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マイナンバー、先行する米国「なりすまし」被害の実態

2015/10/27(火) 18:05 配信

番号の通知が始まったマイナンバー制度は、世界でも先進国の多くが類似の制度を導入している。利点がある一方で、情報流出や悪用のリスクもあることを示しているのは「なりすまし」事件が大きな問題となっているアメリカだ。多くの個人情報がひも付いた「SSN」と呼ばれる番号が悪用される事案が深刻化している。アメリカは日本の「未来」を暗示するのか。被害の実態を追う。(Yahoo!ニュース編集部)

アメリカで相次ぐ「なりすまし詐欺」

アメリカではSSN(Social Security Number=社会保障番号)と呼ばれる9ケタの番号が導入されている。取得時にはその番号と署名が記されたSSNカードが配布されるが、市民の多くは携帯することなく番号自体を暗記して本人確認に利用している。

SSNの取得は義務ではないが、福祉、医療の補助金や税の還付など行政手続きに加え、ローンの申請や、クレジットカードの発行、銀行口座開設、携帯電話の契約、運転免許の取得などあらゆる場面で身分証明として使われる。1936年の制度開始から累計4億5370万枚のSSNが発行されている。

だが、このSSNを悪用した「なりすまし被害」が深刻化している。最も多いのは、他人のSSNを使ってクレジットカードを発行して、買い物をするというケース。アメリカ政府機関の統計によれば2014年には、16歳以上の7%にあたる延べ1760万人がSSNに関する被害に遭った。詐欺事件の中では、SSNに関するものが15年連続、最多である。

ある日突然、覚えのない請求書が届いた

「晴天のへきれきでした。自分がなりすまし詐欺の被害者になるなんて想像もしませんでした」
そう語るカレン・バーニーさんが被害に気付いたのは、2001年の秋のことだ。ある日届いた大きな封筒を開けてみると、そこには購入した覚えのない携帯電話3台分、計800ドルの請求書が入っていた。

犯人は、何らかの方法でカレンさんのSSNをはじめ、口座情報、氏名、住所を入手し、彼女になりすまして携帯電話を購入したと見られる。

事件発覚後、カレンさんは被害届を作成するために警察から長時間の事情聴取を受け、携帯電話を購入していないことを証明しなければならなかった。さらに銀行や店舗に対する購入無効の手続きも自ら行わなければならず、そのやりとりは連日に及んだ。最終的になりすまし被害が認められ、被害金額は補填(ほてん)されたが、犯人は捕まらずじまい。カレンさんのSSNへの考え方は大きく変わった。

「SSNはいろんなものにひも付いていて、それによって性質が変わってしまう。SSNが人生を大きく左右すると思うと、怖いです」

こうした「なりすまし詐欺」は、多くの場合、番号とともに住所、氏名、口座情報がセットで盗まれて起きる。病院で診察を受ける際に医療費控除のために記入した書類が外部に漏れたり、勤務先で作成された所得申請の書類がごみ箱から拾われるなどして、流出するケースもあるという。

また、ショッピングサイトなどで入力されたSSN情報がハッキングされ、流出してしまうということもある。

ひも付く情報が多いほど、悪用のリスクも高まる

移民が多いアメリカでは1936年の制度開始以来、個人情報の一元化にいち早く取り組んできた。1962年に税金関係での利用が始まり、1970年には銀行口座の開設、そして1976年には運転免許証や車両登録に対象を拡大した。SSN導入当時のアメリカでは、番号の使用は社会保障のみに限られ、身分証明書にはならないと明言されていたが、度重なる法改正を経て、次第に国民の生活に浸透していった。

そして1990年代にはクレジットカードの発行に使われはじめ、なりすまし事件が広がる土壌となった。

日本の2013年に成立した「マイナンバー法」では「税」「社会保障」「災害」の3分野のみに限定して利用されることになっていたが、2015年9月には改正マイナンバー法が成立した。2018年からは、定期検診の結果や予防接種の履歴などの医療情報と任意ではあるが預金口座への利用が可能となる。改正マイナンバー法の審議にあたり、戸籍や旅券、自動車登録などで番号が活用できるようにする方針も明らかにされた。2018年には戸籍法の改正も検討されている。

「わたしたちを見て学んでほしい」

アメリカでなりすまし被害にあった人たちのための支援団体、Identity Theft Resource Center(なりすまし詐欺情報センター)には1年間におよそ2万件もの電話相談が寄せられる。サンディエゴ支所で所長を務めるエヴァ・ケイシーさんは、「相談内容の多くは金銭面のトラブルで、盗まれたSSNがクレジットカードの発行やローンの契約に利用される事例だが、中には長期に渡る事例もある」という。

ある女性は、幼少期から20年もの間、母親にSSNを悪用され続けたという。クレジットカードを乱用されたことで信用情報に傷が付き、大学では学費のローンが組めず働いて現金を貯めつつ学校に通うことを強いられた。仕事と学業の両立は難しく、5年かけてようやく卒業できた。その後も、クレジットカードが作れないなど様々な制約を受け続けた。

母の死後、遺品を整理していると、大量のクレジットカードの明細が出てきた。何箱にも及ぶ大量の使用記録を見つけて初めて、自分のSSN情報が母親によって悪用されていることに気づいたのだ。だが、衝撃はそれだけにとどまらない。詳細に記録を調べると、悪用の範囲は彼女の父や叔父にまで及んでいたことが明らかになった。「母の裏切りを知った彼女は、身も心もずたずたになっていました」とエヴァさんは悲痛な面持ちで語った。

こうした被害をいくつも見てきたエヴァさんは「日本版マイナンバーはアメリカのSSNと似ている部分がある」と指摘する。「SSNも当初は社会保障の分野だけで使われるという政府のメッセージがありました。そして、いつからか多目的で使用されるようになりました。日本の皆さんは私たちを見てそれを避けることができるはず。政府にマイナンバーにはどのような未来が待っているのか強く説明を求めるべきです。」

一方で、自民党の平井卓也議員は「法改正されない限り、アメリカのような番号を使ったなりすまし被害は起こらない」と話す。さらに、「集まった情報は“分散管理”され、すべて暗号に変換されるシステムを日本は採用している。システム的には(世界では)後発な分、改良を加えた日本が最先端だ」と力説する。

では実際、日本ではどのような運用がなされているのか、連載第3回では情報管理の現場を取材する。


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