぐために、夫が心がけるべきポイントは3つあると竹田さんは指摘する。

監修:竹田省・順天堂大学産婦人科学講座特任教授

出産を機に夫婦がすれ違ってしまうというのは、とても不幸なことだ。犬山さんはこう振り返る。

「うちは、つるちゃんが早い段階から育児を自分ごととして捉えてくれたことで、関係の悪化を防げたんです。夫がいても孤独に育児をしているお母さんはいますし、子どもと1対1がしんどいことだってある。なので、妻はそれを夫に訴えて、夫はそれを理解するように努める。それに尽きると思います」

取材・文:野々山幸(TAPE)
編集・制作:ノオト
[写真]
撮影:栃久保誠 森カズシゲ 中道薫
イメージ:アフロ
[図版]
藤田倫央


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