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『生ドーナツ』ってどこが「生」なの? 年間500種類食べる専門家が『複数ある生ドーナツの定義』を解説

溝呂木一美ドーナツ探求家・イラストレーター

年間500種類以上のドーナツを食べる「ドーナツ探求家」の溝呂木一美(みぞろぎひとみ)です。

私はよく「生ドーナツって何なのですか?」という質問を受けることがあります。現在、さまざまなお店、メーカーから「生ドーナツ」という商品が販売されています。しかし、専門店Aの「生ドーナツ」、ベーカリーBの「生ドーナツ」、メーカーCの「生ドーナツ」が、それぞれまったく別物だということがあるからです。「生ドーナツ」の“生”について、ドーナツ業界でいろいろな解釈をされている実情があるために、エンドユーザー側の混乱を生んでいるようです。

福岡の有名店から誕生

そもそも「生ドーナツ」というネーミングを世に広めたのは、福岡の超人気ベーカリー『アマムダコタン』です。『アマムダコタン』は、2021年10月に東京(表参道)に進出し、さらに2022年3月には「生ドーナツ」を看板商品としたドーナツ専門店『I’m donut ?(アイムドーナツ?)』を中目黒にオープンさせます。『I’m donut ?』周辺には連日のように大行列ができ、看板商品「生ドーナツ」は多くのメディアで取り上げられました。その結果、「生ドーナツ」という商品名だけがひとり歩きし、解釈が異なる「生ドーナツ」と名乗る商品が短期間で全国各地に誕生していきました。

ちなみに、2010年頃にも「生ドーナツ」と称した商品が、ちょっとだけ注目されたことがあります。それは、ムースとスポンジケーキを重ねてリング状にしたスイーツでした。正確には「洋生菓子」に分類され、ドーナツの基本である“油で揚げる”という工程のない、まったく別ジャンルのお菓子だったのです。

揚げているのに“生”なワケ

これに対し、今日の「生ドーナツ」はいずれも生地を揚げたものです。そうなると、「揚げているのに、“生”ってどういうこと?」と疑問に思う方も少なくないでしょう。そこで、「生ドーナツ」のどこが“生”なのか探ってみましょう。

「生ドーナツ」の“生”の解釈には次の3パターンがあると考えられます。

【A】まるで“生”のように感じられる食感
【B】“生”クリームを練り込んでいる生地
【C】たっぷり詰まっているクリーム(“生”クリームを使用)

まるで生のように感じる食感から「生ドーナツ」としているのが【A】です。卵やバターを多めに配合したブリオッシュ生地がベースとするのがキホンで、ふにゃふにゃとやわらかく、口の中でとろけるようなイメージです。この場合、中にクリームが入っているか否かは問いません。あくまで食感が重要なのです。超人気店『I’m donut ?』で販売されているものがその代表格でしょう。

生地に生クリームを練り込んで、それを揚げたものが【B】です。生クリームの効果なのか、しっとりとソフトな口当たりになります。この解釈による「生ドーナツ」は、主に製パンメーカーが製造しているので、スーパーやコンビニで入手しやすいでしょう。

【C】は少数派ですが、一般的な(リング状ではない)丸いイーストドーナツの中に生クリームを用いたクリームを注入したものを「生ドーナツ」として販売している例もあります。ただし、実際は生クリームを用いていないクリーム(カスタードクリームなど)が詰まったドーナツも「生ドーナツ」と呼ばれる傾向があります。

さらに、「生ドーナツとは何なのか?」を複雑にさせているのが、【A】と【C】の要素をかけ合わせた商品があり、それが多数派であることです。【A】と【C】、つまり「まるで“生”のように感じられる食感のドーナツに、生クリームを用いたクリームを注入したもの」です。また、ほかに【B】と【C】を組み合わせた「“生”クリームを練り込んでいる生地のドーナツに、生クリームを用いたクリームを注入したもの」なども存在します。

多くの人が「生ドーナツ」と認識するもの

私の肌感覚としては、【A】と【C】「まるで“生”のように感じられる食感のドーナツに、生クリームを用いたクリームを注入したもの」が「生ドーナツ」として認識されている場合が多いようです。実際のところ、メディアやSNSなどでは、もっと大雑把に「クリーム入りドーナツ=生ドーナツ」として扱われているケースもみられます。SNSではお店が「生ドーナツ」と名乗っていない商品も「生ドーナツ」として紹介されている場面も珍しくありません。

実は、多くの人が「生ドーナツ」の“生”の意味を、なんとな〜くクリームから連想しているのかもしれません。

ドーナツ人気が続いています。その火付け役であった「生ドーナツ」の人気も衰えず、2023年8月には『ミスタードーナツ』からも「生フレンチクルーラー」が登場し、9月には『I’m donut ?』の原宿店(7月オープン)に続く5店舗目となる表参道店がオープンし、またまた行列ができています。一方、コンビニ販売の「生ドーナツ」もヒット商品となったようです。

解釈は複数ありますが「生ドーナツ」とは、日本のドーナツ市場において、とても大きなヒット作であることは間違いありません。

ドーナツ探求家・イラストレーター

国内外で年間500種類以上のドーナツを食べ、自身のブログや各種SNS、テレビやラジオ、雑誌、Webメディア等でも情報を発信。ドーナツイベントを開催するなど、ドーナツの魅力を伝えている。イラストレーターとしては「かわいい・おいしい・楽しい」をテーマに描く。主なテレビ番組出演歴は『マツコの知らない世界』『ラヴィット!』(TBS系)、『バゲット』(日本テレビ系)など。著書に『私のてきとうなお菓子作り』(ワニブックス)、『ドーナツのしあわせ 年間500種類食べる“ドーナツ探求家”の偏愛ノート』(イースト・プレス)、『ドーナツの旅』(グラフィック社)あり。