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自腹買い取り、突然の賠償請求、欠勤への罰金…… コンビニバイトが訴える実態

2018/10/11(木) 06:39 配信

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コンビニのアルバイト問題がたびたびクローズアップされている。異常な長時間労働に加え、売れ残り商品の自腹買い取り、レジの不足金の自己負担……。それらを訴える声は依然として消えない。最近では、突然100万円もの「損害賠償」を請求されたり、やむを得ない事情で欠勤したのに罰金を徴収されたりといった、より悪質な事例もある。一方で、コンビニ本社とフランチャイズ契約を結ぶオーナーたちも、本社とアルバイトとの間で板挟みだという。こうしたなか、自腹買い取りに「NO!」の声を上げ始めた若者たちもいる。実態を追った。(藤田和恵/Yahoo!ニュース 特集編集部)

「損害賠償100万円」 通告は突然

「あの日のことは、今も忘れられません」と大学院生の梅原宏太朗さん(25)=仮名=は言う。昨年9月の出来事だ。

夜9時すぎ。いつも通り、アルバイト先のファミリーマートに向かった。東京23区内。JRと地下鉄が乗り入れる駅前の店舗は夜間も客足が途切れない。

店に到着すると、同僚のバイトが「店長が呼んでいる」と言う。地下の事務所に下りると、店長と見知らぬスーツ姿の男性が待っていた。スーツの男性は司法書士だという。

話は思わぬ内容だった。

梅原さんによると、店長と司法書士は、店内の監視カメラの映像を示しながら「梅原さんがレジからカネを持ち出した」「深夜に店舗を施錠して客が入れないようにした」などと言ってきた。そして、司法書士はこう続けたという。

「損害額が100万円を超えることは確か。支払わない場合は警察、学校、家族、出すとこにすべて出します」

梅原宏太朗さん(仮名)。コンビニでの出来事をじっくり語ってくれた=東京都内で。撮影場所は本文と関係ありません(撮影:藤田和恵)=写真は一部加工しています

これに対する梅原さんの言い分はこうだ。

レジからカネを持ち出したのは釣り銭が足りなくなったためで、レジの1万円札をATMでいったん自分の口座に入金し、1000円札に崩して引き出し、釣り銭に充てた。店舗に鍵をかけたのは、深夜の1人勤務である「ワンオペ」時、冷凍食品が大量に搬入され、レジで対応していたら商品が溶けてしまうと思ったから。過去に2回、それぞれ10分間ほど店を閉めたことがある――。

「なんで、なんで?」 念書に押印を迫られ

「(夜勤の前に)店長は釣り銭用の1000円札を20枚しか用意してくれないこともありました。とても足りない。だから、しょっちゅう釣り銭が足りなくなるんです。自分の口座に入れて両替する方法は、バイト仲間に教えてもらいました。僕から店長に(両替したことを)報告したこともあります」

梅原さんはそう言って、自分の銀行通帳を取り出した。

通帳には、例えば「20,000」を入金後、同じ日に「9,000」を2回と「2,000」をそれぞれ引き出した記録などがあり、彼の言い分を裏付けているように見えた。さらに、梅原さんは続けた。

「深夜は商品の搬入が集中します。ほかにも調理器具の洗浄や床掃除、品出しとか。とても1人でできる仕事量じゃない。店の鍵を閉めたときは、すでにアイスが1時間以上(冷凍庫外に)置きっぱなしの状態で、ほかに方法がなかったんです」

しかし、店長と司法書士と対峙するのに、学生の梅原さん1人では分が悪かった。この夜は母親に保証人になってもらうことで帰宅を許されたが、翌日、司法書士から再び「お金さえ払えば、穏便にすませる。さもないと、出るところに出る」と迫られた。

結局、梅原さんは自身の非を全面的に認める内容の「念書」に署名し、母印を押してしまう。頭の中では「なんで、なんで?」と思いながら、拒むことができなかったという。

梅原さんが自署し、母音を押した「念書」(撮影:藤田和恵)=写真は一部加工しています

梅原さんは昨年4月からこのコンビニでアルバイトを始めた。時給は1080円。勤務時間は午後10時〜翌日午前9時だったが、たびたび店長から正午すぎまで残ってほしいと頼まれ、ひどいときは夕方まで働き続けた。そのせいで、授業に出られなくなったこともあったが、なんとか期待にこたえようと頑張ったのだという。それだけに、「賠償請求」されるとは思ってもいなかった。

梅原さんにとっては「学校に言う」との言葉が一番恐ろしかったという。

「親や警察なら、調べてもらえば、僕は悪くないと分かる。でも学校は、たとえ僕が悪くなくても、退学になるんじゃないか、就職に影響が出るんじゃないかと、すごく不安でした」

梅原さんの長時間労働を示す帳票。上段は「勤務開始」の時刻、それに対応する「勤務終了」時刻はそれぞれの下段(撮影:藤田和恵)=写真は一部加工しています

こうした事態について、ユニー・ファミリーマートホールディングス広報室は取材に対し、梅原さんのケースを把握しているかどうかも含め、「フランチャイズ加盟店とアルバイトの間に発生している問題であり、コメントする立場にない」としている。

過労で倒れたら「救急車で来い」

東京都内在住のフリーター・梶田悠一さん(31)=仮名=も、コンビニで異常な長時間労働を強いられた経験がある。これまでセブンイレブンやファミリーマート、ポプラなど10店近くで働いてきた。このうち、2年前に勤めたローソンでは、夜勤明け後、2時間ほど休憩してそのまま日勤に入るシフトに「たびたび入れられました」と言う。

「いつも人手が足りない状態で……。フリーターの僕は学生に比べて時間に融通が利くから、使い勝手がよかったんだと思います。日勤が終わるのは夜の10時でした」

事実上の24時間連続勤務である。過労で倒れるのは時間の問題だった。

ある日、出勤途中に突然、めまいがして道端に倒れ込んだ。通り掛かった誰かが救急車を呼んでくれたらしい。搬送される途中、携帯電話でオーナーに遅刻しそうだと伝えたところ、「そんなのダメだ。今すぐ救急車で店まで連れてきてもらえ」と怒鳴られたという。見かねた救急隊員が電話を代わり、オーナーと口論の末、なんとか病院に行くことができた。

ところが、後日出勤すると、オーナーは「あの日は急遽、派遣社員を手配しなくてはならなかった」と言い、その分の人件費として2万円を請求してきたという。

梶田悠一さん=仮名(撮影:藤田和恵)

梶田さんによると、この店では、アルバイトも発注業務を担い、弁当やおにぎりなどが売れ残ると、その一部を買い取りさせられた。缶飲料やカップデザートを過って落とすと、それらも全て買い取り。レジの不足金だけでなく、万引きによる損害も、その時間帯に勤務していたアルバイトが割り勘で負担させられた。

梶田さんの場合、これらの金額は毎月合計で3万〜4万円に上ったという。

「この店ではサービス残業もしょっちゅう。深夜帯はワンオペで、休憩も取れませんでした。でも(勤務経験のある)ほかのコンビニでは、買い取りはさせない店もありましたから、結局はオーナー次第なんだと思います」

「バイトへのしわ寄せ、今はオーナーに」

コンビニは、多くがフランチャイズ方式で経営されており、各店にはそれぞれ、経営者であるオーナーがいる。「コンビニバイトはブラック」と言われて久しい実態について、オーナーたちはどう見ているのだろうか。

オーナーらでつくるコンビニ加盟店ユニオン副委員長で、自身も都内のセブンイレブンのオーナーである吉村英二さん(62)はこう語る。

「本社との加盟店チャージ率(ロイヤリティー)の関係で、そのようにして利益を上げざるを得ないオーナーもいるかもしれません。それでも、数年前からブラックバイトが社会問題化したおかげで、現在は買い取りの強制などは減っているのではないでしょうか」

コンビニ加盟店ユニオン副委員長の吉村英二さん。セブンイレブン店舗のオーナーでもある(撮影:藤田和恵)

加えてここ数年の人手不足は深刻だ。自腹買い取りなどをさせたら、悪評が瞬時に広がり、アルバイトが集まらないという。その代わり、今は「これまでアルバイトに押し付けていた負担をオーナーがかぶっているのではないか」と吉村さんは指摘する。

都内のあるコンビニ大手のオーナー(59)も「コンビニ経営は脱法行為でもしない限り、利益が出ない。そういうビジネスモデルになっている」と訴える。

このオーナーによると、最大の悩みの種は「24時間営業」だという。深夜帯は客が減るのに対し、アルバイトには深夜割増手当を払わなければならず、合法的にやりくりしていたら赤字は必至。アルバイトには、深夜割増手当こそ払っているが、社会保険に加入させる余裕がない。深夜はワンオペが当たり前で、休憩が取れないため、オムツをしながら働いていた女性アルバイトもいたという。

現在はこうした実態が知られたのか、アルバイトも集まらず、妻と交代で夜勤をこなす日が続いている。

「街中にこれだけコンビニがあふれている時代。せめて24時間営業を(エリアごとの)輪番制や選択制に切り替えてほしい。このままでは次回のフランチャイズ契約の更新は、経営的にも体力的にも無理です」

コンビニの店内。もはや日常生活に欠かせない=イメージ(提供:アフロ)

オーナーたちの苦境を裏付けるデータが今年3月、東京労働局から発表された。それによると、都内の労働基準監督署がコンビニエンスストア269店を「定期監督」した結果、95.5%に当たる257店で労働関係法令の違反があることが分かったのだ。

労働時間に関する違反も多く、時間外労働をさせるときに必要な労使協定「36協定」を結ばずに時間外労働をさせていた店は40.9%。協定を結んでいても、その限度を超えて労働させた店が16.4%に及んだ。

前出の吉村さんは、アルバイトやオーナーの働く現場が“無法地帯”となる背景についてこう指摘する。

「これは“オーナーVS.バイト”の問題ではありません。こうした中でもコンビニ本社は利益を上げているわけですから。これからは、本社とオーナー、アルバイトの3者が共存共栄できる方法を模索する必要があります」

こうした実態について大手コンビニ各社に取材したところ、ユニー・ファミリーマートホールディングスは「コメントは差し控えたい」と答えた。セブン&アイ・ホールディングス広報センターは「(自腹買い取りなど)指摘された事案は把握していないが、売れ残り商品などは、社内のルールにのっとって適切に処理するよう、(各加盟店に)徹底してもらっている」、ローソン広報室は「オーナーに対し、自腹買い取りなどをさせないよう、指導しています。アルバイトについては、トラブル発生時に本部に相談できるホットラインを設け、電話番号などの連絡先を伝えています」と、それぞれ回答している。

「自腹買取ゼロ」の声を上げる

こうした問題に、アルバイト自らが対抗するため、札幌市内の若者ら約20人でつくる『コンビニなう』という団体が今、『自腹買取ゼロキャンペーン』を展開している。

この団体は、個人加入できるユニオン「さっぽろ青年ユニオン」が1年半ほど前に発足させた。メンバーたちは昨年5月〜今年4月、1年近くかけて札幌市内のコンビニ各店を訪問。そのときに働いていたアルバイトたちにWEBアンケートのQRコードを記したカードを直接手渡し、回答に協力してもらった。

アンケートへの協力を求めるカード。コンビニで働くアルバイトたちに手渡した(撮影:藤田和恵)

その結果を見ると、働いていて大変なことは?との質問に対し、最も多かったのが「クレーム対応」(45%)、次は「おせち、クリスマスケーキなど商品の買い取り」(23%)だった。自腹買い取りは、セブンイレブンの系列店に目立ったという。

このため、今年6月には「自腹買取ゼロ」を掲げ、セブンイレブンを中心に再び店を回り、自腹買い取りの有無について調査した。最終的には、該当する店舗のアルバイトらとともに、買い取りをさせないよう求める署名を店舗側に手渡すつもりだという。

「コンビニなう」のリーダー・石崎龍之介さん(23)は、いわゆる“ブラックバイト”にはまった若者らにこうアドバイスする。

「とにかく一人で抱え込まないことが大切です。おかしいと思ったら、バイト仲間でも、家族でも、労働基準監督署でも、弁護士でも、ユニオンでも……。相談先はたくさんあります」

「コンビニなう」の打ち合わせの様子(撮影:藤田和恵)

高校で「ワークルール」を教える試み

私立の中高一貫校「自由の森学園」(埼玉県飯能市)の高校では、10年以上にわたり、ワークルールについて教える授業を続けている。同校の高校教頭で、社会科教諭として授業を担当している菅間正道さんによると、NPO法人やユニオンの関係者、中小企業経営者を招くこともあり、生徒たちができるだけリアルな実例に触れる機会をつくっているという。

菅間さんは語る。

「無知、無関心のまま社会に出ては、一方的に搾取されることになりかねません。もちろん、声を上げて闘うことだけが正解ではないし、多様な選択肢があっていい。(生徒たちが)自ら思考し、問い続け、自分自身の意見を持てるような授業を心掛けています」

社会科の授業で「ワークルール」を教える菅間正道さん(撮影:藤田和恵)

授業では、生徒たちも自らのアルバイト体験を語り合う。コンビニでは、依然として、レジの不足金として数千円、多い場合は1万円もの自己負担をさせられたとの話が出てくるという。

社会経験少ない学生相手に「まるで“損害賠償詐欺”」

冒頭で紹介した梅原さんは、「損害賠償」と言われた100万円を支払ったのだろうか。

梅原さんは「念書」に押捺する一方、無料法律相談を利用して複数の弁護士に意見を求めた。すると、ほとんどが「全く払う必要がない」という。ある弁護士から、ユニオンに相談するようアドバイスされ、その後、首都圏青年ユニオン(東京)に加入した。

梅原さん側が同ユニオンに入ったことを伝えると、その直後に店は閉鎖。オーナーは「警察に訴える」と言ったきり、やがて音信不通になった。

首都圏青年ユニオン委員長の原田仁希さんは、今回の「損害賠償」について、「最近、同じようなケースが目立ちます」と話す。罰金や弁償のレベルを超えた、数十万円以上もの法外な金銭を請求されたという相談が、アルバイトから寄せられるというのだ。

首都圏青年ユニオンの原田仁希委員長(撮影:藤田和恵)

「コンビニや家庭教師、居酒屋――。社会経験の少ない学生をターゲットに、ちょっとしたミスや不手際につけこむのが典型的な手口です。払わないと、親、警察、学校に言うというのも常套句。(会社側は)違法だと分かっていてやっている節があり、まるで“損害賠償詐欺”。泣く泣く払っている学生も相当いるのではないでしょうか」

また、コンビニアルバイトをめぐる問題は「コンビニ本社にも相応の責任がある」と指摘する。

「自腹買い取りも、レジの不足金の自己負担も依然として横行しています。“損害賠償詐欺”はブラックぶりがさらに発展した形態とも言えます。コンビニ本社がオーナーに“看板”だけ貸して、あとは知らないと言うのはおかしい。業界全体で自浄作用を働かせるためには、本社がリーダーシップを取って対策を立てるべきです」

今年7月、同ユニオンは梅原さんのケースについて、ファミリーマート本社側に、事実関係を把握していたかどうかなどを尋ねる質問状を送付した。しかし、いまだに回答はないという。

梅原さんへの損害賠償請求も、いまなお撤回されないままだ。


藤田和恵(ふじた・かずえ)
北海道新聞社会部記者などを経て、現在フリーランス。

[写真]
撮影:藤田和恵、イメージ:アフロ


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