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【#分け合うふたり】抵抗感とメリットで揺れてーー「家事代行サービス」利用する人しない人

2020/02/17(月) 16:00 配信

オリジナル

家事全般の支援を行う「家事代行サービス」。日常的に利用する家庭もあれば、価格や、他人を家に入れることへの抵抗感を持つ人もいる。利用者の一人は、「母親じゃなくてもできることは割り切って外注して、子どもと向き合う時間を作りたかった」と話す。取り入れることで、日々の暮らしはどう変化するのか。抵抗感の背景にあるものは? 実態に迫った。(取材・文:殿井悠子/Yahoo!ニュース 特集編集部)

完璧主義だから外注を選んだ

都内在住のMさん夫婦は、家事代行サービスを利用して1年半になる。夫(41)はフレックス勤務だが、帰りは早くても22時。妻(39)はフルタイムで、休日は水曜と隔週日曜のみ。3歳の長女がいて犬を飼っている。Mさんが利用しているのは、スタッフが自宅を訪れ、「作り置きおかず」を作ってくれるサービスだ。

「育休中に、『家事を完璧にこなさなきゃ』という思いにとらわれてしまって。職場復帰後、同じように家事をしようとしたら絶対に無理がくると危機感を覚えました。共働きで家事の時間がなかなか取れない友人が勧めてくれて、頼むようになったんです」

「夫は遅く帰ってきても、必ず家で晩ご飯を食べる人。私は料理が好きで、やるならお菓子も手作りするとか、とことんやりたい。でも、時間が足りません。子どもの相手をしながら作ると中途半端になりがちで、それでおいしくないと言われるのも嫌でした。だったらプロの人にお願いしたほうがいいかなと」

Mさんが頼んでいる、ある日の作り置きおかず(撮影:編集部)

Mさんが利用しているのは家事代行マッチングサービスの「タスカジ」。まずインターネット上に掲載されているスタッフプロフィールを読み、お願いしたいスタッフを探して連絡を取る。その後、メールで希望日時やメニュー内容のやりとりをして、メニューが決まったら、来訪日までに必要な材料を買って準備しておく。3時間でだいたい8〜15品の料理を作ってもらい、時給は1500円から。スタッフの人気度によって時給は異なる。

Mさんの利用頻度は月2回。決まったスタッフに毎回頼み、交通費別で1回8220円だ。定期利用のため、少し値引きされているという。料理の分量にかかわらず、働いた時間分の料金を支払うシステムで、夫婦の双方が出し合う家計のなかから捻出している。

「友人は相性の良い人を探すのに苦労したと言っていましたが、私は最初の人がピッタリだったんです。口コミと紹介文から真面目さが伝わってきたので、お願いしました。子どもが野菜を食べないことを伝えると、ハンバーグにホウレンソウを入れて野菜を取る工夫をしてくれるなど、積極的にレシピを提案してくれます。お願いした週は一切作らなくていいし、もう頼りきりですね。買い物は大変ですが、ネットスーパーを利用したりしています」

スタッフからMさんに届く提案メニューの一例。メニューを選択すると、買い物しておく食材リストがメールで届く

子どもと向き合う時間がほしい

Mさん一家は人を招くのが好きで、他人が家に入ることには抵抗がなかったという。留守中でも犬はいるので、犬好きかどうかも事前に確認した。

「月に1回はコミュニケーションを取ったほうがよいかなと思い、休日に来てもらっています。でもそうすると、休日でもダラダラ過ごせませんが」

実家は徒歩3分のところにある。母親は料理が得意ではなく、趣味に忙しく過ごしているため協力は望めなかった。夫は、サービスを取り入れることには賛成だったという。味の好みがあり心配していたが、味付けはまったく問題なし。子どもにいたっては、自分の料理よりもよく食べる。

「仕事帰りに、保育園へ子どもをお迎えに行って、一緒にスーパーで買い物をするのも、外食するのも一苦労。献立を考えるのも苦痛でした。今は、レンジでチンするだけでおいしい料理が食べられますし、料理する時間、子どもを一人で遊ばせなくていい。外食したり総菜を買ったりすることを考えたら、そこまで高額ではありません。材料は自分で選べますし、顔が見える人に作ってもらうので安心です」

写真はイメージです(撮影:編集部)

しかし、あるときふと夫から言われた言葉が心に留まった。

「夫から『(母親としての)プライドはないの?』と言われて。そのときは、そういう見方もあるのか、と思いました。でも、子どもと過ごす時間が何より大事ですから。母親じゃなくてもできることは割り切って外注して、そのぶん子どもときちんと向き合う時間を作りたいと思うんです」

その一言について、夫はこう振り返る。

「もし後ろめたさを感じたりしていたらよくないと思って、聞いてみたんです。日本にはまだ家事は母親がやるものという空気があって、問題ですよね。個人的には、欧米では当たり前のようにベビーシッターをお願いしているのと同じで、家事を外注することに抵抗はありません。お金は働けば稼げるけど、時間はどんなにがんばっても稼げない。外注できるものがあればいくらでもやっていいと思っています」

写真はイメージです(撮影:編集部)

妻は、「おふくろの味がスタッフさんの味になるのかな」と思うこともあるという。

「でも、自分だけが作るメニューが何かあればいいかなと。メリットが大きいので、仕事の状況が変わらない限りは継続する予定です。料理を完全にアウトソーシングしたことで割り切れて、優先順位が明確になりました。掃除も頼んだことがあるのですが、そのときは仕上がりに納得がいかなかった。次は、掃除を安心して頼めるスタッフさんが見つかるといいなと思っています」

抵抗を感じる理由とは?

株式会社野村総合研究所による平成23年のインターネット調査では、家事支援サービスを利用している人は回答者全体の2%ほどだった。サービスを利用していない理由には以下のことが挙げられている。

株式会社野村総合研究所が平成23年1月、25歳~44歳までの女性2,000人に対して実施したインターネットアンケート調査「家庭生活サポートサービスの利用に関するアンケート調査」より

子育て両立・共育支援事業「エスキッチン」の代表を務める城梨沙さんも、子どもを産む前は、家事代行をお願いするのに抵抗を感じていたという。区が運営するシルバーサービスの掃除代行などから少しずつ取り入れるようになった。

城さんは、子育て中の親たちが集い、意見交換するコミュニティー「両立チーム育児ラボ」を主宰している。参加者の声を聞くと、家事代行サービスを利用しない理由として「利用するかどうかについて、夫婦で話し合う時間が取れない」「夫が掃除に関心がなく、散らかっていると思っていないので、必要性が伝わらない」「鍵の管理が心配でお願いできない」「シルバー人材派遣は比較的安いとはいえ、定期利用じゃないとやはり高く、出費がかさむ」といった意見があがった。

城さんいわく、家事代行サービスを利用することのハードルが高い原因は主に二つ。一つは他人を家に入れること、二つ目は金額の壁だ。

「他人を家に入れることについては、実際に利用するなかで、リスクよりも得るものが大きいと思えば解消されると思います。金額に関しては、家計のやりくりの前に家族のあり方を夫婦で共有する必要があるでしょう」

城梨沙(じょう・りさ)/1983年生まれ。東京都出身。株式会社エスキャリア・ライフエージェンシー代表取締役。子どもがスタッフと料理を作るプログラムや、離乳食・幼児食作りのサポート、父親のための料理指導、産前産後の女性に向けた作り置きサービスなどを展開する「エスキッチン」を運営。子育て中の親たちが集い、第三者を家庭に巻き込む"チーム育児"に実践的に取り組む「両立チーム育児ラボ」主宰(撮影:編集部)

家族会議で夫婦のスタンスを確認

城さんはまず家族会議を開くことを勧めている。

「家族会議で夫婦のお互いのスタンスを確認し合う。例えば『子どもの前ではいつも笑っていたいね』とか『老後は夫婦でのんびり旅行がしたいね』など、家族のあり方を話し合い、仕事にどう向き合いたいか、お互いのキャリアプランを共有する。そうすると、『この数年お金がかかるけど、必要経費だね』などと割り切りができる。家電を購入するだけで、問題が解決することもあります」

産休、育休中に収入が減ることで、お金を使いづらくなりがちだと城さんは続ける。

「手当しかなくなりますし、子どもにこんなにお金がかかるのかと危機感が募ってしまう。でも、キャリア形成をストップするのは、長期的に見たら逆効果だと思うんです。これからお金がかかるからこそ、一時的な出費は覚悟して、稼ぐ力を夫婦でつけていくのも一案です」

写真はイメージです(撮影:編集部)

では、家事代行サービスを選ぶときには、どういう基準で選べばいいのだろうか。城さんによると、運営者がどんな思いでどんなサービスを展開しているのか、何かあったときの保証はあるのか、口コミ評価は問題がないか、どんな人が来るか「見える化」されているかなど、しっかり確認することが大切だという。

城さんは、子どもの教育のためにもチームで育児をすることが大切だと考えている。

「夫婦でできないことをアウトソーシングするために家事代行サービスを利用しましたが、やってみると、子どもにとって良い効果があると分かったんです。スタッフさんが来る日を楽しみにしていたり、第三者が入ることで家庭の会話が違う空気になったり。親が第三者とコミュニケーションをとっているところを見せるのも、教育の一つだと思っています」

「ワンオペだと、その人が倒れたら大変。例えば育児や家事を私だけが担って、子どもに『母親がやるもの』という認識が根付くのも困ります。夫婦で協力し、頼れるものは頼って、チームで育児に取り組む。両手を一度空けて、自分の状況を俯瞰すると、必要なものが見えてくるのではないでしょうか」

連載「分け合うふたり」

共働き夫婦が1500万世帯を超えた現在。公平な役割分担をパートナーに求めようとしても、すれ違いや偏りが生まれてしまうことも。お互いが役割やタスクを分かち合い、ストレスなく生きていくためには、どうすればよいのでしょうか。さまざまな事例から、解決のヒントを探ります。2月5日から、不定期で配信します。


最終更新:2020/2/20(木) 16:40