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林和也

【PR】共働き夫婦の家事・育児の偏りを「可視化」で解消できるか

2017/12/05(火) 09:47 配信

オリジナル

共働き世帯の家事や育児は、夫婦のどちらか一方に負担が偏ってしまうケースが少なくない。不公平感や不満を解消する方法の一つに、タスクの「可視化」がある。だが、可視化のアプローチによっては、逆に軋轢(あつれき)を生みかねないと専門家は指摘する。家事の可視化はどう進めればうまくいくのだろうか。

「見える化」で夫の行動が変わった

東京都在住の高橋順子さん(仮名、42)は、共働きの夫(40)、双子の長男・長女(14)、次男(8)の5人暮らし。互いにフルタイム勤務をしているにもかかわらず、結婚当初はすべての家事を順子さんが担っていた。

「夫は結婚するまで実家暮らし。家事能力の高い母親に、生活のすべてを頼りきって生きてきた人でした。やる気がないというより、何をすべきなのかがわからない、何をすればパートナーがラクになるのか気づけない、という感じでしたね。結婚初期に偏りを解消しようとしなかった私も悪いのですが、出産してもしばらくは家事も育児も私1人で回すワンオペ状態が続きました」

炊飯器の使い方や洗濯物の畳み方も分からなかった夫。結婚当初は家事を任せられず、順子さんが多くのタスクを抱え込んでしまっていたという(撮影:森カズシゲ)

長男・長女が生まれてから、夫も少しは家事・育児を「手伝う」ようになったものの、どこか他人事。双子が成長すると、塾の送り迎えや習い事の付き添いなど、1人では回しきれない量のタスクを抱え込む日が増えた。順子さんが分担を相談する前に夫が自分の予定を入れてしまうこともしばしばだった。

自分がいかに苦労しているか、本当は言わずとも気づいてほしい。しかし、それでは夫は改まらない。そこで順子さんは小さなホワイトボードを冷蔵庫に掲げ、家族の予定をすべて書き込むようにした。

「土曜日:長男/野球の試合、日曜日:長女/ピアノ、といった具合で、曜日ごとに子どもの予定を私が書いて、夫には平日の飲み会や週末の予定を書き込んでもらうようにしました。冷蔵庫に行くたびにそれをチェックして、新しい予定が入っていたら話し合う。見える化と呼べるほどのことではないのですが、夫は少しずつ家族の予定を気にしてくれるようになりました」

そのうち、夫の言動が変わってきた。子どもの予定が重なるときは、「僕が野球に付き添うから、ピアノのほうを頼むよ」と、自ら申し出るようになったのだ。

順子さんが平日の晩に会社の飲み会の予定を書き込むと、夫は予定を入れずに定時退社するように。そして、順子さんが帰宅する頃にはすべての家事を済ませていたという(イメージ:アフロ)

ペンのインクが切れる頃には、書き込むまでもなく直接互いの予定を確認するのが当たり前になり、協力し合う習慣ができた。今では、育児だけでなく家事に対する意識も変わり、夫は多くのタスクを買って出るようになったという。もう、ホワイトボードは必要なくなった。

「結局、私たちに足りていなかったのはコミュニケーションだったんですよね。かつて夫は毎日帰りが遅かったので、互いに伝えるべきことを言い忘れていたり、伝える機会がなかったり……。今にして思えば、私も伝わるような言い方をしていなかった。ホワイトボードに書き出すことで、やっと伝えるべきことが伝わったんだと思います」

15年間、妻の家事負担は8割超えのまま

かつての高橋さんのように、家事・育児の負担に偏りを感じている夫婦は少なくない。国立社会保障・人口問題研究所が発表した全国家庭動向調査(2013年)によれば、夫婦の家事の分担割合は妻の85.1%に対し、夫は14.9%。1990年代後半から2010年代にかけて共働き夫婦は急増しているにもかかわらず、夫の家事分担割合は1998年の調査(妻88.7%、夫11.3%)から3%ほどしか増えていない。

妻の年齢が60歳未満について集計。図中の数値は妻と夫の家事の合計を100としたときの分担割合を表す(出典/全国家庭動向調査2013年)

その背景には、男性の長時間労働など、根本的な社会問題もあるが、現実的にはそれぞれの夫婦で解決策を見いだしていくしかない。偏りに気づいてくれないパートナーに向けて、自らアクションを起こす人も増えている。「家事の見える化」は、その第一歩だ。

仕事の時間を作るための家事分担

東京都内の企業に勤める平田裕信さん(29)とフリーライターのさくらさん(30)は、雑誌の付録のタスク表を活用し、家事の見える化に取り組んだ。夫婦は、こうした既存のツールを使いながら家事と育児のタスクを洗い出し、互いに不満のない割合での分担をしている。

平田夫妻はタスク管理表を用いてToDoを振り分けると同時に、もっと効率のいいやり方はないかアイデアを出し合ったり、不満があれば伝え合ったりするようにしている(撮影:小野奈那子)

平田夫妻が意識的に家事を分担するようになったのは1年半前のこと。子どもができ、やるべきタスクが一気に増えたからだ。

「出産前は互いに深夜まで仕事をしていて、食事は各々が外食などで済ませていましたし、掃除や洗濯もできるほうがやっていました。そもそも家事自体が少なかったので、分担しなくてもあまり問題はなかったんです。でも、子どもができると家事・育児でタスクが3倍くらいに増えて……。これはきちんと管理しないと回らないし、家庭生活が破たんすると思いました」(裕信さん)

どちらかが仕事を休んで家事・育児に専念するという選択肢もあったが、2人は互いの働き方をなるべく変えない道を選んだ。「僕も妻も仕事が楽しくて、ついやりすぎてしまうタイプ。互いに気持ちがわかるから、それぞれが仕事をする時間を作るために協力し合いたいと思っているんです」と、裕信さんは言う。

妊娠中、さくらさんの体調が優れない時期は裕信さんが家事を一手に担った。逆に、裕信さんの仕事が立て込んだときはさくらさんがサポートするなど、互いの状況に配慮し、支え合っている(撮影:小野奈那子)

裕信さんとさくらさんは、多忙な家庭生活の中で、互いの良さを生かしあう方法を常に考えている。そうした考え方は、交際期間も含め10年間、いくつものトライ&エラーを経て培われたものだ。

「付き合い始めの頃から、意思疎通には時間をかけてきたほうだと思います。お互いに何か言いたいことがあったらのみ込まないこと。問題が起きても話し合って解決してきた10年の積み重ねがあるから、タスクが一気に増えても夫婦で乗り越えることができているのだと思います」(さくらさん)

まずは気持ちの「可視化」から

二つの家庭の事例が示す通り、家事・育児の「見える化」が、家事分担の不公平感を解消するのに一役買ってくれることはある。しかし、それに頼りすぎると、夫婦間に新たなもめごとを生むリスクもあると指摘するのは、「男性学」で知られる大正大学心理社会学部の田中俊之准教授だ。

田中俊之准教授(撮影:小野奈那子)

「タスク表などで家事の分担状況を洗い出すことの一番の懸念点は、家庭が職場化してしまう危険性です。透明性や合理性はビジネスの現場では必要不可欠ですが、家庭において追求しすぎると、家でも仕事をしているような息苦しさが蔓延してしまいます。妻に家事負担が大きく偏っていることを踏まえれば、不満や怒りはもっともなのですが、夫に対して一方的にタスク表を突きつけるようなやり方をしてしまうと、互いに感情的になり、冷静で建設的な話し合いを行うことは難しいと思います」

こうした軋轢をうまく回避しつつ、負担を分かち合うにはどうすべきか。田中准教授は、タスク以前に、まずは「気持ちの見える化」から始めることが重要だという。

「夫婦が胸を開いて気持ちを吐露し、お互いの葛藤や苦しみを理解すること。それがないまま、機械的にタスクを書き出したところで、歩み寄りは望めません。それぞれを思いやる愛情や高いレベルの信頼関係があったうえでの可視化なら、うまくいく確率は高いでしょう」

前述の順子さんの場合はホワイトボードをきっかけに夫と密なコミュニケーションが生まれ、次第に苦しみを分かち合うことができるようになった。平田さん夫妻にはそもそも夫婦間に深い思いやりや配慮がベースにあったため、最初からうまくいった。タスクを分け合う前に、まずは夫婦に心のつながりがあるかどうか、その関係性を見つめ直すことから始めるべきなのかもしれない。

「隠れタスク」も洗い出す

では具体的に、家事の「可視化」はどのように進めればいいのか。平田夫妻がまず取り組んだのは、それぞれの仕事のサイクルに合わせ、朝の家事は夫の裕信さんが、夜の家事は妻のさくらさんが担当する「分業制」にすることだった。

「家事を細かく分類したタスク表をもとに、それぞれがどういった家事を担っているかを2人で話しながら色分けしていきました。こうすることで、お互いが何の気なしにやっている“隠れタスク”まで把握できるようになった。たとえば、私がしていたのは『余ったごはんをラップする』、彼がしていたのは『ロボット掃除機のフィルターを掃除する』でした」(さくらさん)

「子どもが生まれると、細かいタスクの一つひとつが重荷になって、次第に吸収しきれなくなる。お互いのイライラが募る前に、“隠れタスク”を洗い出せたのはよかったですね」(さくらさん)(撮影:小野奈那子)

タスク表で必要な家事をすべて洗い出したら、次は作業の振り分け。平田夫妻の場合、前述の分業制に加え、カレンダーアプリで細かい家事のToDoリストを共有し、互いの予定に応じてフレキシブルに担当を決めている。

「毎日のタスクは時間帯で分けていますが、その他の掃除、買い出しといった家事は、週の頭にスケジュール会議を開いて、それぞれの仕事の状況などと照らし合わせながら分担しています。子どもを寝かしつけた後、互いにパソコンを開いて話し合いますね」(裕信さん)

家事をうまく可視化・分担するコツ

また、こうした話し合いをより建設的なものにするためには、ちょっとしたコツがある。家族とキャリアを専門とするコンサルタントで、家事分担をテーマにしたワークショップも行う石島小夏さんは、こう指摘する。

「家事を可視化する際は、一方の言い分に偏らないよう夫婦が一緒に取り組むことが大事です。書き出すのはチラシの裏でもホワイトボードでも、エクセルでも、使い慣れたツールでOK。妻も夫も、思いつく限りの家事をできるだけ細かく列挙してみましょう。毎日の家事だけでなく、『消耗品を補充する』や『子育て情報を集める』『レジャーや買い出しの際の車の運転』といったことまで書き出してみるといいでしょう」

石島小夏さん。カラーペンを使い気持ちを可視化していく「カラフルコンサルタント」、パートナーシップ探求家。コーチ業を軸に、個人だけでなく夫婦ペアでのコーチングも行うほか、家族にまつわるワークショップも開催している(撮影:林和也)

そして、いざ分担を決めていく際には「3つのポイントを意識するとうまくいく」と石島さんは言う。

ネガティブな思考はコミュニケーションを妨げる。お互いが前向きな姿勢で話し合うことが重要だ(監修/石島小夏さん)

相手の「重荷」を丁寧に探る

石島さんも結婚当初は夫の家事の経験値がゼロだったため、家事の偏りに苦しんでいた過去がある。だがある時、大きな紙に家事をすべて書き出して現状を夫と共有してみたところ、それだけで心が軽くなったという。

結婚当初は「毎週のように泣き叫んでしまうくらい追い詰められていた」という石島さん。自分はなぜこんなに苦しんでいるのか。家事を書き出すことで、自分の気持ちを夫に伝えることができた(撮影:林和也)

さらに、意外な発見もあった。その紙を広げて夫婦で話し合った時、自分が苦手としていたいくつかの家事について夫が前向きな姿勢を示したことだ。

「たとえば、私は冷え性なので冬のお風呂掃除が大嫌いだったのですが、夫は『シャワー浴びながらやれば、あったかくて気持ちいいじゃん』と前向き。自分が重荷に感じている家事が、相手はそんなに嫌じゃないこともあると気づけた。そうした一つひとつの家事に対する得手不得手、苦手意識まで丁寧に可視化して分担していくと、うまくいくんだなと思いました」

その話し合いを機に家事を分け合うようになり、同時にお互いに対する理解がいちだんと深まったと石島さんは振り返る。

「システマチックに負担を可視化するのではなく、互いの苦しみを共有し、相手が重荷に感じている部分を丁寧に探る。すると、相手を思いやる気持ち、ともに家庭を育もうとする気持ちも膨らんでいくでしょう。それこそが、『家事の見える化』の本質なのかもしれません」

取材・文:榎並紀行(やじろべえ)
編集・制作:ノオト
[写真]
撮影:林和也、森カズシゲ、小野奈那子
イメージ:アフロ


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