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田中さん(仮名)夫妻と長男、愛猫の坂本寝子

【#分け合うふたり】 保育園落ちて15時退社を決めた夫――出産後の「共働き再開」で見えたハードル

2020/02/21(金) 16:01 配信

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子供が生まれた後しばらくして、共働きを再開させたいという夫婦は多い。しかし、保育園に入れず計画が狂ってしまうことも。運よく入園できたとしても、育児の負担が妻に偏ってしまうケースもある。今回、そんな悩みに直面しながらも、働き方の工夫などで乗り越えた2組の夫婦を取材した。(取材・文 上條まゆみ 撮影 岡田晃奈/Yahoo!ニュース 特集編集部)

夕方から育児に励む夫

平日の午後4時半、東京都内の住宅街。田中啓介さん(仮名・39歳)は1歳半の息子の手を握りながら、自宅周辺を散歩する。その時間帯、妻(40)は仕事中。父と子でゆったりと過ごす。

「朝、子どもと話せないぶん、夕方以降は会話をしたり、風呂に入れたり、遊んだりしています」

啓介さんは、大手運輸会社の管理部門に勤める会社員。妻はピアノ講師で、自宅や施設などで指導をしている。

「ピアノ講師は天職。結婚・出産しても続けたかった」という妻。啓介さんもそれを当然のことと受け止め、2017年に結婚した。

自宅のピアノ

翌年7月、長男が誕生した。2カ月後、妻は保育園に申し込みをしてピアノ講師に復帰......のはずだったが、どこも空きがなく、断られ続けた。当時、啓介さんは平日午前9時から午後5時半の勤務で、帰宅は午後7時。妻は夕方から生徒のレッスンを入れたかった。
はじめのうちは、啓介さんの両親や兄弟に子守を依頼したり、地域の一時預かりなどを利用したりしてしのいでいた。

「でもいつも綱渡りで、限界を感じていました。そんなとき、幸運にも僕の会社が働き方改革の一環でフレックスタイム制を導入したのです」(啓介さん)

コアタイムは11時から14時。制度を利用して超朝型にシフトすれば、早く帰宅できる――視界が開けた。

「僕が夕方から育児を引き受けるよ」「ありがとう。助かる」。子どもが生後6カ月のときだった。

朝4時起きの「超朝型」勤務に

実行すること1年。啓介さんの朝は早い。明け方4時に起床し、5時の始発に乗って会社へ。7時には仕事を始め、15時15分には切り上げる。帰宅はだいたい16時半。

帰宅と同時に、妻は仕事を始める。午後7時にいったん休憩。夕食はできるほうが作り、3人で一緒に食べると妻は仕事に戻る。一方、啓介さんと子どもは午後10時には一緒に寝る。

図版:吉岡昌諒

当初、苦労した田中さん夫婦だったが、夫のフレックスタイム制度を利用し、夫婦の仕事と生活の時間帯をずらすことで、ごく自然な形で育児分担が可能となった。

「会社には感謝しています。でも職場には『毎日早く帰るのはどうなんだ』と批判的な声もあります。だから取引先には夕方以降には会社に電話は入れないでほしいと伝え、周囲に迷惑はかからないように工夫しています。最近は僕のように、朝早くから仕事を始める人も増えてきました」

啓介さんの目下の悩みは、仕事後に飲みに行けないこと。だが、「たまに子どもと居酒屋に行って楽しんでいます。午後5時台はハッピーアワーで格安だし、客も少ないし、快適なんですよ(笑)」。

夫の育児時間はまだまだ少ない

「田中さん夫婦のような育児分担は理想的ですが、レアケース。現状では、夫の多くは妻ほど育児をしていません」

こう指摘するのは、明治大学商学部の専任教授で『ワンオペ育児』の著書もある藤田結子氏だ。

明治大学商学部・藤田結子専任教授(撮影:村上歩)

総務省「社会生活基本調査」(平成23年・28年)によれば、6歳未満の子がいる共働き夫婦の1日の育児時間は、2011年で夫が39分、妻が3時間22分。2016年で夫が49分、妻が3時間45分。5年間で夫の育児時間はわずか10分しか増えておらず、妻はそれ以上に増えている。

「企業の産休・育休制度が充実し、妻が育児と仕事を両立しやすくなったこと。また未就学児からの早期教育熱が高まり、働きながらも妻はそれまで以上に子どもにかかわろうとしていることから、育児時間は増加傾向にあります。一方、夫は労働時間が減っても、育児時間は増えていない。年々、改善されつつありますが、いまだ育児の主体は妻です」

育児負担が平等になった夫婦

はじめは妻の育児負担が8:2で大きかったが、話し合いを経て5:5にたどり着いた夫婦がいる。鈴木奈津美さん(39)は、新卒で入った外資系IT企業に勤めて17年。夫(42)は生命保険会社に勤める会社員。5歳の息子は保育園に通っている。

「ずっと仕事を続けたくて、結婚しても出産しても女性が活躍できる会社を選びました」

鈴木奈津美さん

だから、出産後の"保活"は頑張った。妊娠中から二十数件も見学に行き、生後8カ月で無事、入園。育休中は基本的に、奈津美さんがすべての家事・育児をしていたが、復帰後は夫が朝、保育園に子どもを送るようになった。しかし奈津美さんが夕方、子どもを迎えに行った後の夕食、風呂、寝かしつけは基本的に奈津美さんがやるので、負担は大きい。

「育休中は自分がやっていたので、ごく自然に帰宅後の家事・育児を引き受けました。子供が熱を出したときも、会社を休むのは私。今考えれば不公平なのですが(苦笑)」

夫に不満はぶつけず、無我夢中で育児と仕事を両立させた。そうして4年が過ぎた。育児がひと段落したことで余裕が生まれ、奈津美さんのなかに持ち前の向上心が湧いてきた。

「これからの人生を充実させるために、もっと仕事を頑張りたい。仕事以外の世界ももちたい」

そこで夫に頼み、保育園の夕方の迎えを代わってもらうことにした。奈津美さんははじめ、低姿勢で申し出た。「申し訳ないんだけど、この日、お迎えを代わってくれない?」。夫は快諾し、奈津美さんは「ありがとう」と礼を言った。しかし、どこか違和感が残った。2人の子供なのに、なぜ妻が礼を言わなければならないのか? 2人とも働いているのだから育児も半分ずつでいいのでは? 

「夫と交渉するにあたり、『家計負担も半々にするから』と提案しました。それまで家庭に入れる金額は夫6、妻4ぐらいでした。『収入で権利を得るのは違う』という意見もありますが、私の場合は家計負担を5:5にすることで、負い目なく家事育児の分担も5:5で考えられると思ったのです」

夫は「それならば」と同意したが、むしろ喜んでいるようでもあった。妻が「家事育児は女性がやるもの」と思い込んでいたのと同様、夫もまたお金は男が多く出すものという固定観念に縛られていたのかもしれない。

「今は週に2日ほど、夜、講演会やイベントなどに参加しています。会社で残業をすることもあります。夫はその日は仕事を早く切り上げて、息子と2人の時間を楽しんでいるようです。風呂や寝かしつけまで済ませておいてくれるから助かります」

里帰り出産の「落とし穴」

育児負担の不公平さを、自身の金銭負担を増やすことで解消した奈津美さん。

前出の藤田専任教授は、出産前後に大きな「育児の分担ポイント」があると指摘する。

「一般的に、里帰り出産や育休で妻だけが育児の経験値が上がってしまうと、夫が置き去りになり、育児の主体は妻になりがちです。里帰り出産の日数を極力少なくするなど、育児のスタートをできるだけ近づけることが肝心です。もし夫が育休を取れるようならば取得してもらい、育児の経験を積むことで差もなくなっていきます」

もう一つ節目となるのが、妻が仕事復帰する前後だ。その時点で話し合いの場を設けず、なりゆきで分担が決まるときに、妻の育児負担が増える傾向があるという。

「『話し合ってもムダ』『一からやり方を教えるのが面倒』などの理由で、あらたまった話し合いをしない夫婦が多いようです。でも、意見を出し合うことで育児の分担割合が変わったというエピソードもたくさん耳にします。ハードルはあるかもしれませんが、一度話し合うことをお勧めします」

ハードルを乗り越えた先に、新しい景色が広がっているのかもしれない。

連載「分け合うふたり」

共働き夫婦が1500万世帯を超えた現在。公平な役割分担をパートナーに求めようとしても、すれ違いや偏りが生まれてしまうことも。お互いが役割やタスクを分かち合い、ストレスなく生きていくためには、どうすればよいのでしょうか。さまざまな事例から、解決のヒントを探ります。2月5日から、不定期で配信します。