塩田亮吾

子どもを虐待から救うため、児童相談所はどうあるべきか

10/24(水) 8:05 配信

今年3月、「もうおねがい ゆるして」とノートに書き残し、東京都目黒区で当時5歳の女児が虐待死した事件は、大きな波紋を広げた。厚生労働省は個別の事件では初めて専門委員会を設けて検証報告書をまとめ、香川県から東京都に転居した際の児童相談所(児相)間の連携の不備を問題視した。なぜ児相は幼い命を救えなかったのか。痛ましい虐待死事件をなくすために何をすべきか――。子どもの虐待に長年関わってきた医師、長年児相に勤務したソーシャルワーカー経験者、『ルポ児童相談所』の著書もあるNPO代表という、3人のスペシャリストたちに語り合ってもらった。(ノンフィクション作家・河合香織/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「ゆるして」痛ましい事件の波紋

――今年6月、警視庁捜査一課長は女児の虐待死事件で両親の逮捕を発表した際、女児が書いた文章の一部を読み上げ、「5歳の子には到底、耐えられない苦痛だっただろう」と涙ぐんだと伝えられています。この文章は多くの人に衝撃を与え、大きな議論が巻き起こりました。児相も、警察も、検察も、虐待があることを分かっていたのに、なぜ幼い命を救えなかったのかと。どのような対策をとればいいのでしょうか。

川﨑二三彦(以下、川﨑) 私は児相に長年勤めてきましたが、虐待死亡事例では、ものも言えずに亡くなっていく子がほとんどです。そのように亡くなった子たちの声を、5歳の彼女が代表してくれたと言えるかもしれません。その意味では、私たちがその声をしっかり受け止める必要があるように思います。ただ、私もこれまで死亡事例の検証に携わってきましたが、本件については詳細な点が分からず、簡単にはコメントできません。

奥山眞紀子(以下、奥山) 女児の文章が公表されると、政府は6月の関係閣僚会議で、虐待死の再発防止に向けた予防策の提示を1カ月程度で行うという方針を打ち出しました。これに対して、私は1カ月という短期間で予防策を講じることには危険があると思い、7月、日本子ども虐待防止学会の理事長として厚生労働大臣に対して要望書を提出しました。実態を考慮しない拙速な対策はかえって混乱をきたすと考えたからです。

川﨑 その後発表された緊急総合対策では、「転居した場合の児童相談所間における情報共有の徹底」や「児童相談所と警察の情報共有の強化」などが打ち出されましたね。

(撮影:塩田亮吾)

奥山 はい。その中で特に問題だと思ったのが、「一時保護が必要となるような虐待事例に関する児童相談所と警察の情報共有の徹底」です。目黒の事件でも、香川県では警察や検察が関与していましたが、子どもの死を防ぐことはできませんでした。

慎泰俊(以下、慎) あの子が書いた文章の悲痛さがあって世間の注目が集まり、すぐに署名運動が起きました。児相の数や人員の大幅な増加、警察に虐待専門部署の設置などを求めた署名は7月下旬までに10万筆以上。あの署名運動自体にもさまざまな議論がありましたが、悪いものではなかったと思います。なぜなら、どんなに痛ましい出来事もすぐに忘れられるからです。個人的にはこういった事件に乗じるのに躊躇(ちゅうちょ)しがちですが、感情が高ぶっている機会を利用して社会を変革することは否定されるべきではないでしょう。

奥山 海外でも具体的な事件が契機となり、子どもを守るための法律が変わっています。ただ、子ども家庭に関する施策の事情が社会にどこまで理解されているのか。関心が高まるのは良いことですが、実態が理解されないまま拙速な対策を行うことは、かえってさらなる悲劇を生むことにならないかと危惧しています。

奥山眞紀子(おくやま・まきこ) 1979年、東京慈恵会医科大学卒業、1983年、同大学院博士課程修了。1984年、埼玉県立小児医療センター神経科医員、1986年、米ボストン・タフツ大学附属ニューイングランドメディカルセンター小児精神科留学、1989年、埼玉県立小児医療センター附属大宮小児保健センター保健指導部医長、1998年、埼玉県立小児医療センター保健発達部・精神科、2002年、国立成育医療センターこころの診療部部長。日本子ども虐待防止学会理事長。(撮影:塩田亮吾)

「児童相談所」とは、都道府県や政令指定都市などに設置された子どもに関する行政の専門機関で、2017年4月現在、全国に約210カ所設置されている。子育ての相談を受け付けるほか、虐待やネグレクト(育児放棄)、家庭内暴力(DV)など、成育上困難がある子どもを発見した場合、児相は必要に応じて子どもを家庭から引き離し、一時保護する権限を持っている。こうした「一時保護所」は全国で136カ所あるが、一時保護は原則として2カ月を超えてはならない。子どもを元の家庭に帰すか、児童福祉施設や里親などで養育するか、一時保護所にとどまるかは児相が決定する。

奥山眞紀子氏は小児科医師として子どもの心に関わる分野を専門とし、虐待を受けた子どもに対する治療経験も豊富だ。川﨑二三彦氏は京都府の児童相談所に心理判定員(児童心理司)や児童福祉司として約30年勤務し、現在は児童相談所の職員などの研修業務を行っている。慎泰俊(しん・てじゅん)氏は約10カ所の一時保護所を訪ねて回り、ルポとして2017年に著作にまとめた。現在は児童養護施設の建て替えや施設を退所する子どもの進学支援をしている。今回はそれぞれの立場からの意見を聞いた。

児相と警察では子どもの扱いも異なる

川﨑二三彦(かわさき・ふみひこ) 1951年、岡山県生まれ。京都大学文学部哲学科卒業後、京都府の児童相談所に勤務。心理判定員(児童心理司)を経て、児童福祉司に。約32年間、相談業務に従事。現在、児童福祉に関わる研修や研究を行う子どもの虹情報研修センターのセンター長、全国児童相談研究会代表委員など。(撮影:塩田亮吾)

奥山 福祉である児相と、治安維持や犯罪捜査を扱う警察とでは目的が違います。福祉だからこそ、私たち医療関係者も、簡単に児相に通告できるんです。通告の対象とされ、カッカきているお母さんに対面したときには、「児相は警察とは違って、あなたを捕まえに来るんじゃなくて、親御さんを支援して、子どもと良い関係をつくるように支援するところなんですよ」と話をしています。

 虐待やネグレクトをしている親だと、そうした違いがわからないかもしれないですね。

奥山 ところが、虐待と判断された情報が警察に通報されると、警察は捜査を始めることもある。そうなると、警察の対応は児相のそれとはまったく違うんです。例えば、親に殴られて入院している子どもに接触する際には、恐怖心などを抱えているため、慎重さが必要です。そういう子どもに警察から確認が必要な場合、「子どもにあたる前に病院に連絡をしてください」と児相は管内の警察には伝えてあります。それでも、捜査となると、警察は事前の連絡もなく、ドカドカと勝手な時間帯に病棟に入り込んで子どもに接触してしまうこともあります。そうなると、親も激しく反応しますし、子どもはますます気持ちが追い込まれてしまうのです。

川﨑 児相への虐待通告には様々あります。例えば、保健師さんが乳児健診の際、乳児の様子から虐待を疑って児相に通告してくるような例もある。あるいは、親御さんが育児不安を訴えたり、「最近調子が悪くて、なかなか子どもの面倒が見られないんです」などと相談してきて、よく聞いてみると、ネグレクトが判明したり。また、数は少ないですが、「子どもを叩いてしまう」と自ら相談してくる方もいます。こうした通告や相談の情報が、全て警察にも共有されるとなったら、どうでしょう。乳児健診にも行けないと思ったり、児童相談所への相談など怖くてできないと感じたりして躊躇したら、危うい状態にいる保護者がますます孤立し、かえって子どもの虐待リスクが高まるかもしれません。

――警察が動くのは、相当シビアなケースなのでしょうか。

川﨑 シビアな事件だけで動くとは限りません。警察は捜査機関でもありますから、「深刻だ」と連絡を受けても、その状況が曖昧だったら慎重になるように感じます。逆に、「昨日何時何分、こんなテレビ番組がやっている時にお父さんに殴られました」と犯罪事実が具体的に確認できるとなれば、対応も違ってくる。ですから、児相の判断と警察の判断では異なる場合も少なくないのです。

 それは違うでしょうね。

慎泰俊(しん・てじゅん) 1981年、東京都生まれ。朝鮮大学校政治経済学部法律学科卒業、早稲田大学大学院ファイナンス研究科修了。モルガン・スタンレー、ユニゾン・キャピタルを経て、途上国の低所得層に小規模金融サービスを提供する五常アンドカンパニーを設立。また、社会的養護の必要な子どもへの支援を行う認定NPO法人 Living In Peaceを2007年に設立。2017年に複数の一時保護所や児童相談所を取材した『ルポ児童相談所』を出版した。(撮影:塩田亮吾)

奥山 基本的に生活安全警察と情報を共有するのですが、事件性があると思う案件は刑事警察に連絡を入れるわけです。

川﨑 刑事警察の捜査となると、警察もそうした捜査情報は漏らすわけにはいかないでしょうから、児相側は、警察がどう動くかわかりません。連携といっても難しい場面も生まれます。

「面前DV」が通告件数を増やしている

神奈川県厚木市で当時5歳の男児が食事が与えられずに衰弱死して2014年に白骨遺体となって見つかったとして争われている事件、2017年に大阪府箕面市の当時4歳の男児が暴行死した事件など、子どもの虐待事件は後を絶たない。

2017年度の児童相談所での児童虐待相談対応件数は13万3778件(速報値)で、統計を開始した1990年度と比べると100倍以上に増加している。そのほぼ半数の6万6055件が警察からの通告だというが、その「通告」の中身に目を向けるべきだと奥山氏は言う。

(図版:ラチカ)

川﨑 2017年度の虐待件数は前年度より約1万件増えて、速報値で13万3778件です。この数字の詳細を見ると、増えた1万件というのは警察からの通告なんですね。

奥山 問題はその通告の中身です。実は警察から来ている情報の多くは、「面前DV」のケースです。警察に相談されたDV案件の中で、子どもがいる家庭であれば、児相に通告されているのです。

川﨑 「面前DV」というのは警察がよく使う用語ですが、児童虐待防止法(児童虐待の防止等に関する法律)の定義では「児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力」とされており、子どもの目の前で行われるDVだけを指すものではありません。

 面前DVは「心理的虐待(児童に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと)」にカウントされるんですよね、その比率だけが最近すごく増えている。実は、児童虐待によって子どもが死亡した件数は、2007年1月から2008年3月までの第5次報告の142人がピークです。2016年4月から2017年3月までの第14次報告では半分近くの77人まで減っています。つまり、虐待相談対応件数が増えているからといって、社会全体で実際に起きている虐待が深刻化しているとは言えない。

(撮影:塩田亮吾)

川﨑 私の正直な感想を言えば、心理的虐待ケースの急増に児童相談所は対応しきれていないと思います。

奥山 面前DVというのは、DV被害者のほうである親が子どもと一緒に加害者から逃げれば、それで避けられる場合もある。実際、市区町村の福祉の部署が関わったほうがよさそうなケースも、子どもがいるというだけで警察は児相に通告している。それで件数が増えているのです。

川﨑 児童虐待防止法は、虐待を受けたと思われる児童を発見した者は誰であっても通告の義務を負う旨を規定しています。とはいえ、一般市民はもちろん、学校の先生など関係機関の方々だって、通告すべきかどうかを迷い、勇気を出して電話などしてきます。みな葛藤を抱えての連絡なんです。

一方、警察は「児童が同居する家庭における配偶者に対する暴力」、いわゆる「面前DV」が心理的虐待として法律上に明示されたので、認知したらすべて通告するように周知されている。ある意味では、法律に最も忠実に対応しているとも言えます。

 問題はその通告があった後の児相の対応なんです。児童相談所運営指針では、通告があった場合、子どもの安全確認は「48時間以内とすることが望ましい」と定められています。児相は、子どもを実際に見に行って、目視確認しなくてはならないんですよね。

(撮影:塩田亮吾)

児相の対応には共通の「標準化」が必要

川﨑 慎さんがいまおっしゃったいわゆる「48時間ルール」は、京都府長岡京市で3歳の子どもがネグレクトによって死亡したことをふまえ、2007年に改定された児童相談所運営指針に書き込まれたものです。つまり、もともと児相スタッフが目視確認する48時間ルールは身体的虐待やネグレクト事例が想定されており、心理的虐待はそれほど意識されていなかった。その当時は心理的虐待の割合は2割程度ですし、心理的虐待で死亡した事例もありませんでした。

心理的虐待について安全確認をするのであれば、子どもが安心感を持って児相スタッフと出会えるような配慮が不可欠で、何が何でも48時間以内というのは、かえって子どもたちの不安を高めかねません。少なくとも心理的虐待に関してはこの枠組みを考え直さなくてはいけないと思います。

奥山 アメリカの児童虐待対応には、「スクリーナー」としてトレーニングされた専門職がいます。通告を受けたケースをスクリーニング(選別)するのが仕事で、虐待の重症度と緊急性を判別し、「これはすぐに警察と一緒に行かねば」とか「これは地域で経過観察していけばいいでしょう」というように振り分ける。一方、日本では、通告を受けたら、暴力でも面前DVでも児相職員は全部同じように調査する形になっている。

 児相の取材をした時、職員と一緒に安全確認に行ったことが何度かありました。その時に感じたのは、児相ごとに安全確認の方法が違うということです。厚労省の「子ども虐待対応の手引き」に基づいたチェックリストを持っている人たちもいたし、なんとなく曖昧に動いている人たちもいました。

奥山 重要なのは、児相の対応の「標準化」だと思うんです。チェックリストが頭の中に入っている人もいるかもしれない。けれども、そのチェックリスト自体、科学的根拠がないものなのです。どこの児相であっても、子どもの状況を一定の適切な基準で判断し、安全を確保するための専門性強化の方策は必要だと思います。

「チェックリスト」とは虐待の危険度を評価するためのチェックリスト形式の「リスクアセスメントシート(一時保護決定に向けてのアセスメントシート)」のこと。目黒の女児の事件に関する厚労省の専門委員会の検証報告書によると、香川県の児相は女児への虐待リスクを「中程度」と判断していたにもかかわらず、こうした「リスクアセスメントシート」を作成していなかった。

(撮影:塩田亮吾)

3畳の部屋で反省文を書かされる一時保護所

川﨑 児童相談所運営指針は、年々分厚くなってきています。私が児童福祉司をしていた頃は、まだ児童虐待防止法もありませんでしたし、運営指針の改定もせいぜい数年に1回程度でしたが、今年はすでに4度の改定がありました。異例なことです。いまや児相の業務内容は広がり続け、相談件数もうなぎ登りです。私自身は長年児童相談所に勤務していて、やりがいもあり、生きがいも感じていました。けれど、今児童相談所に戻ったとして、求められる責務をちゃんと果たせるか自信はありません。もはや私の能力を超えているとさえ感じます。

――なぜそう思われるのでしょう。

川﨑 とにかく対応すべき案件が多すぎる。にもかかわらず、マンパワー不足、人員不足で、思うような仕事ができない。それで周りから批判を受ける。結果として、児相の職員は疲弊して他の部署に移っていく。これでは児相の専門性が上がるわけがない。人が育たぬ悪循環が生じています。これは、児相職員などの研修に関わっている私自身、自戒を込めての発言です。

 この20年ほどで児相の仕事の内容はずいぶん変わってきているんですね。昔は一般に不良と呼ばれるような子どもの対応が多かったのですが、今は被虐待の子が増えてきた。対応しなければいけないケースが圧倒的に増え、一時保護期間も長くなった。そうなると、児相職員に求められる能力も変わっている。なのに、その変化に対応が追いついていないように感じます。

奥山 児相の研修をした時に全員にケースの提出を求めました。その際、私がびっくりしたのは、そのケースの3分の1くらいが、目黒の事件のように一時保護をして、自宅に帰して、また保護するということを繰り返していたことです。つまり、一度一時保護をしても、虐待から守られていない子どもが相当数いるということです。

実際、目黒の女児事件では、香川の児相はあの女児を2016年12月と17年3月の2回にわたり一時保護していました。2回目の一時保護中、地元の病院からは「家庭裁判所の承認を得て、保護者の同意を得ないでも、女児を児童養護施設に入所させるべきだ」との提案もありました。女児を救うチャンスはあったのです。にもかかわらず、不適切に家に帰してしまったために、最悪の事態を招いてしまったのです。

(撮影:塩田亮吾)

川﨑 児童福祉法28条に基づく審判ですね。児童福祉施設への入所は保護者が拒否するとできませんが、保護者がその児童を虐待しているなど、その「保護者に監護させることが著しく当該児童の福祉を害する」と家庭裁判所が承認すれば可能となります。これは単なる推測ですが、目黒の事件で、香川県の児相は家庭裁判所に申し立てたとしても承認されないと考えたのかもしれません。

ただ、一時保護所への入所は、児相長の判断で決定できます。私の先輩は、一時保護所のことをよく「山小屋」と言っていました。猛吹雪の中、辿り着いた人を定員がいっぱいだからと断ることができないのと同様、一時保護所も、行き場がない子どもがいたら定員などにかまっておれません。その一時保護所は都市部などではいっぱいで待機者がいるという話も聞きます。かなり深刻な状況ですね。

 一時保護所は虐待その他の困難に遭っている子どもを保護する場所です。そこでは当然に子どもたちに安心と安全が提供されるべきです。なのに、複数取材してみると、子どもたちが安心して過ごせる場所になっていないところもあることがわかりました。

まるで刑務所のように暗く、規則が厳しいところもありました。窓を大きく開けられず、数センチ開いた窓から手を出してみたら、センサーが反応して職員が駆けつけてきた、なんてことも。あるいは、朝から5分刻みで日課が決まっていて、違反すると「個別対応」という名の罰が与えられ、3畳の部屋でずっと反省文を書いていなくちゃいけないところもありました。もちろん子どもが落ち着いていられる良い雰囲気のところもありますが、施設による差が大きいなと感じましたね。

奥山 何か問題があるといけないからと管理が過度になっていく。それが行き過ぎて子どもの権利が守られなくなっていくんですね。

 親に代わって子どもを預かっているので、トラブルがあってはいけないという考えなのでしょう。その責任意識はわかりますが、一律にリスクをゼロにする方向に進んでいるのは、子どもの心への影響という観点からはどうなのだろうと思います。

川﨑 今、一律にという言葉がありましたが、今回の「緊急総合対策」は、たとえば「子どもとの面会ができず、安全確認が出来ない場合には、立入調査を実施すること」「リスクが高い場合には、一時保護等を躊躇なく実施すること」など、死亡事例を防ぐためには躊躇しないよう求めています。わからないでもないのですが、事例は一つひとつ違うわけですから、機械的な対応をしてしまうと、それでかえって支援を拒否する保護者も出てくるかもしれない。本当は個別事情に沿った個別的な対応が必要で、そのためには、専門的な知識や技術が重要なんです。

(撮影:塩田亮吾)

児相の業務を民間へ委託すべき

奥山 個々のケースに柔軟に対応するには、人員をもっと増やす必要があるのと同時に、児相における専門性も高める必要があると思います。児相職員は都道府県の職員だから、専門性のない人が異動してくることもあります。ただ、この仕事は医療と同じように命を守る仕事でもある。トレーニングによって育む高い専門性とそれを担保する資格が必要だと思います。

川﨑 児相はひどい人手不足なので、児童福祉司などは十分な研修もないまま、赴任したその日から現場を担当させられるのが実情です。本当はせめて半年でも見習い期間があるといいのですが……。また、今の児相は権限の行使、介入を強く求められているので、かつての主流だった「相談」業務が痩せ細っている。「相談」は児相の基本ですので、今後の児相のあり方を考えるとやはり心配です。

奥山 児相は子どもにとって最後の砦なので、児相が機能するように作り上げていかなければなりません。

 もし児相の人員が5倍いて、予算も5倍あったら、安定した対応が可能でしょう。ただ、この分野に今すぐ5倍の予算をつけてくださいと言っても難しいでしょう。

(撮影:塩田亮吾)

奥山 児相は業務の一部を民間に委託することも推進すべきだと思います。「48時間以内の安全確認」でも、民間の方がやさしく「どうですか、お子さん元気ですか」と入っていくこともできるという話も聞いています。何もかも児相が抱えていては、今の子どもをめぐる問題は解決できません。

 自分の地域の子どもに起こっていることを他人事として捉えるかぎり、リソース問題の解決は難しいと思っています。何か子どもに問題が起きると、「児相は何をやっているんだ」と言う。けれども、その被害者は私たちのうちの誰かの隣にいる子どもなのです。児相にすべてを任せるわけでもなく、市民としてみんなでちゃんと子どもを見て、自分ができる範囲で行動を起こしていたら、防げることもあるかもしれないですね。

(撮影:塩田亮吾)


河合香織(かわい・かおり)
1974年生まれ。神戸市外国語大学卒業。2004年、障害者と性の問題を描いた『セックスボランティア』、2009年、『ウスケボーイズ』で第16回小学館ノンフィクション大賞受賞。近著に『選べなかった命』。

[写真]
監修:リマインダーズ・プロジェクト 後藤勝
撮影:塩田亮吾
[図版]
ラチカ


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