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岡本裕志

「東京五輪に責任者はいなかった」都政改革ブレーンに聞く

2016/10/11(火) 15:52 配信

オリジナル

小池百合子東京都知事の“掘り出し物”が続いている。豊洲を掘ってみると、盛り土のない巨大な空洞が見つかったが、東京五輪という箱を開けてみると、こちらも“空洞”が見つかった。数兆円の予算という国家的プロジェクトにもかかわらず、そこには責任ある決定権者がいなかったのである。この問題を掘り当てたのが、都制改革本部の特別顧問、上山信一・慶應義塾大学教授(総合政策学部)である。上山氏が率いる調査チームの試算では、このままでは開催費用は3兆円を超えるという。膨れ上がる開催費用、迷走してきた東京五輪の本質は何だったのか。上山氏が指摘したのは、昔から変わらぬ日本的な無責任体制だった。(ジャーナリスト・森健/Yahoo!ニュース編集部)

“社長”も“財務部長”もいない組織

「いまのやり方のままやっていると、(2020年東京五輪・パラリンピックの開催費用は)3兆円を超えると。これがわれわれの結論であります」

9月29日午前、東京都庁の都政改革本部。小池百合子知事を前に報告された開催費用は、五輪招致時の予算7340億円を4倍近く上回るものだった。

調査報告書を読み上げていたのは、上山信一・慶應義塾大学教授。小池氏が知事に就任後、都政改革本部に「特別顧問」として迎えたブレーンである。語られた項目には、都が新設する「海の森水上競技場」など3施設の抜本的な見直しもあった。この日の報告でなにより衝撃だったのは、東京五輪の開催に向けたプロジェクトの運営体制において、責任をとるリーダーも予算を仕切る財務担当者もいないという指摘だ。

なぜこんなことになってしまったのか。10月上旬、あらためて上山信一氏に尋ねてみた。

インタビューは、東京都心にある上山氏の事務所で行った(撮影: 岡本裕志)

──単刀直入に聞きますが、今回の調査、小池さんは問題を“掘り出す”当てがあったのでしょうか。

いや……、とにかく調べてみようと考えたという感じでしょう。

──小池さんは鼻が利く方なんですか。

変だと思って地下に潜ってみたら、水が溜まっていた。巨大な空間があったというのが豊洲ですよね。五輪のほうも、なにか変だというので、調査してみたら「えっ、そんなことになっていたの!」と一同唖然とした。素朴に調べてみることが大事なんでしょう。

──都知事選から数日後の会見で小池さんは、「都政改革本部を設置したい」「特定の課題について調査チームを設置したい」と述べていました。何か考えがあったようにうかがえます。

五輪の開催費用については、小池さんは都知事選の選挙戦中から「2兆(丁)、3兆って豆腐屋さんじゃあるまいし!」とおっしゃっていました。そのときからきちんと調査したいという考えはあったと思います。選挙戦でもそういう民意を受け取ったのでしょう。なにしろ、2013年の招致時には7340億円だったのが、2015年7月には森喜朗組織委員会会長が「最終的に2兆円を超すかもしれない」と言った。その3か月後に舛添知事(当時)が「3兆円は必要だろう」と発言した。このまま青天井で膨れていくと危ないと考えられたのだと思います。

2016ロンドン大会を参考に、輸送、警備、広報などのソフト経費を含む「開催総費用」を推計したもの。「ロンドンとの差」は、大会参加者数や夏の暑さなどロンドンとの条件の違い。都政改革本部オリンピック・パラリンピック調査チーム「調査報告書(Ver.0.9)」より作成

──8月末に都政改革本部が立ち上がり、上山さんをはじめ、経営コンサルタントや弁護士や大学教授など8人の有識者による「オリンピック・パラリンピック調査チーム」が設置されました。上山さんご自身は事前に具体的な問題は見えていましたか。

もともと国立競技場の建築問題があり、エンブレム問題がありましたね。五輪関係組織のガバナンス(運営・統治)がおかしいという話は、昨年から言われていたことです。誰だって報道を見ていればおかしいと思うでしょう。私が違和感をもっていたのは森会長の発言(2014年10月)です。「このままだと1兆円超えるだろう」というときの「だろう」という表現は第三者、傍観者の言葉です。これは危ないと思いました。

上山信一(うえやま・しんいち)1957年大阪府生まれ、京都大学法学部卒。運輸省(現・国土交通省)を経て、1986年、外資系コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーへ。1992年、同社共同経営者に就任。2000年に退社し、米ジョージタウン大学研究教授に。2007年から慶應義塾大学総合政策学部教授。現在、大阪府・大阪市特別顧問のほか、愛知県政策顧問、新潟市政策改革本部統括を兼務。2016年、東京都都政改革本部特別顧問に就任(撮影: 岡本裕志)

上山信一氏は、近年の「行政改革の仕掛け人」とも言える人物だ。

2005年、大阪市の市政改革に関わったのち、2008年、橋下徹氏が大阪府知事に就任後、大阪府特別顧問に就任(その後、橋下氏が大阪市長になったあとは大阪市特別顧問も兼任)。関空と伊丹の統合、地下鉄・バスの民営化、上下水道などのインフラの府市連携、各種事業の見直しによる財政再建から、「大阪都構想」まで、府市の改革全般に取り組んだ。マッキンゼーで培った経営コンサルティング的な視点で、組織の構造や費用対効果などを検証し、改革を進める手腕は高く評価され、大企業や国交省のほか自治体だけでも20近い団体に顧問や委員として招聘されている。

森さんは元総理大臣ですから、元総理の数字感覚でこの問題を見ておられたのだと思う。もしこれが文部科学省の局長や企業出身の人なら感覚として、「兆円」という単位にまでいかないでしょう。でも、元総理という人からすれば、「兆円」という数字はさほど大きくはない。

2020年東京五輪の「顔」としてふるまうことの多い森喜朗・五輪組織委員会会長(写真: ロイター/アフロ)

──増え続ける開催費用になぜ手を付けなかったんですかね。

そこに、今回の五輪を巡るガバナンスの問題があるんです。森さんは組織委員会の会長です。組織委員会はIOC(国際オリンピック委員会)と直結で五輪のことだけを扱っている唯一の組織ですが、必ずしも十分な権限があるわけではないんです。今回の東京五輪では重要なことを決める場は「調整会議」という場だったのですが、ここがほとんど機能していなかった。

──組織図を見ると、調整会議はおもに6者がいますね。東京都、組織委員会、日本オリンピック委員会(JOC)、日本パラリンピック委員会(JPC)、文部科学大臣、五輪担当大臣。この6者が関わっていながら、なぜ機能していなかったんですか。

簡単です。調整会議を仕切る人、会議をまとめて決裁する議長という存在がいなかった。そして事務局もいない。開催費用の上限を定める役職もなかったのです。一般の企業で言うなら、社長と財務部長がいない。

都政改革本部オリンピック・パラリンピック調査チーム「調査報告書(Ver.0.9)」より作成。写真は現職。“不在”の席の左から反時計回りに、小池百合子東京都知事(写真: 吉澤菜穂/アフロ)、松野博一文部科学大臣(写真: Natsuki Sakai/アフロ)、竹田恆和JOC会長(写真: 長田洋平/アフロスポーツ)、鳥原光徳JPC会長(写真: 伊藤真吾/アフロスポーツ)、丸川珠代オリンピック・パラリンピック担当大臣(写真: アフロスポーツ)、森喜朗五輪組織委員会会長(写真: 長田洋平/アフロスポーツ)

“政府は関与していない”2020東京五輪

──上山さんは、いつ五輪のガバナンス上の問題に気づいたんですか。

一つは、都庁の関係部局にこの東京五輪の全体像を出してくれと言ったのに、その全体像の一覧表が存在しなかったこと。もう一つは、資料を集めてもらったら、「レガシープラン」という文書が2つ出てきたんです。レガシープランとは、今回の東京五輪でお金を投じる際、五輪閉会後も社会によい影響が残るための重要なプランです。このレガシープランとして、東京都と組織委員会の資料がそれぞれ別なものが出てきたんです。どちらも同じ東京五輪というプロジェクトを目指して活動している団体ですから、レガシープランも本来は一致していなければならない。なのに、整合性がとれていない。組織間の合意がとれていないことがわかりました。

都政改革本部オリンピック・パラリンピック調査チーム「調査報告書(Ver.0.9)」の1ページ。

──いわゆる縦割りですか。

縦割りは役所ではよくある話です。他の部署と連携するという発想がもともと薄いのです。

──いい加減ですね。

都庁と政府の連携の悪さはこれに限らない。ロンドン大会では組織委員会をつくるとき、組織委員会の資金をロンドン市と政府が出した。これが普通の形です。そして政府が施設建設費もかなり出す。2002年のサッカーの日韓ワールドカップでも政府が主体でした。ところが、今回、組織委員会の資金については、東京都が97.5%、58.5億円のお金を出し、残りの2.5%をJOC。政府は1円もお金を出していない。

──えっ? 政府がお金を出していないんですか。

民主党政権(菅直人首相)の2011年12月13日、特段の費用負担は行わないと閣議了解をしているんです。「国庫補助負担率等国の財政措置は、通常のものとする」「既定経費の合理化により賄うものとする」。この書き方では特別のプロジェクトとして大きな予算を出せる理屈づけになっていない。だから、今回の大会運営に国は本質的には参加していないんです。

──政府には丸川珠代五輪担当大臣もいますし、今年8月のブラジル・リオ五輪の最終日では、安倍晋三首相が閉会式で“マリオ”の格好で突然“土管”から現れたりしました。

しかし、IOCとの都市協定には政府は署名していない。政府はあくまで部外者なんです。だから、私は首相がリオに顔見せするなら「1000億円ぐらい、政府から東京五輪への参加費を払ってもらえ」と言ったんです。あれはただ乗りだから。

リオ五輪閉会式の「東京大会プレゼンテーション」で、日本生まれの人気キャラクター“マリオ”に扮した安倍首相(写真: ロイター/アフロ)

──つまり、政府はいまも東京五輪のプロジェクトには正式に入っていないんですね。

そうです。

──組織委員会やJOCには出向している役人はいますよね。あの人たちは違うんですか。

人事配置として出向している人は財務省でも文科省でもいます。でも、「開催都市契約」にサインしているのは、IOCと東京都及びJOCです。のちに開催に向けて動き出すとなって組織委員会がつくられ、組織委員会も契約に加わった。しかし、政府はサインしていない。

──にわかには信じがたいことですが、なぜ政府が東京五輪のプロジェクトに正式に関与していないのでしょうか。

お金を出したくないのでは?

──警備や交通をはじめ、運営に際しては、政府の力が必要になります。

当然そうなります。だから、オリンピック担当大臣がいて、警備体制の仕事などはされている。でも、施設づくりに関しては国立競技場の補修をしているだけです。他には一切何も出資していないし、何の権限もないんです。実際、IOCは公的な団体ではなく民間団体で、JOCも任意団体。だから、現状は東京都と民間団体が一緒にやっているだけ。政府は側面に協力するだけです。

都政改革本部オリンピック・パラリンピック調査チーム「調査報告書(Ver.0.9)」より作成

9月23日、小池知事は記者会見を開き、記者との質疑応答の中で、こんなことを述べた。

「私の座右の書は『失敗の本質』(戸部良一ほか著)。失敗に共通するのは要は楽観主義、縦割りだ。日本は敗戦したが、都民の安全を預かる都庁は敗戦するわけにはいかない」

知事が言及したのは、明確な目的なくソ連と長期戦を戦い、多大な損失を招いたノモンハン事件や米航空母艦の襲来を想定しえずに大敗したミッドウェー海戦など戦中の日本軍の「失敗」を丁寧に分析した研究書である。同書では、6つの作戦から「曖昧な戦略目的」「空気の支配」など失敗要因を分析しているが、今回の五輪のプロジェクトについても共通している部分がある。たとえば「集団主義」への批判はこうある。

<(集団主義の強い場で)重視されるのは、組織目標と目標達成手段の合理的、体系的な形成・選択よりも、組織メンバー間の「間柄」に対する配慮である。(中略)いずれも「間柄」を中心として組織の意思決定が行われていく過程を示している>

誰も責任を負わず、調整会議という実務を伴わない曖昧な会議の場で決定されていった過程はまさに集団主義の悪い例であろう。その意味で小池知事が問題視していることは、まさに五輪問題の中にもあるのだろう。

座右の書『失敗の本質』に言及した9月23日の定例記者会見。豊洲市場問題を中心に、都政改革について語った(写真: 長田洋平/アフロ)

都から見て森喜朗会長は“子会社の社長”

──報道を見ていると森会長は日本を代表して東京五輪を差配しているように見えますが、お話をよく聞くと、森会長の組織委員会は国の組織ではないんですね。

組織委員会は東京都の外郭団体です。都の外郭には子会社や財団法人がいろいろありますが、それの一つです。だから、都知事からすれば、「外郭団体の長らしくふるまっていただきたい」というのが本音ではないでしょうか。たまたま元総理なので、国=政府の人のように見えますが、そうじゃないんです。都の子会社の社長でしかないのです。

調査報告書タイトルの(Ver.0.9)には「各方面からの御意見や指摘を反映し、さらにバージョンアップさせていく予定」という注記が付いている(撮影: 岡本裕志)

──その関係の上で、再度、東京都やJOCなど運営に関係する6者が集まる調整会議という場を見てみると、相互の関係も不明確です。お金を出しているのはもっぱら東京都で、その下に組織委員会がある。それなのに、お金も出さず、責任もない文科大臣や五輪担当大臣が参加している。本来はJOCと都知事が決定権者のように見えますが、実務として政府の力を頼らざるをえないところが大きいのでしょうか。

調整会議は関係者の顔合わせにしかなっていないです。今年は2回しか開かれていない。組織ごとに異なる意見が出たとしても、調整する時間もなければ、取り仕切る議長もいない。もちろんCEO(最高経営責任者)もいない。そして、開催費用を判断するCFO(最高財務責任者)もいない。個々の組織にはCFOはいるのですが、調整会議に全体を見通しているCFOはいない。だから、費用に制限がつかず、というかもともと予算の枠が定められていないので、膨らんでいくだけなんですね。

──そんな組織体制では、現場は判断がつかないことばかりになりそうですね。現場の人は失敗できないですしね。

その通り。いつ、何が、どう決まるのかわからない。そこで現場は心配だから、失敗を恐れて物品は多く見積もりするようになるし、その分無駄なお金がかかる。トップもいないし、財務担当者もいないので、予算の天井もない。必然的に予算が膨れるのは仕方がない構造です。ただ、総費用の増加という点で誤解してほしくないのは、1兆数千億円増えるのは仕方がないという話。これは警備や運営支援など人員=ソフトとしての費用です。ロンドンでも1兆4000億円はそうしたソフト費用です。その意味では、この1兆4000~6000億円分がかかるのは早くわかっていたことです。もっと早く国民に説明すべきだったと思います。

──そうだとしても、ハード、施設の費用面でも予算額が急激に増加していますよね。

施設関係を調べて驚いたのは、維持費についてあまり考えられていなかったことです。恒久施設の場合、10年、20年と経つと維持費が建設費と同じくらいかかってしまう。また、設置後にどれだけ都民など一般の人が使うかという観点も必要です。ところが、そうした視点での検証は非常にずさんだった。私たちはとりわけ建設費が高い3施設に対して、見直しを提言したのです。

調査報告書で「特に対応を急ぐべき」と指摘された3つの恒久施設の完成イメージ図。海の森水上競技場(上)、オリンピックアクアティクスセンター(下左)、有明アリーナ(下右)(提供: 東京都)

現場の人は当初の招致案に固執しすぎた

──見直しは「ボート、カヌー」の海の森水上競技場(491億円)、「水泳」のオリンピックアクアティクスセンター(683億円)、「バレーボール」の有明アリーナ(404億円)ですね。

たとえばボートの海の森。日本ボート協会は年間35万人利用するという。しかし、他の情報では何万人も来そうな様子ではない。また、アスリートの意見としても、「海水なんて使い物にならない。風や波も強く、飛行機の騒音も大きい」といった意見が多い。だったら、そんな施設を巨額の資金をかけて無理やり作る意味があるのかということです。

──もともとボートは川や湖でやるスポーツですが、なぜ海になったのですか。

2016年大会の招致ファイルで、臨海地域の選手村から半径8キロメートル圏内と謳っていました。「世界一コンパクトな大会」という名目です。その条件で考えると、海の森しか場所がなかった。それで現場の人や建設会社の人は、できる範囲のことを真剣にやった。締め切り堤を作ったり、ポンプを使った水の循環機構を作ったり……と技術で克服しようとやっているうちに1000億円以上になったわけです。要するに、現場の人たちは真面目に当初の案をやろうとしたのですね。

都政改革本部オリンピック・パラリンピック調査チーム「調査報告書(Ver.0.9)」の1ページ

──それだけ高いと見積もりが出れば、見直しや撤退という考えにならないのでしょうか。

その常識がなかったんです。1000億円になったら、ふつう「知事どうしましょうか」とうかがいを立てるはず。でも、言わなかった。さすがに舛添前知事になってから「高すぎる。何かおかしい」となって、半額近く削る見直しをした。でも、本当によい解決策は、競技場自体を都外へ移すことだったんです。

──そこで、ボートは宮城県登米市(宮城県長沼ボート場)で開催する案がニュースに出ていました。

宮城ならもともとのコンセプトにある復興五輪という精神に合致する。また、コストを抑えることは、いまのIOC会長、トーマス・バッハ氏の方針にも合っている。最近の招致では、コストの高騰を負担する住民の反対で辞退する都市がいくつも出ている。その意味で、バッハ会長はコストをかけない運営には好意的です。

コストのこともありますが、大事なことは、この恒久施設は都民の税金を使ってつくるということです。つまり、たった17日間のために数百億円を投じてよいのか。だから、私たちは判断基準として、「競合施設に伍しても利用が見込めるのか」「減築や仮設転用の可能性はないのか」など11項目のチェックシートをつくって妥当性を考えることにしたのです。見直しを提言した3施設はそうしたチェックを経て不可とされたわけです。

──今後はどのように進む予定ですか。

都政改革本部では調査の段階から、政策の実践に移り「プロジェクトチーム(PT)」ができました。私も今後は第三者の調査チームという立場ではなく、PTの一員として現実的な改善に関わっていきます。

ちなみに、都庁でやるべき最も大事なことは、情報公開です。これは五輪だけではありません。

昔の大阪市もそうでしたが、東京都では行政情報があまり公開されていない。都庁に入って1か月で、これだけ問題が出てきた。小池さんもびっくり、私もびっくり。もっと公開していけば、みんながびっくりして「こんなんじゃダメだ」となるはずです。

情報公開を進めれば、誰かが問題を発見するし、それで世論も喚起されてよくなっていくんです。そんな動きにつなげたいと思っています。

小池知事と上山氏らが「3兆円を超す可能性」という調査報告発表を行うと、直後から賛否の声があがっている。

宮城県の村井嘉浩知事は長沼ボート場の名前が挙げられたことで「復興五輪を掲げる以上、被災地を頭の隅に置いていただけるのはありがたい」と喜びを表明。一方、森組織委員会会長はIOCを含め、すでに2年間協議をしており、「それぞれの施設には作る理由がある。小池氏には(見直しは)難しいだろう」と牽制、「本当に都が見直しをするなら大変なことになる」と揺さぶる言い方で非難した。

今後、都は競技団体や移転候補地の自治体とも協議し、見通しを立てたうえで、12月のIOCとの協議を待つことになるが、まだどう進展するかは予断を許さない状況だ。小池知事と上山氏らが挑む闘いはまだスタートしたばかりだ。

都政改革本部の特別顧問に就任して約2か月。ますます多忙を極める上山氏(撮影: 岡本裕志)

森健(もり・けん)
1968年東京都生まれ。ジャーナリスト。2012年、『「つなみ」の子どもたち』で大宅壮一ノンフィクション賞、2015年『小倉昌男 祈りと経営』で小学館ノンフィクション大賞を受賞。著書に『反動世代』、『ビッグデータ社会の希望と憂鬱』、『勤めないという生き方』、『グーグル・アマゾン化する社会』、『人体改造の世紀』など。
公式サイト

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撮影:岡本裕志
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト
後藤勝
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