自分はトランスジェンダーだと同僚に告げた時~「LGBTと職場」

2016/6/23(木) 13:27 配信

体は女性だったが、履歴書の性別欄では「男」を選んだ。面接には、メンズスーツを着ていった――。
神奈川県横浜市の教育関連企業に勤める宮田悠さん(32)は、体の性と心の性が一致しない“トランスジェンダー”。「不審がられるんじゃないか、ずっとドキドキしてました」、と就職活動で味わった緊張感を振り返る。性的少数者(LGBT)の人たちは、就職活動や職場でどのような困難に直面しているのか。一方、一部の企業にはLGBT当事者に配慮した制度や取り組みも広がっている。「LGBTと職場」の現状と課題を追った。
(Yahoo!ニュース編集部)

LGBTの就活セミナー

宮田さんは、女性の体で生まれ女の子として育てられたが、心の中では男性だと自覚してきた。性別適合手術を受け、現在は男性として働いているが、かつてのバイト先では女性として働いていたこともある。今年3月、東京都港区のNEC本社で行われたLGBTの就職活動生向けの就職セミナーにパネリストとして登壇した。「本当のことを言ったら同僚に避けられるんじゃないか、偏見を持たれるんじゃないか、と怖かったんです」。集まったLGBTの就活生たちに穏やかに語りかける。宮田さんは、LGBTとして働く上で直面する問題に葛藤し続けてきた。

大学生の時、女性として、宅配ピザ店、居酒屋、引越し屋などのアルバイトを経験した。周囲からは女性として扱われていても、心は男性。こっそりトランクスを履いて働いた。

「トランクスを履いていたのがバレたらいけないと思って、更衣室では急いで着替えていました」

仕事の合間の女子トークもつらかった。「男性芸能人で誰が好き?」と聞かれた時のためにあらかじめ答えを用意していた。引越し屋時代には、お客さんに「女性スタッフをお願いしたい」と指名されて、自分が担当していいか迷うこともあった。

履歴書の性別欄は「男」を選んだ

学生時代から性別適合手術を希望していたが、両親の理解が得られずにいた。24 歳の時、性同一性障害の診断を受けた。28歳の時に、手術を決断。費用は複数の金融機関で借り入れた。

戸籍も男性に変更した。自分が望む性で人生の再スタートを切るべく、就職活動を始める。メンズスーツを着て、履歴書の性別欄は「男」に丸を付けた。ホルモン注射を打ちはじめて、声が低く変わっていく過渡期だった。

「就職活動の指導では『面接ではハキハキ大きな声で話しましょう』と言われますが、大きな声で話したら不審がられるんじゃないかと不安でした」

就職は学習塾などを運営する会社に決まった。「これからは男性として生きることができる。採用が決まった時はそう思っていました」

しかし、新たな職場で待ち受けていたのは、女性から男性になった過去を隠していることへのストレスだった。宮田さんが働く教室は、女性スタッフのほうが圧倒的に多かった。久しぶりに入った“男性社員”を周囲は大歓迎。それが重圧になった。

「唯一の男性であるぼくに、あなたなら男の子のノリがわかるでしょ、と相談がくる。でも、ぼくにはそれがわからないんです」

次第に募る、本当の自分を知ってほしいという思い。入社から2年目、宮田さんはカミングアウトを決意。今では新しい同僚が職場に来るたびに自分がトランスジェンダーであることを告げている。その瞬間に立ち会った。

カミングアウトの瞬間 〜同僚はどう受け止めるのか

同僚たちはみな、「そうだったのか」と納得してくれた。宮田さんに対して感じていた小さな疑問が、過去を明かされることで解消したという。上司は「多様な存在をもっと受け入れようという職場の雰囲気づくりにつながった」と話す。学習塾の生徒がLGBTだった場合にどう対応するか、といった話し合いも持たれた。宮田さんは「仕事が楽しくなった。一日の半分以上を過ごす職場で、理解されて働くことがどんなに幸せかわかった」と振り返る。

国際基督教大学でジェンダー研究センターを立ち上げ、長年LGBTをとりまく問題に関わってきた田中かず子元教授は「職場のカミングアウトは、一回したらそれで終わりではない」と指摘する。異動があるたび、上司や同僚が変わるたびに改めてカミングアウトしなければいけない。宮田さんもその都度、どういう反応が返ってくるか緊張するという。

LGBTの受け入れで日本の企業は変わるのか?

2014年、オリンピック憲章に「性的指向による差別撤廃」が盛り込まれた。東京五輪を控えて、いま大企業を中心にLGBTの人権に配慮するルール作りが進んでいる。日本IBM、日本マイクロソフト、NTTグループなどでは、結婚の祝い金や休暇制度を同性婚に適用。パナソニックでは、会社の行動基準の中に「性的指向、性自認に関する差別的言動を行わない」との文言を付け加えた。第一生命保険、イオンなどはLGBTに関する社内研修を実施している。

企業の取り組みの一方で、LGBTに対する職場の偏見の根強さを示すさまざまな調査結果がある。NPO「虹色ダイバーシティ」と国際基督教大学ジェンダー研究センターがLGBT当事者らに職場環境について聞いた調査では、職場でカミングアウトしたあとに「気持ち悪い、生理的に無理」「同じ職場にいてほしくない」といった差別的な発言を受けたとの回答が複数あったという。調査・分析に加わったワシントン大学大学院社会学研究科の平森大規氏は「調査データをみる限り、近年、職場でのカミングアウトが増えているとは言えない」と指摘する。

広島修道大・河口和也教授らによる全国意識調査では、年齢が上がるほどLGBTを受け入れない人が多くなり、女性より男性のほうが偏見をもつ傾向があるという。職場の同僚がLGBTだった場合、40〜50代の男性管理職の約6割が嫌悪感を抱くという結果も出た。調査を担当した釜野さおり氏は「管理する立場になると、LGBTをどう扱ったらいいかわからず、やりにくいと考えてしまう可能性もあるのでは」と分析する。

前述の田中元教授も、LGBTが社会の話題にはなっても、そのことと実際にLGBTが働きやすい職場に変わったかどうかは別問題だと話す。「マジョリティーの意識が変わっていかなければ根本的な解決にはならない」と田中氏は強調する。

イメージ:アフロ

LGBTの働きやすさを左右する「アライ」という存在

そんな「マジョリティーの意識」への対応で注目を集め、企業のダイバーシティ担当者が頻繁に視察に訪れる会社がある。「LGBTA」を掲げる野村ホールディングスだ。末尾に付く「A」は「アライ(Ally/同盟、支援の意味)のことで、LGBTをはじめとする性的少数者を理解し、自分ができる行動を起こす支援者を意味する。

人材開発部エグゼクティブ・ディレクターの東由紀さんは5年前、LGBTを支援する社員ネットワークのリーダーを任された。「最初は当事者ではない自分に何ができるのか不安でした。でもアライという言葉を知って、自分にもできることがあると思えたんです」と語る。

そこで始めた活動が、「I am an LGBT Ally」と印刷された小さなステッカーを制作し、社員に配ること。これを自分の席やパソコンに貼ることで、自分がアライであると表明することができる仕組みだ。カミングアウトしていないLGBT社員にとっては、アライが職場にいるということが大きな安心感と勤労の意欲向上につながる。

さらに「LGBT当事者も誰かのアライになれること」にこの活動の魅力があると東さんは語る。たとえばゲイの人がバイセクシュアルの人のアライに、レズビアンの人がトランスジェンダーの人のアライになることも可能だ。

日本企業はカミングアウトのハードルはまだまだ高い傾向にあるが、「アライになろう」という呼びかけは受け入れられやすい。早くからLGBT支援に積極的だった外資系企業へも、“アライを増やそう”という活動が逆輸入のようにフィードバックされているという。

LGBTが働きやすい職場を目指すこれらの取り組みは、「マイノリティーへの配慮」だけではなく多様な価値観を受け入れる職場を目指すこと。そこには、LGBTの人はもちろん、それ以外の人をも含む企業自体のメリットにつながる、という信念がある。

電通ダイバーシティ・ラボによれば、LGBT当事者は全体の7.6%。LGBT層の市場規模は約6兆円にのぼる。政治の場でもLGBT関連法案が検討されるなど、社会の認知が広がりつつある中で、当事者と企業の模索が続いている。

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「LGBT」をとりまく状況は、近年大きく変化している。それでもなお、この問題の根は深い。社会のなかでLGBTがどう位置づけられ、どういう課題を抱えているのか。連載「LGBTのいま」では、全3回にわたって実際のLGBT当事者が直面している課題をレポート。

[制作]Yahoo!ニュース編集部、テレビマンユニオン

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