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若者と政治家が白熱討論 オーストリアの「政治合宿」

2015/11/6(金) 16:15 配信

16歳から国政選挙の投票権が認められているオーストリアでは、14歳からの政治教育が義務化されている。今回は、オーストリアの政治教育のためのイベントをレポート。政治家と若者が直接対話する2泊3日の合宿では、大きな議論を呼ぶ政治的なトピックについて真剣に討論する。18歳選挙権引き下げを目前に控えた日本は、オーストリアの「政治教育」の現場から何を学ぶべきか。(Yahoo!ニュース編集部)

若者たちの “政治を考える合宿”

「ギリシャの金融危機に対する対応はとても早かった。にも関わらず人命に関わる難民問題の議論に、なぜ時間がかかるんですか?」24歳の青年が質問を投げかける。彼の両親はボスニアからの移民だという。

慎重に言葉を選びながら、ベテラン政治家は答えた。「私自身も疑問に思っています。正直に言うと難民受け入れを主張するのはとても勇気がいることなのです。」

オーストリア・緑の党の議員で、欧州議会の副議長も務めるルナチェック氏(写真中央)

「対話会議」と題されたそのイベントは、スイスと国境を接する湖畔の街ブレゲンツで開かれた。若者たちが政治について理解を深める2泊3日の合宿だ。2回目の開催となる今年の参加者は17歳から25歳の計60人。全国から集まった応募者の中から書類審査で選考された。主催するのは国立の青年協議会。参加費や会場までの交通費などはすべて国費で負担される。

青年協議会の議長はこのプロジェクトに自信をのぞかせる。

「実際に政策決定をしている政治家と若者たちが同じ目線で語り合う意義は大きい。行動すれば自分の考えが政治に届くと若者は実感できる」

会場には、ステージが無い。政治家は檀上から演説せずに、若者たちと同じ目線で輪の中に入る。「政治決定はトップダウンされるものではなく、市民もそれに加わっている」という民主主義の形を可視化するためだ。

今回のイベントの目玉は、冒頭のような現役政治家との対話だ。連日各党の政治家が、若者たちと対話をするために会場を訪れる。政治的中立を保つため、主催者側は全ての政党に参加を打診している(全7党)。この日は与党議員と、野党議員の2人の政治家が若者たちと熱い議論を交わした。

白熱する 現役政治家とのディスカッション

討論のテーマは、参加者の若者たち自身が考える。自分の興味をきっかけに政治にアプローチするのがこのイベントのコンセプトだ。

若者たちは多様な政治テーマを挙げた。学校の自主運営、地方と中央の対話、州ごとの青年諮問委員会、過激主義への反対、さらには難民問題まで……。日本の教育現場であれば、取り上げることがためらわれるようなテーマで討論が次々と展開されていく。だが、オーストリアでは公の教育の場で、こうした問題を扱うことが問題視されることはない。教育現場に政治権力が介入しないよう、法律で守られているのだ。

白熱した議論に影響を受けるのは若者だけではない。今回参加したハバッスィ議員(与党の青年部代表)は「ここで得たテーマを国政へと持ち帰り、彼らの声を届けたい。若者たちが決断に加わってこそ民主主義だ」と決意を語った。政治家にとっても若者の“ナマの声”を聞くことができる貴重な場である。

このイベントに参加していた学生は「16歳の頃から投票に行っています。若くても社会を作る一員として扱われていることに感動しました」と感想を語る。

主催した国立青年協議会の議長の言葉が、若者の政治参加に対するオーストリアの熱意を物語る。「若者は未来であり、現在でもある」。

こうした政治教育に関するイベントはオーストリアで大小合わせて年間400件ほど開催されている。

日本の教育は“政治的中立”を誤解している

一方、日本では議論を呼ぶ政治的話題を教育の場で扱うことは、タブー視されてきた。争点を避けることが“政治的中立”だと捉えられてきたのだ。

だが、「この考え方が弊害を生んでいる」、と東京大学の小玉重夫教授(教育学)は指摘する。

「争点と向き合うことこそ本当の意味での中立性。政治的リテラシー(判断力)を育てるためには、ナマの政治を教材にしなければならない。」

重要なのは、民主主義の当事者として社会の問題を考え、関わっていく姿勢を育む教育、すなわち“主権者教育”だと小玉教授は訴える。政治的判断力を身につけた“考える有権者”を育てなければ、選挙権を引き下げても民主主義の成熟にはつながらないのだ。

政治教育において“先進国”と呼ばれ一目置かれている国がドイツだ。オーストリアの政治教育もドイツを参考にしているという。ドイツの政治教育の根底を貫くのが「政治教育の3原則」と呼ばれる指針だ。次回は“政治教育の先進国”ドイツに焦点を当てる。


日本では選挙権年齢が18歳以上に引き下げられ、70年ぶりの改革となる。だが、世界に目を向ければ18歳から選挙権を認めている国と地域は、全体の85%にも及ぶ。10代の政治参加は世界的に見れば“当たり前”になりつつある。

ヨーロッパでは、選挙権年齢を18歳からさらに引き下げる動きも見られる。ドイツやノルウェーでは地方選挙で16歳選挙権を導入している。そのきっかけとなったのはオーストリアだ。「選挙権年齢の引き下げで、若者も社会も変わる」と実証したオーストリアの取り組みを、識者へのインタビューと教育現場からのレポートで紹介。政治教育先進国ドイツの事例とあわせ、全4回の集中連載で日本の未来を考える。

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