八尋伸

40~50代を襲う “血糖値スパイク”の脅威

2016/10/7(金) 10:48 配信

健康診断では正常なのに、知らないうちに体中の大事な血管が痛めつけられ、最悪の場合、突然死に襲われる――。そんな危険を招く「血糖値の異常」がいま国内で40~50代に蔓延しているという。食後の短時間にだけ血糖値が急上昇し、やがてまた正常値に戻る。わかりやすく名付けるとすれば“血糖値スパイク”だ。最新の研究によれば1400万人以上が該当する可能性もあるという。その知られざる実態と対策を取材した。(取材・文=NHKスペシャル「“血糖値スパイク”が危ない」取材班/編集=Yahoo!ニュース編集部)

(撮影:八尋伸)

突如襲った「心筋梗塞」

「胸や肩甲骨のあたりですかね。締め付けられるような、ぎゅーっとした感じ」

大阪府に住む43歳の男性は今年8月、「ちょっとした違和感」を覚え、近くの病院の救急外来を受診した。検査の結果、思いもよらぬ病名を告げられる。心筋梗塞だった。命に関わる病気であり、すぐに入院するよう勧められた。

男性の心臓をとらえた写真。黒く映し出される動脈がふさがり、その先に血液が通らなくなってしまっている。

このままでは、心臓の筋肉に血液が行き届かなくなり、突然死につながるリスクもある。男性はすぐに入院し、ふさがった血管を広げる手術を受けた。発見が早かったこともあり、大事になる前に治療を済ませることができた。

「(心筋梗塞と聞いた時は)驚きました。まさか自分が?って。体は丈夫なほうだと思っていましたし」

がっちりとした体格、これまで重い病気などしたこともなかった。なぜ突然、心臓の血管が詰まってしまったのだろうか。

血管を詰まらせる 「血糖値の異常」とは

「血糖値が高めです。その結果、血管で動脈硬化が進み、詰まってしまったと考えられます」

医師の言葉は男性にとって予想外だった。なぜなら毎年の健康診断では、いつも血糖値は「正常」だったからだ。男性はこれまで血糖値のことなど気にしたことはなかったという。

「血糖値」は血液の中を流れる糖分の量を示すもので、一般的な健康診断の検査項目にも入っている。血糖値が一定値より高い状態が続くと「糖尿病」と診断され、進行すれば失明や下肢の切断などの合併症につながる。

診察を受ける男性と片岡医師

正常だったはずの血糖値が原因とは、一体どういうことなのか。診断した国立循環器病研究センター病院の片岡有医師によると、男性には、通常の健康診断ではわからない「血糖値の異常」が見られたという。

「健康診断では通常、食事をしばらくとらず、空腹な状態での血糖値=“空腹時血糖値”を調べます。男性の場合、空腹時血糖値は正常でした。ところが今回、男性に食事をとった後の血糖値の変化を調べる検査を受けてもらったところ、異常が見つかったのです」

通常の血糖値と“血糖値スパイク”の違い。通常はゆるやかに変動する血糖値が、食後だけ急激に上下する

突然死のリスクを高める“血糖値スパイク”

NHKではいま、男性に起きたような「食後の血糖値の急激な変化」=“血糖値スパイク”(食後高血糖)の実態について、国内外の最新研究成果を取材している。

これまでも血糖値が高い状態が常に続く「糖尿病」になると、心筋梗塞などのリスクが高まるとは言われてきた。ところが最近の研究で、男性のように糖尿病ではなく「食後の短時間だけ」血糖値の変動が起きているケースでも、突然死のリスクが高まることが分かってきた。

例えばイタリアで行われた研究では、血管の細胞を実験的に“血糖値スパイク”を再現した環境に置いたところ、そのおよそ4割が死滅することが分かった。

食後に血糖値の急激な変化が起きるのが“血糖値スパイク”だ(撮影:八尋伸)

血糖値が急激に変動すると、「活性酸素」という毒性を持った物質がつくられやすくなる。その結果、血管の壁が傷つきやすくなり、修復しようと集まった免疫細胞によって血管がふさがってしまう。これが心臓の血管で起きれば心筋梗塞に、脳の血管で起きれば脳梗塞にと、突然死のリスクが高まるのだ。

片岡医師によると、こうした“血糖値スパイク”は通常の健康診断ではなかなか把握できず、そのことが対策を難しくしているのだという。

「糖尿病のように、常に血糖値が高い人は、健康診断で見つけられるので、本人も対策を取ろうという気持ちになりやすい。しかし男性のように、『血糖値スパイク』が知らずに生じているようなケースでは、健康診断では正常と見なされ、気づくのが難しい。その結果、自分では健康だと思っているうちに血管の状態が悪くなり、突然詰まってしまうこともありうる」(片岡医師)

血糖値スパイクは本人も知らずに生じているケースがある(撮影:八尋伸)

通常、食事によって摂取された糖分は、すい臓から分泌される「インスリン」というホルモンの働きによって、筋肉の細胞などに取り込まれ、血液中に残される糖分(=血糖値)は適正に調整されている。

ところが、生まれ持った体質や生活習慣の乱れが原因で、このインスリンの効きが悪くなってしまうことがある。すると、食事によっていっぺんに流れ込んできた糖を、スムーズに細胞に送りこむことができず、一時的に血糖値が非常に高い状態が発生する。

“血糖値スパイク”は、糖尿病ほどインスリンの分泌能力が低下していないため、食後何時間かが経過した空腹時には血糖値は適正レベルに落ち着く。そのため、健康診断では見つかりにくい。

40代以上の住民およそ8000人に対して“血糖値スパイク”を把握できる検査(糖負荷試験)を九州大学と共同で行っている福岡県・久山町の最新データから推計すると、該当者は現在全国に1400万人程度いる可能性があるという。特に40~50代の働き盛りの男性や、家族に糖尿病と診断された人がいるケースなどでは危険度が高くなると考えられている。

働き盛りの世代で“血糖値スパイク”の危険度が高いという(撮影:八尋伸)

“血糖値スパイク”が起きているかどうか、どうすればわかる?

通常の健康診断では気づけないリスクに、どう立ち向かえばよいのか?どうすれば自分に“血糖値スパイク”が生じている危険性に気づけるのか?

“血糖値スパイク”が起きているかどうかを調べる方法として、「75gブドウ糖負荷試験」というものがある。ブドウ糖が入った甘い液体を飲み、30分ごとに、2時間後までの血糖値を調べる検査だ。この検査は、人間ドックなどでは検査項目に入っているケースもあるし、希望すれば受診できる病院もある。健康診断で血糖値が高め(空腹時100以上、HbA1c5.6%以上)と指摘されたり、近い家族に糖尿病の人がいたりするケースでは、行うことが望ましいとされている(糖尿病診療ガイドライン2016)

人間ドックや病院での検査を受ける以外にも、簡易的にチェックすることは可能だ。今回NHKでは二宮利治教授(九州大学大学院 医学研究院 衛生公衆衛生学分野)の協力を得て、“血糖値スパイク”の危険度を自分でチェックできる簡単なテストを作成した。

空腹時と食後で血糖値は変化する(撮影:八尋伸)

どうすれば“血糖値スパイク”を解消できる?

チェックテストで“血糖値スパイク”の危険度が高いとわかったらどうすれば良いのか。大切なのは、血糖値を急激に上げないですむよう、生活上のちょっとした工夫をすることだ。といっても、なにも面倒なことをしなければならないわけではない。

対策の大原則は、糖分が腸に届く「量」と「スピード」を抑えることだ。たとえば手軽な昼食でありがちな「コンビニおにぎり2つと野菜ジュース」のような食事で、それらに含まれる糖分が「大量に」かつ「いっぺんに」体内に吸収されると、“血糖値スパイク”が起きやすくなってしまう。

糖分が大量に含まれる食事の後は“血糖値スパイク”が起きやすくなる(撮影:八尋伸)

サラダなど食物繊維を多く含むものを一緒に食べるようにすると、血糖値の上昇は抑えられることが知られているが、なかなかそうもいかないこともあるだろう。そんな時は、おにぎり2つを1つに減らし、その代わりにから揚げを食べる。また、おにぎりより先にから揚げを食べると、肉に含まれる脂質やタンパク質に反応して、胃の動きがゆっくりになる。その状態でおにぎりを食べると、血糖値が一気に上がらないため、“血糖値スパイク”が起きにくくなる。

こうしたごく身近に取り入れられる対策の有効性が、最新研究によって次々と明らかになってきている。そのなかで、自分の生活の中に無理なく取り入れ、長く続けられるものを選べばよい。ほんの少しの工夫でも長く続ければ、“血糖値スパイク”が招く突然死のリスクを減らすことができると期待される。

だからこそ大切なのが、「自分に“血糖値スパイク”が生じているかどうか」、そのリスクをいち早く知ることだ。まずは危険度チェックテストを試してみて、健康診断では気づけない自分のリスクに目を向けてみてはどうだろうか。


[写真]
撮影:八尋伸
写真監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝

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