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人生100年時代の「終の住処」どこに――サ高住で高齢者「選別」の実態

2018/11/17(土) 10:00 配信

100歳まで生きることが珍しくない「人生100年時代」を日本は迎えようとしている。2018年時点で100歳以上は約7万人。今後も増加が見込まれる。そうしたなか、介護を受けながら暮らすことができる“終(つい)の住処(すみか)”として、「サービス付き高齢者向け住宅(サ高住)」も増え、全国で24万戸近くになった。その一部施設で入居者の「選別」が行われているのだという。本来は、主に介護の必要な度合いが低い人向けを想定した施設なのに、寝たきりの高齢者を優先させている、と。いったいどういうことなのか。(取材・文=NHKスペシャル“人生100年時代を生きる”取材班/編集=Yahoo!ニュース 特集編集部)

外に出た認知症の入居者を連れ戻す

「いないですね。いつもはこの辺にいるんですけど。車の通りが多いので、危険なんです」

猛暑の7月下旬、福岡市の閑静な住宅街。サ高住「スマイル板付」の岡山正和施設長(40)が、入居者を懸命に捜していた。認知症の山本勇さん、100歳。その行方が、夕食後から分からなくなったのだ。施設の防犯カメラには、車いすを自分でこいで、ゆっくりと交差点を横断する山本さんが映っていた。

約1時間後。山本さんは施設から500メートルほど離れた場所で見つかった。交通量の多い通りの道端で、ぼうぜんと行き交う車を眺めていた。3年前に入居してから、毎日のようにひとり歩きをしてしまい、4キロ離れた場所で警察に保護されたこともあったという。

道端にいた山本勇さん(右)に話しかける岡山正和施設長

「部屋をご案内しましょうか」。施設に戻ってきた山本さんが、サ高住の自室に案内してくれた。19平方メートルのワンルームにベッドと小さなタンス。ここが、山本さんの終の住処である。

入居前は、自宅で一人暮らしだった。やがて認知症が悪化し、ガスコンロの火のつけっぱなしも頻発した。そのころ、介護の必要な度合いは低いほうから2番目の「要介護2」。特別養護老人ホームは「要介護3」以上の高齢者しか原則入れないため、サ高住への入居を決めたという。このサ高住の料金は、食費込みで月におよそ12万円。年金で暮らせる場所はここだけだった。

山本さんが暮らすサ高住の部屋。19平方メートルのワンルーム

子どもは3人いるが、すでに70歳前後。介護を頼ることはできない。妻は、11年前に交通事故で亡くなったという。

妻の話になると、山本さんが車いすからゆっくりと立ち上がった。車いすの後ろにあるポケットから小さな黒い鞄を取り出す。妻との写真が100枚ほど詰め込まれていた。

「ご覧になってください。女房ですよ。一緒に連れて歩いて、どこにも一緒に持って歩きよる。こっちが亡くなるときは、ともに散ってしまおうと思って」

山本さんの妻は11年前に交通事故で亡くなった

部屋の壁には、100歳になったときに内閣総理大臣から送られた祝い状が飾られていた。長寿を祝う内容で、「慶賀にたえません」の文字が見える。しかし、山本さんは別れ際にこう漏らした。

「いつまでも生きているのは、おかしいですよ。何も悪いことしたわけじゃないけど」

「自分で動ける」からこそ負担が大きい

いま、このサ高住は深刻な事態に直面している。入居者40人のうち、自分で動くことができる「要介護2」以下は21人。しかも、そのうち15人は認知症で、ひとり歩きなどのために介護の負担が大きくなっているという。その現場も見た。

深夜23時、事務所のナースコールが鳴り響く。職員が駆けつけると、「要介護2」の女性(84)が、部屋をウロウロしていた。不安げな様子で職員に訴える。

「聞こえます? カサカサっていう音が……。部屋に侵入してきた男を捕まえてほしい。そんなふうに隠れてないで顔見せんしゃい、って言うたと。ガタガタ震えよるとですよ、怖い目に遭って」

入居者の女性。認知症からくる幻覚で見守りが欠かせない

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