森カズシゲ

【PR】離れた親と、孫の姿を共有したい――「デジタルの壁」を越えつながるヒント

12/8(金) 7:00 配信

仕事や家事・育児に追われる共働き夫婦にとって、離れて暮らす親とのコミュニケーションは悩みの種だ。スマートフォンで連絡が取れれば楽だが、親世代は最新ツールを使いこなせないことも。電話で話そうにも時間が合わず、手紙を書いたり子どもの写真を印刷したりする余裕もない。スマホやネットが発達する一方で、埋まらない高齢者との「デジタルの壁」。親子3世代が互いの価値観を尊重しながら「つながる」にはどうすればよいか。その糸口を探った。

スマホと手紙、食い違うコミュニケーション手段

三重県の実家の父から、分厚い封筒が届いた。中を開くと、便せん5枚にわたって近況が綴られ、先日帰省した時の写真が同封されている。都内在住の竹中久美さん(仮名、30)はプレッシャーを感じた。70歳を超えた両親はスマホが使えない。この封筒の重さに見合うよう、返事を書くことができるだろうか。

竹中さん夫妻はともにIT業界で働いており、日中は2歳の息子を保育園に預けている。2016年11月に育休が明けて以来、仕事と家事・育児に追われる日々。気がつけば、復職前よりも親とのコミュニケーションの頻度は下がっていた。

フィーチャーフォンでは、スマホから送られた高解像度の写真が開けないことも少なくない(イメージ:アフロ)

久美さんの両親はフィーチャーフォンを持っているが、料金プランが従量制。スマホで撮影した写真や動画を受信すると通信料がかさむため、「ケータイには送らないでほしい」と言われている。息子が生まれた当初は、自宅で写真を印刷したりDVDにまとめたりして送っていたが、最近は忙しくて、その時間が作れない。

「スマホなら、家事・育児の合間にも片手でやり取りができるのですが……。両親もスマホに興味はあるものの、周囲に使い方を教えられる人がいません。私たちは年1、2回帰省する程度なので、つきっきりで教えるのは難しいですし」(久美さん)

「実家にもパソコンはあり、Skypeをセットアップしたこともあるのですが、何かの拍子で使えなくなりそのままになっています」(久美さん)(撮影:栃久保誠)

夫の雅史さん(仮名、31)は、母親とスマホでコミュニケーションを取っている。母親は埼玉県在住のため、アプリのインストールなどについて、雅史さんが定期的に相談に乗っている。都度、説明しないとならないが、LINEで写真や動画を共有できるのは、竹中夫妻にとって大きなメリットだ。

「私も両親にもっと孫の姿を見せてあげたいんですよ」と、久美さんは話す。しかし、遠方に暮らす両親のことを思いながらも、日々のタスクに忙殺され、時間だけが過ぎていく。封書が届いてから1週間後。結局、久美さんは、メールで簡単に返信を済ませてしまった。胸の奥がチクリと痛んだ。

雅史さんの母親がスマホを機種変更したときには、トラブルが起きた。「データの引き継ぎがうまくいかず、『スマホが壊れた』と連絡してきて……。電話では指示がうまく伝わらなくて、何度か直接会って対応しました」(雅史さん)(撮影:栃久保誠)

竹中さん夫妻とその親世代の例のように、IT(情報技術)を使いこなせる人とそうでない人の間に生じる、情報や機会などの格差を「デジタルデバイド」と呼ぶ。

厚生労働省によると、65歳以上の高齢者を含む世帯のうち3世代世帯が占める割合は、約20年の間に40.7%(1989年)から11.0%(2016年)まで減少。同時に、高齢者の単独世帯は14.8%から27.1%に、高齢者夫婦の世帯は20.9%から31.1%にまで増加している。核家族化が進み、祖父母世帯と離れて暮らす家族が増える中で、こうした格差の解決の難しさを感じているのは竹中さん夫妻だけではないだろう。

コミュニケーションは本来「共有」するもの

3世代が離れて暮らすことで、コミュニケーションにはどんな影響があるのか。KDDI総合研究所でユーザインタラクションの研究に携わる新井田統(にいだ・すまる)さんは、「共有」というキーワードを挙げる。

「コミュニケーションという言葉は、“共有”を意味するラテン語『communis』が語源といわれています。相手に何かを伝えることだけではなく、伝えた結果相手と何かを共有することが、本来のコミュニケーションの姿なんです」

顔が見えないコミュニケーションでは、感情を共有することが難しい(イメージ:アフロ)

「離れて暮らすことは、同じ時間を共有できなくなること」と、新井田さんは言う。

「コミュニケーションは、共有した時間が多いほどスムーズになります。逆もしかり。特に祖父母と孫は、年代も経験も異なるため、共有した時間の少なさがコミュニケーションの停滞につながりがちです」

母親が間に入ろうとしても、夫方の祖父母が相手になるとうまくいかないケースも多い。夫方の家族とは、母親も共有した時間が少なく、同様にコミュニケーションが難しいからだ。

「コミュニケーションは、用件を伝えるといった『道具的なもの』と、純粋に会話だけを楽しむ『自己充足的なもの』とに二分できます。祖父母が求めるのは主に後者。なおのこと過去に同じ時間を共有していることが重要なんです」

「祖父母と孫のあいだで共有できる事柄を増やすのも、親の役割の一つ」とKDDI総合研究所の新井田統さん(撮影:中道薫)

核家族化だけでなく、生活パターンのズレも時間の共有が困難になる一因だ。仕事や家事・育児に追われる共働き夫婦と、比較的時間に余裕のある祖父母では、連絡を取り合う時間帯が合いにくい。

「電話は、両者で同じ時間を共有することが必要な『同期型』のコミュニケーションツールです。対してメールやLINEは、それぞれが好きな時に発信できる『非同期型』。時間を共有せずに話題を共有できる非同期型こそ、共働き夫婦にとって有効なコミュニケーションツールなのです」(新井田さん)

高齢者のネット利用は「メール」が中心

インターネットに限らず、手紙も非同期型のコミュニケーションツールだ。だが、前出の久美さんのケースのように、忙しい共働き夫婦にとって筆を執るのはハードルが高い。インターネット経由でコミュニケーションをとりたいというのが本音だろう。

では、祖父母世代のインターネット利用はどれくらい進んでいるのだろうか。

「ネット利用率」は全年代、60代ともに高いが、モバイルサイトやスマホの利用率では倍の開きがある(総務省および東京大学大学院情報学環・橋元研究室「平成28年情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査報告書」より作成)

総務省と東京大学大学院情報学環・橋元研究室の共同調査によると、この5年でのインターネット利用時間は10~60代の全年代で増加傾向にある。しかし、60代のスマホ利用率は、他年代に比べて半分以下の31.7%にとどまっているのがわかる。

調査に携わった同大大学院教授の橋元良明さんによれば、この差は高齢者のインターネットの使い方に由来するという。

10代・20代がSNSや動画、ゲームなどネットを多様に使いこなしているのに対し、60代はメールが中心(数値はモバイルとPCの両者を含む)(橋元研究室「日本人の情報行動」より作成)

「高齢者のインターネット利用の多くは、モバイルメールの利用です。ニュースの購読やネットショッピングなど、多様な使い方をしているわけではありません。また、モバイルによるインターネットの利用時間を比較しても、10代・20代は1日あたりのモバイルネット利用時間が100分前後まで達しているのに対し、60代は13分しかありません」

また、都市規模や地域によってもネット利用率に差が生まれると橋元さんは指摘する。

「全年代のスマホ利用率を見ると、人口100万人以上の大都市では75%なのに対し、人口10万未満の都市では69%という結果に。この差は、高齢者になるとさらに広がります。背景には、経済格差や高齢化率の差があると考えられます」

ネットのメリットを「周知」すること

なぜ、高齢者のネット利用は進まないのか。橋元さんの調査によれば「興味がない」「どう使っていいかわからない」という理由が多くを占める。しかし裏を返せば「強いニーズさえあれば使うきっかけになる」と橋元さんは話す。

「サイバー犯罪など、メディアの報道から『ネットは怖いもの』というイメージを持つ高齢者は多い。不安の解消も重要なポイント」と橋元さんは語る(撮影:小野奈那子)

主なきっかけになっているのは、孫の誕生。孫の姿を見たい、孫の声を聞きたいという思いからLINEを始める例が、非常に多く見られるという。

「そのようなニーズが生まれた際に、下の世代が面倒がらず、インターネットの楽しみ方や便利さを手取り足取り教えてあげることが、デジタルデバイドを埋めるカギ。販売店や自治体が開く講習会など、第三者の力を借りるのもよいでしょう。高齢者側も、わからないことを恥と思わずにチャレンジを楽しんでほしいですね」

「少しプラス」したコミュニケーション

KDDI総合研究所の新井田さんは、高齢者のインターネット利用に限らず、「人が新たなコミュニケーションツールに触れた時、現在のコミュニケーションの形とかけ離れたものだと、浸透が難しい」と話す。

「例えば、テレビ電話が日本で初めて発表されたのは1970年ですが、通信手段として一般に浸透したのは最近のこと。写真や動画を送り合うのが一般的になり、リアルタイムのビデオ通話にも抵抗がなくなってからです。斬新で多機能すぎるものより、従来の方法に少しプラスされた形のほうが受け入れられやすいといえます」

前出の橋元さんは「インターネットは手段であり、コミュニケーションを成立させるには、日頃の親密性が必須。ただ、インターネットを使うことで、以前より親交が深まるケースもある」と話す(イメージ:アフロ)

祖父母世代と親世代のデジタルデバイドを越えるために生まれたサービスにも、こうした「少しプラス」した形のものが登場している。

株式会社チカクが運営する「まごチャンネル」は、スマホで撮影した写真や動画を実家のテレビに映し出せるサービスだ。必要なのは、専用機器と実家のテレビの接続だけ。そこに住む祖父母は、テレビのリモコンを操作して、配信された写真や動画を見られる。

au未来研究所が開発したコンセプトモデル「Comi Kuma(コミクマ)」は、ぬいぐるみ型のコミュニケーションツールだ。センサーを内蔵したクマのぬいぐるみ2体がセットになっており、1体が動きを感知すると、もう1体のディスプレイにスタンプが送られる仕組み。ぬいぐるみを抱きしめる、頭をなでる、手を握るといったアクションが、ぬいぐるみを通して届く。祖父母と孫など、離れた家族のコミュニケーションをより気軽にするのが狙いだ。

また、ベンチャーやスタートアップ企業のみならず、シニア世代にも多くのユーザーを抱える電機メーカーのパナソニックもデジタルデバイドの解消に着目している。

10月に発売された同社の録画機「おうちクラウドDIGA(ディーガ)」では、スマホ連携機能を強化。専用スマホアプリを用いて、スマホで撮影した写真や動画をレコーダーに転送することを可能にした。

(イメージ:パナソニック提供)

実家に「おうちクラウドDIGA」を設置しておけば、離れて暮らす親世代でもスマホ経由で祖父母に孫の姿を見せられるというわけだ。写真や動画はDIGA内に保存され、写真と動画の合計で最大約4万ファイルをストックできるという。

写真が届くと、DIGA前面のディスプレイやテレビ画面上に通知される。テレビを見ていれば、写真の新着がすぐわかる仕組みだ。簡単に操作できるよう、リモコンには専用の「写真」ボタンが備え付けられている(イメージ:パナソニック提供)

同社によると、DIGAのメインユーザー層は50~60代という。馴染み深いテレビ周りの家電に「少しプラス」された機能は、祖父母世代にも浸透しやすいだろう。

フィルムの長さが限られていた時代は、子どもの成長を写真や動画に収めるのは、入学式や運動会、七五三などの「ハレの日」が中心だった。しかし近年は、子どもたちの何気ない姿も気軽に記録できるようになった。それらを誰かと共有することも容易になった今、孫たちの生き生きとした表情は、離れて暮らす祖父母の生活をも明るく照らし出すに違いない。

取材・文:井上マサキ
編集・制作:ノオト
[写真]
撮影:栃久保誠 中道薫 小野奈那子
イメージ:アフロ
[図版]
藤田倫央


家電に、家族3世代が「つながる」機能をプラス。パナソニックの新提案
スマホで撮った写真・動画を転送、テレビで見られるブルーレイディスクレコーダー「おうちクラウドDIGA」。遠く離れた実家とも気軽に「家族のアルバム」を共有できます。


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