帆刈一哉
【#分け合うふたり】小遣いは月3万円、パートの妻の貯蓄額を聞けぬ夫――共働き夫婦の家計の不満、どう解決する?
2020/03/13(金) 16:00 配信
オリジナル共働き夫婦はどのように家計を分担しているのか。決まった金額を出し合うケース、費目ごとに担当を決め、各自の口座から引き落とすケース、一方の収入を生活費にするケースなど、方法はさまざまだ。月3万円の小遣いでやりくりする40代の男性は、妻がいくら稼ぎ、いくら貯蓄しているのか知らないと語る。「『貯蓄額を教えて』と言いたいところですが、不機嫌になるのが怖くて言い出せません」。不満や不安を解消するにはどうすればよいのか。(取材・文:武香織/撮影:帆刈一哉/Yahoo!ニュース 特集編集部)
"妻持ち"の教育費が年々増加
「夫の収入は、『たぶん、これくらい』と想像できるけど、きちんと提示してもらったことはありません。私の収入も夫は知らないはず。今のところは生活が切羽詰まっていないから、なあなあでいられるのでしょうね」
山田由美さん(仮名・43歳・自営業)は、結婚14年目になる夫(48歳・IT企業社員)と、10歳の娘との3人暮らしだ。
家計分担は、由美さんの担当が、子どもの学校関連、習い事、ママ友との交際、貯蓄、学資保険などの費用、日頃の食費と雑費、ペットのチワワの飼育費。夫の担当は、自宅のローン、光熱費、旅行代、週末の外食代だ。その分担スタイルに異論はない......はずだった。ところが、子どもの成長とともに、由美さんに不満が生まれつつあるという。
「保育園時代はピアノのみだった習い事を、娘の希望もあり、バレエ、科学教室、学習塾と増やした結果、習い事費が当初の約6倍に跳ね上がりました。さらに、『中学からは私立へ』が夫婦そろっての希望。今のまま私が教育費を全面的に負い続けるのであれば、その学費も自然と私持ちになる。家計の負担比率は夫を超えるでしょう。夫は気の利かない性格ですが、『あなたも支払って』と頼めばきっと快諾するとは思います。でも、『お願いする』行為自体がストレスなんですよねぇ......」
老後資金にも不安を覚えている。夫に貯蓄をしている様子が見受けられないのだ。
「私の老後資金はもちろん、娘の将来のための資金づくりも私任せにするのはかまわないんです。けれど、夫自身の老後資金は、自分でためてもらいたい。夫はブランド好きで洋服や装飾品にこだわり、暇さえあればゴルフです。果たして、貯蓄があるのかどうか......。もしなければ、老後、私が夫を養うことになってしまう。近いうち、家計の棚卸しをして、老後資金についてもきちんと話し合わなくちゃいけませんね」
妻の散財を子どもに教えられて
福島佑さん(仮名・40歳・建設業)には、5歳と4歳の息子がいる。妻(39歳)は、結婚と同時に正社員を退き、スーパーのパートをしている。福島さんはこう言う。
「パートを始める時、妻は『家族はあなたの給料で生活する。私のパート代は全額貯蓄。あなたのお小遣いは月3万円です』と宣言しました。一瞬、『俺の小遣い、たったのそれだけ?』と少し不満に感じたけれど、自分の中に家族を支える大黒柱のプライドみたいなものがあって、うなずいてしまったんです」
実際に小遣い3万円で過ごすには、相当の努力が必要だった。
「毎日立ち食いそばで抑えても、大半がランチ代で消えていきます。友人からの飲みの誘いも、月に1回参加するのがやっと。突発的なイベントがあり、やむを得ず追加請求すれば、妻の顔は一気に曇る。その表情を目にすると、もう......」
さらに、子どもたちがしばしば無邪気な"暴露"をするため、福島さんは妻の財布事情をいぶかっている。「ママ、しょっちゅう映画を見に行っているんだよ」「ママのお友達ときれいなお店でご飯を食べるんだ。見たこともないお料理がいっぱい出るの」「僕たち、体操教室に通い始めたんだよ」。
「妻は散財していそうだなあ......と。しかも僕になんの相談もなく、勝手に子どもに習い事をさせている。妻はいったいいくら稼ぎ、いくら貯蓄しているのか。『貯蓄額を教えて』と言いたいところですが、不機嫌になるのが怖くて言い出せません」
山田さんと福島さん夫婦はともにお互いの収入額を知らず、現在、家計について具体的に話し合っていない。夫婦の家計について相談を多く受けるファイナンシャルプランナーの塚越菜々子さんはこう言う。
「相談者の中でも、共働き夫婦にそういうケースは多いですね。分担にはさまざまなパターンがありますが、二人とも正社員同士だったりすると、独身の二人が一緒に住んでいるような形になりやすい。相手の収入を知らず、共同の出費は半分に分け、自分だけの出費は自分で出す。共通の銀行口座を作るというのはあまり聞きませんね。実質的には『家族のお金』だとしても夫婦どちらかの名義になってしまい、財産が偏ってしまいますから」
夫婦のコミュニケーション不足とお互いの収支が不透明であることが、トラブルの要因になりやすいという。
「そもそも収入を配偶者に知らせたくない理由は何なのか、考えてみるとよいでしょう。『夫が稼いだお金』『妻が稼いだお金』という考え方だと、とくに子どもがいる場合には、不満が生じないことのほうが少ないのではないでしょうか。収入を知られたくないのであれば、何があっても自分のお金でやりくりできるようにしておくべき。『二人の収入は家族のもの』と意識を変えるのであれば、数字を見て、人生設計を立てることです」
話を切り出す手順が大事
塚越さんは、家計を「ガラス張り」にする「合算家計」を推奨している。
「お互いの収入を開示し、合算する。口座は一緒にはしません。固定費、変動費などを概算して、今後どちらがどの費目を担当するかを決めていく。通帳や給与明細などを自由に見られる状態にしておくことが、信頼関係を築く秘訣だと思います。大切なのは、固定費の中に『お小遣い(個人財産)』をキープすることです。そのお金は、給与の振込口座とは別の個人口座に移し、使途についてはお互い干渉しない。夫婦でも『秘密のブラックボックス』は必要ですから。『合算家計』で、個人の持ち分がなくなるわけではないのです」
合算家計を実現するためには、対話が必要だ。その際に重要なのは、「手順」だという。問題提起したいほうが、事前に自分自身の給与、貯蓄額を含め、おおまかな家計の支出をまとめたシートを用意しておく。そしていきなり家計の話を切り出さない。
「急にお金の使い道などを聞かれたら、責められているように感じてしまう場合が多いので、『子どもにどんな教育を受けさせたい?』『老後、どんな暮らしがしたい?』といったビジョンを語り合うところから始めます。そのうえで『じゃあ、これだけの貯金が必要だね』と家計の話題へ。事前に用意したシートを見せ、『あなたも給与や貯蓄額を教えて。未来のためにどこを削り、どこを増やすか、一緒に考えていきましょう』と促すのです」
塚越さんは、さらに年に一度は「決算会議」を開くことを勧めている。
「就労の形が変わったり、産休・育休によって収入が減ったりすれば、話し合うことになると思いますが、そうした節目でもなければなかなか『会議』に至りませんよね。そこであらかじめ、定期的に話し合うと決めておくのです。子どもの進学などのイベントに向けた予算の確認や、何を購入するか。相談者の方々を見ていると、家計の共有を始めた夫婦には、信頼感が芽生えているように思います。『パートナーの働きがなければ、今の生活は維持できない』と実感できるからかもしれませんね」
連載「分け合うふたり」
共働き夫婦が1500万世帯を超えた現在。公平な役割分担をパートナーに求めようとしても、すれ違いや偏りが生まれてしまうことも。お互いが役割やタスクを分かち合い、ストレスなく生きていくためには、どうすればよいのでしょうか。さまざまな事例から、解決のヒントを探ります。2月5日から、不定期で配信します。