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市場規模は1兆円 マイナンバー制度、成否の行方

2015/11/5(木) 14:56 配信

配布がはじまったマイナンバー、情報漏えいの防止義務や、保管義務などがあることから、多くの企業が対応に追われている。そうした企業のニーズをとらえた管理代行サービスも立ち上がり、関連サービスも含めると市場規模は1兆円に上るとも言われている。今後、さらに広い領域の個人情報とひも付くことが予定されているマイナンバー、どのような運用をすればいいのだろうか。専門家はオランダにおける「ポルダーモデル」が参考になるという。(Yahoo!ニュース編集部)

600万円の費用負担が必要な場合も

企業では、税や社会保障の手続きの関係から、従業員やアルバイトのマイナンバーを収集、管理する必要がある。マイナンバーとそれにひも付く情報は、「特定個人情報」と定められている。取扱い責任者の教育、監督をはじめ番号の使用履歴を記録するなどの対策が求められる。もし特定個人情報の不正な流出や漏えいがあった場合には、企業や管理責任者に最高で罰金200万円以下、懲役4年以下の刑が科せられることになる。

東京葛飾区にある従業員15人、プラスチック製品の設計、製造を手掛ける中小企業の社長も、「どう対応すべきか、不安がいっぱいある」と、頭を抱える。同社ではこれまで書類で社会保障関係の情報を管理してきた。それが新たな法律では取扱い責任者以外の人物が覗き見できないよう間仕切りの設置や施錠ができる保管場所が求められる。

中島誠二氏は従業員15人の会社を営んでいる

当然、新たな管理設備を設けるには予算がかかる。帝国データバンクが行った調査では、1社当たりの平均コスト負担額は109万円、1000人を超える会社では600万円程度と算出された。情報漏えい防止義務が発生する上に新たな費用負担ものしかかる。

マイナンバー管理代行サービスという新業態

こうした企業ニーズに応えるために、マイナンバー管理代行という新サービスが勃興している。

国内警備会社の大手・セコムでは、警備会社としての強みを活かし、マイナンバー情報の収集や使用、保管、廃棄に対応したサービスを運営している。特に保管では、顧客のマイナンバー情報を保管する専用サーバーを24時間監視、外部からの不正なアクセスが疑われる際には、ただちに対処を行う。

セコムでは、マイナンバー管理業務を拡大するために、57の地方銀行と提携を発表。マイナンバーの管理に不安を覚える企業を地方銀行を通じて開拓していくのが狙いだ。セコムは2016年1月時点で、600万人分のマイナンバーを預かる計画を立てている。

こうした法人向けの管理代行サービスなどを中心とした「マイナンバー関連ビジネス」の市場は拡大が続き、三菱総合研究所の調べでは市場規模は1兆円に上る見込みだ。

マイナンバーの制度運営にあたっては、初期投資として3000億円、年間300~400億円の運用コストがかかる。導入にあたってひも付けられる個人情報の範囲は「税」「社会保障」「災害対策」の悪用の危険性が低い分野に限られているが、対応する分野は徐々に拡大する。

ゆくゆくは「国民保険証」や「運転免許証」など秘匿性の高い情報とも、ひも付けることが検討されている。情報漏えいなど、セキュリティ面の失敗は許されない。だが、自民党ICT戦略特命委員長の平井卓也衆議院議員は「アメリカのマイナンバー制度であるSSNのように『なりすまし』が多発する危険性はない」という。

その論拠としているのが、日本が採用する「分散管理」と呼ばれる情報管理の方法だ。マイナンバーの各種個人情報は一元的に管理されているわけではない。例えば国税関連の情報は税務署、児童手当や生活保護関連の情報は市町村役場で「分散」して管理されている。情報照会の必要があれば、役所同士で問い合わせする仕組みだ。万が一、1カ所で情報漏えいが起きても、個人情報が芋づる式に流出することはない。

また、本人確認もアメリカはSSNの下4ケタの番号でなされるのに対し、日本では写真付きの身分証明書も併用しなければならない。アメリカのような「なりすまし」被害が社会問題化する可能性は相対的に低いと言える

国民の信頼を培うために「ポルダーモデル」

だが、制度面の安全構築だけでは不十分だ。国民の不安感も払拭しなければならない。内閣府の調査では7割以上が個人情報の漏洩によるプライバシー侵害や不正利用の被害を不安に思っていることが明らかになった(内閣府の15年7月23日から8月2日調査)。

元財務官僚で、世界の税制に詳しい森信茂樹教授は「スウェーデンが好例」だという。スウェーデンでは「市民番号」に紐づけて、すべての国民の個人番号と住所、そして課税所得も公開されている。そのため、第三者であっても、国税庁に問い合わせをすれば、他人の所得を知ることができる。

スウェーデンのこうした取り組みについて、「非常に国家に対する信頼が厚い国。市民番号も使途が拡大され、ほぼ制限がないようになっている」と話す。

スウェーデンは高福祉、高負担の国として知られるが、「国に対して国民が『きちんと税を払えば、相応のサービスが受けられる』という信頼があるからこそ成り立っています。市民番号制度も、個人情報の公開も、税金を平等に払い、福祉制度をより充実させるために必要なこととして、国民に受け入れられているのです」と現状を分析する。

では日本でどのようにすれば国民の信頼を培うことができるのか。森信氏はオランダのプロセスを参考にすべきだと語る。

オランダでは30年ほど前に、税の徴収の効率化を目的としてマイナンバー制度が導入された。そこから用途は拡大されてきたが、毎年国会で議論され、合意した分野に限って拡大している。こうしたモデルは、干拓によって少しずつ国土を広げてきたオランダになぞらえて「ポルダー(干拓)モデル」と呼ばれている。

そうした状況を鑑みず、制度運用だけを推し進めても、国民の納得を得るのは難しい。だからこそ「少しずつ」「合意が得られた部分だけ」のポルダーモデルが適切だという。

連載1回目で行った意識調査の結果では64.6%の人がマイナンバーの概要について「あまり理解していない」「ほとんど理解していない」と回答した。自分たちの情報が国によって管理されるようになる中で、個人情報がどのように利用されているのか。まず、制度そのものに興味を持つことから始めることが必要だ。


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