共働き家庭の数が、専業主婦家庭の数を追い抜いて20年余り。家事に積極的に参加する夫が増え、分担も進んでいるが、時には受け身の姿勢がトリガーになって、バトルを引き起こすことも多い。共働きがスタンダードになった社会に生まれている、家事をめぐる新たな課題とは。(取材・文:福光恵/撮影:篠塚ようこ/Yahoo!ニュース 特集編集部)
週末に家庭で見られる光景
久しぶりに家族がそろった日曜日。一緒に買い物に出かけて帰宅すると、妻は台所へ直行して夕食の準備に取りかかる。かたや夫は皿を並べたり、子どもの面倒を見たりして妻をサポートするかと思いきや、指示が下るまでスマホに夢中......これが、全国の共働き世帯でときどき見られる、バトル5秒前の光景だという。
埼玉県に住む高田薫さん(仮名・32歳・事務職)もある週末、自分が家事をしている傍らで、スマホのゲームに熱中して指示を待つ夫(34歳・研究員)を目にして、心のなかの何かが音を立てて切れた。
「なんで私ばっかり......」
気がつけばそう言って、涙ながらに夫に抗議していたという。
「朝は夫」「夜は妻」と家事を分担
高田さん夫妻に長男が生まれたのは2年前。入りやすい0歳児クラスに入園させるため、薫さんは育休を切り上げて、出産から半年で仕事に復帰した。
「平日は時短勤務で夕方5時半には帰宅できる」という薫さん。一方、夫は「激務で深夜の帰宅が多い」。そんな2人の勤務形態を考えて、「朝は夫」「夜は妻」と、時間をきっぱり分けて家事をすることになった。
それまで、風呂掃除くらいしかしてこなかった夫だが、妊娠中の薫さんから仕事復帰後の家事分担をお願いされると心機一転。「夜は何もできないから、朝は全部自分ががんばる」と、朝の家事一式を快く引き受けた。
薫さんは仕事に復帰後、毎朝6時に起きて、家事には一切手をつけず30分後には会社に出発。一方、夫は1時間後に起床して、植物に水をやったり、家族のふとんを畳んだり、シャワー後に風呂掃除をしたりして家事をこなす。調理した朝食を子どもと一緒に取り、8時過ぎに保育園に送ってから出勤する。
ときに寝坊して保育園に遅刻し、仕事中の薫さんをやきもきさせたことが何度かあったが、2人の家事分担はこの2年間、うまく回っているように見えた。
「夫がいるから出産後も好きな仕事を続けられる」。薫さんもそう感謝している......はずだった。
ところが前述の「スマホに熱中で指示待ち」事件をきっかけに、心の奥に潜んでいた不満が噴き出す。自分の肩にのしかかる家事の重みに、日常の忘れていた小さな不満が混ざり合い、薫さんの感情が一気に膨らんだ。
2人になると受け身に
一方、夫にとっては薫さんから出たクレームは寝耳に水だったようだ。黙ってうなずきながら聞くことしかできなかった。スマホで遊んでいた理由についてはこう明かした。
「妻からこれを手伝ってという指示があったわけではなかったし、まあ自分はちょっと一息入れてもいいかと。妻がサポートを求めているとは気づきませんでした」
1人のときは上手に家事をこなしている夫も、2人になるとそんな気持ちで受け身になっていたようだ。
しかし"事件"以来、夫にも少しずつ自主性が芽生え、家族水入らずの休日は薫さんが家事をしていれば自主的にヘルプ。買い物や洗い物も進んでやるようになった。
「いつまで続くかわかりませんが......」と薫さんは笑うが、夫の改心は数カ月経った今も続いている。夫は「家事や育児にもう少し参加したい」と、勤務など日々の時間の使い方にも工夫を始めた。
共働きは1219万世帯に急増
内閣府などの調査によると、1980年以降に共働き世帯数は増加し、97年からは専業主婦の世帯数を上回るようになった。2018年には共働き世帯数は1219万となり、専業主婦の世帯とは2倍以上の開きが出ている。
一方で、妻の家事負担の割合は、劇的に変化してはいない。国立社会保障・人口問題研究所が発表した全国家庭動向調査(2018年)によると、夫婦の家事の分担割合は妻83.2%に対し、夫16.8%。妻の負担は、1998年の調査(妻88.7%、夫11.3%)から5%ほどしか減っていない。掃除、洗濯、料理など、夫もやることが多くなった家事の向こうに、どれだけ多くの「名もなき家事」が存在しているのかを物語っている。
当事者意識が生まれてほしい
ベテラン夫婦にも、夫の指示待ち姿勢への不満はついて回る。埼玉県に住む山内牧子さん(仮名・42歳・事務職)と夫(42歳・自営業)は結婚して16年になる。子どもは高校生になった。
出産後からゴミ捨ては夫、洗濯は妻など、家事のいくつかは当番を決め、その他は手の空いているほうがおこなうルールにした。夫は今では「週に5〜6回、晩ご飯を作ることもある」と胸を張る。
そんな山内家でも、「スマホに熱中で指示待ち」事件は起こった。牧子さんが不在のときは料理だけでなく、買い物や洗い物もぬかりなくこなす夫だが、なぜか妻の在宅時は一転、自分の世界に。スマホやテレビに夢中になり、牧子さんをイライラさせる。
牧子さんが夫に感じているのは「言われたことだけやればいいという主体性のなさ」。ただし、今は諦め、わざわざ指摘することも少なくなった。将来子どもが家を出て、夫婦2人きりの本当に平等な関係になったとき、夫に当事者意識が生まれることに期待している。
「指示待ち」の姿勢を変えるには?
家事シェア研究家で、全国の夫婦の相談にのっている三木智有さんも、妻が家事を始めたとたん、夫が指示待ち状態になってしまう事例をよく耳にする。
「昔と違って、たいていの夫は家事に協力的でやる気もあります。しかし、自分がリーダーになって家事を運用しようという主体性まではなかなか芽生えない。夫が目の前の家事をこなすだけの計画性のない家事分担にも、問題があるのではないかと思います」
今回紹介した、指示待ち夫の意識を変えるためにはどうしたらいいのか?三木さんは二つの方法を挙げる。ひとつは、家事スキルが高いほうがリーダーになってパートナーに役割を振る「指示型」。リーダーが休日などの節目に役割を指示することで、パートナーの自主性を芽生えさせる。家事スキルの格差の大きい夫婦の場合は、うまくいくことが多いという。
もうひとつは「分担型」だ。プロジェクト型との異名もあり、リーダー不在で、夫婦それぞれがフランチャイズのように独立して家事をこなす。パートナーには平日のみならず、休日にも家事の範囲を拡大させ、責任感と自主性を持ってもらう。
「あとは相手に任せて、自分は口を出さないようにする。ときにはリーダー、ときには分担型と混ぜないよう、どちらかに決めて実行することもポイントです」(三木さん)
今回は妻の夫への不満を挙げたが、逆のケースもあるだろう。いずれにしても家事分担にまつわる夫婦げんかは、家事労働を押しつけられる「負担」より、不公平を感じる「不満」が引き起こすと三木さんは言う。
「負担は家電で解決できても、不満は解決できない。この不満の存在にスポットを当てて、まずは夫婦でコミュニケーションをはかることをおすすめします」
夫婦の家事分担の割合は、改善されつつあるとはいえ、日本は歴史的にまだ過渡期だ。夫婦で連携して、心地よいスタイルを見つけたい。
連載「分け合うふたり」
共働き夫婦が1500万世帯を超えた現在。公平な役割分担をパートナーに求めようとしても、すれ違いや偏りが生まれてしまうことも。お互いが役割やタスクを分かち合い、ストレスなく生きていくためには、どうすればよいのでしょうか。さまざまな事例から、解決のヒントを探ります。2月5日から、不定期で配信します。