立石寧彦

「殺処分は、何度も許されるものではない」―― 豚コレラ猛威の1年、農家の苦悩と覚悟

9/2(月) 8:08 配信

家畜伝染病「豚(とん)コレラ」が猛威を振るっている。昨年9月の発生から今年8月末までの1年弱で、岐阜、愛知、三重、福井の4県で豚への感染が確認され、計73の農場で約13万頭が殺処分になった。ウイルスは野生のイノシシを通じて、隣県の長野、富山、石川へも拡大。畜産農家の経営をぐらつかせている。「もう、豚を殺処分するニュースは見たくない」――。そうした農家の声に対し、農林水産省は、切り札であるワクチンの使用をためらっているという。かつてない被害の現場でいったい、何が起きているのか。(日本農業新聞・立石寧彦/Yahoo!ニュース 特集編集部)

豚コレラの影響で殺処分した農場と食肉処理場。長野県、滋賀県、大阪府は感染が疑われる豚の搬入があったため対象になった。

既に13万頭の豚を殺処分

7月下旬。愛知県田原市の養豚団地を訪ねると、瓜生陽一さん(53)が養豚の再開に向け、畜舎の洗浄にいそしんでいた。ネズミの温床となっていた天井のウレタンフォームを全て剝がし、鉄骨の溝まで徹底して消毒している。

この施設には、本来なら出荷を待つ豚が何頭もいるはずだが、今は一頭もいない。

「もし、豚コレラが(ここに)入ったら、また殺処分になる。そんなことは考えたくもないから、やれることは徹底的にやる」

豚を守るためには絶対に手を抜かない、という宣言だ。畜舎の洗浄作業は、豚コレラだけでなく、他の疾病も防げる高いレベルを目指しているという。

豚舎を洗浄する瓜生陽一さん

天井の断熱材として使っていたウレタンフォームは全て処分する

瓜生さんも加わる養豚団地では、今年2月に豚コレラが発生した。

瓜生さんの飼育頭数は約3000頭。その畜舎からウイルスは見つからず、罹患の症状も確認されなかった。それでも、ウイルスの伝染力が非常に強いことから、愛知県はこの団地全体を一つの農場とみなして対処。8戸16農場、約1万7000頭が殺処分となった。

日本での発生、26年ぶり

今回の豚コレラは最初、2018年9月に岐阜市で発生した。日本では実に26年ぶりの確認である。感染はその後、各地に拡大した。

田原市では、最後の発生となっている6月12日までに、計28農場で約3万6000頭が処分されている。現在は終息状態にあるとはいえ、瓜生さんの心配は尽きない。

「今回は、最初に岐阜市で発生しただけで、どこででも出る恐れがあったんです。日本から豚コレラの発生がなくならない限り、何が起こるか分かりません」

洗浄が終わった瓜生さんの豚舎

岐阜県各務原市の阿部浩明さん(52)も痛切な思いで1600頭を殺処分した。

「生まれた時から豚と一緒。子どもの頃は(子豚の肥育に必要な)保温箱に入って一緒に遊んでいました。豚のいない生活は考えられません」

阿部さんの農場での発生は今年1月だった。同じ岐阜県内で既に発生していたため、防疫を徹底し、獣医師からは「これだけ防疫していて、何で(ウイルスが)入り込むのか」と言われるほどだった。それでもウイルスは侵入した。

「発生前は気が気ではなく、夜も眠れませんでした。殺処分してから2週間ぐらいは、豚の鳴き声が聞こえない畜舎に行くのが怖くて。今は早く再開したいけれども、ウイルスを持ったイノシシが近くにいるかと思うと、元の生活に戻るのは……」

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